2013年7月21日 2013年度第2回FINDAS研究会「アンベードカル — そのテクストと実践」の報告

掲載日 | 2013年07月23日

2013年7月21日に行われた2013年度第2回FINDAS研究会の報告です。

全体テーマ: アンベードカル―そのテクストと実践

発表者1:桂紹隆
発表者2:根本達

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発表者1:桂紹隆(龍谷大学)

タイトル:仏教研究者の見たアンベードカルの仏教(navayāna)

本報告では、アンベードカルの「二十二の誓い」の2種類の英文テキスト間の異同を紹介し、私訳を提示して、仏教研究者の視点からテキストの解読を試みた。さらに、アンベードカルは「仏教は科学と矛盾しない」という視点から仏教教理を再解釈しているが、そのうち「四諦」「八聖道」「業報・輪廻」「無我」などに関する彼の解釈を検討した。フロアからは、原文(マラーティー語)テキストから英文テキストへの翻訳という、「英語の介在」にかんする問題が提示された。

 

発表者2:根本達(筑波大学)

タイトル:二つの「反差別」と「脱差別」について ―現代インドの仏教組織SBSと仏教僧佐々井による「社会参加仏教」の比較分析―

本報告では、現代インドのナーグプル市近郊の農村で2000年代後半から社会活動を行う仏教組織SBSと、1960年代後半から同市を中心に仏教復興に取り組む仏教僧佐々井の「社会参加仏教」を分析の対象とし、特に仏教への改宗運動の指導者アンベードカルの思想からの影響を検討しながら、「内部者と外部者」および「他界性の放棄と保持」をキーワードとして、SBSの活動家と佐々井それぞれが依拠する知のあり方を人類学的視点から比較分析した。フロアからは、「現代の社会参加仏教」が活動の場とする市民社会において、ジェンダー的視点がどの部分に盛り込まれるのか、という意見も出された。

 

 

2013年6月30日 第2回FINDAS 若手研究者セミナー「<解放>のポリティクス ―ダリト運動のダイナミクス」の報告<終了しました>

掲載日 | 2013年07月02日

2013年6月30日に行われました2013年度第2回FINDAS若手研究者セミナーの報告です。

全体テーマ: <解放>のポリティクス ―ダリト運動のダイナミクス

発表者1:鈴木真弥
発表者2:友常勉
発表者3:舟橋健太

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発表者1:鈴木真弥(中央大学)

タイトル:現代ダリト運動における「多様化」「個別化」の位相

本報告は、バールミーキの事例から現代ダリト運動の特質を検討する試みであった。デリーでのフィールド調査から、1969年のガンディー生誕祭と1991年のアンベードカル生誕祭の前後に運動の転換期がみられること、2000年以降では人権保護に関わる公益訴訟、留保制度改正を求める活動が弁護士出身層をリーダーとして盛んに行われていること、結果として運動がカーストごとに「個別化」していく状況が明らかにされた。質疑では、バールミーキも含めたダリト運動の展望、上記の生誕祭以外にカースト問題の立ち現われ方の変化という点で注視すべき新自由主義経済、OBC留保制度論争の影響などが議論された。

 

発表者2:友常勉(東京外国語大学国際日本研究センター)

タイトル:プネーにおけるダリト解放運動・調査報告―ダリト解放運動と部落解放運動の対話のために

本報告では、マハラシュトラ州プネーにおけるダリト解放運動について、①ダリト・パンサー以後のアンベードカル運動、②複雑なポリティクスをにらみながら営まれているコミュニティ・ベースの運動、③多様性・多義性を反映し、その普遍化を阻止しつつ組まれている政治闘争などの観点から報告した。また、そこにおける非西洋的な〈self〉創出の試み、あるいはダリトアイデンティティ、ダリト文化の再概念化についても触れた。

友常氏配布資料

 

発表者3:舟橋健太(京都大学)

タイトル:「エリート」の意味と意義―現代ダリト運動にみるリーダー-フォロワー関係に関する一考察

独立以後のダリト運動において、運動を興し、唱え、率いる人びとの存在は、注視に値しよう。本発表においては、その多くが留保制度の恩恵を受けて地位上昇を果たしてきた、「エリート・ダリト」と捉えられるリーダー層に着目し、フォロワーとなる人びととの関係性を視野に収めつつ、近年のダリト運動にみられる特徴に関して考察を行った。そこから、「エリート」たちの、運動の主導者としての、ならびに、「ロール・モデル」としての重要性を確認するに至った。

 

2013年5月12日 第1回FINDAS 若手研究者セミナー「現代インド、<性>の現在―制度、主体化、実践」の報告

掲載日 | 2013年05月12日

2013年5月12日に行われました2013年度第1回FINDAS若手研究者セミナーの報告です。

テーマ「現代インド、<性>の現在 ―制度、主体化、実践」

発表者1:山崎浩平
発表者2:江原等子

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発表者1:山崎浩平
タイトル:「今日の性をめぐる差異と共同性―インド・グジャラート州ヒジュラ世界を事例として」

本報告では、同性愛者の市民社会的空間の中での運動を手がかりとして、「ヒジュラ」と呼ばれる集団のローカルな「生のありかた」を明らかにしようとしたものである。同性間の性交は、植民地期以来の刑法377条で禁止されていたが、2009年にデリー高裁がこれを違憲とし事実上無効とした。この判決の背景にあった、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)運動の世界的な勃興とHIV/AIDSの蔓延に加えて、報告者はヒジュラの動きがあったことを強調する。報告では、市民社会で活動を展開する同性愛者たちと比較することで、グジャラートのヒジュラたちの生活のありかたを浮き彫りにした。

発表者2:江原等子
タイトル:「ジェンダーのあわいを生きる―南インド・チェンナイのコティたちを事例に」

本報告は、チェンナイの「コティ」と呼ばれる集団を取り巻くローカルな文脈や実践を記述する試みであった。報告は、発表者の現地でのフィールドワークに基づくものであり、非常にミクロな視点からの記述がなされた。チェンナイのコティたちの特徴は集住しない点にあり、彼/彼女たちと周囲の人々との相互行為に関心が寄せられた。コティたちが、ローカルな場で構成されたアイデンティティや役割に、どのようにして方向づけられ、行為する者となるかが考察された。報告の内容自体は記述的なものであったが、こうした考察の理論化の可能性などについても議論が行なわれた。

2013年4月21日 第1回FINDAS研究会「言語/文学からみる現代南アジア」の報告

掲載日 | 2013年04月25日

2013年4月21日に行われました2012年度第4回FINDAS研究会の報告です。

テーマ「言語/文学からみる現代南アジアー対抗・アイデンティティ・セクシュアリティ」

発表者 1:萬宮健策(東京外国語大学)

発表者 2:石田英明(大東文化大学)

発表者 3:小松久恵(追手門学院大学)

発表者 4:萩田博(東京外国語大学)

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発表者 1: 萬宮健策(東京外国語大学)

「現代インドにおけるスィンディーの位置づけ」

本報告では、現パキスタンのスィンド地方からインドに移住した人々に注目し、インド政府による言語に関する対応が考察された。スィンディーの内部においては、ヒンドゥーとムスリムの間の敵対関係はそれほど著しいものではないことを指摘したうえで、文字体系が宗教の差異を超えて併存している点をスィンディー語の特異性として論じた。この文字体系が文化的なシンボルとして一定の価値を持ちつづけているという論点が示された。

発表者 2:石田英明(大東文化大学)

「ヒンディー・ダリト文学の歴史と現状」

本報告では、1990年代後半に組織化されはじめたダリト文学団体の歴史と現状を述べつつ、近年の文学団体内の新たな試みが提示された。新たな試みとはすなわち、情報技術の発達や、団体の会員相互の不仲などの理由により活動が停滞していた2000年代後半のダリト文学団体の状況から脱却しようとする試みのことであり、たとえば、デリー大学傘下のヒンディー語科教員であるムケーシュ・マーナスによる若手のダリト作家の育成や、テージ・スィンによって進められている、「ダリト」という言葉を用いない「アンベードカル主義作家連盟」という新たな団体の設立をめざす動きなどのことである。

発表者 3:小松久恵(追手門学院大学)

「女が語る『生』と『性』 ―近現代ヒンディー文学をめぐる一考察」

本報告では、近現代のヒンディー文学における女性の著作を取り上げ、彼女たちのジェンダー認識の変容について検討がなされた。20世紀初頭に北インドでの女子教育の普及とともに、女性たちが文学と関わり始めたが、女性たちは当時「性」というテーマに対して沈黙を保っていた。しかし時代が変わり、現代のヒンディー文学界では、女性作家にとって「性」は隠匿すべきものではなくなっている。その例として、英語作家のショーバ・デーとヒンディー語作家のアルパナ・ミシュラを取り上げ、彼女たちが認識している「性」あるいは「生」というものの内実を浮かび上がらせた。

発表者 4:萩田博(東京外国語大学)

「文化的伝統へのまなざし ―インドにおけるウルドゥー文学者とインド・イスラーム文化」

本報告では、インドのウルドゥー作家であるクッラトゥル・アイン・ハイダルやラーヒー・マースーム・ラザーなどを取り上げて、彼らがどのようにインドのムスリムとしてのアイデンティティを模索していったのかを考察した。ラーヒー・マースーム・ラザーがヒンディー語で執筆をするようになった際、多くの批判を受けたが、彼は、文学者としてより多くの人々に自らの主張を伝える必要があるのだと語った。またクッラトゥル・アイン・ハイダルはラクナウでのムスリム・ヒンドゥー間の平和的共存を記述した。これらから、彼らのインド・ムスリムとしてのアイデンティティの一端を見ることができる。

 

2013年2月17日 第4回FINDAS研究会「キリスト教とインド―排除と受容の論理」の報告

掲載日 | 2013年02月22日

2013年2月17日に行われました2012年度第4回FINDAS研究会の報告です。

テーマ「キリスト教とインド―排除と受容の論理」

発表者1: サガヤラージ アントニサーミ(南山大学)

発表者2: 井上貴子(大東文化大学)

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発表者1: サガヤラージ アントニサーミ(南山大学)
「インドにおけるキリスト教―改宗問題とコミュナリズム」

本報告では、バラティヤ・ジャナタ党が中央政権奪取を成し遂げた1998年以降、オディシャー州、マディヤ・プラデーシュ州、カルナータカ州、タミル・ナードゥ州などで増加したインドのキリスト教徒に対する暴力事件が増加したことをまず確認した。その要因として、英国統治期にもたらされたキリスト教思想、または言語を基本とする民衆に対するキリスト教的近代教育が、上層カースト・下層カースト・不可触民の三階層に影響し、独立に向けたナショナリズム運動をはじめとする多様な運動を引き起こしたことを論じた。

発表者2: 井上貴子(大東文化大学)
「歌う会衆―インドのキリスト教における教会・礼拝(典礼)・聖歌」

本報告では、まずインドのキリスト教聖歌の多様性が示された。キリスト教の礼拝における音楽の特徴は、音楽家ではない普通の人々が典礼の際に声を合わせて歌うことにある。インドにキリスト教が受容されたころは押し付けだったかもしれない聖歌も、インド人自身がインド音楽の伝統的な文脈から聖歌を再解釈し、再構築し、土着化し、自らのものとしてきたことを論じた。質疑応答では、インドのキリスト教におけるグレゴリオ聖歌を中心とする儀礼的規範がどのような過程で崩壊していったのか、その後の多様化の結果、セクト的な分裂状況はどのように表れていったのかなど、歴史的背景の中にインドのキリスト教における音楽を位置づける議論が展開された。