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手話言語学 アーカイブ

2017年2月 4日

MM先生へのメール

MM先生、

先日は、大変興味深いご発表をありがとうございました。

で、言葉遣いは、ずれると思いますが。
「人が認識しなければ、それぞれdiscreteなモノとしては
 存在しない」

というのは、ソシュール先生が仰ってるんですね。

宮岡先生が『言語人類学を学ぶ人のために』第1章で、
まさにその、「我々を取り巻く生(き)のままの環境は
連続的なもので、人間が言語記号によって範疇化することに
よって初めて認識できるようになる」と、

諸人類学者を引いて仰ってるんです。でもソシュールの
ソの字もでてこない。<笑>

これの教訓は、我々は宮岡だけでなく、ソシュールも読まないと
いけないということですね。

(脱線)
     千野先生が異化(アクトゥアリザツェ)と
     自動化(アウトマチザツェ)をチェコの
     ハブラーネックを引いて仰ってるんだけど、
     それは数年先んじてロシアの文学者の
     シュクロフスキーも言っていて、
     (オストラニェーニエとアフトマチズム)
     千野先生がそれをガン無視してしまったのは
     何故なのか、これも謎です。

     また、ウチのドイツ語のF先生が、
     ドイツやスイス・ドイツ語圏の哲学者に端を発した
     categorical judgementとthetic judgementという区別を
     生成文法の黒田重幸氏が1972年に初めて言語学界に紹介して、
     それは物凄い偉業だった。っていう研究発表を
     約1年前に語研でなさったんですけど、
     よくよく聞くと、categorical judgementは
     テーマ・レーマを持った陳述、thetic judgement
     はレーマだけを持った陳述としか思えないのです。
     チェコ・プラハは、フランス語やドイツ語でも
     発信してたと思うんですけど、哲学と言語学の違い
     というのも手伝ってか、チェ独国境を越えなかった
     のだなあと思ったり。その後、生成文法あたりでは、
     プラーグ学派のテーマ・レーマを久野氏が紹介していて
     両者は関連付けられているみたいですが。でも
     F先生は、一切それに触れなかった。

(もとい)

私の分野ですが、手話言語学において、手話能記の表記法が
全く標準化されないままで、このままでは、音声言語の
IPA的なものも、手話能記による正書法も生まれずじまいに
なってしまうのではないかという懸念があります。

なんてことを、アフリカ関係の研究会で、グダグダと語っていたら、
H先生に、「音声をちゃんと記述して、その中から音素を
見つければいいだけじゃないか」と小馬鹿にしたご指摘を
いただいたのですが。

でも、MY先生によると、(僕も半ばそう思っていたのですが)
IPAっていうものが最初っから自然と存在していたのではなくて、
諸音声言語で、「区別されがちな」ところを区別するということを
念頭に置きながら、エティックなところと(個別の)イーミックな
ところを行ったり来たりして、さらには、音響の知識も加味して
そもそもIPAは成り立っている、と。

そう考えると、手話諸言語でも、同様のことをやらないと
いけないのかなあと思っています。ただ、手話の「音響」的なことは
どうやればいいのか全然わかりません。

とりあえずは、エティックなところと、個別のイーミックなところを
行ったり来たりするしかないのかなあと思っています。

さらに言うと、「正書法」に関して、世の手話言語学者は
「区別しているところはすべて区別して書かなければならない」
と思い込んでいるんですが、音声言語だって、そんなことしてないじゃ
ないですか。ということで、underspecificationから始めて、
それで区別できないところはオプションで付け加えていくって
言うのでいいのではないかと考えているところです。

と、随分と、私の方に引き寄せた話ばっかりになってしまいましたが
平にご容赦ください。

また、また色々とお話を聞かせてください。よろしくお願いします。


箕浦信勝

追伸。M君がタイ語のkamlangが文法的な働きをしているって
言ってきて、私としては、語形から、これは、クメール語系の
接中辞(-am(n))が入っているに違いないと思いついちゃったのですが、
やっぱり、SR先生が、「タイ語には接辞も無いし、形態論も無い。
クメール語やサンスクリット・パーリ語などからは、それぞれの
語形が外来語として入ってきたのであって、タイ語内で形態論的手法に
よって作られたものではない」と仰っていて。
まあ、それはそうなんでしょうね、と。日本語の-ii+naがどんどん
和製英語の形容動詞を作っていく(ボリューミーな)のようなことは
無いのでしょう。
で、もとい。kamlangから、接中辞を除いたものは、Haasの辞書に
乗っているkhl?ngだと、私は見たんですが。確かに、これは
タイ語内での派生ではなさそうですね。

2019年9月27日

TISLR 13 1日目

昨日は、TISLR1日め。

Yesterday it was the first day of TISLR.

https://www.idgs.uni-hamburg.de/en/tislr2019.html

最初のkeynoteの、Jordan Fenlonの発表が面白かった。
例えば、英国手話に関しては、英語と違って、
OSV語順であると言われたり、
Topic-Comment語順であると言われたり、
Noun Adjective語順であると言われたりするけれど、
それは、英国手話が見せる特徴のごく一部であって、
学習者もそこに固着させてしまうのは良くないと。

The first keynote presentation by Jordan Fenlon was interesting.
E.g. BSL, unlike English, is said to be of OSV word order,
of Topic-Comment order, etc. but these features are only
small parts of what actual BSL is and it is not a good way
that BSL learners only get stopped at that point.

私は、Fenlonのように、corpus研究ができるような
環境ではまだないけれど、でも、少ない研究居力者から、
様々な文体、レジスターの違いを観察している。
TTM(マダガスカル手話)を教えることも無いけれど、
TTMは、◯◯語順と教えることは得策ではない。

I, unlike Fenlon, am not ready to pursue corpus study on
TTM (Malagasy Sign Language, Tenin'ny Tanana Malagasy),
but from a few linguistic consultants, I have observed
various styles and various registers.
I do not teach TTM either, but I know that it is not a good
choice/start to tell students that TTM has ◯◯ word order.

ポスターからは、フランス人男性による、手話の書記法に
関する研究が面白そうだった。雑誌にじきに掲載されるそう。

From the posters, a study by a French man on writing systems
was interesting. It will be published soon in a journal.

カレン・エモリーの、脳に電極を付けて行った研究の
Keynoteも面白かったけど、昨日は、心理学、神経科学
など、私には手の届かないものが多かったです。

Karen Emmorey's study, having gathered data
from voltages emitted by the brains, was interesting.
It seemed most of the studies were psychological
linguistics or studies related to neurological sciences,
which are out of reach from me.

ところで、Susan Fischerと、S.-Y. Kuroda's "categorical and thetic judgement"に付いて話すことができた。良くご存知で、Topic-Comment関係の研究とは、かなりoverlapすると言っていた。

BTW, I got a chance to talk to Susan Fischer about S.-Y. Kuroda's "categorical and thetic judgement". She knows it quite well and she said it overlaps with the Topic-Comment studies.

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