ハムザ・アル=ワスル(ハムザトルワスル)の省略
ハムザ・アル=ワスル(ハムザトルワスル)は、いくつかの場合において省略されます。使用頻度の高いものもありますが、そうでないものもあります。必要に応じて項目を拾い読みしてください。
定冠詞「أل」のついた単語の前に「ل」が接頭した場合
定冠詞「أل」のついた単語の前に前置詞などの「ل」が接頭した場合、定冠詞に含まれるハムザ・アル=ワスル(ハムザトルワスル)が省略されます。これについては、“否定の「لا」と混同するのを避けるためだ”といった説明などがなされています。
定冠詞の後に来る文字が「ラーム(ل)」である場合は、同じ文字が3つ連続してしまうため、「ラーム(ل)」を
1つ落として数を2つに減らします。
【「ل(ラーム)」+定冠詞+普通の単語】
لِ
+ اَلْوَلَدِ = لِلْوَلَدِ
前置詞「〜のために;〜にむかって」 + その男の子 = その男の子のために;むかって
【「ل(ラーム)」+定冠詞+「ل(ラーム)」で始まる単語】
لِ
+ اَللُّغَة = لِلُّغَةِ
前置詞「〜のために;〜にむかって」 + その男の子 = その男の子のために;むかって
لِ
+ اَلله = للهِ
前置詞「〜のために;〜にむかって」 + アッラー = アッラーのために;むかって
疑問の「أ(ハムザ)」に続く単語
【定冠詞「أل」のついた単語】
疑問の「أ(ハムザ)」の後に定冠詞の「أل」が続いた場合、定冠詞のハムザ・アル=ワスル(ハムザトルワスル)が省略されることがあります。省略しなかった場合は、マッダつきのアリフになるなどします。
注:疑問のハムザは、前置詞の「ワーウ(و)」と同じく、次に来る単語とくっつけて書かれます。
أَ
+ اَلْبَيْتُ = أَلْبَيْتُ / آلْبَيْتُ
疑問のハムザ + その家 = その家は・・・ですか?
【名詞「اسم(名前)」】
名詞「اسم(イスム;名前)」のハムザ・アル=ワスルは語根ではなく、後から付け加えられた語根(s-m-w)以外の文字です。この語の前に疑問の「أ(ハムザ)」が来ると、語頭のハムザ・アル=ワスルが省略されます。
أَ
+ اِسْمُهُ = أَسْمُهُ
疑問のハムザ + 彼の名前 = 彼の名前は・・・ですか?
【名詞「ابن(イブン;息子)」と「ابنة(イブナ;娘)」】
「ابن(イブン;息子)」と「ابنة(イブナ;娘)」の前に疑問の「أ(ハムザ)」が続いた場合、定冠詞のハムザ・アル=ワスル(ハムザトルワスル)が省略されます。省略の方法は、上の「اسم(イスム;名前)」と同じです。
前置詞「ب」の後に名詞「اسم(名前)」が続く場合
前置詞「ب」の後に名詞「اسم(名前)」が続く場合、名詞「اسم(イスム;名前)」のハムザ・アル=ワスルが省略される場合と、そうでない場合とに分かれます。
【名詞「اسم(イスム;名前)」のハムザ・アル=ワスルが省略される場合】
バスマラのフルバージョンでは、名詞「اسم(イスム;名前)」のハムザ・アル=ワスルが省略されます。クルアーンの
読誦開始時などに読まれるバスマラでハムザ・アル=ワスルが省略されているのは、このルールによります。
بِسْمِ
اللهِ الرَّحْمَنِ الرَّحِيمِ
慈愛あまねく慈悲深きアッラーの御名において【アラビア語ではこれを「バスマラ」と呼びます】
【名詞「اسم(イスム;名前)」のハムザ・アル=ワスルが省略されない場合】
1)バスマラのフルバージョンの前後に何らかの語がくっついている場合
أَبْدَأُ
بِاسْمِ اللهِ الرَّحْمَنِ الرَّحِيمِ
慈愛あまねく慈悲深きアッラーの御名において私は始めます
2)バスマラがフルバージョンでない場合
バスマラが上にあげたフルバージョンでは無い場合、ハムザ・アル=ワスルが書かれます。ただし、文法学者によっては「アッラーという語の他、その属性を示す語(=アッラーの美名)が来て属格支配をしている場合
も、ハムザ・アル=ワスルは省略される」という見解を示しています。
بِاسْمِ
اللهِ
アッラーの御名において
بِسْمِ
اللهِ
アッラーの御名において【別のルールに従った表記】
動詞の語頭に来るハムザ・アル=ワスル
【接続詞の「ف」もしくは「و」+語頭ハムザ動詞の命令形】
接続詞の「ف」もしくは「و」に語頭ハムザ動詞の命令形が続いた場合、命令形の語頭につくハムザ・アル=ワスルは省略されます。
اُؤْمُرْ
/ اِئْذَنْ
命じなさい / 許可しなさい【もとの形】
اُومُرْ
/ اِيذَنْ
命じなさい / 許可しなさい【ハムザが前の母音に影響され弱文字に変わった後の形】
وَأْمُرْ
، فَأْمُرْ / وَأْذَنْ ، فَأْذَنْ
では、命じなさい / 許可しなさい【接続詞が前についてハムザ・アル=ワスルが落ちた形】
同格的用法の「ابن(息子)」と「ابنة(娘)」
「ابن(イブン;息子)」と「ابنة(イブナ;娘)」と言う単語は、2つの人名にはさまれ「〜の息子であるところの」、「〜の娘であるところの」という同格的用法で使われた場合、語頭のハムザ・アル=ワスルが省略されます。
この場合、「ابن(イブン;息子)」と「ابنة(イブナ;娘)」の前に来る人名にはタンウィーンがつきません。間違えてタンウィーンをつけないよう注意してください。
【「ابن(イブン;息子)」の例】
مُحَمَّدُ
بْنُ عَبْدِ اللهِ
アブドゥッラーの息子(であるところの)ムハンマド
عَلِيُّ
بْنُ أَبِي طَالِبٍ
アブー・ターリブの息子(であるところの)アリー
【「ابنة(イブナ;娘)」の例】
「ابنة(イブナ;娘)」という語の場合、同格的用法では「بنة」が「بنت」になることが多くなっています。詳細については、文法書や辞書の解説をお読み下さい。
فَاطِمَةُ
بْنَةُ مُحَمَّدٍ
ムハンマドの娘(であるところの)ファーティマ
فَاطِمَةُ
بِنْتُ مُحَمَّدٍ
ムハンマドの娘(であるところの)ファーティマ
呼格の「ابن(息子)」と「ابنة(娘)」
呼びかけの「يا(ヤー)」の後に「ابن(イブン;息子)」と「ابنة(イブナ;娘)」が来た場合、ハムザ・アル=ワスルが省略されることがあります。
يَا
بْنَ وَلِيدٍ
おお、ワリードのアーダムの息子よ
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