第2回 10月13日(火)
「ふしぎな、ふしぎなアラビア語」

   講師:長渡 陽一 東京外国語大学 非常勤講師・特別研究員

 911、そして、アラブの春以来、アラビア語を耳にする、目にする機会が増えてきましたが、それ以前から「ゼロ」、「ライス」、「コーヒー」などの言葉はご存知だったはずです。これらもアラビア語をとおして私たちに伝わってきた言葉なのです。中世の一大文明圏を担った、このような豊かなアラビア語の“ふしぎ”の世界へご案内いたします。
 (1) まずはアラビア文字の“ふしぎ”です。みみずの這ったような形も神秘的ですが、それにもまして、これが子音しか書いていない、母音は書かれていないとなると、読むというより、まさに「解読」です。アラビア語は、「読める」を超えた、「解読」の楽しみを味わえるのです。どうして、この「解読」さながらの文字をみんなが読めているのか、というふしぎに迫ります。これを解くカギは、脚韻を踏む詩を発達させたアラビア語ならではの「語形」にあります。セム諸語の中でもアラビア語は、「子音語根×語形」という仕組みを、かなりの精度にまで発達させ、脚韻どころか“全韻”(?)まで踏むことができてしまう言語になりました。
 (2) もう1 つの“ふしぎ”は、アラビア語の方言の謎です。アラビア語では、別の方言の、私たち外国人の耳にまったく違って聞こえる単語が、彼らの耳には同じ単語として聞こえるのです。これは、じつは、子音だけの文字とも関係があります。
 (3) そして3 つめの“ふしぎ”は、なぜアラビア語は学ぶのが難しいのかです。これは学習者には重大です。発音は、珍しい発音もありますが、カタカナでもおおかた通じるし、文法はスペイン語などと共通する部分も多く、とりたてて難しいわけではありません。この、ふしぎな難しさは、実は、アラビア語が、「ダイグロシア」と呼ばれる、二層からなる言語であることによるものです。


 

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