フランス語におけるオノマトペの分析  秋山 絢香

 

 一般に言語記号において、音形と意味との関係は恣意的であるが、中には音形と意味との間に何らかの有縁性をもつものもみられる。音象徴という現象は、ある音素や音連続が何らかの意味を示し、そこにある関係性を認めているものである。つまり言語音が直接的・自立的にその指し示すものと何らかの関係があるということである。この音象徴を検証するために、様々な実験や調査が行われてきた。古くはPlatoの時代まで遡れるが、最初に音象徴という言葉を用いて、この現象を客観的に検証したのはSapirである。彼が行ったのは無意味綴りと意味との対応で、[i]より[a]の方が「大きい」評価される結果が出た。その後NEWMANによってより厳密に検証され、その後の音象徴の研究はこの二人の実験から発展していた。音象徴の実験で多く行われたのは、KOEHLERに代表される「音と描画の対応付け」、TAYLORTAYLORに代表される「単語付き合わせ」、統計学的な手法であるSD法や因子分析を用いた「無意味綴りと描画との対応」などである。音象徴には普遍的な音象徴と、各言語に固有な音象徴とがある。普遍的な音象徴は、その音素の調音方法や調音位置によって決定されるが、個別的なものはその言語の語彙や文化的なものに影響されている。

 音象徴の現象が最もよく現れているのは、オノマトペにおいてである。オノマトペは直接的な音の模倣による語、または語の音により感覚的印象を表す語で、心の動きを表現する言語でもある。オノマトペには「自然音からの直接模写」、「音象徴性を利用したもの」「一般語彙化したもの」の3段階がある。オノマトペの研究では、オノマトペから音象徴性を検証するもの、オノマトペの機能を検証するものがあって、後者では語としての機能だけではなく、記憶への影響や幼児の言語獲得などにおいても調査されている。ここでも統計学的な手法のSD法や主成分分析、多次元解析などが行われている。

 フランス語におけるオノマトペは少ないとされているが、劇画においては実に多種多様なオノマトペが用いられている。卒論では日本語からフランス語に翻訳された漫画本5冊を資料として、その形態的特徴や音象徴性を検証した。対象としたオノマトペは「効果音」として現れているものとして、詞書きや人物の台詞内のオノマトペは対象としていない。まず、劇画に登場するオノマトペは辞書に載っているものよりも、訳者による造語と思われるものや辞書にはないが劇画においてよく用いられるオノマトペが圧倒的に多い。また用いられている音声も実際のフランス語にはない音声が用いられることもある。形態的な特徴としては、基本的にはCVCで構成されているが、母音・子音だけで構成されるオノマトペや、語の分節を倒置したり、元々のオノマトペにない音を添加する、または削除するなどして、そのオノマトペが持つ象徴性を強調している。また、オノマトペは単独で用いられることも多いが、GLOU GLOUなどのように2回重ねて用いられることもあり、その際に母音交替が起こる場合もある。劇画におけるオノマトペは、聴覚的要素だけではなく視覚的要素や言葉遊びのような要素も持っていて、その象徴性に影響を与えているようである。またフランス語に訳しにくいものにおいては、「日本語」としての響きを楽しませようとそのままアルファベットに置き換えているものもある。

 オノマトペにおいて、母音よりも子音の象徴性は複雑であるが、その象徴性は調音方法や有声・無声に影響を受けている。BDなどの閉鎖音は衝撃音や爆発音、物音などを表し、FVなどの摩擦音は風や息、飛ぶ様子などを表していた。またLRは他の子音と結びついて象徴を表現することが多く、流動性のあるものや振動を伴う動作にしばしば用いられていた。造語においては実に自由にオノマトペが造られているが、以上のような一定の傾向が見られた。がしかし、その自由さは多くの人に同じ印象を与えることを難しくしているように感じた。

 これら劇画に登場したオノマトペを用いて、オノマトペと音象徴性を検証するためにフランス語ネイティブにアンケートを行った。一つはある場面に対し最適なオノマトペを選択させ、もう一つはオノマトペを「大小」など5つの相反する形容詞対を用いて5段階で評価させるものである。結果、前者では、辞書などにも載っているオノマトペに答えが集中し、後者では先行研究で検証された象徴性にほぼ従うものとなった。

 劇画で用いられているオノマトペは、これまで述べてきたように、音象徴を利用したもの、語彙化したもの、視覚的効果や言葉遊びを狙ったものなど、様々な特徴をもっていて、そのおかげで、劇画において実に効果的にニュアンスを付けられるのである。