1999年度 フランス語学概論

 

授業成果へ戻る

 


教科書
『フランス語を考える フランス語学の諸問題Ⅱ』、東京外国語大学グループ<<セメイオン>>、三修社、1998. 3600(税別)

 参考書
1. 大橋保夫他、『フランス語とはどういう言語か』、駿河台出版社、1993.
2.
フックス他著、田島宏、渡瀬嘉朗監修、『現代言語学の諸問題』、三修社、1983.
3.
マルンベリ著、大橋保夫訳、『音声学』、白水社、1959.
4.
デュシェ著、鳥居正文、川口裕司訳、白水社、1995.

講義予定
 
前期
  4月
-5月 言語と情報、フランス語音声学、フランス語音韻論
  6月
-7月 半過去形、近接未来形
       助動詞
pouvoir、認知動詞
  前期課題またはテスト

 後期
  9月
-10月 間接補語、状況補語
       定冠詞、無冠詞
  
11-12月 接続詞、前置詞
  1月
-2月 方言、音声変化と音韻変化
後期課題またはテスト

注意!
この講義では、『フランス語を考える フランス語学の諸問題Ⅱ』を読みすすめる前に、言語学の基本概念、および言語研究者にとって、基本的かつ非常に重要な伝統的な音韻論の諸概念を受講生の人たちに解説しました。ここでは、そのときに配布したプリントのみを例示することにします。

言語と情報

いくつかの言語テスト

6つの2項対立概念

1.
langue / langage と langue / parole 「ラング/パロール」

 ラング 社会的要素(言語の主要な要素)かつ対象
 パロール 個人的要素(言語の付随的な要素)かつ対象
 例 日本語のガ行鼻濁音 「花が」[hanaŋa]か[hanaga]
  社会的要素として/g/は1つだが、個人的要素として[
ng]を保持

2.
synchronie / diachronie 「共時/通時」

 共時的研究 ある特定の時間における言語の状態・揺れの研究
 通時的研究 時間の軸に沿った言語状態の変化の研究

3.
signifiant/signifié「記号表現(シニフィアン)/記号内容(シニフィエ)」

4.
forme / substance 「形態/実質」

 言語記号はシニフィエ(=概念)とシニフィアン(=聴覚映像)の結合
  であり、両者の関係は恣意的
(arbitraire)である
                     
恣意的
   シニフィエ  犬    inuのどこをとっても「犬」を
     |    |      表す部分はない、両者の関係は自然
   シニフィアン 
/inu/   な関係と言えない
 言語記号は形態
(forme) であって実質(substance) ではない
 「犬」はいかなる具体的な実質を伴わない

5.
opposition des signes entre eux 「記号の間の対立」

 日本語   「青梅」「青竹」「青二才」
 フランス語 
les fruits verts, le vin vert
        ce vieillard est encore vert
 日本語の「青」とフランス語「緑」は価値が異なる

6.
rapports paradigmatiques / rapports syntagmatiques

 「範列的関係/連辞的関係」
  東京―都―内  横の関係(連辞関係)
   | | |   
  埼玉―県―外  縦の関係(範列関係)
 但しソシュールは「範列関係」を心理的な用語「連合関係」と呼んでいた

7.次の単語を音声表記しなさい

  
si, ses, sel, bal, Bâle「バ-ゼル(地名), seau, sol, sous, su,
  ceux, ce, seul, brin「若枝」, brun, lent, long

音韻論の重要な概念


1.最小対
(paire minimale)

  ただ1つの音素の対立により区別される記号素のペア
 例 
pie 「カカサギ」~paixpas pot peu pu
    /pi~pe ~pa~po~p] ~py/

2.結合変異体(音)
(variante combinatoire)

  特定の音と結合(隣接)した時に音素がとる形態
 例 
cinquième [sε~cjεm]
  音素/k/は/j/と結合する時、変異体[c]となる

3.中和(
neutralisation)

  ある位置で音韻対立がなくなること
 例 絶対語末音節
(syllabe finale absolue)で/o/~/ò/の対立は中和する
  
cf. pot /po/
  一方、
saule「柳」/sol/~sole「舌ビラメ」/sòl/

4.関与特徴
(trait pertinent)

  音韻対立
(opposition phonologique) に関与する音声特徴
 例 
painbainmain /p ~b ~m
  /p/、/b/、/m/の主要な音声特徴は、次のようになる
  /p/ 
<<閉鎖音>>, <<無声>>, <<両唇>>
  /b/ <<閉鎖音>>, <<有声>>, <<両唇>>
  /m/ <<鼻音>>, <<有声>>, <<両唇>>
   従って、/p/~/b/の音韻対立にとって関与的なのは<<>>の特徴、/b/~/m/の関与特徴は<<鼻音>>であることがわかる

複数体系の存在

 平均的なフランス語の話し手が、全員同じ子音体系を持っているわけではない。複数の異なる子音体系が存在する。この複数の体系は/
n~/と/ng/のありかたの違いによる。17名のインフォーマントに関する調査では、/n~/は消失する傾向にあり、逆に/ng/は体系の中に組み込まれる傾向にある。

1)/
n~/、/ng/を持つインフォーマント(17人中8名)
 p f t s ∫
 k r l
 b v d z 
3  g            
 m  n  
n~   ng  cf. brugnon 「ネクタリン」/n~ unionnj
     j             

2)/
n~/を持たないインフォーマント(17人中8名)
 p f t s ∫ k r l j
 b v d z 
3  g             
 m  n      
ng    cf. brugnon, unionnj

3)/
ng/を持たないインフォーマント(17人中1名)
 p f t s ∫ k r l
 b v d z 
3  g    cf. livingn~
 m  n  
n~            
     j             


授業成果へ戻る

東京外国語大学(TUFS) 川口裕司研究室