次の作品は、私たち一家が1995年から1997年にかけて南米チリで生活していた時に書いたものです。

１年目は家族４人で暮らしましたが、かみさんが仕事の都合で１年で帰国することとなり、小生と

子ども２人の３人で暮らすことになりました。かみさんとは毎日電子メールでやりとりをして、子ども

の様子などを毎日知らせていましたが、ある時、シナリオ風にやってみるか、とこの作品を一気に

書き上げました。最後のかみさんの手紙は、メールで来たものをそのまま使っています。なかなかの

出来だ、と自分でも（だけ？）思っており、ここに公開する次第です。

なお、最後に「つづく」とありますが、実際にはつづきません。ご了承下さい。

　

　

シナリオ　「南の国から」（1996年）

夜。タクシーの中。

窓の向こうに飛行場の青いランプが遠ざかる。

後部座席に、父親まさき、息子ゆうき、娘あかりの三人。

まさき　　おかあ、いっちゃったね。

ゆうきとあかり、無言のままうなずく。

まさき　　ゆうくん、おかあを見送るとき、目、ちょっとぱちぱちしてたね。

ゆうき　　（おどけて）してなかったっすよ。

あかり　　ぼく、泣かなかったよ。涙でるかと思ったけど、でなかったんだ。

まさき　　……

まさき　　ねえ、かめ、買おうか。

ゆうき　　いいのかなあ。

まさき　　なんで？

ゆうき　　だって、ぼくたち、帰るじゃん。

まさき　　いいよ。その時には誰か友だちにあげればいいんだ。

ゆうき　　うーん。

まさき　　おとう、前から買ってあげようっておもってたんだ。

ゆうき　　ふうん……うん、そうだね。買おう！

まさき　　じゃあ、今度の土曜日、行こうか。あの、ほら、前、サソリみたとこ。

ゆうき　　あ、あそこね。うん、行こう。うわあ、ぼく、楽しみ。

　

夜の街道を遠ざかるタクシー。

カメラは高く上がりながらパーンして。

都会の街の灯。

テーマ曲が流れる。

クレジット。

「南の国から」

原作・脚色　　蔵元 某

　

配役

まさき　　高橋 正明

ゆうき　　高橋 ゆうき

あかり　　高橋 あかり

せつこ　　高橋 節子（声のみ）

アパートの一室。ドアが開いて、父親のまさきと息子ゆうき（９歳）、娘あかり（７歳）の三人が帰ってくる。それぞれ両手にスーパーの袋を下げている。

まさき　　やれやれ、着いたぞ。

ゆうき　　アイス！

まさき　　だめ。さっき、ジュンボで食べたばっかじゃないか。

あかり　　ねえ、ゲームしよう？

まさき　　だめだよ、おとう、これからごはんつくるんだから。

あかり　　ねえ、ゲーム、開けてもいい？

まさき　　いいよ。それから、君たち、さっき、やり残した勉強しちゃわなくっちゃ。

　

まさき、スーパーの袋から野菜や肉を出し、台所で夕食の準備を始める。

　

あかり　　おとうみてくれる？。

まさき　　おとうはこれからごはんつくるんだよ。

あかり　　でも、算数、わかんないよ。

まさき　　うーん、あ、そうだ。ゆうくん。ゆうくん、あかりくんにかけ算教えてくれる？

　　　　　あかりちゃん、ゆうくんに教えてもらいなよ。

ゆうき　　あ、いいよ。 　

あかりは算数の本を持ってくる。ゆうきがそれをのぞきこみながら。

ゆうき　　ううん。じゃ、あかりくん、ここ読んでください。 　

あかり読み始める。

ゆうき　　ええと、どう説明すればいいかな。あのね、象が３匹います。

　　　　　そこに２ 匹やってきました。何匹になるでしょう。

まさき　　（台所から）それじゃ、足し算じゃないか。

ゆうき　　ううーん。あ、象が三匹います。象一匹あたり足は４足あります。足は全部で

　　　　　何足ありますか？

まさき　　足は”そく”じゃなくて”本”だろ？

ゆうき　　足は何本ありますか。

あかり　　４と４と４で、１２。

ゆうき　　足しちゃうの？　ううーん。じゃ、この問題やろう。鉛筆が…… 　

ゆうき、問題を説明する。

　

あかり　　１８。

ゆうき　　そーおっ。１８になるだろう？ だんだんわかってきたみたいだな。

　　　　　それじゃ、これは？　一箱にビーズが２０入っています。いや、少なすぎるな。

　　　　　一箱にビーズが１００こ入ってます。いや、多すぎるな。あ、そ れじゃ、一箱に

　　　　　ビースが５こ入ってます。

　　まさき　　？？？

ゆうき　　そうそう、先生もこうやってた。思い出した。それでね…… 　

ゆうき、説明を続ける。しばらくして、

ゆうき　　ねえ、おとうくん、あかりくん、わかんないって。

まさき　　じゃあ、わかるように説明してあげたら？

ゆうき　　ああ、そうだね。

　

ゆうき、もう一度、説明を始めるが、あかり、すでに寝転がっている。

　

テーブルにはすでに、夕食の支度。ゆうきとあかりはもう食べている。

まさき、席につきながら。

まさき　　ねえ、ゆうくん、ありがと。教えるのってたいへんでしょ。本当に自分が

　　　　　わかってないとね。ゆうくん、人に教えるって、今日がはじめてでしょ？

　　　　　ゆうくん、いまに先生になって、自分がはじめて教えたのはあかりで、って

　　　　　思い出すかもしれないね。 　

ゆうき、まさきによりかかりながら

ゆうき　　うん。

まさき　　どうですか。カレーおいしいですか。

あかり　　ねえ、ねえ、いま、何時？ ゲームできるかな？

まさき　　今７時、ちょっとすぎだよ。できるよ。もうお風呂はいっちゃたしね。

あかり　　やったーあ。

　

ライスカレーをたべる３人。

ゲームに興じる３人。音楽流れる。それを背景にせつこの声が流れる。

せつこ　　日本はこのところ，とてもあたたかく，上落合公園のやえざくらがまんかいで

とてもきれいです．サンティアゴはだいぶ寒くなりましたか．山はゆきげしょう

していますか．勉強もたいへんでしょうね．カメ君は元気ですか．エサは何を

あげているのかな．ずいぶん高いカメ だったからきっと大きいんでしょうね．

それじゃ，カメ君によろしくね

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あかあ君より

　

音楽静かに盛り上がって。

（つづく）