フランス語の言語変異に関する社会言語学的研究   熊田 知子

 

この論文では、会話のフランス語における社会言語学的変異を扱った。フランスのニュースと映画という会話体のコーパスを用い、会話に特有と思われる表現を抜き出した。特に頻繁に現れていた否定のneの脱落、est-ce queを使った疑問文、主語としてのçaを分析した。そこから、社会言語学的変異と言っても、変異一つ一つがあらゆる要因が相まって生まれたものであることがわかった。例えば、階層に特有の言語表現(社会集団語)、状況に特徴付けられる語(状況語)などである。言語の標準化の段階にあると思われる表現も見られた。その他今回は認められなかったが、言語習得の段階で生じた表現、空間の違いによる表現、言語接触によって新たに生まれた表現などもあるようだ。このように、変異の要因を一つに断定してしまうことは難しかった。今後もっと話者の社会的背景を重視して研究すると、また違った見地から変異の背景が分類できるだろう。