音象徴・オノマトペの調査法

秋山絢香

1.はじめに

 言語において、記号表記と記号内容の間の関係は恣意的である。しかし、言語の中には音形と意味との間に何らかの関係性がみられる「音象徴」という現象をもつものもある。この現象が最もよく現れているのが、オノマトペである。オノマトペは、感覚や身体行動を「運動」あるいは「動き」という次元で表現する特性をもつと同時に、心の動きを表現する言語である。オノマトペは直接的な音の模倣による語、または語の音により感覚的印象を表す語で、音形と意味との間に有縁性が認められる。ここでは音象徴の調査、オノマトペの調査を紹介していく。

 

2.調査方法

 音象徴やオノマトペの過去の研究において様々な調査方法が用いられている。ここでは例とともにいくつかの調査方法についてみていこう。

 

2−1.SD法・因子分析

 音象徴およびオノマトペの調査で良く使われている手法である。SD法とは心理学者であるOsgoodが定義した手続きである。ある事柄に対して個人が抱く印象を、相反する形容詞対を用いて測定するもので、それぞれの形容詞対に尺度を持たせ、その尺度の度合いによって対象事項の意味構造を明らかにしようとするものである。SDデータは3要素構成で、各因子は「評価性Evaluation」「力量性Potency」「活動性Activity」と命名されている。また因子分析とは、複数の測定値あるいは心理的特性を数量化した値の間に見られる相関 関係から、出来るだけ少ない共通説明変数を見出し、それを以って対象の構造的特徴を記述しようとする統計学的手法の一つである。こうして構成された尺度群について因子別および当該因子次元におけるプラス・マイナスの方向に関し、ランダム性を高めた上、意味測定の道具としている。

 

 

2−2.音象徴の調査

 

 まず、「描画と音の対応付け」の実験をあげよう。これは音象徴の研究の中でも多く用いられていて、一つの系列をも形成している。この実験は、ある図形に対して無意味綴りの語を与え、被験者に評価もしくは選択させ、そこから音象徴の現象を分析していくことが目的である。最初の描画と音との対応付けを行った研究は、後の研究でもしばしば引用される、KÖHLER1929)によるものである。実験は、刺激として曲線的は絵と直線的な絵(図1)を被験者に提示し、それにmalumataketeという語を与え、どちらがどの図にふさわしい名前かとあてはめさせた。実験の結果、被験者の97%がmalumaを曲線的な絵に、94%がtaketeを直線的な絵に対応させた。

 描画と音との対応付け実験は多く行われてきたが、TAYLOR&TAYLOR1965)によって、どのような音要素がどういった効果をもっているのかが明らかに出来ないと批判されている。例えば母音の交替で音象徴を見る場合には、可能な組み合わせの全てを試みなくては、有意義な結果を引き出せないだろう。

 

 次に客観的音象徴の研究をみていこう。客観的音象徴という言葉はTAYLOR&TAYLOR1965)によるもので、音象徴の客観的な証拠を特定の自然言語の中に見出そうとする研究である。基本的な研究方法としては単語付き合わせの研究で、母国語とそれに対応する未知の外国語を同時に被験者に提示し、被験者に母国語のそれぞれの単語に相当するものを未知の外国語の単語から選び出させるものである。この実験では、被験者の問題、実験条件の問題つまり未知の言語や単語の選択や、翻訳上の問題があり、単語対照の実験には疑問が多いことも事実である。母国語の影響を避けるために、外国語−外国語の対照もなされた研究もあるが、数が少なくまた否定的な結果になることが多い。

 

 最後にSD法を用いた例として、OyamaHagaによる研究(1963)をあげよう。これは「描画と音の対応付け」においてSD法を用いている。CVCVCV形式の無意味綴り(「ラマラ」「リミリ」など5つの単語)を39名の被験者に同じSD尺度で評定させた。用いた母音はa, e, i, o, uで子音はr, m, k, t。得られた因子は、「安定」「明瞭さ」「力量」の3つ。この実験により、例えば母音のuoieより深く、遠く、満ちていて、柔らかく、熱く、湿っていて、滑らかである、などの象徴性が見られた。右の表は得られた結果をプロフィールにまとめたものである。

 

 音象徴の分析では、様々な実験が行われ、普遍的な音象徴を認めるものもみられたが、被験者や実験の条件によって得られる結果に影響が出るという問題がある。客観的に音象徴という現象を捉えることは難しいことがいえる。

 

2−3.オノマトペの調査法

 

 オノマトペの調査法では、オノマトペから音象徴の現象を分析するもの、オノマトペの機能を分析するものがある。まず音象徴の現象を分析したものとして、多変量解析を用いた研究として村上(1980)が挙げられる。日本語の音を広くカバーするように65のオノマトペを選び、5つの分析を行っている。第一分析では音の成分の抽出を目的とし、第二分析から第四分析は意味の成分の抽出を目的としたもので、被験者は全て共通である。第五分析では以上の分析で得られた成分間の関連を調べるものであった。結果は音素成分と意味成分の間に関係が認められ、音象徴の現象を示した。詳しい結果は表1に示す。

 

 

 

 

 オノマトペの機能を調べたものとして苧阪による研究があげられる。これは前述した「SD法」および「因子分析」を用いた実験である。日本語のオノマトペ496語の潜在構造を求める試みとして、被験者から収集したオノマトペに対する反応語で「主成分分析」を行った。動作、笑い、液体、聴覚、心的状態など8つの成分が抽出された。また日本語オノマトペの中から、二音節重畳型のをすべて抽出し、五感覚に分類したものをさらに下位分類し、その段階で類似性の高い個々のオノマトペの類似度を3次元ユークリッド空間に置いた。3次元空間は遠近画法的に表現されてあり、空間布置が近いほど類似性が高く、遠いほど類似性が低い。図23がこの分析結果の一例である。

    

 

 また苧阪の研究では「マグニチュード推定法」を用いた研究もある。これはスチーヴンスによって開発された感覚尺度の構成法である。感覚尺度の場合なら、被験者に強度や質の異なる感覚刺激を呈示し、その主観強度を心理尺度の上で数字で位置付けるものである。まずクラスターを形成する9語群を選び、それらの語を刺激語として被験者19名に刺激語の与える印象について評価をさせ、原則として「強さ」の次元のみ評価するよう求めた。評定値の分析の結果、統計的に有意なイメージ喚起力の効果が認められたとしている。苧阪は他にも心理学の観点から、オノマトペの記憶効果、幼児のオノマトペ獲得や創造についてなど、様々な研究を行っている。

 

 以上、オノマトペの研究を見てきたが、オノマトペの中に音象徴を見出すものとオノマトペの機能を分析したものと観点が違うため、多用な研究が行われているように思われる。オノマトペの中に音象徴の現象を研究では、音象徴の研究の延長も多く、普遍的音象徴も見出せるが、オノマトペの機能を分析する研究においては、より個別的で各言語に着目したものとなっている。

 

<参考文献>

Jean-Michel PETERFALVIRecherches expérimentales sur le symbolisme phonétic CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE 15, Quai Anatole-France PARIS-VII  1970

岩下 豊彦 心理学 三水舎 1999

苧阪 直行編著 感性のことばを研究する 擬音語・擬態語に読む心のありか 新曜社 1999

村上 宣寛 音の象徴性について 第一部 18 富山大学教育学部紀要A文科系  31 1986  109-120

村上 宣寛 音の象徴性について 第二部 34章 富山大学教育学部紀要A文科系 32 1987  61-72

村上 宣寛  音の象徴性について 第二部  56  富山大学教育学部紀要A文科系  33 1988  81-92

村上 宣寛  音の象徴性について 第二部  79  富山大学教育学部紀要A文科系  34 1989  59-70

村上 宣寛  音の象徴性について 第二部 1012  富山大学教育学部紀要A文科系  35  1990  45-53

村上 宣寛 音象徴をめぐる諸問題  富山大学教育学部紀要A文科系  1979.10.  69-80