野間案、亀山案、高橋案をめぐる論点 ─ 複数学部制の問題を中心に ─

2000年3月12日

文責 高橋(正)

T.単一学部か、複数学部か

野間案:外国語学部と先端国際学部の2学部制

亀山案:広域言語学部、世界文化学部、国際政策学部の3学部制

高橋案:言語・情報課程[学部]と地域文化課程[学部](いずれも仮称)に分ける。その際、単一学部での複数課程か、それとも複数学部かはアプリオリに決定せず、諸々の要素を考慮した上で決める。

◇学長は複数学部制への移行を強く希望している。

◇野間案、亀山案とも、各学部は複数の学科(課程?)に分かれるとしている。

◇学部ではなく「学類」にするとの意見がある(学部改革推進緊急プロジェクト第1回会合議事録)。その場合には単一学部となる。

 

1.なぜ学部に分割するのか

 

2.どのように分割するのか

野間案: 現在の総合文化講座所属の教官を言語と国際の2つの学部に振り分ける。

亀山案: 総合文化講座の独自性を強調しており、言語と総合文化ではメンタリティが違うので一緒にはやれないとしている。また現在の地域・国際との合同にもきわめて消極的である。 また一部教官の配置替えを行い、現在は地域・国際講座に所属している歴史学(稲田)、教育学(小沢)、社会学(千田)、考古学(小川)の人文系4ポストを世界文化学部に移すとしている。

高橋案:言語が独立することに特に反対はしないが、総合文化と地域・国際が別の学部に分かれることには反対する。ただ総合文化の教官(特に文学系)の意向がそうであるならば、3学部[課程]に分かれることもやむを得なかろう。

★亀山案の教官配置には問題がある

高橋は、歴史学などを世界文化学部へと移籍させることに反対。むしろ逆に、文化人類学、思想などは地域研究へと合流すべきであると考える。

地域・国際講座アンケートから

「現在地域・国際講座に三学部案がもっとも現実的かとは思いますが、亀山案のように歴史学を「世界文化学部」に統合するのはやはり無理があるでしょう。」

★ただし、教官が異なる学部に所属することになっても、境界領域に関する授業について、そのカリキュラム編成や学生の科目履修を柔軟化することによって解決可能であれば、この点は深刻な対立点とはならないであろう。

 

3.学部間の関係はどうあるべきか。学部間の連関をどのように計るべきか。

(1) 学部間に障壁を築くことは好ましくない。

地域・国際講座アンケートから

・「複数学部制には基本的には賛成ですが、学部の間に完全な障壁を築くことは好ましいと思いません。学部横断的に授業が受けられるシステムは絶対につくるべきだと思います。」

・「単一学部の弊害は無視できないと思う。しかし教育面では、学生に多様な選択肢がある方がよい。したがって自由かつ十分に相互交流が確保された、壁の低い複数学部が好ましいと思う。」

(2) それぞれの学部は独自のディシプリンを明確にすべきであり、基本的な科目(専攻語)において共通授業を安易に設定すべきではない。 野間案では、こうした観点から、「専攻語」における共通授業は絶対に認めることができないとしている。

 

4.複数学部の場合にどのような問題が起きるか

複数学部にすると、各学部の内部に課程を設けなければならない。そのため、地域・国際が独自の学部になった場合には内部に複数の課程を設けなければならなくなり、なんらかの形で工夫しないと学部運営上制約が生まれることもありうる。

(註) なお、「課程」とは、教官の所属と学生の所属が切り離されている場合をいい、これに対して、両者が同一の所属となる場合には「学科」となる。95年改革での前進面として、学科制から課程制への移行があるとされており、これを逆行させることは好ましくない。それゆえ、複数学部となった場合には、学部内部の区分は、「学科」ではなく、「課程」となる。

 

5.各学部の中身をどうするか

★先端国際学部(野間案)、国際政策学部(亀山案)の中身 両者とも、かなり具体的にその性格と中身(学部と学科の名称も含め)について論じている(両案の該当個所を参照)。これらについては、地域・国際講座所属の教官から強い批判が予想されるものの、もしも現在の地域・国際講座を独立学部とする場合にはこれをどのような性格のものにするのかは、両案を視野に入れながら、また講座のカリキュラム検討グループでの議論とも連動させつつ地域・国際講座として議論する必要がある。

 

6.学部、学科の名称をどうするか

学長、野間教授などは、対文部省、あるいは社会に対して新しさを強調するためには斬新な名称がきわめて重要だと強調している。いずれにせよ、学部構成が最終的にどのようになろうと、外国語学部という現在の名称(さらには大学名)は検討の対象にする必要があろう。

 

U.入試の選抜方式をどうするか

野間案:外国語学部では主専攻語別、先端国際学部ではディシプリン別選抜。

亀山案:学部ごとに、「選択専攻語」(現在の専攻語)別。

高橋案:言語・情報課程[学部]においては専攻語別、地域文化課程[学部]では課程[学部]一括。

地域・国際講座アンケートから

入試の選抜方法は、高橋案が良いと思う。野間案のディプリン別は、魅力的だが、外大の地域研究の良さは、「現地語」の修得という土台に立脚したところだと思う。学生が最初から政治なり経済なりに第一関心があって、ケース・スタディとしてだけ特定地域を扱うという傾向をもつという事態は、歓迎したくない。(私が本学の制度を十分分かっていないせいかもしれません。しかし、正直なところどうやって、社会人や大学院教育でカバーできるのか理解できないので、ぜひ教えていただきたい。)

★学部ごとに入試をやることで煩雑になるのではないか

 

V.言語教育をどうするか

野間案:外国語学部では、主専攻語(週5時間×3年+α)+副専攻語(英語)(週3時間×3年+α)+第三言語(週2時間×1年+α)。先端国際学部では、英語(週4時間×3年+α)+選択言語(週2時間×1年+α)。

亀山案:週8コマを必修とし、専攻語と第2外国語の配分は各学部の裁量に任せる。例えば、広域言語学部では専攻語(6コマ)+第2外国語(2コマ)。世界文化学部では専攻語(5コマ)+第2外国語(3コマ)。国際政策学部では専攻語(4コマ)+第2外国語(4コマ)。最低必修の週4コマは現在と同様に学部横断的に行う。

高橋案:両課程[学部]とも、英語+専攻語(6コマ)。地域文化課程[学部]では、入学後一定時期をおいた後に言語を決定する。専攻語は両課程[学部]で共通に行うものとし、言語・情報の1年生と地域文化の2年生が同じクラスで履修する。 (註)なお、それぞれの案では各言語の名称は「専攻語」「選択語」など異なるが、煩雑さを避けるため、ここでは現在の「専攻語」の名称で統一した。

 

1.入学後選択制をどう考えるか

(1) 選択制にした場合、志望者が極端に少ない言語が出てくる可能性がある。こうした事態をどう考え、どのように対処するか。 地域・国際講座アンケートから 高橋案では、言語間の志望者不均等が生じることはやはり最大の問題です。仮に志望者がゼロかきわめて少ない場合、その言語の不要論が出てくることを危惧します。

(i) 現在の26専攻語を再編する。例えば、富盛学生部長は、隣接している言語(東南アジアなど)は再編成する可能性も検討すべきだとした。

(ii) 学部一括ではなく、課程別またはコース別に選抜する。

地域・国際講座アンケートから

・高橋さんの組織再編構想案は、入学後のモティヴェーションを重視した学生の専攻言語自由選択が基礎におかれていますが、いくら半年のオリエンテーションを行なっても26言語から主体的に選択するのは不可能です。そこで、高橋さんの案に若干修正を加えたいと思います。 −既存の7課程を活かし、課程の定員として、それぞれの枠内で入学後の選択を自由にする。 ・言語教育について。専門教育の観点からは、外国語教育と情報リテラシー関連科目は、むしろ正規のカリキュラムから外し、語学センター的な機関が設ける語学授業を必要に応じて履修させる形式がベストか。(カリキュラムにあろうがなかろうが、ほぼ必ずやらなければならないので。また、これによって、カリキュラムがスリム化できる)もう少し現実的な案としては、セメスター制にして、進度別授業を設け、たとえば、国際関係コースなら英語の他に、必ず他の言語を進度Xまで履修する。その際、少数言語にインセンティブを与えるとすれば、独仏は進度4まで、ポルトガル、イタリアは進度3まで、カンボジア、ラオスは進度2まで(進度の程度はまだ考えていません)、あるいは、独仏西中は、一つなら進度5まで、マイナー言語も履修すれば、メジャー言語を進度2、マイナー言語を進度2、といった組み合わせ履修を認めたり、いろいろ方法がありうるだろう。 言語を入学後の選択制にすると、英語は共通として、果たして半年ないし1年(半年がベター)のオリエンテーションだけでマイナー言語の履修者を確保できるかが問題となる。たしかに、この点は、社会情勢を考えると、あまり楽観できない。やはり、アジアとヨーロッパ・南北米の地域コース2つと、国際関係コースの都合3コースに分けて募集するか、進学振り分けをするか、考える必要があると思います。

(2) 振り分けはさまざまな問題を引き起こす。

・志望者が言語によって不均等となり、志望者多数のところは選抜を行うことになれば、言語間でのヒエラルキーが生まれることになり、これは非常に問題であるとの意見が出された。

・選抜を点数によって行うこととなると、点数をとりやすい科目に集中するなどの好ましくない傾向が生まれる。現に、駒場ではこうした現象が見られる。

 

2.「専攻語」をどのように位置づけるか

野間案:学部を分割するからには学部間でディシプリンが異なることとなり、現在の「専攻語」の位置づけも学部ごとで変わってくる。外国語学部では専攻語として位置づけられるが、先端国際学部においては「第2外国語」の位置づけとなる。

亀山案:「必修選択語」のコマ数は学部によって異なる。

高橋案:すべての課程[学部]で「専攻語」(および英語)の位置づけは同等。

★野間教授によれば、亀山案も、高橋案も、現在の専攻語中心の考え方から脱していない。また上村教授も、高橋案でも発想がいまだ専攻語に縛られているとしている。

 

3.「専攻語」(「必修選択語」)教育をどのように行うか

(1) 学部横断の共通授業として設定することは可能か否か

・野間教授は、学部横断授業については絶対に認められないとの立場に立っている。学部に分割したにもかかわらず重要な授業科目を共通授業とすることは結局現在の制度とほとんど変わらないことになる、というのがその理由である。

・在間教授は、亀山案のように学部間でコマ数が異なる場合には共通授業は無理であるとしている。

(2) コマ数をどうするか 専攻語のコマ数については現在の6コマよりも少なくすることもありうる。その際には、よりインテンシブな教育方法を検討するなどの工夫が必要となろう。またこれとの関連で、ビデオやコンピュータを利用した自学自習のシステムも視野に入れる必要がある。