2013年10月27日 第3回若手研究者セミナー「コロニアル状況と知の力学」の報告

掲載日 | 2012年11月29日

三瀬氏レジュメ10月27日に行われました2012年度第3回FINDAS若手研究者セミナー「コロニアル状況と知の力学」の報告です。

テーマ「コロニアル状況と知の力学」

報告者1: 足立享祐(東京外国語大学)

報告者2: 宮本隆史(東京大学)

報告者3: 三瀬利之(清泉女子大学)

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報告者1:足立享祐(東京外国語大学)
「近代インドの言語問題における「ヴァナキュラー」――植民地形成期のマラーティー語論を事例として」

近代インドを特徴付ける一つの命題は、統治者の言語として圧倒的な卓越を示すこととなった英語と、「ヴァナキュラー」として位置づけられたインド諸語との関係性がもたらす言語問題である。インド諸語が果たしてきた歴史的な役割については、言語別州再編に代表されるようなアイデンティティの形成、或いはより近年では公共圏や印刷文化という近代的な場の構築と云った観点から論じられてきたが、本報告ではそれらの原点とも云うべき、植民地形成期におけるインド諸語の地位、規範そして学習といった言語計画の観点から、「ヴァナキュラー」であることが持つ意味を改めて問い直すものである。具体的な事例として、東インド会社資料並びにインキュナブラを用いつつ、英領インドボンベイ管区が実質的にインド西部を統治していく過程の中、知印派東インド会社職員と現地知識人の間で繰り広げられた「マラーティー語」論の歴史的な展開を論じた。

報告者2: 宮本隆史(東京大学)
「英領インドの刑罰制度史における規律と抵抗の再考察―監獄の比較制度史に向けて」

本報告は、英領インドの海峡植民地と北西州における監獄制度が、特定の経路を通じて変化したことの要因の説明を課題とした。特に、1860年代までの海峡植民地の流刑監獄と、1860年以降の北西州において特徴的に見られた、囚人を段階的に処遇する方式と、囚人の中の行いの良い者を看守として登用する方式の組み合わせについて、その導入の要因を検討した。人口過少地域であった19世紀半ばまでの海峡植民地においては流刑囚には安価な労働力を提供することが期待された一方で、北西州においては既存の臨時雇用の看守と比較した際に長期受刑者のほうがより大きな信頼性が期待されたという要因があった。一見したところ囚人の性向の「矯正」という論理と整合的であるようにも見える段階的処遇方式も、「規律訓練」の植民地への導入といった反証できない図式に当てはめて解釈するのではなく、ローカルな誘因の構造に注目することでより正確にその制度変化の要因を考察することができることを論じた。

報告者3: 三瀬利之(清泉女子大学)
「<インド>を数量化する――帝国主義期の英領インド国勢調査プロジェクト」

インド社会の科学的な数量化を試みた英領インドの国勢調査の実態解明は、現代インドのコミュナリズムを論じる際に不可欠な作業であるだけでなく、学術研究に携わる者が、帝国主義という人類の負の歴史から反省的に学ぶためにも、重要な作業になると考えられる。本発表では、とくに帝国主義期の「カースト・部族・人種」統計を事例として取りあげ、おもに内務省内部の「稟議」段階の資料に基づきながら、国勢調査やそれに付随したカースト研究の特徴を分析した。その結果浮かびあがったのは、これまでの先行研究では光が当てられてこなかった特質、即ち、カースト統計や民族誌調査の推進派の、体制内少数派としての性格や、彼らの知的活動がもっていた対抗言説的な運動の側面である。知や情報の生産過程に影響を与えていたのは、思想的・政治的なファクターというより、末端のインド人調査員の性格や科学界の動向、官僚制組織の構造に由来する多角的な要素であり、これらが総合的に、国勢調査の<知>の性格を形作っていたことを論じた。

三瀬氏レジュメ(pdf)