« 2013年5月 | メイン | 2013年7月 »

2013年6月 アーカイブ

2013年6月 1日

「実験」映画 『アンナ・カレーニナ』

Keira-Knightley-in-Anna-Karenina-25[1].jpg


先日、ジョー・ライト監督の映画 『アンナ・カレーニナ』を観てきた。
原作は言わずと知れたレフ・トルストイ。主演はキーラ・ナイトレイ(上の写真)。

ペテルブルグの社交界を「芝居」に見立て非リアリズム的手法を採り入れた実験的な作品である。
玩具の汽車を走らせそれをアンナの乗る汽車にすり替えるという冒頭近くのシーンから観客に軽い違和感を持たせ、場面を転換するところでは、舞台の天井裏を観客に見せつけるかのように俳優たちを移動させる。官僚主義的な仕事は単調で様式化されたある意味ではリズミカルな動きであらわされているし、オペラ劇場がそのまま競馬場と化してしまう。
観客は、アンナの悲劇を見ている社交界の目撃者を、さらにその背後から見るという二重性をつねに意識させられる。
ただしリョ―ヴィンの場面はそうした閉鎖的な様式化された演劇空間ではなく、戸外の広々とした(社交界的観客のいない)自由な空間になっていてコントラストが明白だ。だから最後に、カレーニンがアンナの残した子供ふたりと花の咲き乱れる戸外にいるというのは、彼がリョ―ヴィンのように「解放」されたことを示していると思われる。

映画という媒体をどこまで様式化できるか、その限界に挑んだような作品だった。
脚本のトム・ストッパードのアイディアなのだろうか?

ちなみに、ストッパードは2009年に日本でも上演された壮大な芝居 『ユートピアの岸へ』 の原作者である(日本公演は蜷川幸雄演出)。これは、ゲルツェン、バクーニン、ベリンスキー、オガリョフといった19世紀ロシアの輩出した優れた思想家たちの生き様を描いた9時間に及ぶ驚異的な芝居だった(最初から最後までまったく退屈することなく感動をもって観たことを覚えている)。

2013年6月 5日

文芸フェス 概要決まる!

fes.png


2013年7月5日(金)17:40より 422(総合文化研究所)セミナー室でおこなう文芸フェスの概要がほぼ決まった。

「文芸フェス!~村上春樹は来ないけど(笑)~」

司会:豊田宏(総合コーディネーター)
朗読:須藤知沙
発表:工藤順「村上春樹とロシア文学」
    渡辺麻貴「村上春樹と音楽~『巡礼の年』を聴く」
パネリスト:笹山啓、睨逸舟、市川透夫、太田千暁、長江聡、工藤順
広報:甲斐まどか、水谷麻優子、合田沙矢加
スタッフ:加藤遥、梶山志織、田中翔子、長江聡、渡辺麻貴

色彩を持った素敵なポスターは甲斐まどかさんが作成してくれた。

2013年6月14日

「赤い矢」

「Красная стрела (赤い矢)号」と言えば、モスクワとペテルブルグを約8時間で結ぶ寝台特急。私も何度か乗ったことがある。
この名を冠した分厚い作品集が出た。


strela.jpg


『СНОБ(スノッブ)』誌がロシアの鉄道敷設175周年を記念して出版社「АСТ(アスト)」と共同で出版したもので、旅にまつわるエッセイや小説が集められている。ちなみに、名前は名前だが、今ロシアで最高にかっこいい雑誌が 『スノッブ』 ではないかと思う。抜群のセンスでときどき文芸特集を組んでいる。

『赤い矢』に作品を寄せているのは、ペトルシェフスカヤ、トルスタヤ、スラヴニコワ、アレクサンドル・カバコフ、ゲニス、ソローキン、エヴゲーニイ・ポポフら40人近い作家たち。

『スノッブ』の編集者でこの本を企画したセルゲイ・ニコラエヴィチが序文で述べている。
「旅としての人生。遊離した待望の時としての人生。冒険としての人生。冒険の目的も終着駅も最後の最後までわからないけれど」

巻末に、写真家アントン・ランゲの写真集「列車の窓から見たロシア」(2006-2009)が付されているのも嬉しい。

ペトローヴィチを主人公とするとぼけた風刺漫画で有名なアンドレイ・ビリジョのエッセイ「ヴェネツィアの12月」が面白かった。ビリジョは文才もあるのだ!


petrovich.jpg

  ビリジョ 「ペトローヴィチといろいろ」


2013年6月18日

「就業力」 ランキング第1位!

6月17日(月)付の日本経済新聞によると、就職・転職支援の日経HR(Human Resources) が大学生を対象に「学生生活充実度調査」を実施し、その調査結果から「就職後に成長する能力」をあらわす「就業力」を大学別にランキングしたところ、

東京外国語大学の「就業力」が全国総合で堂々の第1位に輝いた!

同じ日経新聞から引用すると、「授業に関して88%が『面白い』『理解している』と回答するなど、学業分野の評価が高い。ある学生は『目標がある人には何でも学べる入口が開かれている』と指摘した」という。
しかも、去年に続いて2年連続の総合首位である! 

学生に評価してもらえるのが素直に嬉しい。
なぜなら、本学に誇れる宝物があるとしたら、それは何よりも学生だからだ。

では、なぜ本学の学生は就職してから成長することができるのか。
それは、留学生の多いキャンパスで学び、さまざまな異文化に触れ、長期・短期留学して多文化・多言語の世界で生きることの楽しさと難しさを肌で実感しているからにちがいない。主体性も協調性もそうしたプルラリズムの中から生まれるものではないだろうか。


P1030213.JPG

ところで、私の宝物たちは卒業後「就業力」をますます伸ばしているだろうか。

2013年6月22日

プーシキン美術館展へ行こう!

pushkin.jpg


ロシアを代表する美術館のひとつ「国立プーシキン美術館」の所蔵するフランス絵画の名品がいま日本に来ている(7月6日から横浜美術館)。
当初2011年に展覧会が開催される予定だったが、この年の東日本大震災と原発事故のため中止されてしまった。その企画が今回「復活」相成ったのはたいへん喜ばしい。

3年ゼミ生の水谷麻優子さんの発案で、8月初旬に課外授業 「プーシキン美術館展へ行こう!」 を行うことになった。プーシキン美術館でアートを堪能してからさらにロシア料理店でロシアの食文化を「研究」する予定。

折しも 『ミセス』 8月号ではプーシキン美術館展の特集を組むということで、私も 「オネーギンとタチヤーナ~フランスとロシアの甘く切ない関係について」 と題するエッセイを書かせていただいた。
プーシキンの韻文小説 『エヴゲーニイ・オネーギン』は、フランス風に洗練された洒落男オネーギン vs. ロシアの伝統を体現する純真なタチヤーナの悲恋の物語だ。その構造はシンメトリックになっている。
最初はタチヤーナがオネーギンに恋をして彼を理解しようとする。これは、ロシア(=タチヤーナ)がフランス(=オネーギン)に憧れフランス文化を追い求めたことに対応する。でも、やがて逆転してオネーギンがタチヤーナに恋い焦がれることになる。これは、19世紀末~20世紀初頭、フランス(=オネーギン)がロシア(=タチヤーナ)の文学やバレエ、音楽、アートなどの素晴らしさを「発見」したことに対応するのではないか。
というような内容のエッセイになった。

2013年6月28日

『文芸年鑑 2013 』

まもなく 『文藝年鑑 2013』 が刊行される。
この中で、「ロシア文学―現況と翻訳・研究」を書かせていただいた。昨年のロシア文学の成果や特徴について概観したものだ。


bungei-nenkan.jpg


2012年のロシア文学は、政治・戦争・宗教といういずれもシリアスな問題に絡む作品が多かった。
取りあげた小説は以下のとおり。

アンドレイ・ドミートリエフ 『農民とティーンエイジャー』 (ロシア・ブッカー賞)
ボリス・アクーニン 『アリストノミヤ』
アレクサンドル・テーレホフ 『ドイツ人たち』 (国民ベストセラー賞)
ザハール・プリレーピン 『8』
ミハイル・エリザーロフ 『17年分のタバコを吸いに出た』
ダニイル・グラーニン 『私の中尉』 (ボリシャーヤ・クニーガ賞)
チーホン 『聖ならぬ聖者たち』
マイヤ・クチェルスカヤ 『モーチャおばさん』
ヴィクトル・ペレ―ヴィン 『S.N.U.F.F.』
エヴゲーニイ・ポポフ 『アルバイト、大きなカンバス』
アンナ・スタロビネツ 『生命体』(ポルタワ賞)

なお、東京外国語大学の同僚である柳原孝敦さんが「ラテンアメリカ文学―現況と翻訳・研究」を書いている。

2013年6月29日

とっとり国際塾 「ロシアを知ろう!」

鳥取県の公益財団法人 国際交流財団が進めている国際交流の場 「とっとり国際塾」 が、ロシアに関する連続公開講座をおこなうことになった。題して 「ロシアを知ろう!」
スタディツアーでウラジオストクとハバロフスクを訪問し、現地大学生と交流したり文化施設を訪れたり家庭訪問をしたりする計画もあるという。

最近ロシアとの経済交流を積極的に推し進めようとしている地方自治体がある。秋田県や新潟県など日本海側の自治体である。
鳥取市も環日本海経済交流センターを立ち上げ、本格的にロシアとの交流を深める意向のようだ。
「とっとり国際塾」の講演会はその一環なのだろう。3回連続講演のうちの第2回目をお引き受けした。

経済交流だけでなく文化交流もぜひ。
頑張れ、環日本海!


tottori lecture.png

About 2013年6月

2013年6月にブログ「沼野恭子研究室」に投稿されたすべてのエントリーです。過去のものから新しいものへ順番に並んでいます。

前のアーカイブは2013年5月です。

次のアーカイブは2013年7月です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。