LUNCHEON LINGUISTICS
要旨
2017(平成29)年
2017年12月20日(水)
「宮古語池間方言の条件文に対する一考察 ―共通語と比較して―」
  発表者 陶天龍(東京外国語大学言語文化学部)
→本発表では宮古語池間方言の条件文について初歩的な考察をした。池間方言には-tigaa、-tuu、-ba(=du)、-kjaaの四つの形式がある。-tigaaは共通語のタラに相当する形式であるが、共通語のタラより使用範囲が広い。また -ba(=du)は共通語のバと、-tuuは共通語のトとは語源が同じであると考えられるが、その用法は共通語とは一致しない。共通語のナラに直接にあたる表現はないが、モダリティとコピュラを組み合わせたものに、-tigaaを付することで表すことが可能である。
 -tigaaはすべての条件文で使用できる。ナラに相当する表現は ja-tigaaと -tigaaしか用いられない。また、ほとんどの条件文で -tuuが用いられる。インフォーマントによると、-tuuは年配の人が使う表現だとのことである。-ba(=du)は主節のモダリティが「述べ立て」の場合しか用いられない。「論理関係」の条件文のモダリティを「述べ立て」だと見なせば、-ba(=du)が用いられることも自然に説明できる。-kjaaはインフォーマントによると、基本的に過去のことを表すのに使うとのことであり、「事実関係」の条件文で用いられる。また「論理関係」の条件文でも用いることができる。
 文の種類という観点から見ると、「仮定関係」の条件文において、モダリティが「述べ立て」の場合、-tigaa、-tuu、-ba(=du)が用いられ、「表出・働きかけ」の場合、-tigaaと -tuuしか用いられない。「事実関係」の条件文において、「既定事態の述べ立て」の場合、四形式全てが用いられ、「既定事態に基づく推測・判断」の場合、個人差を考慮しなければ普通は -tigaaが用いられる。「論理関係」の条件文において、四形式全部用いられる。
2017年12月13日(水)
「日本言語学会第155回大会報告」
  発表者 佐田陸(東京外国語大学大学院博士前期課程)
→ 2017年11月25日、26日両日に立命館大学衣笠キャンパスにて行われた、日本言語学会第155回大会の報告を行った。大会の概要は次の通りである。大会においては、初日に口頭発表が56件、二日目にワークショップが2件、ポスター発表が4件行われた。これに加えて、公開シンポジウム“Formal Approaches to Subjectivity and Point-of-view”が行われた。
 上記の通り、大会の概要を示した後、初日の口頭発表から2件、浅岡健志朗氏「チェコ語の所有文が表す「学校がある」について」と、吉岡乾氏「ブルシャスキー語スリナガル方言で再構成されだした名詞クラス」について、やや詳しく紹介した。浅岡氏の発表の趣旨は、チェコ語の所有文が表す様々な関係のカテゴリのうちのより周辺的なものを、「学校がある」を意味する所有文を中心に、「フレーム」の概念(=「言語表現の意味を規定するのに必要な百科事典的な知識のまとまり」)を用いて説明する、というものであった。また、吉岡氏の発表の趣旨は、ブルシャスキー語スリナガル方言話者の若年層において、元来4つであった名詞クラスが崩壊しかけ、結果として5つのクラスに再構成された、という事実とその実態をナゲル方言との対照を通じて報告する、というものであった。
2017年11月29日(水)
「日本中国語学会第67回全国大会報告」
  発表者 胡良娜(東京外国語大学大学院博士後期課程)
 →本報告では、2017年11月11日、12日に中央大学で開催された「日本中国語学会第67回全国大会」について報告した。まず大会の概要について説明した。その後、金立鑫(上海外国语大学)・崔圭钵(韩国高丽大学)の口頭発表「反復義 “又、再、还、也” の統語的・意味的特徴」を取り上げ、発表の概略を報告した。
2017年11月15日(水)
「沖森卓也『日本語全史』(ちくま新書2017年)を読んで ―非専門家の観点から―」
  発表者 菅原 睦(東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授)
 →発表では,帯に「日本語の変遷がすべてわかる待望の決定版通史」とある本書に対し,日本語史を専門としない立場からいくつかの疑問点を指摘した.具体的には,上代特殊仮名遣をふまえた被覆形:露出形の対立に基づく動詞活用・形容詞活用の起源の説明,助詞や助動詞が由来するとされる自立語,音便の発生,終止形と連体形の合流を取り上げた.
 ※引用はご遠慮ください
2017年11月8日(水)
「スィンディー語における名詞修飾の特徴」
  発表者 萬宮健策(東京外国語大学大学院総合国際学研究院准教授)
 →本発表では、スィンディー語(現代インド・アーリヤ諸語の1つ)における、名詞修飾の特徴の一端を明確にした。スィンディー語では、形容詞の他に、動詞の未完了分詞および完了分詞を用いた修飾がしばしばみられる。それ以外に、周辺の現代インド・アーリヤ諸語にも見られる接辞を用いた表現があり、その意味には、動詞の分詞を用いた表現と重なる部分、重ならない部分がある。いわゆる「内の関係」は、複数の形式で表現可能だが、「外の関係」がどう表現されるかについては、更なる調査の必要がある。
 なお、本発表は、国立国語研究所が実施する共同研究プロジェクト「対照言語学の観点から見た日本語の音声と文法」傘下のサブプロジェクトとして「名詞修飾表現」に関する共同研究(リーダー:プラシャント・パルデシ、サブリーダー:堀江薫)における研究会での発表に基づいていると同時に、平成29年度科学研究費補助金(研究代表者:萬宮健策、課題番号26370445)の成果の一部である。
2017年11月1日(水)
「日本語受身文における「受影性」について」
  発表者 田中太一(東京大学大学院博士課程)
→ 日本語受身文は、しばしば、なんらかの「受影性」によって特徴づけられてきた。本発表では、益岡(1987, 1991, 2000)・川村(2012)における議論を検討することで、主語の指示対象が有生物である受身文の意味を、「心理的影響」や〈被影響〉など、受身文特有の「受影性」によって特徴づける説明は、主語の指示対象への「物理的影響」のみを表し「心理的影響」を表さないと考えられる受身文の説明に困難を抱えることを示した。
 認知文法では、受身文のプロトタイプを「典型的には行為者をトラジェクターとし他動詞能動文であらわされる「受影性affectedness」を含む事象を、被動者をトラジェクターとして捉える文」と考えるためにこのような困難は生じない。さらに、先行研究において議論されてきた「間接受動文」や「属性叙述受動文」は、このプロトタイプからの主体化による拡張であると考えられる。
2017年10月18日(水)
「社会言語科学会第40回大会報告」
  発表者 阿部新(大学院国際日本学研究院准教授)
 →本報告では、2017年9月16日17日に関西大学で開催された社会言語科学会第40回大会について報告した。まず大会の概要について説明し、併せて次回第41回大会についての案内も行った。その後、本田弘之氏(北陸先端科学技術大学院大学)・倉林秀男氏(杏林大学)の口頭発表「公共サインの客観的評価のための試み―英訳にあらわれた「ズレ」からそれを探る―」を取り上げ、発表の概略を報告した。
2017年10月11日(水)
「フィジー語の発言動詞の補文節について」
  発表者 岡本 進(東京外国語大学大学院博士後期課程)
 →本発表ではフィジー語の「教える」、「命じる」のような動詞(以下発言動詞とする)複他動詞として分析する。フィジー語の発言動詞ではindirective型(R(ecipient)項が目的語)とsecundative型(T(heme)項が目的語)の両方のアライメントが観察される。ただしすべての発言動詞でこのアライメントの交替が見られるわけではなく、使役化接頭辞VAKA-を伴う発言動詞でのみ許容される。動詞の形態変化なしにアライメントが交替するという点で特異である。このような発言動詞はそのT項が補文節として現れることが多い。補文節の標示が目的を表す副詞節のそれと同形であるため、真に補文節ではないとも分析できる。しかし本発表は、発言動詞の補文節は「埋め込まれている」と主張する。その根拠として、補文節が態の操作を被ることが挙げられる。さらに、補文節の内容を尋ねる疑問文において、必須項と同じ“what”を用いることからも、発言動詞の補文節は項として埋め込まれているといえる。
2017年6月21日(水)
「日本独文学会2017年春季研究発表会報告」
  発表者 小林大志(東京外国語大学大学院博士後期課程)
 →2017年5月27、18日に日本大学文理学部で行われた日本独文学会春季研究発表会の報告を行った。まず大会の概要について説明した後に、伊藤克将氏(東京大学大学院)の口頭発表「ドイツ語のw感嘆文における動詞の位置とその意味論」と、シンポジウム「ドイツ語の場面レベルと個体レベルの表現タイプ」における井口真一氏(関西学院大学大学院)の発表「与格名詞句による形容詞構文の場面レベル化」を取り上げ、発表の概略を報告した。
2017年5月17日(水)
「南琉球八重山語波照間方言に見られる文法化の事例」
  発表者 麻生玲子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所ジュニアフェロー)
 →本発表では、南琉球八重山語波照間方言における引用助詞=teに起きた変化を、共時的に観察される談話資料を基に論じた。波照間方言には、2種類の引用助詞=taおよび=teが観察される。=teは、引用助詞=taと後続する動詞enu「言う」、が融合した形式であると考えられる。=ta enuから=teへの形式的・意味的変化についてHopper (1991)や、Hopper and Traugott (2003)などで指摘されている「重層化」や「意味の漂白化」といった文法化の原理を参照し、結論として、次に示すプロセスを提示した。まず、=ta enuから、語境界の母音が融合し=ten(u)へ変化した。この段階で、動詞性を徐々に失いながら、伝聞や、名詞修飾機能を獲得した。次に、音韻縮約を起こし、=teへ変化する。この段階でも名詞修飾機能は保持されている。さらに文法機能の一般化が起こった結果、引用標識としての機能を確立し、動詞en(u)「言う」に先行することが可能となる。最後に、=teに話し手の態度を表す(主観化した)用法が存在することを指摘した。これは「話者自身が見たこと、確信を持っていること」を示す。この用法は、話者志向への変化を示しているという点でTraugott (1988)の「主観化」に沿った変化とも言えることを指摘した。
2017年5月10日(水)
「フィンランド語名詞化の統語・意味論」
  発表者 梅田遼(東京大学大学院博士課程)
 →本発表では、フィンランド語の事象名詞化(event nominalization)の統語と意味について、事象名詞化を接辞の種類によって2種類に分け、それらの差異を論じる形で考察した。フィンランド語では大まかに言って1) -minen、2) -U, -O, -Us, -nti等、の2種類の接辞から事象名詞が形成されるが、前者は非常に生産的でほぼあらゆる動詞から事象名詞を形成できる一方、後者は動詞の語幹によって付加される接辞が決まっており、語彙的な特異性(語彙化、語彙的ギャップなど)も多くみられる。本発表では、1) -minen名詞化が動詞の項構造をよく保存している一方、動詞句の性質そのものを残しているとはいえないこと、2) -minenもそれ以外の名詞化も事象(イベント)を表すが、述語形容詞の格標示に差が見られ、その格標示の差が動詞の表す事象と密接に関わっていること、の2点を明らかにし、-minen名詞化の特性については-minen名詞化をtranspositionと考えることで説明できることを示唆した。
2017年5月3日(水)
「ダグール語の述語無人称」
  発表者 山田洋平(東京外国語大学大学院博士後期課程)
 →ダグール語には、主語人称と一致する述語人称という文法範疇がある。これはちょうどヨーロッパの諸言語に見られるような動詞の人称変化に似る。しかし従来の先行研究では、これを欠く述語無人称という現象があることについては記述がない。述語無人称の例を精査してみると、ダグール語の述語人称は、一致すべき主語が主題でない場合に現われるらしい。例えばbii šinii ǰaa-sen usuwu-i-šini hoo ǰaa-sen.「私はあなたが言ったことを全て言いました。」では、主語が一人称単数なのに一人称単数の述語人称が付されていない。これは先行文脈の「全て伝えたか」(=言いつけは守ったか)に対する返答文であり、文全体に焦点が当たり主語が主題になっていないためである。形態的に主題を明示しないダグール語では、典型的には無標の主語が主題を兼ね、述語人称が現われる。主語が主題でなくなっても主語そのものの形式に変化は生じないが、述語無人称となることによってこれを表しているのである。
2017年4月26日(水)
「社会言語科学会第39回大会報告」
  発表者 阿部新(東京外国語大学大学院国際日本学研究院准教授)
 →2017年3月18日19日に杏林大学で開催された社会言語科学会第39回大会の報告を行った。まず大会の概要について説明し,併せて次回大会についての案内も行った。その後,燕興氏(千葉大学)・伝康晴氏(千葉大学)のポスター発表「ポライトネス理論のD・P変数の感度の日中比較」を取り上げ,発表の概略を報告した。
2017年4月12日(水)
「チェコ語の所有動詞mítが表す全体部分関係」
  発表者 浅岡健志朗(東京大学大学院修士課程)
 →チェコ語のHAVE型他動詞文(所有文)は、所有のプロトタイプである所有権関係、全体部分関係、親族関係のほか、様々な関係を表すが、これが表しうる関係の範囲は明らかにされていない。本発表では、ある種の全体部分関係が、所有文と存在文のどちらによっても表現できることに着目し、この二種の文を対照した。すると、①所有文でのみ表現できる関係(例:机と脚) ②両者ともに表現できる関係(例:城と堀) ③存在文でのみ表現できる関係(例:机と本)があることが分かる。この違いには、二つの要因が関与している。すなわち、部分(存在物)が全体(場所)に対してどれだけ不可欠で不可分かという程度(内在性)と、二者間の関係がどれだけ時間的に安定しているかという程度(恒常性)である。チェコ語では、これら二つの要因に応じて、二者間の関係を所有文で表現するか、存在文で表現するかが決まると考えられる。
2017年1月18日(水)
「現代ドイツ語における対格の相関詞es」
  発表者 井坂ゆかり(言語文化専攻博士前期課程2年)
 →相関詞esは、現代ドイツ語の3人称中性単数の代名詞esの用法のひとつで、対格の場合、母文に現れ、後置された目的語文を予告する。対格の相関詞esが現れるかどうかは、一般的に動詞によると説明され、相関詞を通常伴う動詞・任意に伴う動詞・通常伴わない動詞といった分類がなされる。では、相関詞esが任意の動詞については、実際どのような場合に相関詞esが現れるのだろうか。本研究では動詞bedauern (残念に思う)を例にコーパス調査を行い、相関詞esの出現率が目的語文の種類によって異なっていることを明らかにした。このような出現率の差には、動詞の事実性と目的語文の仮想性/現実性が関連していると考えられる。
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