2012年1月28日 第2回FINDAS若手研究者セミナー「「伝統」と「制度化」」の報告

掲載日 | 2012年02月09日

1月28日(土) に行われました第2回若手研究者セミナーの報告です。

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「伝統」と「制度化」 ―宗教・医療・モダニティ

報告者1. 平野久仁子(上智大学アジア文化研究所共同研究所員)

タイトル: 「ヴィヴェーカーナンダとヒンドゥー教:19世紀インドのヒンドゥー教復興運動における思想と展開」

要旨:
本報告では、ヒンドゥー社会において伝統的なサンニャーシン(出家遊行者)という立場であったスワーミー・ヴィヴェーカーナンダ(1863-1902)が、近代化の影響のもと、宗教・社会改革が進む中で、また、自身の海外生活の経験をもとに、どのようにヒンドゥー教を改革しようと試みたのか、さらに、自らの宗教思想をどのようにインド社会において具現化しようとしたのか、生涯をたどりながら、その言説や実践について考察した。
まず、ブランモ協会による運動やシュリー・ラーマクリシュナの思想に触れるとともに、1893年にアメリカ・シカゴで開催された万国宗教会議でのヴィヴェーカーナンダの演説を考察した。それによれば、ヴィヴェーカーナンダは宗教としてのヒンドゥー教について述べただけでなく、インドへの援助も求めている。また、それに続いてヴィヴェーカーナンダはアメリカ・イギリスでの伝道活動においてヴェーダーンタ哲学やヨーガなどについて講演したが、そのような活動に対する反響は、インドの数々の新聞報道からも見出されることを提示した。次に、そうした海外での活動を通して、ヴィヴェーカーナンダは祖国インドを「内省と霊性の国」と顧みつつも、その再生のためには活動への強い意志や教育、奉仕活動などが必要であり、サンニャーシンがそのような活動に貢献できるという理想を持ち、具現化させていったことについて述べた。そうしたカルマ・ヨーガ実践の背景には、ヴィヴェーカーナンダの「ブッダ観」が少なからず関与している、と考えられ、ヴィヴェーカーナンダの一連の言説や行動は、個人的な魂の救済のみならず、社会的、物質的な救済にも目を向けた、新たなサンニャーシンのあり方を示したものでもあった、と考察した。
本報告に対して次のようなコメントや質問をいただいた。「ヴィヴェーカーナンダの描くブッダ像は興味深い。」「海外でインドの思想を伝え、喝さいを受けたヴィヴェーカーナンダ像と、社会問題に対する厳しい言説にはギャップがあり、それらの矛盾を指摘することも論点の一つになる。」「カーストについての言説を検討する必要がある。」「サンニャーシンのバックグラウンドはどのようなものか…」等である。また、ダルマパーラや仏教僧との接触、儀礼実践について、当時のサンニャーシンの社会的役割、キリスト教布教についてのヴィヴェーカーナンダの言説、ダヤーナンダ・サラスヴァティーらとの違い…などの問いかけもいただき、ヴィヴェーカーナンダについて色々な研究がなされている中で、今後、新たな視点を盛り込みつつ、さらに研究を進めていく上で、様々な刺激と示唆をいただいた。改めて感謝申し上げたい。

報告者2. 梅村絢美(首都大学東京人文科学研究科博士後期課程)

タイトル: 「土着医療のアーユルヴェーダ化 スリランカにおける土着医療の制度化と実践をめぐって」

要旨:
本発表は、スリランカにおける土着医療が、アーユルヴェーダに取り込まれていくことを、土着医療のアーユルヴェーダ化であるとして議論した。土着医療のアーユルヴェーダ化は、➀法制度上、②教育内容、 ③研究者たちの言説、④実践 の四つに区分される。
スリランカでは今日、アーユルヴェーダやシッダ、ユナーニー、土着医療が伝統医療として政府主導の伝統医療保護政策のなかで制度化されている。この制度化は、その開始当初からアーユルヴェーダの医師を中心に進められてきた。本発表が対象とする土着医療は、特定の家系の内部で継承される治療実践であり、各家系により治療法や診断法、薬の処方などは大幅に異なるため、ひとつの体系化された理論や知識、治療術をもつ医療システムではない。ところが、スリランカにおける伝統医療保護政策は、その開始当初から、生物医療をひな形として近代化・再編成されたインドのアーユルヴェーダを輸入することで成立していた。このことにより、独自の知識の継承形態や治療法・倫理などをもつ土着医療が、学校教育や医師免許制度など近代的枠組みを反映した法制度にとりこまれることで、その実践においてアーユルヴェーダ化が進んでいることを指摘した。さらに、実際に行われた伝統医療保護政策は、概念的・制度的に土着医療をアーユルヴェーダの一部とすることを前提にすすめられてきた。これは、1961年のアーユルヴェーダ法における、アーユルヴェーダが他の伝統医療を含む医療体系であるとする定義に象徴的である。そして、土着医療を包含するというアーユルヴェーダの法制度上の定義が、人文社会科学の研究者によりそのまま踏襲されることで、土着医療のアーユルヴェーダ化を補強・再生産していることを指摘した。また、現地のアーユルヴェーダ学部における調査をつうじて、教育の現場においても土着医療がアーユルヴェーダ化されていることを示した。
以上の議論をつうじて、今日のスリランカにおける土着医療のアーユルヴェーダとはすなわち、統一的な知的システムを希求する近代的枠組みへの包摂であるという結論を提出した。

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梅村さんご報告資料

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