「ロシア文学史上初めてのインターネット・ロマン」と銘打たれた小説がこちら。
Евгений Попов. Арбайт. Широкое полотно. М.:Астрель, 2012.
エヴゲーニイ・ポポフ 『アルバイト、大きなカンバス』
ユーリイ・グドフという架空の作家が「権力と民衆」「ロシア知識人の運命」「汚職と民主主義」「ソ連およびポストソ連時代の作家の役割」「愛と友情」などといった44項目のテーマでブログの記事を書き、ソ連崩壊後の社会について考察しようとする。それに対してさまざまなコメントが寄せられる。
ほとんどの項目が「作家グドフが机に向かって仕事をしようとする」というフレーズで始まり、「この日はもうこれ以上仕事ができなかった」というフレーズで終わっている。
内容はこのようにブログとそれに対するコメントだから、私たちが日常的によく目にするものだ。
しかし、これを「小説」という枠組みに取りこんだがために、いったい作者はだれなのかという問題が生じてしまった。グドフだけでなく多くの人がコメントを寄せているのだから、「集団的な作者」ということになるのか? グドフが発作を起こして入院してしまってからもブログは続けられる。ポポフは「作者の不在」「作者の死」を示したかったのか?
簡単な仕掛けのように見えて、実は、「作者」と「読者」と「テクスト」の関係性を問う深い問題が秘められている。