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2023年1月 アーカイブ

2023年1月12日

事実に拘ることの重要性

インターネット上の「つまらない事実よりもおもしろい嘘に注目する」という風土は、インターネットの外に広がり、民主主義を危機に陥れている。根本的な対策がなされなければ、まもなく民主主義は完全に敗北してしまう──そのような強い危機感を訴えるレッサに、英紙「ガーディアン」が取材した。これからの世界の展望と、偽情報と戦うための処方箋を聞く。
https://courrier.jp/news/archives/312341/

このことは、世界各地でも起きているし、日本でも起きている。インターネット上には、情報が溢れているが、割合こそ調べてみなければわからないが、虚偽の「面白い」情報が蔓延していることは確かである。

でも、日本では、それを「楽しむ」ことによって、命が危険に曝されることも、人権が制限されることも、富が失われていくことも、生活基盤が壊れていくことも、実感を伴って感じている人は少ないのかもしれない。

他方、そんな悠長なことを言って「嘘を楽しむ余裕」は、隣国、台湾には無い。台湾の内部から発信され、あるいは外部から流入する情報は、事実に混じって、虚偽の情報が混在している。

2023年1月12日、NHKラジオの「マイあさ」では、同局国際部の杉田沙智代が、台湾での取り組みを報告していた。

台湾には、大陸から流入する虚偽情報の問題があり、最近では、7割の真実の中に3割の嘘を埋め込むことで、狡猾に人々に信じ込ませようというカラクリがあるという。

ファクトをチェックする団体はいくつかあるようである。(私が同じものを別に数えている可能性はあるが。)

Taiwan Factcheck Center
https://credibilitycoalition.org/credcatalog/project/taiwan-factcheck-center/

Taiwan Factcheck Center
https://give2asia.org/taiwanfactcheck/

台湾事實査核中心
https://tfc-taiwan.org.tw

NHKの杉田によると、ある情報が事実であるか虚偽情報であるかは、LINEのchatbotに質問を投げかけることによって、即時に調べることができるとのことである。

Taiwanese Cofacts fact-checks information on LINE
https://ijnet.org/en/story/taiwanese-cofacts-fact-checks-information-line

台湾国民にとっては、情報の真偽を知ることが、国の存亡に直結しているので、そこまでナーバスになっているのであろう。

他方、日本も、虚偽情報が溢れているのは、肌で感じ取ることができるし、それをそのままのさばらせておくことは、やはり国の存亡に繋がることなのではなかろうか。

ロシアvs.ウクライナの戦争関係とか、COVID関係とか、立場を決めずに100%真、あるいは100%偽であると、即断できない情報はあるにはあるであろう。

でもその他にも、「アイヌ民族などというものはいない」などという虚偽情報が、真顔で「議論」されているのも我が国である。

もうちょっと、嘘に敏感になりましょうよ!と思う。

2023年1月25日

ことば4題

1.
英語にshitpostという単語があります。

https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english/shitpost (英語です)

https://eigo-net-slang-jiten.blogspot.com/2014/05/shitpost.html

https://en.wikipedia.org/wiki/Shitposting (英語です)

https://www.urbandictionary.com/define.php?term=Shitpost (英語です)

一番最後のアーバン・ディクショナリーの一番上の記事が情報量的に飲み込みやすいです。
それをDeepLで和訳して、手直ししました。

クソ記事 真摯で洞察に満ちた内容のほとんどない投稿のこと。特に、混乱させたり、挑発したり、楽しませたり、非生産的な反応を引き起こすことだけを目的とした「クソ」(低)品質な投稿のこと。しばしば、文脈から逸脱したシュールな投稿に代表される。

シットポストは、ミーム、スパム、ベイト(bait, 餌)など様々なものと見ることもできるが、その逆はほとんどできない。
ミームとは異なり、シットポストにはテンプレートがない。
スパムと違って、シットポストは繰り返しを必要としない。
ベイトと違って、シットポストは反応するように設計されていない。

なぜこの銃を持ったポッサムの画像が「三角形」なのか?
あなたには理解できないでしょう。ただのシットポストです。
by got1837 2月9日, 2021

上記は、インターネット、特にSNS上での言語活動に関するものであるが、同様のクソなものには、音声言語によるものもあるように思われる。

与党の政治家の一部が、時にする挑発的な発言が、まさにそのようなものだと思われる。

他に、いわゆるインフルエンサーも時にやりますね。

それに当たる用語が無いかと探したのですが、まず名詞としてはshitspeak、shitspeachがあるようです。

https://www.urbandictionary.com/define.php?term=shitspeak (英語です)

shitspeaking、shitspeakerというのはありますが、動詞としてのshitspeakが使われるのかどうかは、確認できていません。


2.
先日といっても随分前にラジオで、「(心を)無にする(H]LLL)」と言っている人がいて、「(好意を)無にする (LHHH)」と違うアクセントのパターンだなと思いました。

「(気功などで)気をつかう (H]LLLL)」と「(相手の気持ちを考えて)気をつかう (LHHHH)」っていうのと同様の対立だなと思いました。

平板になっている方(LHHH(H))が、熟語になっているのでしょうか。

私の学部時代に竹林滋先生が言っていた、

「北の海(LHHH]L)は冷たい」と
「(力士の)北の湖 (LHH]LL)は冷たい」の対立と似ているかもしれません。


3.
盲導犬の訓練の場面を見せているCMで、訓練士が犬に向かって

「ストレート ゴー」

って言うのですが。

なにやら、盲導犬への指示は、日本語ではなく英語ですることになっているようなのです。でも英語だったら、

「Go straight」

だろうと思うのですが。

鈴木俊貴博士の研究で、シジュウカラが二語文を使うことがあると言っていて、これは、perceptionだけではなく、production + perceptionの問題なのですが、二語の前後を入れ替えると、内容が伝わらないと言っています。

犬は、perceptionだけだとしても、その辺は柔軟なんでしょうか?


4.
文化放送で、「おいでよ!青春る」と言う番組があるのですが、その「青春る〜あおはる」のアクセントは LHHHになっています。

「青春る」という書き方は、いかにも「あおはる」を動詞にしました!という風に見えるのですが、でもこれは動詞にはなりきれていないと、私は考えます。

日本語東京共通語での動詞のアクセントパターンとしては、「あおはる (LHHH)」と言う平板型(0型)と、「あおはる (LHH]L)」という、後ろから2番目にアクセント核がある中高型(-2型)の2つがあるにはあるのですが、私の観察では、新たに作られる動詞は、後ろから2番目にアクセント核を持つ中高型一択になっているようなのです。

例えば、「る」を最後に持つ「シャネル (H]LL)」を動詞化した「シャネる」はLH]Lとなります。

また、J-Phoneが言い始めた「写メール」を2モーラに刈り込んだ「写メ (H]L)」に「る」を付けた「写メる」は、やっぱり-2型のLH]Lになります。

日本テレビの「キンプる」は、-2型の LHH]Lになっています。

また、名詞等に「する」を継いだ動詞のアクセントは、上述の-2型になるとは限りません。これは、「=する」という、名詞を動詞化する前接語になっているからだと考えられます。(cf. 宮岡伯人 『「語」とは何か 再考』(三省堂))

FM Yokohamaに「プラする~あなたにプラスするラジオ~」という番組があります。

これは、「プラする (H]LLL)」となるだろうなと予測していたのですが、2023.1.22放送分の冒頭では、「プラする (H]L LH)」と二語に発音していました。

2語に発音した「プラする (H]L LH)」と、後半を接語とした「プラ=する (H]LLL)」はそれほど遠いものではなくて、互いに交換可能な場合が結構あると思われます。

ことば9題

1.
アンちゃんによると、和製英語というのは、最早、英語ではなくて日本語の中にあるのだから、それを正しい英語に直せなどというのはおこがましいし、それを並べて、愛でて見ればいいのだろう。

https://ameblo.jp/annechan521/entry-12287153132.html

他方「英語を教える」系のブログや動画などで間違ったことを教えている人がいたら、それは糾弾していいだろう。

米製日本語というのもあって、hibachi、futonなどは、日本人が思い浮かべるものとは違うし、ume musubi(梅干しのおにぎり)などは、ちょっと想像力を働かせないとわからないだろう。

単語レベルじゃなくて、文法レベルになると、最早英語からの類推で考えてもわからないものがある。

その1つは、商品名や、番組名などの「ザ」の用法である。

セブン・ザ・プライス
https://7premium.jp/product/search?item_tag_category_id=142

なぜそこに「ザ」があるんでしょうね。

ビリー・ザ・キッド
https://ja.wikipedia.org/wiki/ビリー・ザ・キッド
http://bit.ly/3j5c85i (上を短縮したもの)

なんていうのは英語でもあるんですけどね。キッドであるところのビリーですね。

日本語で「ザ」が含まれる「名称」は、そういう構造になっていないようです。

番組名でも、同様のものがあります。

ナイツ・ザ・ラジオショー
https://www.1242.com/radioshow/

ミッツ・ザ・コレクション
https://www.1242.com/mco/

ナイツ、ミッツに属格標示をして、「の」を使えばよさそうなものを、ちょっとカッコ良くするために「ザ」にしたのでしょうか。そういえば、英語の属格の「's」をカタカナ化するのは、結構難しいんですよね。和製英語で、「メンズ」の「ズ」は、元々は属格の'sだったんだけど、日本語の中では、複数のsに聞こえます(見えます)ね。

最近発見したことは、「ザ」を2つ使うことはないという傾向です。

ザ・クロマニヨンズ・ラジオショー
https://www.interfm.co.jp/crs

ザ・クロマニヨンズ・ザ・ラジオショーでは、うるさいというか、重たいのでしょうか。


2.
和製英語といえば、句動詞に見えて、英語に無いものがあります。

レンジアップ
https://dictionary.goo.ne.jp/word/レンジアップ/
http://bit.ly/3DccZIp (上を短縮したもの)

ティッシュオフ
https://kotowaka.com/cosme/texissyuoff/

もっと例を集めないと安易な一般化はできませんが、上の2例を見ると、「道具」+「方向」 という構造になっています。

和製英語だからかもしれないですが、この「道具」のスロットに英語だと感じられないものを入れることができないのかもしれません。「レンジアップ」を「チンアップ」とはいえません。(keep one's chin upは、全然違う意味の英語表現です。)


3.
「嘘とゴムはつけない男」という人がいます。
https://twitter.com/katsuking_50
「ウソとゴムはつけない男」というのもいます。
https://twitter.com/kt161216

ここで注意しないといえないのは、嘘/ウソがつけないというのと、ゴムをつけないという場合の「つけない」は、たまたま音形が同一になった、別個の動詞の派生形だということです。前者は、(嘘を)吐くの可能動詞の否定形、後者は付けるの非定型です。

(これを統語解析するときにはどうするんでしょう?)

類例を作例してみました。

「ピーマンと膝はいためない男」
「オリンピックと顔はイケてる男」


4.
先日、某局アナさんが、「オーガズム」のアクセントが、H]LLLLか、LHH]LLか迷っていました。「アクセントが違ったら意味も違うようになるよなぁ」のようなことも言っていました。アクセントの違いによって意味が違ってくる場合もあるだろうけど、ほとんど変わらない場合もあるでしょう。

これは、単に外来語へのアクセント付与のメカニズムの違いによるものだと思われます。

英語では、アクセントが第1音節にありますので、それを尊重すれば、H]LLLLになるだろうし、他方、日本語の(ほぼ)4モーラ以上の名詞で、デフォールトのアクセントを付与しようとすれば、後ろから3番めにアクセント核のあるLHH]LLになるのでしょう。

パラダイムも英語のアクセントに従えば、H]LLLLになるだろうが、デフォールトのアクセントを付与すればLHH]LLになるでしょうか。

LGBTのアライというときの「アライ」では、3つのアクセントパターンを観測しています。

アライ (H]LL)というのは英語のアクセントを尊重した形でしょう。

アライ (LH]L)というのを、「これはアライアンスから短くしてできた名称です」と嘘の語源で説明している人がいました。でも、その語源に従うとこの形になりそうです。

最近多いのは、いわゆる専門家アクセントの

アライ (LHH=)です。

最後の専門家アクセントの平板型は、専門家アクセントだけにニュアンスが違ってくるでしょうね。意味が違ってくるとまで言えるかどうかはわかりませんが。


5.
radikoのCMで、

「あなたの人生に素敵な偶々を」

https://kotobayasan.com/radiko-radiocm/

というのがありました。

偶々(たまたま LHHH=)をたまたま(H]LLL)と発音したら別な意味になっちゃいますね。OBS夜のイチスタ☆御用達のアレになっちゃいます。


6.
「敬語〜待遇表現の変化」

私がやっているのは、あくまでも記述であって、規範の浸透ではないので、規範と違うことがあっても、それを糾弾するのは、「立場を変えて」やらないといけません。

ということで、今回は記述的立場で。

最近「おられる」という尊敬語をよく耳にします。「いらっしゃる」「おいでになる」だと、「いる/いく/くる」の3つに対応してしまうし、「いる」だけに特化したいということで、これを誰かが使って、広まったのでしょうかね。

あと、補充法による尊敬語よりは、(ら)れるによる尊敬語の方が好まれるという最近の傾向とも関係があるかもしれません。(それこそ歴史的コーパスの経年変化を見ないと、「実証」したことにはなりませんが。)

「召し上がってください」「お召し上がりください」の代わりに、「いただいてください」というのも最近よく耳にします。「いただく」が謙譲語だという感覚が薄れてきているのでしょうか。それとも、食物の生産者に敬意を払っているのか。


7.
ちょっと前に私の指導院生が、会話の中で、「〜は」とか、「〜が」とかの助詞で始めて応答することに興味を持っていたのですが、

先日(先週ではないです)、J-WaveのFree Slideの中で、

「が [ŋa]」

で始めている人がいました。

本来なら、その人の言語的生育歴まで調べないといけないですが。

東北のある部分のご出身、あるいは他の[ŋ]を使う地域のご出身だったとしたら、母語の特性として、[ŋ]を使っているのでしょう。

母語として獲得しなかった人でも、アナウンサーになる養成校に通ったりして、かなり長じてから[ŋ]を習得した人とか、合唱の指導の中で指導されて[ŋ]を習得した人もいるでしょう。

でも後者の場合、服部が言うように「大烏」と、「大ガラス」で、前者を鼻音、後者を非鼻音(例えば摩擦音)で発音し分ける人はいないでしょう。

あとは、会話の中であるとはいえ、その当人の発話の初頭に[ŋ]を発音したということは、何かを示唆しているかもしれないし、説明されなくてはいけません。


8.
バンド名再び。

シリケッツというバンドがあります。
https://shirikettsu.jimdofree.com

シリケッツ(H]LLLL)と頭高型なので、バンド名として無標のアクセント型になっています。

シリとケッツ(ケツ)は両方とも尻で、「ッ」を入れることで、擬似的に複数形のバンド名にも聴こえるようにしているでしょう。

他に、頭高型にならないバンド名を見つけました。

ハシビロコウズ (LHHH]LLL)
ザ・クロマニヨンズ (H LHH]LLLL)

ファーストサマー・ウイカが、オチャノミズ (H]LLLL)だったらバンド名になると書いていますし、オカモトズ (H]LLLL)も同様の頭高型です。もしかして、頭高型になるのは、5モーラが上限だったりします?


9.
2023.1.9 J-Wave Special Sapporo Beer at Age 20, the Beginningで、シシドカフカさんが

「色々と私たちは関係が深いでございますけれども」

以前にも書きましたが、謂わゆるウ音便を使った

「深こうございます」

というのは、使用頻度がものすごく減っているのかもしれません。

「ございます」の前のウ穏便は、大学院の時の恩師、田中利光先生から、「東京共通語には、関西の方言から借用されて入り込んだ」と教わりました。

でも、大阪府出身の西畑大吾くんも「嬉しいでございます」って言いますし、東京だけでなく、関西でも、守旧的な方言を使う人以外では廃れてきているのかもしれません。

何が起きているかというと、そもそも

深い → 深こう
嬉しい → 嬉しゅう

というウ音便形は頻度が少ない。そこで、引用形式の「深い」「嬉しい」に、助詞「で」を継ぐことで、「連用」させているのかも知れません。

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