本論では,「国家変種としてのベルギーのフランス語」の問題がベルギーにおいてどのように語られ,議論されているのか,この問題に関する研究や調査の流れおよび現状の概説と批判を通じて,考察を試みている。まず,こうした問題が生まれる背景となkっているベルギーのフランス語話者における言語不安の主な側面が概説されたあと,ベルギーにおいて,この「国家変種としてのベルギーのフランス語」の問題がどのように議論されているのか,この問題に関わる主な研究と議論および様々な立場を,とりわけ三人のベルギー人研究者の立場に代表させて,整理し,明らかにしている。また,とりわけ地理的にも,歴史的にも,政治的にも多かれ少なかれ類似しているスイス・ロマンドにおける言語不安と「国家変種としてのベルギーのフランス語」の問題を,ベルギーの事例と照らし合わせながら考察し,さらに,フランスに対する言語的服従から自らを解放し,自給自足の道を歩むことを選び,しばしば「国家変種としてのベルギーのフランス語」の「成功例」として挙げられる,ケベックについて,その話者の言語意識の変遷の要所を追うと共に,ベルギーの状況と照らし合わせ,こうしたケベックモデルの自立化の図式の中で,ベルギーがどのように位置づけられるのかを考察している。