イントネーション研究における言語調査方法

中田俊介

1.      音声分析における言語調査の3つの段階

イントネーションを含め言語音声の分析においては、言語学的・聴覚音声学的・音響音声学的段階の三つの過程を区別できる。。また逆に、言語音声の調査は、聴覚・音響実験上の制約の範囲内でのみ行いうる。

2.      言語学的段階

1)被験者情報  音声実験を行う場合、年齢・性別・本人および親の出身地・職業などの被験者情報はアンケートによって得ることができる。一般にデータの統計的信頼性を高めるためには、被験者の数は多いほど望ましい。

2)発話資料のタイプ イントネーションのコミュニケーション機能を分析の対象とする場合には原則的には「自然」な発話資料が必要になるが、分析のトピックを限定すべくラジオやテレビの録音が用いられることも多い。「中立」なイントネーションにおいて、その統語的機能に焦点をあてる研究は、資料を専ら読まれたテクストや文に限定している。

3)発話資料の規模・個数 一般的には同規模・複数のコーパスを準備することが望ましい。コーパスの規模および個数は分析の目的に応じて決定される。

3.      聴覚的段階

イントネーションは基本周波数・強さ・持続時間の3つの音声学的尺度の複合的なパターンおよびその変化として記述される。イントネーションのモデル化においては、とりわけ主要な役割を果たす高さについて段階化が行われるが、その際に聴覚実験による検証が必要となる。実際、音響分析装置が抽出する基本周波数の変化はすべてが言語学的に関与するものではないことが実験によって確められている。

4.      音響学的段階

デジタル処理による音声資料の分析においては、以下のような構造的な制約が存在する。また分析装置の環境設定は目的に資料の性質や分析の目的に応じた調整が必要となる。

基本周波数の測定 時間解像度と周波数解像度のトレードオフ

持続時間の測定  潜在的解像度(サンプリング周波数)または実効的解像度の限界

振幅の測定    時間解像度と振幅解像度のトレードオフ、信号対雑音比