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素性[± X]とは何か

Юさんのご発表。 

素性(そせい)が、[+ X][- X]で対立する音素(その他)は、
プラスの方に特徴があって、マイナスの方に特徴が消極的な感じで
「無い」のではなく、マイナスの方は積極的にその素性が無いという
対立であるという話でした。

(Trubetzkoyなんかが、細かいところでどう議論していたかは
よくわからないけれど、)Saussureによれば、そうなると。

ご発表からだと、例えば、タイ語の4声と5声は、同じ
「下降上昇」という特徴を持ちながら、
5声は、最低F0域に到達する、(F0は基本周波数)
4声は、最低F0域に(積極的に)到達しない
という対立になっていると。

(生前の藤村先生が、F0を藤村曲線より下げるのは、
 cricoid cartilageか、thyroid cartilageのどっちかだと
 おっしゃってた覚えがあるのですが、どっちでしたっけ。)

C氏は、「上昇下降」「下降上昇」「緩やかな下降」
っていうのも、Trubetzkoy的というか、現代の「音韻論」の
主流の考え方における、2分法、2分法の組み合わせで
書けないかと言っていたけれど、そこは軽々に
抽象化すればいいってモノじゃあ無いんでしょうね。

会場では、数年前(20年前位ですね)に流行った、
underspecification theoryが使えるんじゃないか?
(+, -の他に0を立てるようなヤツ)って言っている
人がいたけど、どうでしょうねぇ。

--

そう言えば、池上二良先生が、御著書
講座言語 第2巻 言語の変化 池上 二良 https://www.amazon.co.jp/dp/4469110523/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_oAIiDbP8DQY44
の中で、±と-の不完全な対立のことを書いてらっしゃいます。

(当時、あるいはその前の時期の)長野県の方言では、

「鯉だ [koida]」と「漕いだ [koida]あるいは[koĩda]」という
不完全な対立があると。
これは、東京共通語からの同調圧力もあっただろうけど、
「無くなりつつある対立」という不安定な段階だったのではないかなあと
今の僕は考えます。

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また、ご発表の内容ではないけれど、規範的韓国語の
/u/と/ɯ/の対立は、まさに、[+ rounded]が前者では積極的にあって、
後者では、積極的に無いということで、円唇と張唇に
離れた感じになって対立してますよね。

現代諸方言では、その対立が中和しつつあるところも
あるらしいですが。

--

翻って手話諸言語などで、
通常、音素と言われている
手形、位置、動き(その他)、NMM(非手指標識)は、
よく、対立が必ずしも無くても「かくかくしかじかの特徴がある」
って言われちゃうけれど、そこは、再吟味の必要が
あるかも。

というか、対立が無いのに、特徴があるっていうのは、
シニフィアンとシニフィエの間の、オノマトペ的な
iconicityが発揮されているかも知れないっていうことは、
今思い付きました。

それから、手話言語学外にいて、手話を良くご存知無い方々が、
「その音素(手形、位置、動き、その他)っての、
ホントは素性じゃないの?」って
言ってくることがまだあります。
欧米では、もうそんなこと話題になってなさそうですが。
でも、これは、即時に却下していいものかどうか、
僕にはまだ躊躇いがあります。

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2019年7月 8日 02:21に投稿されたエントリーのページです。

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