フランス語と日本語における方言の標準語化について  岡本 恵

 

この論文では、フランス語と日本語において、標準語がどのように各地に浸透していったか、その伝播過程を言語地図を用いて明らかにし、さらには標準語の伝播をもたらした要因を考察することを目的としている。第一章ではフランス語と日本語において方言がどのような地位を経てきたか、また今現在両国語において方言がどのような地位にあるのかを明確にする。続く二章では、本論文で言語資料体として用いる『フランス言語地図』と『日本言語地図』についての説明をし、第三章では実際に言語地図を用いて伝播過程を比較し、それに対する考察を加えることにする。結論としては、標準語の伝播過程にはその国の歴史的背景が深く関わっており、フランスのように国家の中心がほとんど移っていないところでは言語の伝播過程も、ほとんどの単語において同じようにパリを中心として、放射線状に現れる。ところが日本のように途中で国の中枢部が関西(上方)から東京方面へ移動しているようなところでは、その語の持つ起源によって標準語の伝播過程が変わってくる。したがって日本語においては単語によって関西を中心として放射戦場に標準語が伝播していったと推測できるものと、逆に東京を中心として放射線状に標準語が伝播していったと推測できるものの二つに大きく分けることができる。関東を中心に標準語が伝播した語の語源を調べてみると、今現在は関西を中心に方言として使用されている語形が、時代をさかのぼってみると昔は標準語のように使用されていたことがうかがえる。このことから、関東を中心にして広まっている語は、今は標準語として使用されているが、標準語として認められる前は、一方言として、ごく一部の地域でしか話されていなかったのではないかという仮説を立てることができる。本論文では語彙数が少ないため、この仮説を立証するところまでには至らないが、検証する余地はあるのではないかと思う。