文献学的言語調査―古仏語及び中仏語の代名動詞について―

横山 大

 

 卒業論文では古仏語及び中仏語の代名動詞を取り上げる。ここでは古仏語は9世紀半ば〜14世紀前半のフランス語、中仏語は14世紀後半〜16世紀ごろとする。代名動詞は主語と同一物を表す再帰代名詞を伴った動詞のことを表す。現代フランス語では再帰的用法、相互的用法、受動的用法、本質的用法の四種類があるが、古仏語・中仏語の代名動詞には本質的用法はなく、中動的用法(主に、主語による事態への積極的参加を表す用法)がある。また、当時のフランス語では中動的用法が多く見つかる(中動的用法は非常に生産的であった)一方、受動的用法が非常にまれにしか使われていない。

 卒業論文では、実際に昔のフランス語で書かれた文献から代名動詞を取り上げて分類してみるという方法をとる。時代は15世紀とした。文献はBEAUNE, Colette : Journal d’un bourgeois de Paris de 1405 à 1449. Le Livre de Poche, 1990.を使う。この文献を取り上げる理由は、まず、散文で書かれているために、韻律の規則の制約がなく、自然な語順で書かれていること、また、この文献が先行研究で取り上げられなかったために価値があるからだ。代名動詞とは再帰代名詞を伴った動詞のことなので、当時の再帰代名詞がどのような形態であったのかを知る必要がある。以下に示すのは、中仏語の再帰代名詞の形態である。

 

一人称単数

二人称単数

三人称単数

一人称複数

二人称複数

三人称複数

me/m’/moi

te/t’/toi

se/s’/soi

nous

vous

se/s’/soi

 

moi/toi/soiは文頭の形であること以外は現代語と同じである。代名動詞を文献から見つけてくるには、上の表を参考にして、再帰代名詞を見つけてくれば良い。三人称以外は補語人称代名詞と同じ形なので、動詞の活用と照らし合わさなくてはならないということに注意を払う必要がある。