2012年度 第1回FINDAS若手研究者セミナー<教育とポリティクス>(4月28日(土))の報告

掲載日 | 2012年05月23日

4月28日(土)に行われました2012年度第1回FINDAS若手研究セミナー<教育とポリティクス>の報告です。

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テーマ:
<教育とポリティクス――現代南アジアの教科書にみる言語・歴史・宗教>

報告者1.澤田彰宏(東洋大学東洋学研究所)

報告者2.須永恵美子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

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報告者1.澤田彰宏(東洋大学東洋学研究所)

タイトル「近年のインドの歴史教科書の記述をめぐって―2つの政権下での異なる歴史像」

要旨:

本報告では、インド人民党(BJP)連立政権下の2002‐04年にかけて起きた歴史研究・教科書介入問題を受け、この介入後に作成・出版された国立教育研究訓練評議会(NCERT)の中等教育用歴史教科書と現国民会議派連立政権成立後に新たに出版された歴史教科書の記述を比較し、その内容とそこに表れる歴史観はどのようなものであるかを検討した。

まずBJP政権時の教科書では、例えば、ヒンドゥー教文化がインダス文明期にすでに存在していたこと、中世のムスリムのインド進出についての「侵略(invasion)」という表現、カースト差別などヒンドゥー教に内在する問題には触れず、さらに印パ分離独立に関してはムスリムを元来の分離主義者と位置づけるような記述があることから、インドにおけるヒンドゥー教文化の卓越性や土着性を主張し、イスラームを外来勢力と位置づけるものであった。

会議派政権時の教科書では、インダス文明の担い手は未だ明確ではないこと、古代にもバラモン主義による差別があったこと、中世のムスリム進出はインドに新しい宗教が「出現した(appeared)」と表現し、カースト問題についてもアンベードカルらの社会運動の存在などに触れている。分離独立(パキスタン建国)は、会議派とムスリム連盟に代表される政治的駆け引きの末に選択されたとしていて、この教科書は、先の教科書のインドにおけるヒンドゥー教の無謬性やイスラームの外在性の主張とは相容れない内容であった。

歴史観については、前者の教科書では古代をヒンドゥー教の黄金時代、中世はムスリムの侵略と破壊、近代はヒンドゥーを中心とした反植民地主義運動の栄光という位置づけであるが、後者の教科書では、古代、中世、近代ともヒンドゥー教中心的に優劣をつけるような叙述ではない(ただし、近代の反植民地主義的姿勢はある)など、インド文化・コミュニティ全体への価値中立的な叙述であることがわかった。

フロアからは、本報告は教科書をテキスト分析するという研究である以上、報告者の解釈は恣意的であって、そのように判断・解釈する思考の過程を明示すべきではないか、また、新しい会議派政権の歴史教科書の叙述は、単にヒンドゥー・ナショナリズム的記述に反論しているだけではなく、世界的な歴史研究・教育の潮流を反映した結果ではないかなどの批判があった。さらに、これらの教科書を使った学校での実際の授業はどのようになされているのかも重要であり、その点については第10と12学年時の試験問題と教科書の比較をすることにより、求められる学習到達度が計れるのではないかなど、今後の研究の方向性を示す意見も出された。

報告者2.須永恵美子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

タイトル:「多民族国家パキスタンの歴史観と国民像:学校教育において共有される言説の事例を通して」

要旨:

 本発表では、現代のパキスタンで共有されている国民像の一旦を明らかにするため、学校教科書を取り上げ、その中でムスリム社会がどのように描かれ、評価されているのかを分析し、その特徴や通時制を明らかにした。分析対象は、初等・中等教育で使われているウルドゥー語と社会科の教科書とした。パキスタンでは学年が上がるにつれて進学率が低くなっているため、初等教育の教科書は、パキスタン国内で最も広範に共有されている本であり、かつ、彼らの思想教育に一定程度の影響を与えていると推測される。まず、パキスタンにおける教育史や教科書制度を確認した上で、イスラーム王朝史、イギリス植民地支配と独立運動、カシュミール問題とバングラデシュ独立、諸民族・諸宗教の平等の4項目に焦点を絞り、教科書の記述を整理・検討した。これによって、自らをインド人とは異なる民族と認識する(1)アラビア半島から続くムスリムとしての自覚、ガズナ朝以来イギリスの支配が及ぶまでインド亜大陸の統治者としての役割を負ってきた(2)ムガル朝の継承者としての誇り、思想家シャー・ワリーウッラーや改革主義者サイイド・アフマド・ハーン、詩人イクバールなど南アジアで生まれた(3)19世紀から続くイスラーム復興思想を重要視する歴史観が明らかになった。これら3つの歴史言説を支えるイスラームという緩い紐帯によって、国家の理念的矛盾を包括してきたことを指摘した。

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須永さん 報告資料

澤田さん 報告資料

当日の研究会風景

報告される澤田彰宏氏

報告される須永恵美子氏