どのように読むか?

 

あたりまえのことですが、まずやるべきことは文献の中身をつかむことです。その際、3つのポイントを必ず押さえるようにして下さい。

第1に、著者がどのような「問い」を提起しているのか、という点です。これは要するに著者の問題意識をつかむことです。ただ大事なことは、それを「問い」、すなわち疑問形の形で押さえておくことです。たとえば、「貧困について」、「都市問題について」といった形ではなく、「なぜ世界の半分が飢えるのか」、「貧困の中でで民衆はどのように暮らしをたてているのか」といった風にです。それに関連して、著者がなぜそのような問いを提起したのか、その著書を執筆するきっかけや動機は何だったのかも読みとって下さい。

第2に、そうした「問い」にたいして著者がどのような「こたえ」を提示しているのか、という点です。要するに著者の結論です。

どんな論文(研究書もここに含めておきます)であってもこの2つが含まれていなければなりません。この2つはいわば論文の背骨です。この2つの点が明示されていない文章はそもそも論文の名に値しません。そもそも論文とは、ある問いに対して自分の答えを提示するものなのです。これは学術雑誌に載っている数ページの研究論文でも、分厚い一冊の研究書でも同じです。

そして第3に、著者はその「問い」から出発して「こたえ」に至るまでどのように議論を展開しているのか、いいかえれば、著者はどのようにして自分の「こたえ」を論理的、実証的に導き出しているのか、という点です。その議論の組み立て方が第3のチェックポイントです。

ただ、その場合、チェックポイントは複数あります。すなわち、

(1) どのような材料(=資料)を用いているのか(一次資料か、自分の直接体験・調査か、既存の研究書か)

(2) どのような枠組み(概念、理論)を用いているのか

(3) そして、そうした枠組みと材料が実際にどのように用いられて、どのように論理を展開しているのか

といった点です。

ところで、話は少し戻りますが、著者がみずからの問いとこたえを提示するときには、ほぼ例外なく、そのテーマに関してこれまでどのような議論がなされてきたのかを整理しています。その整理にも注目しておいて下さい。これまでどのような研究がなされてきたのか、それによって問題がどこまで解明されてきたのか、あるいはどのような点で不十分だったのか、どのような問題が未解決のまま残されているのか、などです。著者は、そうしたこれまでの研究の流れのなかで自らの問いと回答を提示しているわけです。ですから、過去の研究の到達点と比較して著者の「こたえ」 のどこが新しい知見なのかをしっかり押さえておいて下さい。

なお、以上のチェックポイント、すなわち著者の「問い」、「こたえ」、資料、枠組み、研究史などはふつう序章(イントロダクション)にまとまった形で述べられています。そして本文では、枠組み(理論)と材料(資料)を実際に用いて「こたえ」を出していくプロセスが書かれているわけです。つまり序章をしっかり読めば、本の半分は読めたとすら言っても言い過ぎではありません。だからまず序章をしっかり読むことを忘れずに。

以上の点について著者の議論をできるだけたんねんに追っていくと同時に、他方で、自分の目で評価することも忘れないで下さい。著者の議論の筋道を追う一方で、同時に、著者の議論を常に相対化して読むことです。悪く言えば、「疑いながら」読む、ことです。この二つの作業を同時にすすめる。

評価のポイントは、いま上に述べた点そのままです。すなわち、

まず第1に、著者がどれほど鋭い問いを提示しているのか、すなわちどれほどすぐれた問題提起をしているか、という点です。

第2に、そうした問いに対してどれほど斬新な回答を示しているか、という点です。これまでの研究の流れの中に位置づけた場合に、どれほど新たな知見を提示しているのか、何が新たに解明されたのか、それとも従来の見解の単なる繰り返しにすぎないのか、定説を否定ないしは修正するような新たな見解が打ち出されたのか、といった点がポイントです。

そして第3に、そうした回答を導き出すための論理の展開、データーの提示はどれほど説得的であったか、という点です。

重要なことは、常に肯定的な眼と否定的な眼の両眼で読んでいくことです。すなわち、一方で、著者の議論をできるだけ著者の意図に沿って正確に理解するようつとめる、と同時に他方でできるだけ「疑い深く」、常に反論する気持ちで読んでいく。この2つの態度をバランスをとって常に堅持していくことです。

具体的な作業としては、読んでいく中で「ひっかかる」ところを必ずメモしておくことです。つまり、興味を引かれた点、疑問に感じた点、触発された点、浮かんできた発想などは、一見どれほど些細なことのように見えても、けっしておろそかにしないでメモする。読みながらこの作業をやっていかないと、結局のところ、読んだ後に残るのは文献の要約でしかありません。

とりわけ今後大学院に進学しようとするならば、この点は決定的に重要です。オリジナルな研究の出発点は自分が「ひっかかかった」点以外のなにものでもありえないからです。本を読んでどれほど「ひっかかる」点を自分の中に仕入れていけるのか。それが勝負です。