第5回 11月6日(火)
「フィールドワークと言葉の語彙〜パミールの言語・ワヒー語〜」

   講師:吉枝 聡子 東京外国語大学大学院総合国際学研究院准教授

 ワヒー語は、パミールとヒンドゥークシュに挟まれた地域、いわゆるワハン回廊を中心に分布する、イラン系の言語です。話者は、アフガニスタン、パキスタン北部、タジキスタン中国新彊ウイグル自治区、の4カ国にわたります。無文字言語で、話者人口は25000〜30000人と推定されています。
 パキスタン北部では、ワヒー語は、ゴジャール(上部フンザ)地域からアフガニスタン・中国国境地帯に分布しています。話者の大部分は、パキスタンの公用語・ウルドゥー語とのバイリンガルで、かつての支配者階級の出身言語ブルシャスキー語も広く理解されています。このほか、かつての地域のリンガ・フランカであったペルシア語は、現在も教養語としての地位を保ち、高齢者を中心に解する話者がみられます。
 峻厳な山脈に囲まれ、厳しい自然条件に位置するこの地域は、1970年代のカラコラム・ハイウェイ開通時まで、事実上孤立した状況にありました。この地域には今もなお、伝統的な社会形態や、半農半牧を中心とした経済形態、文化・慣習などがよく残されています。このような背景から、ワヒー語にもまた、伝統的な文化・社会構造を反映した、語彙を初めとする言語現象が数多く見受けられます。文字をもたないがゆえに、規範言語にしばられず、ある意味いびつともいえるまでに地域に特化したことばの姿は、なかなか興味深く、時に魅力的でもあります。
 本講座では、このようなワヒー語を話す人びとの暮らしを紹介しながら、その背景をよく示す事例を中心に、ワヒー語の言語や語彙上の特徴についてお話しする予定です。
 

▲ ページ先頭へ戻る

© All rights reserved. Institute of Language Research, Tokyo University of Foreign Studies.