2010年10月30日 第2回FINDAS若手研究者セミナー「ダリト研究の諸相」報告

掲載日 | 2011年01月24日

第2回 FINDAS若手研究者セミナーのご報告

20110年10月30日(土)に外大本郷サテライト4階セミナー室において、「ダリット研究の諸相」と題して鈴木真弥さん(慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程)と舟橋健太さん(京都大学東南アジア研究所・グローバルCOE研究員)にご発表いただきました。また、それぞれに篠田隆さん(大東文化大学)と粟屋利江さん(東京外国語大学)にコメンテーターを務めていただきました。以下、ご発表者による報告を掲載します。

発表①

「現代インドの「改宗仏教徒」―ウッタル・プラデーシュ州における「不可触民」のアイデンティティの諸相―」
舟橋 健太(京都大学東南アジア研究所・グローバルCOE研究員)

 本発表の目的は、現代インドのウッタル・プラデーシュ州西部に生きる改宗仏教徒に関して、かれらの仏教改宗の背景をたどり、かれらが自らの「過去性」、ならびに、親族・姻族をはじめとする他者との「関係性」を勘案しながら、いかに実践的・遂行的に自らの位置を定めようとしているのか、種々の生活実践・儀礼実践を詳細にとりあげて分析・考察を行うことであった。分析・考察は、以下のようになった。
 かれら改宗仏教徒たちは、まずひとつに「過去への視点」から、ともに「平等主義」を標榜したブッダとラヴィダースという二人を大きな信奉の対象として挙げて、かれら二人と自己との関係を主張することによって、自己の祖先や来し方を否定することなく、むしろ肯定的に過去との継続性を確保し得ていると考えられた。これは一方においては、ラヴィダースに対する信奉から、特に親族・姻族関係において、仏教徒とヒンドゥー教徒という宗教的属性の相違はあっても、同じラヴィダースを信奉する者同士という、共同性の担保が主張されることとなる。さらにブッダに対する信奉からは、インド発祥の宗教である仏教を信ずる者として、インド文明とのつながりも担保されることと捉えられよう。
 またもう一点、「関係性の交渉」においては、この平等主義を唱えた同じチャマールの出自を有するラヴィダースに対する篤い信奉というものを軸とすることによって、特に非仏教徒である親族・姻族とのつながりが希求・維持されているものと考えられた。これは、差別的・カースト的なチャマールではなく、平等主義的なチャマールとしての自己(自分たち)の主張であり、ブッダとラヴィダースがともに平等主義を標榜していたという点において、また共通の信奉の対象を有するという点において、親族・姻族関係における仏教徒とチャマールという両面の均衡がとり図られていると考えられた。
 つまりここに、従来の「不可触民」研究、とりわけ近年多く出されているかれらのアイデンティティ主張に関する研究にみられるような、単一の属性の主張でもなく、また所与の属性への回帰でもない、新たなかたちでのアイデンティティの生成可能性をみることができたのではないだろうか。このことはまた、第三世代が主流となる今後において、よりいっそう注視すべき様相であると考えられる。

←発表中の舟橋健太さん

発表②

「現代インドにおける「不可触民」の地位向上戦略と自己認識―デリーの「清掃カースト」に関する調査研究」
鈴木真弥(慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程)

  不可触民」に関する先行研究においては、農村に比して都市の「不可触民」の今日的状況が十分に解明されてきたとは言えないこと、さらに、「清掃カースト」については生活実態調査、社会移動、政策分析などに着目した研究が多いのにたいして、運動やアイデンティティ形成といった動態的側面に着目した研究はいまだ少ないことを指摘した後、調査地デリーと調査対象カースト(バールミーキ)の概要を説明した。続いて、センサスと調査地から収集したデータを参照しながら、バールミーキの就学・就業状況を確認した。それにより、他の指定カースト(SC)と比べても、バールミーキは教育の進展に遅れがあること、就業面では「伝統的」職業とされる清掃業との関連が現在でも強くみられる状況が明らかにされた。次に、デリーのバールミーキの間で観察される「新たな」自己認識の形成と展開について、バールミーキ詩聖崇拝の事例を取り上げながら、その可能性と制約、カースト内の対立も論じられた。まとめとして、バールミーキ詩聖崇拝をめぐってはカースト内に相反する意見が存在しながらも、地位向上運動の動員やネットワーク形成を支え、人びとの自尊心の希求に応えていることは確かであり、現状では有効な集団アイデンティティになりつつあることが強調された。
 質疑応答では、キーワードの定義、フィールド調査の方法と分析結果の関係性について詳しい説明が求められた。そのほか、センサスなど依拠する一次資料の見直し、バールミーキの自他認識をより深く理解するための新たな資料(自叙伝、詩やバールミーキ団体の雑誌)の発掘、ガンディー主義の影響の再検討などが指摘・提言され、大変意義深いものであった。

←発表中の鈴木真弥さん

←コメンテーターの篠田隆さん