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2012年9月 アーカイブ

2012年9月12日

進学情報

東進ハイスクールが受験生向けに出している冊子 『東進 進学情報』 2012年8月10日号(No.177) の「大学での学びの内容を知る(人文科学系)」という特集で、立命館大学とともに東京外国語大学の沼野恭子研究室が紹介された(非売品)。
インタビューを受け、簡単に私自身の経歴や仕事の内容、研究領域について語った。
ゼミの様子も紹介されている。


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2012年9月15日

ペトルシェフスカヤ・キャバレー

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モスクワ滞在中。
リュドミラ・ペトルシェフスカヤのコンサート(キャンバレー)に行った。「16トン」という、雰囲気のあるクラブだ。彼女はもちろん作家だが、近年「リリー・マルレーン」などの古い歌や自分で作詞した歌を人前でうたっているというので、なまで聞いてみたいと思っていた。
思いが叶い、楽しいひとときを過ごせた。

上の広告でもわかるとおり、ツバの広い派手な帽子をかぶり、黒いドレスを着たペトルシェフスカヤは、74歳とは思えない声量と驚くほど表情力に富んだ語りを交互に披露して観客を魅了した。茶目っ気もあり、じつに可愛らしい。しっとり聞かせる歌もある。
まさに現代ロシアのシャンソンだ。

この日は、『СНОБ スノッブ』というハイセンスな雑誌が文芸特集号(2012年7-8月号)にペトルシェフスカヤのCD 「Сны о любви 愛についての夢」を付録として添えたのを記念するコンサートでもあったせいか、舞台の「大女優」には次々と花束が贈られた。

コンサートの後、思いきって楽屋を訪れると、はるか昔(15年くらい前か?)ペレジェルキノに会いに行ったときのことをよく覚えていてくれた! 歌唱力のみならず記憶力も尋常ではない。


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2012年9月16日

プリレーピンのアンソロジー

モスクワの書店を見て、目下ロシアの文学界で目立った活躍をしているのはザハール・プリレーピンだという印象を強くした。

ちょうど1年前の9月にモスクワに来たとき、プリレーピンが編んだアンソロジー 『Десятка. Антология современной русской прозы. 10人―現代ロシア小説集』(М.: Ad Marginem, 2011)を入手した。
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編集方針は、2000年代に作品を発表しはじめこの10年で知名度を上げた現代ロシアを代表する作家たちを集めたということで、プリレーピン自身のほかセルゲイ・シャルグノフ、ミハイル・エリザーロフ、ロマン・センチン、デニス・グツコらプリレーピンと親しい若手作家、計10人の短編が収められていた。全員男性作家だったので、プリレーピンの趣味というか世界観(マッチョ?)を反映したものだろうと思っていた。

ところが昨日、レーニン図書館のすぐ近くに最近オープンしたお洒落な書店「モスクワ」に行ったら、その女性版とも思えるようなアンソロジーが出ているのを発見。やはりプリレーピンが編者である。
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『14. Женская проза "нулевых". 14人―「2000年代」の女性文学』(М.: Астраль, 2012)である。この10年で活躍をはじめた女性作家14人の作品が収められている。注目株はアンナ・スタロビネツ、マイヤ・クチェルスカヤ、アリサ・ガリエワらか。

ちなみにプリレーピンはこの他にも、2008年に『戦争』、2010年に『革命』というタイトルでアンソロジーを編纂している!

2012年9月17日

『チャロデイカ』

新装なったボリショイ劇場で、オペラ 『Чародейка チャロデイカ』を観た。

1887年に完成したチャイコフスキー作曲の4幕オペラ。И.В.Шпажинский シパジンスキーという人の戯曲をもとに作られており、一言で言うと、愛と嫉妬の物語である。
舞台は15世紀末のニジニ=ノヴゴロド。
未亡人のナスターシヤ=クーマは、美しさと頭のよさで人を魅了してしまうため「チャロデイカ」=「魔法使い、魅惑する人」と呼ばれている。


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  クーマ=チャロデイカ


彼女をめぐって領主(公爵)とその息子ユーリイが三角関係となり、公爵夫人が嫉妬に狂ってクーマを毒殺し、公爵がユーリイを刺し殺してしまうという激しい展開のドラマだった。
私は、シェイクスピア(生き返らないジュリエットみたいだ)とイワン雷帝(自らの手で息子を殺害した暴君)を合わせたような印象を受け、一緒に観た日本通の友達は歌舞伎の「心中物」を思い出したと言っていた。
民衆のカーニバル的な場面が異教的であると同時に現代的でもあり面白い演出だと思った。
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2012年9月19日

ジャズの夕べ

チャイコフスキー名称コンサートホールにジャズを聴きに行く。
デイブ・ブルーベックの息子クリスを中心とするブルーベック兄弟カルテットが、ロシア・ナショナル・オーケストラと共演した。アメリカのジャズとロシアのクラシックのコラボだ。


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ソロで演奏したフルートのマクシム・ルプツォフが素敵だった。
ルプツォフは1977年生まれ。1999年からナショナル・オーケストラの団員だが、吹奏クインテットも結成。驚いたことに音楽家であると同時に舞踏家でもあるという。

最後にサックスのイーゴリ・ブトマンが加わって、かの有名な "Take Five" が演奏されると、会場は大いに盛りあがった。

この「ジャズの夕べ」は、ナショナル・オーケストラによる第4回フェスティバルの連続コンサートの一環で、ミハイル・プロホノフ基金がスポンサーとなっている。プロホノフは大富豪で、今年3月の大統領選に立候補したひとり。

2012年9月21日

ムゼオン

モスクワ川のほとりに「Музеон ムゼオン」という芸術公園がある。現代芸術専門の美術館、中央芸術会館(ЦДХ)のあるところだが、この公園には700点以上もの彫刻(その多くがソ連時代のもの)が屋外に展示されている。

ここで「Искусство в быту (日常の中の芸術)」という屋外展示をやっているというので見に行った。ヴェーラ・ムーヒナとナジェージダ・ラーマノワによる1925年のアルバムで、型紙が付いていて「自分の洋服を自分で作ろう」というコンセプト。
夜はライトアップされるのだろう、こんな感じだった。
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モスクワは бабье лето (女の夏)と呼ばれる「小春日和」が1週間ほど続き、散歩をするにはもってこいの陽気。
ゆっくりムゼオンの彫刻を見てまわって印象的だったのは、スターリンの銅像に鼻が欠けていたこと(まさにゴーゴリの『鼻』みたいだ!)。これは、レーニンやスターリンの記念碑を大量に手がけた彫刻家 Сергей Меркуров セルゲイ・メルクーロフ(1881-1952)の作品である。元はどこに立っていたのか知らないが、フルシチョフの雪どけ時代に撤去され(たぶんそのとき鼻がもがれ)放置されていたものを、ムゼオンができたときここに移された。1992年のことだ。
意図的に修復せず、鼻のないスターリンを歴知的事実としてそのまま設置してあるのだと思う。
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そして1998年、このスターリン像のすぐそばに Евгений Чубаров エヴゲーニイ・チュバロフ(1934年生れ)による彫刻コンポジションが配置された。スターリン時代に粛清された人々に捧げられた作品だという。
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こうしてムゼオンには、スターリン時代の雰囲気を体現した空間が再現され、木漏れ日の中で権力者と抑圧された人々が永遠に対峙している。
陽光もここではひんやり冷たく感じられた。

2012年9月30日

祝・ウリツカヤ「パク・キョンニ文学賞」受賞!

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リュドミラ・ウリツカヤが、韓国の第2回「パク・キョンニ国際文学賞」を受賞した。
10月にソウルで授賞式がおこなわれる予定。

パク・キョンニ(Park Kyung-ni、朴景利、1926-2008)は韓国を代表する女性作家。1955年にデビューし、「黒黒白白」「不信時代」など戦争未亡人の生活を描いた短編で認められた。長編に 『金薬局の娘たち』『市場と戦場』がある。1960年代末より大河小説 『土地』を25年の長きにわたって書きつづけ、1994年に完成(5部作16巻)。
文芸評論家のアン・ウシク(安宇稙)氏によると、パク・キョンニの作品は戦争の悲哀を描くにあたり「すべての人間の根源的な宿命として社会的・歴史的な現実の中に投影させ、これを客観的に観察するように」(『東洋経済日報』2008年5月16日)なっていったという。

ウリツカヤは、パク・キョンニの名を冠するこの文学賞を受賞するに誠にふさわしい作家であると思う。

先日モスクワのウリツカヤの家を訪ね、日本にも一定のウリツカヤ・ファンがいることを伝えたばかりだ。
そのとき、素敵な家族アルバムを見せてもらったが、そこにはふたりの孫も写っていた。私はおもわず「こっちがプーシキンのおとぎ話が好きなマルク、こっちが世にも不思議な犬の話を書いたルーカスですね!」と言ってしまった。
じつは、資生堂の冊子 『花椿』 に「Diary ある日の午後三時」というリレーエッセイがあり、世界各地の作家たちが交代で短い日記風エッセイを寄稿しているのだが、2012年11月号のこの欄にはウリツカヤの書いたものが載ることになっている(私が訳しました)。
そこに孫たちが登場するのである。とても可愛らしいのでお楽しみに。

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