チェコ語
český jazyk,čeština (英:Czech)
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ことばの概説
- 歴史
チェコ語の歴史はおおよそ以下のように区分される。
- 古代チェコ語
- ~13世紀末: チェコ語の始まりを正確に規定することはできない。この時期は、古代スラヴ語やラテン語の文献に見られるチェコ語的特徴を割り出したり、行間や余白になされたチェコ語訳や書き込みなどからどのような言語であったか推定されているにすぎない。現存する文献の数が少なく断片的なので、言語体系全体を把握することは難しい。
- 14世紀: 高度な文化を表現するためにさまざまな文体のヴァリエーションを備えた文章語としてチェコ語が発達した時期。このころ、同時期の他のスラヴ諸地域には見られないほどの多様で優れた文学が生まれた。
- 15世紀: ヤン・フスの時代。文章語としてのみならず、民衆に直接語りかける説教のことばとしてチェコ語が用いられた。そのため、書きことばと話しことばの差が小さくなった。
- 中世チェコ語
- 16世紀~17世紀初頭: 人文主義の時代。この思想を伝え、知識人を養成するためにチェコ語が発達した。ラテン語の影響を最も強く受けた時期である。ことにシンタクス面で著しい。
- 17世紀初頭~18世紀末: いわゆる停滞期。ビーラー・ホラの戦い(1620)でハプスブルク家のカトリック勢力に敗れたことにより、ヤン・アモス・コメンスキーをはじめとする当時の知識人が亡命を余儀なくされ、学問や行政の場からチェコ語が用いられなくなった。
- 近代チェコ語
- 18世紀末~19世紀半ば: 民族意識の高まりとともにチェコ語はチェコ民族の象徴としてとらえられるようになった。そこで、標準語を定めようとする動きが起こった。この運動の先鞭をつけたのが、「スラヴ学の父」ヨゼフ・ドブロフスキーである。彼は、人文主義の時代のチェコ語を模範とし、コード化に臨んだ。その後も彼の後継者たちによって、標準語を豊かにしようとする努力が続いた。
- 19世紀半ば~1918年: 近代チェコ語の定着期。チェコ語をとりまく社会的基盤が拡大し、教育や行政の場でチェコ語が用いられるようになった。チェコ語による出版活動も活発化する。チェコ語はチェコ社会の基本的な伝達手段となった。
- 1918年~現在: 国家語としてのチェコ語の発達期。1918年、独立国家チェコスロヴァキアが成立した。これに伴い、軍事、法曹などかつてはドイツ語が用いられていた分野でチェコ語を用いることになったため、専門用語の整備が進められた。教育の結果、標準語がより広い社会層にまで浸透した。それと同時に実際の会話では非標準語体が用いられ、文学に影響を与えた。代表的なものが、ボヘミア地方の地域間方言として生まれた共通語
obecna ?e?tina である。近年は語彙面における英語をはじめとする外国語の影響が著しい。
- 方言
チェコ語の方言は4つの主要方言グループに分類され、以下の地域に分布している。
- ボヘミア方言グループ: この方言グループはチェコ西部のボヘミア地方に分布。しかし、国境に近い地域は混在地域として除外する。ここはかつてドイツ語の話者が居住し、第2次世界大戦後さまざまな地方からチェコ語の話者が移住してきたからである。
- ハナー方言グループ: チェコ東部のモラヴィア地方の中でも、ボヘミア地方と接する中央モラヴィア及び西モラヴィア地方に分布。
- モラヴィア・スロヴァキア方言グループ: 東モラヴィア及び南東モラヴィア(ヴァラシュスコ地方とスロヴァーツコ地方)に分布。
- ラフ方言グループ: 北東モラヴィア(シレジア地方)に分布。
ラフ方言グループのさらに北東、ポーランドとの国境近くには、 鼻母音の存在をはじめとするポーランド語と共通の特徴が多く認められる地帯があり、
ポーランド語・チェコ語混在地帯と呼ばれる。
それぞれの方言グループはさらに3つないし4つの下位グループに分類され、さまざまな特徴をもっている。 しかし、方言グループの主要な特徴を提示するために12世紀以前の音
y(i), u, ajが現在どのような音に対応しているのかという基準を設定すると、以下のようになる。
古 |
Ⅰ |
Ⅱ |
Ⅲ |
Ⅳ |
y
(i) |
ej |
e |
y
(i) |
y
(i) |
例 |
dobrej
vozejk |
dobre
vozek |
dobry
vozik |
dobry
vozik |
u |
ou |
o |
u |
u |
例 |
mouka |
moka |
muka |
muka |
aj |
aj |
e |
aj |
aj |
例 |
dej |
de |
daj |
daj |
- 使用文字
ラテン文字を基本とし、原則として1つの文字が1つの音を表す。 いくつかの文字の上には補助記号がつくので、全部で42個の文字を使用してチェコ語を書き表す。
補助記号には「 ´ 」、「 ゜ 」、「 ? 」の3種類がある。
「 ´ 」は母音を表す文字(a,e,i,y,o,u)の上にのみつき、 その母音が長く発音されることを表す。
「 ゜ 」は u の上にしかつかず、u が長く発音されることを表す。 つまり、 u と ? には 発音上の区別は全くなく、これら2つの文字は位置によって書き分ける。
u は語頭で、 ? は語中、語末で書く。 u が語中に現れることもあるが、接頭辞がつく場合に限られる。
「 ? 」は1つの母音を表す文字(e)と、 7つの子音を表す文字(c, d, n, r, s, t, z)の上につく。 しかし、d? , t?(注:正確にはそれぞれ
d, t の上に ? が付く)は印刷上 d', t' で代用される。
- 基本構造
- アクセント
アクセントの種類は強弱アクセントで、第1音節にアクセントがおかれるのが原則である。
- 母音
短母音と長母音の5つずつ、合計10個存在する。 日本人にとってのおおよその発音の目安を文字とともに挙げる。
a / a : 「ア」/「アー」、
e / e : 「エ」/「エー」、
i, y / i, y : 唇を左右に引っ張った「イ」/「イー」、
u / u : 唇を突き出した「ウ」/「ウー」、
o / o : 「オ」/「オー」
- 子音
子音の音素の数は27である。そのうち、 dz (舌先を歯の裏にあててだす「ヅ」)及び d? (舌先を歯の裏にあててだす「ヂュ」)と表される音は
それぞれ文字 c (「ツ」)、 ? (「チュ」)で表される音の 次に有声子音がくるときの同化の結果現れることが多い。 そのため、これらの音は独立した音素と見なされないことがある。
日本人にとって一番発音の難しい音は恐らく ? で表される音であろう。 これは巻き舌の「ル」と舌先を歯の裏にあてないで発音する「ジュ」を同時に発音する。
位置によっては巻き舌の「ル」と「シュ」を同時に発音する。 この音以外の個々の発音はそれほど難しくない(はずである)。 しかし、子音が3つ、ないし4つ連続する場合が珍しくないので、語や文の発音は注意を要する。
- 文法の特徴
スラヴ語派に属する他の多くの言語と同様、語形変化が豊かである。つまり、新しい語を覚える時には、辞書に載っている形と意味だけを覚えたのでは不充分である。その語がどのような型の変化をする語か、ということを把握し、その語に文中でどのような役割を与えるつもりか(例えば、間接目的として用いる、主語が1人称単数であることを受けて現在時制で用いる、等)をはっきり決めないと文が作れない。逆に言えば、チェコ語の文を構成する語の多くが語尾によって文中の役割と所属する変化型に関する情報を発信している。
では、チェコ語にはどのような語形変化のパターンが存在しているのだろうか。名詞には文法性が3種類(男性、女性、中性)あるが、それぞれの文法性のグループがいくつかの変化型をもっているので、規則的な変化型の数は14である。そして各変化型は2種類の数(単数、複数)を区別し、7つの格をもつ。つまり、1つの語がのべ14個の格語尾をもっていることになる。形容詞は名詞の性、数、格にあわせて変化する。代名詞と数詞にも格変化がある。動詞には、時制(過去、現在、未来)や法(直説法、命令法、条件法)、態(能動態、受動態)というカテゴリーがある。これらのカテゴリーにおいて、動作主の人称(1人称、2人称、3人称)や数(単数、複数)、時には文法性(男性、女性、中性)にあわせてさまざまに形を変える。動詞は、もう1つ、アスペクトというカテゴリーをもつ。これは、動作を継続した線ととらえているのか(不完了体)、起点あるいは終点に着目してとらえているのか(完了体)という区別である。原則として、1つの動詞はどちらかの体に属す。
- 語順
「文法の特徴」で述べたように、文中での語の文法的役割は、もっぱら語形によって表される。 そのため、語順を変えてもそれぞれの語の役割は変わらない。主語はどの位置にあろうと主語である。
そのかわり語順は「伝達上の価値」と密接に関連している。 すなわち、話し手あるいは書き手の一番伝えたい語が文末に置かれる傾向が強い。
Karel bydli v Praze. |
← |
Kde bydli Karel? |
カレルはプラハに住んでいます。 |
|
カレルはどこに住んでいますか? |
V Praze bydli Karel. |
← |
Kdo bydli v Praze? |
プラハに住んでいるのはカレルです。 |
|
誰がプラハに住んでいるのですか? |
このように、チェコ語の語順は伝達上の価値に応じてかなり自由に変わることができ、 文のニュアンスに変化を加えられる。しかし、文頭から二番目に優先して置かれる語も存在する。
ここは伝達上の価値が一番低い位置とされているため、それ自身アクセントをもたない語 (エンクリティック)が来る。 例えば、人称代名詞や再帰代名詞の短形(
te, ti, ho, se, si ... )や過去時制を表す時の補助動詞として用いられる byt の人称変化などである。
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