« 呟きより | メイン | 呟きより »

キラキラネーム・ドキュンネームの背景の一

1.なぜ「説明されないと読めない」文字面の名前が可能か。

これは、日本語の、複雑めな書記言語事情によります。

たとえば、一般に「綴りがでたらめだ」と言われている英語で、
Bernard Shawが、fishはghotiと綴ることも可能だと言ったとしても、
Peterと書いて、マイケルと読ませることは、かなり高い確立で
無理でしょう。

2.漢字は表語文字。

一般に、漢字は、「表意文字」だと言われていますが、
故河野六郎博士や他の言語学者は、表語文字と言っています。

語のみならず、様々な長さの単位の言語記号は、
音(素)の連続という形式上の側面、
即ち能記(仏 signifiant、記号表現)の側面と
意味の側面、
即ち所記(仏 signifie、記号内容)の側面を
持っています。

「表音」とは、文字が言語の能記面に対応して
表記するという方法で、

「表意」とは、文字が言語の所記面に対応して
表記するという方法で、

「表語」とは、表音と表意の両方を兼ね備えている
方法です。

漢字には、意味を表わす(=表意)だけでなく、
読み方が決まっている(=表音)という
約束もあります。

また、漢字の9割方を占める形声文字(六書の一)
は、表意を担う部分と、表音を担う部分の
組み合わせからでき上がっています。
例えば、「河」のサンズイは「水(に関係がある)」
という意味を表わし、「可」は意味とは関係なく
(音読みの)音だけを担っています。

3.日本語の漢字の表音性のversatility

現在漢字が用いられている中国語圏、
そして、もっと限られた範囲でのみ漢字が
用いられている韓国を見ても、
漢字の「表音」に関しては、
それほどのversatilityはありません。

中国語の楽(日本の字体で書いています)は
leと読まれればタノシイ、ラクを表わし、
yueと読まれればオンガクを表わします。
元々同じ「語」が二つの読み方を獲得した
という説もあるようですが、
故河野博士は元々別々の二つの語が、意味の類似によって
転注によって一つの漢字を当てられたと主張しています。

韓国語「自動車 jadongcha」の「cha」と、
「自転車 jajeon'geo」の「geo」も
転注によって一つの漢字が当てられた例です。

翻って日本語の場合、
「音読み」でも、呉音、漢音、唐音などが
異なっている場合があり、
それに加えて、意味を軸にして
日本語の固有の語に漢字を当てた、
「訓読み」というものがあります。
これによって、一つの漢字が幾様にも
読まれるようになっています。
「行」は、ギョウ、コウ、アンだけでなく
イク、オコナウなどと読まれます。

それだけでなく、漢和辞典に乗っている範囲でも、
名前に使うときに使ってよい読み方が、
それに足されています。
「信」をノブと読むのなどはソレです。

また、一つの漢字に対してではなく、
二つ以上の漢字に「読み」が当たっている場合があります、
五月蝿い(ウルサイ)等。

以上は、日本語共同体によって同意されており、
「正しい」とされている範囲の状況です。

4.表音性のversatilityの詩的使用?逸脱

この日本語の漢字の表音性のvesatilityは、
更に応用されて、
まず文学などでは、ふりがなによって
規範を外れた「読み」を付与されることがあります。

強制収容所(ラーゲリ)等。

詩的な逸脱を、社会的に許容されている作家、詩人ではなく、
一般人が発揮し始めたのが、昨今のキラキラネーム、
ドキュンネームの背景の一つとなっているのでは
ないでしょうか。

この様な背景が無いので、英語圏で、
Peterがマイケルと読まれることは
ないでしょう。

しかし、将来、日本のお役所で、
ローマ字も名前を書く文字として
認められるようになったときには、
Peterをマイケルと読ませることも
できなくはないかも知れません。

About

2011年1月 7日 17:21に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「呟きより」です。

次の投稿は「呟きより」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。