ミュニップ・ベイの日記

 

フュルーザン

(訳)前田 裕子


1月20日  ムシュにて。いよいよ冬本番。

1月22日  所長から、主任に任命される。出世だ。

1月23日  まるで人間と自然との戦い。相変わらず雪。

1月24日  厳寒。寒さが肌をさす。今日、所長が降りてきて、職員の点検をする。何か、不手際を見つけたか?重く暗い冬には、ヒラの役人と管理職の違いもわからくなる。

1月29日  今日も寒かった。ファイル管理がめちゃくちゃだ。それをやり直す仕事が、俺にふりかかってきた。

2月1日  給料日。チャイ代を早速払う。クムバラのサーミー・ベイたちのところへ、タヴラをやりに行く。帰り道でゴマのヘルヴァを買う。寒さは厳しさを増すばかり。

2月4日  寒さ一層厳しく。マイナス31度になった。風邪をひき、欠勤。

2月7日  月曜日。いつも決まってこうだ。欠勤中、検査官が来たらしい。おかげで、調子が良くないと言うのに、仕事につかなくてはならなくなった。マイナス29度。義務だ、仕方がない。なんだっけ?「千の義務か、千の災難か」だったっけ。そんなようなもんだ。

2月8日  天気多少回復。引き続き検査。若い検査官だ。

2月9日  寒さかなり緩む。

2月10日  しだいに天気回復。休日につき、家で休養。他に何をしろっていうんだ?サーミー・ベイたちが遊びに来る。

2月11日

    セザイ、太った。芝生に座っていて。
    太った、セザイ。芝生に座っていて。
    芝生で、太った。セザイ、座っていて。
    座っていて、太った。セザイ、芝生に。
    芝生で、セザイ、座っていて、太った。

あの歯医者はほんとに気がきいている。でもセザイじゃなくてレジャイの方がいい。

2月14日  休日につき、一日中家にいる。厳しく冷え込む。

2月17日  雪が止む。天気は良好。

2月18日  検査終了。所長が、検査官のあげた注意点を職員たちに報告する。思った通り、どうやら合格点らしい。

2月20日  雪は止むが、厳しい冷え込みが続く。役所は暇だ。家内が《あぁ、イスタンブル!》、《雪化粧のスルタン・アフメットならどんなに見ていたって見飽きないだろうねぇ。》などと言っている。女というものは、理解の外だ。スルタン・アフメットが何だ?ムシュはどこにあると思ってるんだ?

2月22日  穏やかな一日。

2月24日  全く暇だ。所長はアンカラに行き、代理を務める。3分の2でも代理手当てがでないだろうか?用務員に掃除を怠けないように注意したが.......。この田舎者たちは、礼儀というものを知らない。偉い役人をネクタイをした馬鹿者だと思っている。

2月26日  雪は融け始めているようにも見える。でも、まだこの季節だ。それはあり得ない。北の方角には真っ黒な雲があるし。

2月27日  休日。家内がス・ボレッキを作る。よくできていた。俺は、所長のように寛大な男じゃない。役所の秩序を、何から何まで全部変えてやる。

2月28日  こびとの2月は、4年に一度29日までになる。だから、うるう年に生まれると背は低くならないらしい。税務課のスルヒ・ティレッキに、もっとテキパキ仕事を片づけるよう注意した。みんなが口髭の下で笑っているのはわかっている。みんな、所長のだらしなさに慣れてしまっている。でも俺は、所長とは違うぞ。

3月1日  雪、雪、雪。一体何メートルあるんだ?息子に玄関の雪かきするように言い付けた。高校の勉強が忙しいからと、母親は手を洗うときには水をかけてやり、タオルまで持っていてやる始末だ。俺が子供の頃は、父親を役所まで迎えに行き一緒に野菜市場まで買い物に行ったものだ。これを家内にわからせるのは、至難の業だ!

3月2日  雪が止む。チャイ代を払うのを忘れていた。

3月3日  3月は入り口の所で足止めをくわされている。気温マイナス27度。所長は一向に戻って来られない。帰りたいと思っても無理だ。道があちこちで通行止めらしい。公共事業課のメフメットが話していた。ガゼルのとこのハサンに特別な計らいがされているのを今日発見した。彼の書類が端っこにおき忘れられていた。検査官もどういうわけか気付かなかった。こんな状態がとても嘆かわしい。全くずさんだ。

3月4日  ハムディ・ギョレン、サーリヒ・ギュルオウル、ルザ・ヤルチュン諸氏と知事を訪ねる。髭のない、丁寧な物腰の人物だ。ルザ・ベイによれば、知事は、ある大きな県に公園を造ると言って、めちゃくちゃなことをしたらしい。全部の木を切ってしまったそうだ。それで、ここに飛ばされたというわけだ。

3月6日  ルザ・ヤルチュン・ベイが、借金を頼みにきた。まだ月の6日だというのに、なんと礼儀を知らないやつだ!しぶしぶ貸してやった。二人も子供がいるあの男が、悪い女にはまったらしいという噂だ。そいつの奥さんを、集会場でのオズトュルク大佐の娘の婚約式の時、見かけたことがあるが、まだらに赤いほっぺをした可愛らしい若い子だ。せめて性病にだけは、かからなきゃいいが。

3月7日  休日。一日中、コーランを読む。具合が悪い。自家製のヴァクラバを少し食べ過ぎたらしい。娘の幾何の勉強を見てやる。夕方、ハムディ・ギョレン・ベイが立ち寄って、タヴラを一戦交える。エラズーまで一切合切を持って往復することを賭けて。もちろん、勝利の女神は俺に微笑んだ。もっとも、ムシュでは所長以外に俺の敵はいない。ハムディ・ギョレン・ベイも同じことを言った。彼が帰ってから考えた。これは、何かのお告げか?

3月8日  3月の陽射しがときどき差し込むが、まだ信用するほどじゃない。

3月10日  寒さ続く。会計士(個人経営会計士だ)のサイム・ベイの奥さんが、肺炎と診断されたらしいと、家内が話していた。全ての亭主は、こんなたいそうな肩書きを持つものなのか?

3月12日  『シチリア侵攻』という小説を読む。空気はひどく乾燥し、極寒。家で休養した。

3月14日  天気回復に向かう。やっと小春日和の到来だ。ようこそいらっしゃい!と言いたいところだが、まだ3月だ、信じるにはまだ早い。

3月15日  市長がうちの役所に用事で来た。俺が、めんどうを見てやった。市長はいい人だ。俺にお世辞を言った。しかし所長は、どうして戻って来ないのか?

3月16日  もしかして俺を所長にする気なんだろうか。たぶん、もう何年も、任務に忠実にやってきたのが本局のお偉方の目に留まったのだ。

3月17日  天候また悪化。北の空に、冷たい雲がかたまっている。いつもは家では役所のことは話さないが、今日は話した。娘は、俺にすぐにコートを新調したほうがいいと家内に話している。まるで本当に所長に任命されたみたいだ。でも、所長になっても給料はそんなには上がらないぞ。それにしても、家計が豊かになることや、俺の権威がますことなんかを、あいつらはわかっているんだろうか?彼らは、何が大事なのかわかっちゃいない。

3月18日  雪が、チラチラ、チラチラ舞う。マイナス18度。

3月20日  今まで体験したことのない寒さ。マイナス30度。

3月21日  相当冷え込む。家内の風邪が悪化。背中にカッピング治療をするため地元のの治療師を呼ぶ。最近、集会場で政治論議が流行っている。町の主だった人物が集会場で話しこみ、国家天下について論じている。ファイク中佐が結婚するらしい。あたりは銀世界だ。この間、ラジオでシャダラバンの音律が流れると、家内が泣き始めた。一体何なんだ、この女は。理解不能だ!こんなおかしな状態が、何年も続いている。イスタンブルのヴェズネジレルで、新婚初夜を迎えた日も、濃い栗色の髪をしてやっぱりこんなふうに悲しんでいた。で、それから後も、ずっとこの調子だ。これが俺の運命なのだろうか?

3月26日  どこもかしこもみんな凍り付いている。夜、披露宴に招待客が集まった。中佐の義父は、大柄で背が高く、これぞ村人といった感じの男だ。義母はといえば、痩せこけだ。ファイク中佐の親戚からは、誰も出席者はなかった。イズミールの出身らしい。よそ者のある女に恋をして、ちょうど15年その女のために苦労したらしい。名前はニガールだそうだ。彼女が働いていた商売家から連れ出したらしい。搾り立ての牛乳みたいに色白だったそうだ。(これはハムディ・ベイからのまたぎきだが。)とにかく、彼女の肌はそれほど美しかったらしい。大佐も同じことを言っていたが、ちょうどその時、クンパルシータの演奏が始まった。おぉ、クンパルシータ!中佐は花嫁とダンスをはじめた。中佐は40過ぎで、花嫁はまだ16の若い娘だ。でも、中佐はなかなかの男前で、どうみたって40歳にはみえない。大酒飲みらしい。ニガール夫人は、酒宴になると机でステージを作り、目の前で踊り子のように踊ったらしい。ほんとうに上手に、踊り子のように踊るんだそうだ。そんなことがあるから、愛の味は満腹を知らないということになるんだ、とあちこちでウワサされている。大佐は、花婿のことをこんな風に言う。「疲れたんだ、俺たちのファイクはへとへとだ。疲れさせたのは、ニガール夫人さ。そろそろゆっくり休憩する時だ」と。続いて俺が、「でも、この歳の差をどうしよう?」と言った。大佐は笑って、「派手な衣装の踊り子ほどには誰もファイクを疲れさせられっこないさ。」と言った。ニガール夫人というのも相当らしい!披露宴は、夜中の12時にお開きになった。家内は、結婚祝いにお菓子皿セットを贈った。

3月27日  厳寒。雪は降らないが、凍り付く

3月28日  厳寒。雪は降らないが、凍り付く。

3月30日  また雪。家に葡萄蜜を買って帰る。

4月4日  厳寒。

4月8日  天気はしだいに回復。最近は、集会場から早めに切り上げる。

4月9日  所長は帰ってこない。クルクアーチより報せが来る。クルクアーチに、奴の何の用があるんだ。誰がそんなこと頼んだ。まったく、理解できないことをやる奴がいるものだ。

4月10日  4月も10日。ようやく春らしくなってくる。サーミー・ベイが1つ詩を詠んだ。覚えておこうと思っていたのに、忘れてしまった。

4月11日  4月は、2つの季節が出会う時だ。サーミー・ベイの詩は、「私の恋人よ…」で始まる詩だった。大佐と中佐の話をした。大佐は披露宴の夜(つまり、初夜)とはまた違うことを言った。「中佐は大酒飲みだから、彼の細君はかわいそうに、これからいろいろ大変だろうな」と。

4月12日  所長が戻る。部屋に呼ばれ、仕事をきちんと真面目にやっていることを褒められた。でも、まだ戻ったばかりなのに、どうしてわかるんだ?この手の問題に関しては、役人というのも軍人と似ている。わからなくても、聞いたことがなくても、決定をする。俺の親父もそうだった。

4月13日  ひどい頭痛。

4月14日  極寒。

4月15日  晴れているが、ひどく寒い。

4月16日  曇り。寒い。

4月17日  雲り。寒い。これからサーミー・ベイのところに行ってくる。タヴラに誘れている。低いところにある村が、洪水の被害にあったらしい。

4月18日  サーミー・ベイが詩を詠んだ。「私の恋人よ。これは、バラの歌だ......」

4月19日  雨がシャワーのごとく降る。恋人よ、これは、バラの歌だ。冗談じゃない、もうたくさんだ。気が滅入る。

4月20日  晴れ。しかし、それがどうした?

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