いったいぜんたい、こんなご時世に外国の友達をつかまえて、遥か遠くから招待して、「トルコへ来いよ、案内するからさ。」なんて言うもんか。オレが呼んだんじゃないよ、向こうから現れたんだ。そりゃあ、オレがあいつらの国に行ったとき、ちょうど15日間家に泊めてもらい食べたり飲んだりしたよ。だからあいつにも権利はある。飲んで食べて観光し、15日間泊まるだけのね。
「一週間泊めてくれない。」と、あいつが言った。
「何だよ、一ヶ月位いなよ。」
「いいや、一週間だけ泊めてもらうよ。」
友達っていったからって女だなんて思うなよ、もちろん男さ。その夜、遅くまで座って話していると、あいつが、
「さあ、ちょっと出かけて夜の町を見ようよ。」と言った。
「だめだめ、今日は休めよ。」
翌日は夕方まであちこち話題を飛ばしながら、何とかあいつを家につなぎ止めておくことに成功してたんだ。しかし夜になると、突然立ち上がって、
「さあ、さあ」と言った........。
というのも、あいつは、あっちにいたときオレを毎晩いろんな所へ案内し、どこかへ連れていってくれていたのだ。
「さあ、出かけるぞ。」とオレも言った。
オレ達は出かけた。が、家を出て角まで来た時には、もうオレ達を銃が取り囲んだ。オレ達を身体検査するらしい。けどあいつは外国人じゃないか、そんな風に説明なんて出来やしない。
「今日は警察の日なのさ。ここのお巡りは、今日オレ達をからかうんだ。身体のあちこちを検査して、くすぐったり、くしゃくしゃにしたりして........。」
「ははは。」
もともと笑い上戸のヤツだ。実態を知ると、32本の歯を全部見せてにやにやし始めた。お巡りがオレを検査した。そしてあいつに向かって、
「何を笑ってるんだ、このやろう、煮えた頭みたいに?」と言った。
「こいつは外国人なんですよ、だんな。」
「外国人だからって、身体検査をしないわけにはいかないだろう。」
あいつは検査されているときクスクスと笑っていた。それを見て向こうにいたお偉いさんが怒ってこっちにやって来た。あいつに近づきそうになったんで、オレは、
「警部様、こいつは外国人なんですよ、外国人........。」と言った。
「こいつにニヤニヤするなと言え。」
オレには言えなかった。お巡りはあいつの背中にあるカバンを奪い取り、下に向けるとバーッと中身をばらまいた。あいつはびっくり仰天してオレの顔を見た。
「ジョーク、ジョーク。すぐにかたづけてくれるから」とオレは言っておいた。
お巡りは地面にころがったあれやこれを検査した後、手当たり次第カバンにほおりこんだ。そしてあいつに渡した........。
その場を離れたが、あいつはだいぶショックな様子だった。
「本当にここのお巡りさんはジョークが好きだね。」モモの内側を見せながら、
「ここまで調べたんだよ。」と、あいつは言った。
「でも、いつもってわけじゃないぜ。あのお巡りが特にジョークが好きだっただけのことさ。」
あいつは振り向き、振り向き、後ろを見ていた。オレは忘れさせようと思って町の名所を指さしながら、
「見て見ろよ、この大モスク、ほら、キャラバンサライだ。このモスクも見て見ろよ。」と言っていた。
そうしているうちに、オレはトイレに行きたくなった。あいつは別に行きたくないらしいから一人で行った。そして出てきてみたら、またもやお巡りたちが、あいつを検査していた。あいつはというと、また大笑いしている。お巡りも叫んで、
「笑うな、このヤロウ、笑うんじゃない、このヤロウ。」
「あいすいません、こいつ外国人なもんで。」
バーッとあいつのカバンの中身がまたまた放り出された。まるで米の中の石つぶでも探すかのように検査され、調べられた。お巡りは睨み付けながら、そしてろくに話もせずに、
「もう行け。」と言った。
オレは呆然として、あいつに、
「怖くなかったか?」と尋ねた。
「いいや、ジョークが恐いことなんてあるかい?」
「え、ああ、そうだった、ジョーク、ジョーク。」
「今のお巡りさんは、さっきの人よりジョークがスゴかったよ。」後ろを見せて、
「手で触ったんだ。」と言った。
混んでいるバスではなくミニバスにあいつを乗せた。一つか二つの停留所を過ぎたかどうかもわからないうちに、また囲まれてしまった。スピーカーで、
「下へ降り、壁の方に行け。壁に手をついて、道に背を向けろ。」と言っている。
あいつをミニバスから降ろした。あいつは、全く何がどうなっているのかわからず、でもお巡りを見ると、ニヤニヤし、
「ジョークだ、ジョーク。」と言い始めた。
「オレが何をしても、それをまねるんだぞ。」とオレは言った。
壁の方を向き、手をあげて壁につけた。あいつも同じことをした。
「どうしてこんなことするんだい。」
「ジョークの一種さ。お巡りがオレたちをからかうんだ。」
「わかった、後ろから来てくすぐるつもりなんだね。」
そういうと子供みたいに笑い出した。お巡りはオレを検査した後、あいつに移った。カバンの中身はまたバッとばらまかれた。その時、あいつは横を向こうとしていた。
「だめだめ、振り返ったりしたら、ジョークに耐えられなかったんだと言ってお巡りに取られちまうぜ」とオレは言い聞かせた。
カバンは再び肩に掛けられた。
お巡りは太い声で、
「よし、バスに乗れ」と言った。
バスに乗るとあいつが、
「今のお巡りさんは前の人よりジョークがきいてたね。」と言う。
胸を見せ、
「撫でたんだよ、ここを。」と言った。
「きっと、すごくからかいたかったんだろ。」
「じゃなきゃ、ボクのことホモだと思ったのかなあ。」
それ程進まないうちに、又、明かりがついたり消えたりしているのが見えた。検査をやっているのは明らかだった。ミニバスの運転手は、
「まったくなめられたもんだぜ。少なくても日に30回は検査されてるぜ。畜生、こんな目に........耐えられる............。」
点線の部分は、何て言ってんだか聞き取れなかった。
もうあいつは慣れてしまっていて、オレが何も言わないのに、ほかの乗客と一緒に壁に手をついて背中を向けた。
検査が終わると、あいつはクスクス笑って腹を見せた。
「お腹も撫で回されたよ。」
海岸に行き、お茶を飲もうと店に入って座った。けどオレたちがお茶を一口も飲まないうちに、店に強制調査が入ってきた。
「みんな立て、手を頭の上に置くんだ。」
あいつはオレの言った通りにした。そして隣で、
「ジョークだっ、ジョーク。」と言った。
その夜はようやく4時頃家に帰れた。何故かって?ぴったり19カ所で検査を受けたからさ。あいつはというと、
「よくわかったよ、それにしてもここのお巡りさんくらいジョークが好きなお巡りさんになんて会ったことがないよ。」と言っていた。
2日目、オレたちが通りに出てジョーク騒ぎが始まるや否や、あいつが、
「今日も警察の日なんだね」と尋ねた。
「そうさ、今日は警察の創立記念日なのさ。」
「と言うと、また今日もジョークをされるのかい?」
「ああ」と私は答えた。
3日目も何とか言い訳を見つけた。
「今日は初めて警察学校が出来た日だ。」
「また、ジョ、ジョーク?」
「もちろん。ジョーク。」
「あっちゃこっちゃ、あそこやここを調べるのかい?。」
「そんな大した事じゃないさ。」
4日目、
「今日は治安警察が出来た日なんだ。」
「ジョ、ジョークかい?」
「もちろんさ。」
その日はちょうど22カ所で検査された。なかでも、一度はお巡りが、あいつのお尻を荒っぽく眺めていたかと思うと、ズボンの中に手を入れてきたこともあった。ごそごそと調べに調べて、厚いノートをズボンから取り出し、その後戻した。
あいつは、
「ジョ、ジョークだよね?」
「そ、そうさ。」
5日目、
「今日は警察が、特別組織から離れ、退職者年金制度に加入した日なんだが」と、オレは言った。
「ということは、またジョーク?」
「そういうことだな。」
6日目、今日は何処にも出かけなかった。次の日には帰っちまうしね。しかし、夕方になるとあいつはじっとしていられなかった。
「ねえねえ、出かけようよ。今日はジョークの日じゃないのかい?」
「そうじゃないわけないだろ。」
今日は警察の何の日だったか。あいつも聞かないし、オレも言わなかった。その日は28カ所でくすぐられ、検査された。
ああ、ありがたい、ありがたい。明日の朝あいつは帰るぞ........。オレたちは、早くに床についた。夜中の二時。ドアがどんなに叩かれたかって........、ドンドン、ドンドン........。オレはベッドから飛び起きた。ドアの側に行くと、
「開けろ!警察だ、家宅調査だ!」と言って叫んでいる。
ドアを開けるのを渋っていると、お巡りの一人が叫んだ。
「開けろ、逃亡者を捜しているんだ。開けないとぶち破るぞ。」
門を開けると同時に、8、10人のお巡りがドルマ状態になって入ってきた。居間、オレの寝室、小さな部屋までぬかりなくお巡りらは探した。そしてあいつが寝ている部屋の番になった。
「そこには私の外国人の友人が寝ているのです。ご自由ではありますが、入らないでいただければ........。」
ああ、そんなこと言わなければよかった。扉がドンと開かれ、パッとランプがついた。あいつの体に二人のお巡りが飛び乗った。あちらこちらを、ベッドの上や下を、ふとんの内や外を捜索するから、ちょっと見たところ、二人のお巡りとあいつが、レスリングをしているように見えた。あいつは裸だった。突然起こされたので、はじめは恐がっていたが、お巡りがあちこち検査するのを見ると、
「ジョークだ、ジョークだ。」と言いだした。
お巡りたちは何も見つけられずに帰っていった。
あいつは、
「あの、大柄でヒゲのお巡りさんが、とってもジョークがうまかったよ。ボクの下に手を伸ばしてこんなふうに調べたんだ。」
オレは、あいつを送り出し、あいつは帰っていった。一週間後、あいつから手紙が来た。ところが、その手紙の書き出しは、今までの手紙の書き出しとは、似ても似つかないものだった。
「かわいい、かわい〜いヒト。ワタシの心のス・ベ・テ。ああっ、戯れはおよしになって。ワタシの命のお方、気絶しちゃいそうよ。おんり〜ゆぅ〜、いかがお過ごしかしらん?」てな感じで始まっている。続きはこうだ。
「アナタの所からこっちに戻ってから、ココのホモクラブに登録したの。ああ、たった一週間でワタシをメロメロにしたわね........。」