特別講師田中浩朗先生 質問への回答

●奥村真理さん

○「予防原理」とは具体的にどういったことをするんですか?
← ドイツ国内法やヨーロッパの国際条約には予防原理が明示されているようですが ,日本ではそのような考え方はまだ一般的ではありません。したがって,具体的にど のような手続きでその原理が適用されるのか私もよく知りません。
 しかし,私の考えるところによれば,簡単なことだと思います。つまり,例えば, 水俣病の場合,水俣病の原因物質やそれによる発病過程のメカニズムが科学的に明ら かになっていなくても,水俣病の原因がチッソの工場排水による魚介類の汚染による 可能性が高くなった時点で,予防的に工場排水の停止や漁獲禁止の措置をとるという ことです。また,博多湾人工島の場合,人工島の影響によると思われる異変(海藻の 異常発生,渡り鳥の減少など)が出てきた時点で,予防的に人工島建設を停止し,影 響の調査や計画の変更をすることです。
 実際に何らかの決定をするときには,予防措置を講じるときと講じないときとのコ ストや被害の比較,リスクの程度などが参考にされるでしょう。そして,失われるか も知れない人の命・健康・環境と予防に払うべきコストの比較がなされるでしょう。 苦しい決断になる場合もあるでしょうが,健康や環境の方を重視する社会になって欲 しいと私は思います。
○12万人の署名をムシしてもいいんですか?
← いいはずがないと思いますが,署名というのは法的拘束力がありませんので,し ばしば無視されます。

●大森和可奈さん

○反対派と推進派の唯一のちがいは,自然をどれだけ大切なものであるか考えるその 大きさと,その対極にあるのは自分たちの利益であると思うけど,その2つをてんび んにかけてどちらをとるかというだけのことなのかと単純に思いますが,どうなので しょうか?
← そう単純な話ではないと私は思います。まず,反対派も自分たちの利益を考えて いないわけではありません。豊かな自然が残ることが自分たちの利益だと考えている のです。つまり,何が利益なのかという問題があります。
 また,反対派は多くの場合,民主的な決定を要求しています。つまり,決定が密室 で一部の人たちの判断で行なわれるのではなく,オープンな議論を経て,納得のいく 決定を求めているのです。推進派がそのようなことを積極的に進めたことはほとんど ありません。
 さらに,推進派や反対派といった関係者以外の多くの無関心層の存在があります。 その人たちが結局推進派を支えてしまっています。これも大きな問題です。

●佐藤美樹さん

○和白干潟の人工島の必要性に関しては,なぜそこまでして作りたいのかよくわから なかった。どの様な利益があるのか,その辺をもう少し詳しく知りたいと思う。 ← 私にもその必要性を納得していないのでうまく説明することはできません。行政 はいつも同じことを繰り返し言うだけです。それを知りたければ,福岡市港湾局のホ ームページを見てみて下さい。
 http://www.port-of-hakata.or.jp/business/plan/index.htm

●山口寛子さん

○何十年も前にこの計画が立てられた時には,例えばこの和白干潟が貴重なものであ るという概念がなかったのかもしれません。その頭のまんま現在に続いて,自作自演 どころか観客までも全て身内というようなシステムになっているような気が致しまし た。
← 人工島計画時,和白干潟が貴重であることはよく知られていました。そもそも和 白干潟を埋め立てず,その代わりに人工島形式にしたのは,和白干潟の自然を残すた めです。また,環境アセスで環境庁長官は環境に配慮するよう意見を出しています。 福岡市も最初から和白干潟は貴重な自然であると言い続けています。

●堀陽一さん

○人間とはつまり欲のかたまりである。「名声,金,快楽」を万人が心に持つ限り環 境を救う等出来ないのである。「環境を救う」と言っている人々も私はもはや信じら れない。
← 人間が環境を守ることなどできない。環境が人間を守っているのだ。このような 認識は私も持っています。ですから人間はいかに生き延びるかを真剣に考えなければ ならないと思います。自然を破壊し,自分で自分の首を絞めるような愚かなことはも うやめるべきだと思います。

●最後に

 受講生の皆さん,たくさん質問・感想・意見を書いて下さって,どうも有り難うご ざいました。

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