現代フランス語における法の選択 川俣幸彦
フランス語の接続法についての見解は様々であり、「フランス語文法のなかで最も厄介な問題の一つである」(Damourette-Pichon)と言われたように、今だに議論の的である。フランス語の動詞の叙法は時称・人称と共に動詞の語尾変化によって表され、直説法は現実性を表し、接続法は非現実性を表すとされてきた。本稿では主に関係節における接続法使用について考察する事を目的として、第1章では先行研究となる、主にフランス語話者の研究を概観し、その多様性が、叙法選択の分析というよりも、各々の言語観から来ている事を提示した。そのうえで、曽我祐輔(1995)による、不定法・接続法・直説法を漸進的にとらえた理論とその有効性を示し、新たな接続法規定の可能性を提示した。曽我の理論は完全に共時的な面をもつことを認めつつも、曽我の理論は革新的であり、従来では多種の理論を組み合わせる必要のあったフランス語における叙法選択の理論を一新しうるものである。しかしながらも、曽我の理論は、細部において未だ曖昧な部分がある事を指摘し、第二章ではその曖昧さをうめるべく、発話の主題という観点に注目して曽我の理論を修正した仮説をたて、これを検証した。そのなかで、この曽我の叙法観が、接続法使用をその主動詞の性質によるものとする説明において、一般的にle verbe volitifと呼ばれている概念を改める可能性を持つ事にも触れた。最後に、発話を対象とした研究において、その科学的・客観的な分析・証明が困難な面をもつという問題点を改めて指摘した。