1. 「豚に改造された狸」
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1903/23/news021.html
「豚に改造された狸」の「豚に」っていうのは、
与格・向格にしかとれなくて、もう1つの可能性、
受け身の行為者としてはとれないんだけど、
それって、統語論では決まって来ないよね。
意味で決まってくる。というか、後者が
意味的に排除される。
で、思い出すのは、日本語のニ格の守備範囲の広さで、
それを(本人は専門的に認知言語学を研究しているわけ
ではなく、いろんな理論の使えるところをつまみ食いで
引っ張ってくるだけの人が)認知言語学の意味マップを
書いて説明していたことがあったんだけど。
僕は、そういうんじゃなくて、ニ格とデ格は
両方とも広めに「斜格領域」をカバーしていて、
何らかの棲み分けをしているんだとは思うけど。
でも、意味マップは使いたくない。
意味マップは、ある用法から「隣の用法」へと
拡がっていったということに適したモデルだと
思うけど、ニ格などは、もともとの汎用斜格なのでは
ないかと思うのです。
と、ものすごくオールマイティーな汎用斜格のaminaを
持つマダガスカル語を見ていて思うのです。
終わり。
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2. ツイッター界隈で、「ホームレス」は人ではなくて、
状態なので、人は、「ホームレスの人」「ホームレスの方」
って言うべきだ!と断じている人がいたんだけど。
日本語のその辺りを見てみると、状態あるいは行為を表わす名詞と
その状態にある人(状態者)あるいは行為者が、別々の名詞で
表されている場合もあるけれど、どちらも同じ名付けがされて
いる場合がある。
これは、メトニミー(換喩、隣接している意味領域の意味に、ある単語の
意味が拡張すること)に依る。
例えば、元来痴漢は行為者である。他方、犯罪は、行為である。
でも、「痴漢は犯罪」という標語は巷に溢れている。
行為者名詞と行為名詞を厳密に区別するのが日本語の常だとしたら、
「痴漢は犯罪者」あるいは、「痴漢行為は犯罪」としないと
「正しくない」ことになりかねない。
でも、我々が普段「痴漢は犯罪」という5文字を見たときに
違和感を覚えないのは、行為者名詞から行為名詞への、
また、行為名詞から行為者名詞へのメトニミーが
わりと我々日本語話者の中には刷り込まれて、
自然に共有されているということではあるまいか。
で、元に戻るが、「ホームレス」は状態であるが、
メトニミーの原理によって、その状態にある人のことを
表わすことも可能になっている。
じゃあ、特にホームレス関係の援助ボランティアなどを
している人たちが、「人」を「ホームレス」と呼びたがらないか。
それは、丁寧さの問題である。
状態名詞の「ホームレス」で、その状態にある人を
メトニミーで「ホームレス」と呼んでしまうのは、
その辺りの事柄をぞんざいに考えている間接的証拠にも
なってしまう。
だから、そういう場面では「ホームレスの人」「ホームレスの方」
と丁寧に言った方がそぐう。ということではなかろうか。