『外国語教育研究』(JAFLE BULLETIN)
第20号(2017年12月1日)
論文タイトルからレジュメにリンクします
●論文

初級フランス語におけるスピーキング能力の可視化
-タスク評価法と学習ストラテジーの観点から-

佐藤 千秋、ファール エロディ、川口 裕司

 

 1-18

レポート課題におけるルーブリックの有効性の検証
日本語学習者と教員への調査の分析から

髙橋 雅子、伊藤 奈津美、安田 励子、山同 丹々子

 

19-37

日本語教育における動機づけ研究
-学会誌『日本語教育』の分析から-

鈴木 綾乃、伊藤 奈津美、岩下 智彦

 

38-56

日本語学習者の「いえ」「いいえ」「いや」
-学習者コーパス分析からみる使用実態-

野口 芙美、福嶋 真由美
57-75
英語学習者の関係節を含む文の習得状況調査
英文復唱テストを用いて

砂田 緑

 

76-94

アラビア語の口語・文語両文体同時提示による「混乱」とは
-学生アンケート調査から-

長渡 陽一

 

95-111

●研究ノート

キルギスの日本語学習者の学習意欲に影響を与える要因について
-授業参加者のインタビュー調査に基づいて-

アサノワ・グリザル

 

113-131

スペイン語話者の日本語の発音学習及び指導について
赤木 浩文

131-150

日本語母語話者のフランス語発話にみられる
社会言語学的特徴としての脱落について

近藤 野里

 

 151-164

高等学校におけるアクティブラーニング授業の導入効果
中国語初級学習者を対象に

渡邊 晶子

 

 165-177

スピーキング方略の使用と有効性の認識との関係
-EFL学習者を対象とした調査-

周 育佳、井之川 睦美、鈴木 陽子

 

178-194

学習者特性に基づく語学科目履修者傾向分析
白澤 秀剛、結城 健太郎
195-206
TUFS言語モジュールを活用したアジア諸語の社会・文化的特質の指標化
富盛伸夫、YI Yeong-il
207-217
ブラウザプラグインを使用しない録音用Moodle機能の開発
梅野 毅
218-227
動機づけ理論を学ぶ授業
-自律した言語学習者の育成を目指して-

山本 大貴

 

228-245

教員免許状更新講習と外国語教育、その推移と現状
本間 直人、山崎 吉朗

246-263

●書評  

『A Multiliteracies Framework for Collegiate Foreign Language Teaching
(Theory and Practice in Second Language Classroom Instruction)』, Kate
W Paesani, Heather Willis Allen, Beatrice Dupuy(著), Pearson Education
Inc., 2016年, 320頁
徐 アルム

 

265-271

『音声の科学―音声学入門』 J. ヴェシエール(著)、中田俊介、
川口裕司、神山剛樹(訳)、白水社、2016年、159頁
ヴァフロメーエフ・アナトリー


272-277

外国語教育学会 (JAFLE) 第20回研究報告大会

 278-280

名誉会長、学会役員・外国語教育学会規約

 281-282

『外国語教育研究』 投稿規定

 283

編集後記

 『外国語教育研究第20号』をお届けいたします.今回の号は昨年12月の第20回研究報告大会での発表に基くものです.極めて盛況で25件の発表が行われました.そのため,本号は論文,研究ノートが16本,書評が2本と盛りだくさんです.テーマや対象言語の多様性がまさに現代の外国語教育が抱える問題と関係者の意識を反映していると言えるでしょう.かつて言語教育分野は必ずしも言語研究の中心ではなかったと思いますが,現在では母語習得や第2言語習得の問題を抜きにしては言語学を語れない時代になりました.理論言語学の中心テーマであるだけでなく,古典的であまり接点がないような分野に見える歴史言語学でも,最近の概説書を見ると第2言語習得を含め習得の問題が,言語変化の時期やメカニズムを推定するためのカギとなっています.この分野の諸研究がさらに発展することを願うばかりです.なお,昨年度は例年実施してきたシンポジウムを開催しませんでした. これはひとえに昨年から会長を務めている私の不徳とするところですが,例年以上に分厚くなった『第20号』にホッとするとともに,大会とシンポジウムの2本柱が本学会の活動の中心であるということを再確認しつつ,反省の思いとともに筆をおきたいと思います.  (黒澤 直俊)


外国語教育研究 第20号
JAFLE BULLETIN
ISSN :1348-7639
2017年12月1日発行

発行 外国語教育学会
会長 黒澤直俊
事務局 東京外国語大学
川口裕司研究室
℡ 042-330-5235
〒183-8534 東京都府中市朝日町3-11-1

印刷 日本ルート印刷出版株式会社/AK サトウ
℡ 03-3631-3861
〒135-0007 東京都江東区新大橋 1-5-4



初級フランス語におけるスピーキング能力の可視化
―タスク評価法と学習ストラテジーの観点から―

佐藤 千秋1、ファール エロディ2、川口 裕司3

本研究では、第一章において、外国語教育学会第19回大会における伊藤他(2015)のタスク評価の基準を精緻化し、(1)タスクの遂行度合い、(2)ACTFLの指標に基づく評価、(3)CEFRの指標に基づく評価、以上の三つの異なるスピーキング能力の評価を実施し、より効果的な評価方法の可能性を探った。結果として、最も信頼性の高い評価法はCEFRの指標に基づいたスピーキング能力の評価であった。これはCEFRがスピーキング能力に関して、最も具体的なレベル等についてのガイドラインを提供していたことがその要因であると考えられる。また、「発表」と比較して、「やりとり」の評価の平均値が高かったことに加え、両者間に差がみられた場合、「文法の適切さ」と「語彙の適切さ」が関係していることがわかった。
第二章では、各スピーキング評価と学習ストラテジーの間の相関関係について考察を行ない、より妥当なスピーキング能力を可視化する方法を模索した。学習者らは補償ストラテジーを「通常あてはまる」という比較的高いレベルで使用していた一方で、情意ストラテジーは5つのカテゴリーの中で最も使用頻度が低かった。つまり学習者はフランス語の学習において自身の限定された知識を様々な形で補おうと積極的に行動する一方で、自身の情意的側面にはあまり注意を払わない傾向にあるといえる。
第三章では、スピーキング能力と学習ストラテジーの間の関係を観察した。情意ストラテジーと補償ストラテジーの使用頻度が高い学習者は、スピーキングの評価も高くなる傾向にある。とくに「発表」の評価が高い学習者は、語彙をより適切に使用しており、スピーキングの実践に積極的である。これに対して、「やりとり」の評価が高い学習者は、「文法の適切さ」に関する評価が高く、フランス語の運用において正確性を重視していることがわかった。

1 東京外国語大学博士後期課程
2 東京外国語大学博士前期課程
3 東京外国語大学

レポート課題におけるルーブリックの有効性の検証
日本語学習者と教員への調査の分析から

髙橋 雅子、伊藤 奈津美、安田 励子、山同 丹々子

筆者らが担当する留学生対象日本語科目では、同一シラバスで複数クラスが開講され、各クラスを2名の教員で担当している。授業では一学期間に計6回のレポートを作成するため、成績におけるレポートの比重が高くなっている。このような状況の中で、学習者が作成したレポートに対し、クラス内・クラス間の評価基準は公平か、学習者が納得できるような評価ができているかという悩みがあった。また、当該教育機関は「日本語を主体的に学び取ることができる学習機会を提供する」、「自律的に学習できることを目指したサポート体制を整える」等のポリシーを掲げている。そのため、学習者が自律的にレポート活動に取り組む姿勢を育てる必要性がある。そこで、公平なレポート評価と学習者の自律的なレポート作成のためにルーブリックを作成し、使用した。使用したルーブリックの有効性を検証するために、学期終了時に学習者対象の調査と教員対象の調査を実施した。学習者対象の調査では、5件法で回答するものと自由記述回答によるアンケート調査を行い、有効回答は54名であった。アンケート調査の結果より、学習者はルーブリックによって、レポート課題の到達目標が理解でき、自身のレポートの修正点がわかったことが示された。また、ルーブリックが自律的なレポート作成を支援できていることが示唆された。教員対象の調査では、2名の教員に30分ほどのインタビューを行った。ルーブリックを使用した利点として、評価の時間が短縮できた、学習者への説明が効果的であった、学習者の修正稿での伸びが見られたということが挙げられた。一方で、ルーブリックの項目理解における学習者の個人差、ルーブリックでは主観的にレポートの内容面を評価できないこと、教員のルーブリックの使用方法の理解などの課題も見えた。本調査結果から、以下の3点が明らかになった。(1)教員および学習者は、レポート作成においてルーブリックが有効であったと感じていた。(2) ルーブリックの使用は多くの学習者の自律的なレポート作成を促した。(3) 作成したルーブリックにより、教員の評価の公平性が担保できていた。以上のことから、今回作成したルーブリックは、担当する教員のレポート評価の悩みを解決でき、また当該教育機関のポリシーに沿っていたといえよう。
(早稲田大学)

日本語教育における動機づけ研究
―学会誌『日本語教育』の分析から―

1鈴木 綾乃、2伊藤 奈津美、3岩下 智彦

本論文では、雑誌『日本語教育』に掲載された日本語学習者の動機づけに関する16本の論文について、日本語教育における動機づけの要素、およびそれと関連する要素を整理した。その上で、学習者の動機づけを捉える主要な観点として「興味」と「有益性」という2点を示すとともに、この2点に基づいて、現在の学習者像を捉える新たな枠組みを提案した。
分析の結果、日本語学習者の動機づけの要素は1)「日本と日本文化への興味」、2)「日本語学習への興味」、3)「実用性」、4)「自己・他者からの評価」、5)「国際的な視点」という5つに分類することができた。そして、この5分類の項目と関連がある要素として、成績、学習の成功、学習の継続性について言及されていることを示した。一方、動機づけを高める教室活動についての論文では、5分類の項目や、それと関連する要素についての研究とのつながりはほとんど見られなかった。
以上の分析から、動機づけに関する研究の問題点として、質的調査が少ないこと、調査対象者が日本語に対して興味も、有益性もある学習者に偏っていることを指摘した。こうした研究では、有益性について多く言及されている一方、興味に関わる要素である1)「日本と日本文化への興味」や2)「日本語学習への興味」はあまり触れられていない。今後は興味はあるが有益性は求めていない、趣味や生涯学習として学ぶ学習者や、有益性はあるものの興味がない学習者についても分析していく必要がある。

1横浜市立大学、23早稲田大学

日本語学習者の「いえ」「いいえ」「いや」
―学習者コーパス分析からみる使用実態―

1野口 芙美、2福嶋 真由美

これまで、「いえ」「いいえ」「いや」などの「いいえ」系応答詞は、日本語学習者向けの日本語教科書における提示と日本語母語話者の実際の使用に大きな差があるとの指摘が度々なされている。学習者が教科書で習った通りに否定的な応答をすることで対人関係に支障をきたすことは十分に起こり得るが、実際の学習者の発話に焦点を当てた研究はまだない。本稿では、多言語母語の日本語学習者横断コーパスI-JASの自然会話データ分析に基づき、「いえ」「いいえ」「いや」それぞれの応答詞の出現数・割合とそれらの機能を調査し、実際に日本語学習者がどのように「いいえ」系応答詞を使用しているか、また日本語母語話者の使用との違いを分析した。
その結果、学習者はどの応答詞にも一定以上の使用が見られ、特に海外在住の日本語学習者は各応答詞の使用にあまり差が見られなかった。一方、母語話者は「イイエ」をほとんど使用せず、「イヤ」の使用が目立った。また、学習者が肯定あるいは否定かを問われる問いに対する否定として「いいえ」系応答詞を使用しているのに対し、母語話者は「イエ」「イイエ」については本来肯定/否定の判断を求められない先行文に対して使用しており、その使用差が窺えた。さらに、母語話者が問いの否定として多用する「イヤ」については、学習者は「イエ」「イイエ」ほど使用していない。
また、同じ日本語学習者でも、国内で日本語を学ぶ/習得した学習者は、どの分析観点からも海外で日本語を学ぶ学習者と母語話者のちょうど中間の数値を示す傾向があり、特に学習対象国に在住しているか否かという学習環境の影響が話し言葉に表れていることが明らかになった。
そして、海外で学ぶ日本語学習者と国内でも教室環境で日本語を学ぶ学習者の「いいえ」系応答詞の使用傾向が日本語教科書の提示と非常に似通っていることが明らかになった。これは、日本語学習者が日本語教科書の影響を多分に受けているという可能性を示唆していると思われる。

1お茶の水女子大学大学院博士後期課程
2元早稲田大学日本語教育研究センター

英語学習者の関係節を含む文の習得状況調査
英文復唱テストを用いて

砂田 緑

 本研究では、日本語を母語とする英語学習者の関係節を含む文の習得について、英語復唱テストを用いて調査する。英語における関係節を含む文の習得については、第一言語、第二言語習得の両領域において研究の対象となってきた。句や節を正しく把握して情報を取り込むことは言語習得上必須の過程である(Fodor & Bever, 1965; Garrett et al., 1966; Johnson, 1965)。PienemanのProcessability Theory (Pienemann, 1998)では、言語習得の発達の段階が示されており、語の認識から始まり、句の認識、句と句の関係性の認識、節と節の関係性の認識と発達していく過程が説明されている。さらに、名詞句構造の理解は日本語を母語とする学習者にとって大きな困難を伴う項目のひとつになっている。英語復唱テストとは、英文を一文ずつ音声のみで提示し、ポーズの後に復唱するテストであり、学習者の英語力を測定する手法として注目を集めている。これまでの関係節習得に関する研究の多くがリーディングやライティングのに関連した筆記テストであり、その多くは時間的制約が少なく、明示的文法知識の介入する余地を持っている。本研究では、学習者の暗示的文法知識が測れるとされる英文復唱テストを用いる。これにより、習得の実態により正確に迫っていくことができると考える。
調査した結果、習得状況は関係節を含む文のタイプ(SS, SO, SPrep, OS, OO,OOPrep)によって異なり、OOとOOPrepは最も習得が進んでおり、SOPrepは最も習得が遅いということが分かった。主格の関係節を含む文と目的格の関係節を含む文の比較では、SS以外において、目的格の関係節を含む文の方が習得が進んでいた。しかし、SS, OO, OOPrepの復唱率が比較的高かったことから、関係節の先行詞となる名詞の、関係節内における役割(主格・目的格)と主文における役割(主語・目的語)が一致している文については、習得が進みやすいと考えられる。関係節を主語位置に持つ文と目的語位置に持つ文の比較では、目的語位置に持つ文の方が主語位置に持つ文よりも習得が進みやすく、先行研究と一致していた。上位学習者に関しては、主格・目的格や主語位置・目的語位置の別に関わらず習得が進んでいるが、中位・下位学習者に関しては、全体の傾向と同じく、SS, OO, OOPrepが比較的易しく、さらに、関係節を目的語位置に持つ文の方が主語位置に持つ文よりも習得が進んでいた。復唱の傾向を見た結果、下位学習者は文の理解も困難で部分的にしか処理できていないことが多いが、中位学習者は節の境界を理解し主文の主語となる名詞、動詞、目的語となる名詞を産出できている例が増えていた。上位学習者でも関係節内の前置詞を落としたり、単数・複数の間違いが見られるなど、SOPrepは上位学習者でもつまずきやすい項目であるかもしれない。本調査では、受容と産出の両面から学習者の暗示的文法知識を測ることができるとされている英文復唱テストを用いて、日本語を母語とする英語学習者の関係節を含む文の習得状況を調査した。今後も調査を継続し、関係節を含む文の習得の傾向を探ることで、関係節を含む文の指導や評価に役立つ資料を提供していきたい。

アラビア語の口語・文語両文体同時提示による「混乱」とは
-学生アンケート調査から-

長渡 陽一

アラビア語教育では、口語体と文語体の2文体を教えなければ十分なコミュニケーション能力が得られないことは周知の事実である。それにもかかわらず、あいかわらず多くの教育機関では文語体のみが教育されている。その理由としてしばしば挙げられるのが、口語体を提示することによる学生の「混乱」である。しかし両文体を提示した授業があまり行われていない以上、「混乱」は予測に過ぎない。本稿では大学の授業において、実際に両文体を同時に提示したことに対する学生の感想から、「混乱」が本当に起こるか、どのくらいかを観察した。
結果は、「混乱」を感じた学生は、両文体同時提示の授業をうけた50人のうち13人であった。この割合は、「混乱」が、アラビア語に不可欠な口語体を提示しないほど重大な理由にはならないことを意味すると考えられる。また「混乱」と回答した学生を含め多くの学生が、両文体を知れたことを肯定的に捉えていた。
アラビア語で口語体に触れることは、実用面で、習ったことが実際に使えるというリアリティーを与える効果があると同時に、教養面で、二層状態というアラビア語の姿への理解を深める効果も上げることが明らかになった。したがって、口語体と文語体の両文体の提示は、アラビア語教育においてぜひとも必要なのである。

(東京外国語大学・特別研究員)

キルギスの日本語学習者の学習意欲に影響を与える要因について
-授業参加者のインタビュー調査に基づいて-

アサノワ・グリザル


本稿は、学習者の学習意欲に影響を与える要因を教員と学習者の視点から捉え、キルギスの2大学の教員と学習者を対象におこなったインタビュー調査の結果と考察を述べたものである。キルギス語とロシア語を使用して得たデータを、従来の動機づけ研究における動機構成概念を7局面に整理した「動機構成概念の7つの局面」(Shoaib & Dörnyei 2004)を枠組みに分析した。 
その結果、教師と学習者の回答が一致する部分もあり、学習者のみに現れる部分もあった。教師と学習者の回答が一致する部分については、学習意欲を上げる要因として、具体的にInstrumental Dimensionの「留学のため」や「仕事のため」、Educational-Context-Related Dimensionの「授業の楽しさや面白さ」や「教室活動の多さや面白さ」、Goal-Oriented Dimensionの「日本文化に関する目標設定」などが挙げられ、学習意欲を下げる要因としてEducational-Context-Related Dimensionの「学習内容の難しさ」や「試験結果の不満足」、Significant-Other-Related Dimensionの「ライバルの存在」などが挙げられた。そして、学習者のみに現れた部分については、具体的に、Educational-Context-Related Dimensionの「教師の気分、笑顔」や「教師からの注意」といった教師に関わる要因、「授業中のコミュニケーション、会話」や「ネイティブ教師の話が分からない」といった教師の授業スタイルに関わる要因、「リソース」と「教材」といった教材・教具に関わる要因、「試験結果(良い・悪い)」、「成績(良い・悪い)」、「宿題の多さ」、「学習量の多さ」といった学習に関わる要因である。Host-Environment-Related Dimensionの、「実際の使用場面での経験」、「実際の使用場面での挫折、」「サブカルチャー」と「ソーシャルネットワークでのやりとり」が挙げられる。
本研究から、学習者の学習意欲は少なからず教師によって左右されることが明らかになった。学習者の学習継続の意欲を高めるために教師ができることとして、教師の笑顔といった表情、話すことを中心とする教室活動や授業の改善などが重要であることが示唆された。

(東北大学大学院博士後期課程)

スペイン語話者の日本語の発音学習及び指導について

赤木 浩文

本論文はスペイン語話者(カタルーニャ語との併用話者を含む)の日本語の発音学習に対する意識及び発音の課題を明確にし、「気づき」を促す発音指導の有効性や課題を検証することを目的に行った実践研究である。
調査の対象は、2007年~2015年に日本語短期集中コースの発音クラスに参加した初中級から上級までのスペイン語話者日本語学習者12名である。
日本語の発音学習に対する意識の分析にはコース開始前に行ったアンケート、コース中の学習過程の観察、コース終了後に行ったアンケート及びインタビューを用いた。発音の分析については、コース開始時とコース終了時に行った発音テスト(自由発話と朗読文読み上げ)の録音を用いた。そして「気づき」を促す発音指導と学習者の意識の変化と発音の習得との関係ついて考察した。
調査結果から、コース前は、学習者の日本語の発音学習に対するニーズや関心が低いこと、その原因として日本語の発音に対するビリーフが影響していることがわかった。しかし、学習過程の「気づき」によって、日本語の発音学習に対する意識や姿勢に変化が見られた。特に自分の発音の誤りが、コミュニケーションを阻害する要因となりうることに気づくきっかけが実際のやりとりの中で経験されたときに学習効果が高まった。このようにコミュニケーション上の刺激が、「気づき」を誘発することがわかった。その刺激として(1)経験と結びついた発音の情報、(2)学習者にとって新しい情報や練習方法、(3)同年代日本語母語話者とのコミュニケーションが挙げられる。さらに、意識化によって、積極的な試行錯誤も観察された。スペイン語話者に共通する発音の課題に関しては、 (1)規則の提示、アドバイス、練習で改善するもの(単音、文末イントネーション)、(2)改善に向けて問題が緩和するもの(文リズム、詰問調)、(3)課題として残るもの(特殊拍、母音)の三つに分けられた。どの課題の改善にも意識化が重要なことがわかった。長音は最も意識化が進み、積極的な試行錯誤が見られるにもかかわらず、短期間で習得するのが難しい課題であることが示唆された。このように、「気づき」が学習者の意識化、発音の改善に結びついたことから、スペイン語話者に対する「気づき」を促す発音指導は、有効な指導法だと言える。

(専修大学)

日本語母語話者のフランス語発話にみられる
社会言語学的特徴としての脱落について

近藤 野里

本研究では、現代フランス語中間音韻論(InterPhonologie du Français Contemporain)プロジェクトの基で録音された日本語母語話者であるフランス語学習者の話し言葉コーパスを使用し、学習者の発話における社会言語学的特徴を観察した。特に、フランス語母語話者の発話に非常によく観察される社会言語学的変異でもある「脱落」が、日本語を母語とするフランス語学習者の発話において、どれほどの頻度で起きるのか、という点に着目した。本研究では、否定形における否定辞neの脱落、および三人称代名詞il, ilsに含まれる/l/の脱落の様子を観察した。先行研究と同様にフランス語圏への留学、つまり母語話者との発話に接する期間が少なからず脱落頻度に影響している可能性が見いだされた。先行研究でも指摘されてきたように、発話コンテクストの違い(formal vs informal)が必ずしも脱落に影響するわけではないことが本コーパスにおいても観察された。また、本コーパスのインフォーマントの発話において、特定の連辞で脱落頻度が高いことが観察された。このような連辞は母語話者においても使用頻度が高く、脱落が起きやすい。そのため、そのような連辞を学習者も度々耳にすることから、模倣しやすいということが考えられる。

(名古屋外国語大学)

高等学校におけるアクティブラーニングの導入効果
中国語初級学習者を対象に

渡邊 晶子

本稿は、アクティブラーニングについての授業法について実践と検証するものである。
現在、高等学校で行なわれている中国語の授業は、各学校の指導者により違い、何をどこまで教えるか、その指導法も目標も様々であり、生徒たちにどのような力をつけさせたいかきちんと分析されないまま、指導が行なわれている現状に警鐘を鳴らさなければならない。

文部科学省は今の社会背景から、「生涯学び続け、主体的に考える力」の育成のために次期学習指導要領ではアクティブラーニングを取り入れた授業を重要事項として挙げている。そこで、このアクティブラーニングの導入効果を検証したいと思う。

アクティブラーニングには協同活動の1つであるジグソー法を用いた。授業実践を試みることでアクティブラーニングの効果について検証する。クラスと人数、期間を変えることでその効果を見る。事前と事後にpre-test、post-testを行うことで母集団から無作為にサンプルを抽出できない部分を公平にし、また既存のテストを使用することで信頼性と妥当性を有効なものとした。アクティブラーニングの授業実践回数を変化させることで成績の変化を量的に分析することができた。本研究では1か月間4回以上アクティブラーニングの授業を行った結果、生徒の成績に向上が見られた。
新たな授業法を導入する前は、入念な事前の準備や計画が必要である。本稿をきっかけに、中国語教育に関する研究およびアクティブラーニング教育研究の一助になればと思う。

キーワード:アクティブラーニング、ジグソー法、高等学校、中国語

(大阪大学大学院博士前期課程)


スピーキング方略の使用と有効性の認識との関係
―EFL学習者を対象とした調査―


1周 育佳、2井之川 睦美、3鈴木 陽子

学習者の言語方略使用についてはこれまで多くの研究が行われているが、EFL学習者を対象としたスピーキング方略に関する研究は十分だと言えない。とりわけ特定の方略を使用することがその方略の有効性を認識していることとどのように関連しているかについては、まだ十分な研究が為されていない。このような問題意識を踏まえ、本研究は(1)EFL学習者のスピーキング方略の使用頻度と方略の有効性の認識との関係を明らかにすること、(2)この2つの変数の間に一致がみられる方略と一致がみられない方略を特定すること、(3)有効性を認識しているが使用していない方略について、それを妨げる要因を探ること、これら3点の課題を明らかにすることを目的としている。本研究では、94名の日本人大学生を対象に質問紙による調査を実施し、スピーキング方略の使用頻度と有効性の認識について分析を行った。参加者のうち10名の学生は、自由記述による調査にも参加し、有効性を認識しているにもかかわらず使用していない方略について、その理由を回答した。相関分析を行った結果、学習者のスピーキング方略の使用頻度と方略の有効性の認識との間には中程度の正の相関関係が認められた。学生が有効だと認識している方略の数は、学生がよく使用している方略よりも多かった。さらに、学生は認知方略とメタ認知方略の有効性を高く認識しているが、様々な理由からこれらの方略を使用できていない様子が明らかになった。これらの結果は、スピーキングの効果的な指導を議論するうえで有益なな示唆を与えている。

123東京外国語大学

学習者特性に基づく語学科目履修者傾向分析

1白澤 秀剛、2結城 健太郎

本論文では、Communication Style Inventory(以下、CSI)の学習言語別コミュニケーション特性の分布傾向についての白澤・結城(2016)の継続調査結果について扱った。複数の学習言語履修者間のCSIに基づく学習者要因の比較調査はこの一連の調査が初めてである。さらに、コミュニケーション特性と学習行動・成績との相関を、履修動機と対照させつつ検証した。
CSIは自己主張と感情表出の強さにより、コミュニケーション特性を類型化する。この特性の学習言語別分布傾向について、韓国語、スペイン語、フランス語、ロシア語の計27科目の履修者449名に対して、2015年度と同様の継続調査を実施した。結果として、スペイン語、ロシア語の学習者間で、自己主張が弱く、感情表出が弱いタイプ(アナライザー・タイプ)の分布に有意差があることがわかり、言語間でのコミュニケーション・スタイルの違いの傾向は、年度を越えても同様であることが確認された。このことから、コミュニケーション・スタイルは履修言語の選択に影響を与えていると考えることができる。さらにスペイン語学習者についてのレベル別コミュニケーション特性に関する継続調査では、同じ年度に学習を始めた者については、コミュニケーション特性により学習継続に差が出ることはないことがうかがえた。
コミュニケーション特性と学習行動・成績の相関について言えば、CSIによる特性を理解している教員が実施したクラスにおいては、コミュニケーション特性が授業中の発言回数、筆記試験の結果、最終成績に与える影響がないことが読み取れた。教員のCSI特性把握の有無と成績への影響については、今後の調査で明らかにしたいと考えている。同じクラスに対して、履修動機と学習行動・成績の相関についても調査した。これには、解決志向アプローチ(Solution Focused Approach)におけるクライアントアセスメントを参考とした履修動機分類を用いている。調査の結果、授業中の発言回数、最終成績との相関が見られた。今後、尺度作成に向けた更なる調査が期待される。

12東海大学

TUFS言語モジュールを活用したアジア諸語の
社会・文化的特質の指標化

富盛伸夫、YI Yeong-il

ヨーロッパ連合(European Union、以下EU)の教育改革のなかでも象徴的位置にある「ヨーロッパ言語共通参照枠組み」(Common European Framework of Reference for Languages: Learning, Teaching, Assessment、以下CEFR)は公開から約15年を経た現在、その適用が欧州地域から世界各地へと拡大されつつある。本論文の第一著者を代表とする研究グループはCEFRの非EU言語への適用可能性の検討を目的としているが、非EU諸国、特にアジア諸国でのCEFR導入に際しては、その多様な言語・社会・文化の実情に合わせてCEFR自体が柔軟に変容しうる可能性について検証する段階にある。
本稿は、すでに成果発表した先行研究をふまえ、3つの段階的検証作業(「定量的分析」)、「直感的分析」、「定性的分析」)のうち、第3の定性的分析としての予備的調査について報告するものである。作業手順として第一に、東京外国語大学が21世紀COE研究の成果として公開している『TUFS言語モジュール』を活用してアジア諸語に対応した新たな能力評価記述項目策定のための社会・文化的指標の抽出を行った。第二に、そのうち特に会話遂行に必要な語用論的ストラテジーが深く関与すると思われるコミュニケーション機能のシークエンス構成要素について、我々の研究グループのメンバーでありアジア諸語教育に携わる言語教員に協力依頼し、その有効性の評価をまとめた。
その結果、アジア諸語の社会・文化的特質が均質ではないため、単一のアジア版CEFRの設定には無理があること、またアジア諸語の間にある多様な差異を考慮するとCEFRの下位区分を設定する方策に関しても簡単ではないことが確認された。本研究では、非ヨーロッパ諸語へのCEFRの適用と運用に際しては、高等教育機関で学位記に用いるDiploma Supplementのような「補足説明」を能力記述文に添付する方法の有用性が示唆された。現在、EUのCEFR研究者の中で「社会・文化的仲介(Mediation)能力」の測定項目の開発が進められているが、我々はこの動向と連携しつつ、本研究の予備的調査からさらに精密な調査と検証を経ることにより成果をまとめ、EUおよびアジア諸国の言語教育研究への貢献として発信する展望を持っている。

(東京外国語大学・名誉教授、東京外国語大学・大学院博士前期課程)

ブラウザプラグインを使用しない録音用Moodle機能の開発

梅野 毅

本稿は、最近になって一部のブラウザに提供された録音用JavaScript APIを使用したMoodleへの録音機能追加プログラムの開発報告である。
既存の録音機能はAdobe FlashやJava Appletというブラウザプラグイン技術によって支えられてきた。しかし、ブラウザプラグインという技術そのものが過去のものとなりつつあり、対応はブラウザごとに異なるがブロックされたり完全に廃止されつつある。
次の録音技術となるJavaScript録音用APIは、まだ仕様が草案レベルであり、ブラウザによる実装もまちまちである。仕様の安定、全てのブラウザでの実装を待っていては、Webによる録音ができない状態が長く続くため、先行して実験的な実装を試みた。情報がないなか開発には困難を伴ったが、実用になりそうな機能の開発に成功したのでここに報告する。
動作するシステムやブラウザは限定されるが、いままでWeb録音の手段が全くなかったスマホやタブレットにも録音機能が提供できたことの意義は大きいと思われる。

(東京外国語大学助手)

動機づけ理論を学ぶ授業
-自律した言語学習者の育成を目指して-

山本 大貴

自律した言語学習者になるためには、自らの認知プロセスを適切にコントロールし、自分の動機づけを自分で高められるようになることが重要である。しかし、学習者が高い動機づけを持って授業に参加できるよう支援することを目的とした「教室内動機づけストラテジー」の研究はいくつか見られる一方、教室外でも高い動機づけを持って学習に励むことができる自律した学習者の育成を目指す「自律促進型動機づけストラテジー」に関する研究は少ない。そこで本研究では、米国の大学で日本語を学ぶ学習者14名を対象に、「自己決定理論」、「原因帰属理論」、「期待価値理論」という3つの動機づけ理論について明示的に説明し、それらの理論を基に自分に合った「自ら動機づけを高めるストラテジー(Self-motivationg Strategy)」を、教員やクラスメートとの対話を通して考えてもらうという授業を行った。
実践の効果を検証するために、授業の約1か月後に質問紙調査を実施した。質問紙は、5件法で回答する質問8問と記述式の質問6問からなる。データを分析した結果、自分の動機づけをコントロールすることの重要性に気づいた参加者や、自分に合った「自ら動機づけを高めるストラテジー」を理論に基づいて自律的に考え使用するようになったと思われる参加者が複数見つかった。これらの結果から、本実践は言語学習者の自律を促進しうる効果的な取り組みであったことが示唆された。ただし、本研究の参加者は14人と少なく、この結果がどれほど一般化できるのか定かではない。よって、今後更なる調査を行い、本研究で実践した動機づけストラテジーの効果をより深く検証していく必要がある。

(兵庫教育大学・特命助教)

教員免許状更新講習と外国語教育、その推移と現状

1本間 直人、2山崎 吉朗

本稿で私達は、今年度(平成28年度)実施された講習と過去7年間に実施された多言語講習(平成21年度に実施された予備講習を除く)を振り返り、英語以外の外国語を専門とする教員のための、専門的な多言語講習の実施が極めて限られたものであることを明らかにした。その一方で、基本的な外国語力の習得によって、外国人子女に対する指導力の向上を目指す多言語講習は,毎年、複数、開かれていることについても論じた。多言語講習の目標の1つは、異文化理解である。その意味において、特定の外国語の習得を目標としない、異文化の理解を主題とした講習からも学ぶべき点は多い。
講習を企画したものの、受講者が定員を下回ったため、その開講を断念せざるをえない等、多言語講習を取り巻く状況は厳しい。その詳細な検証のためにも、更新講習に関する資料の収集、分析、研究はなされるべきである。そして、それは、今後の教員養成、さらには外国語教育史を考える上でも、重要な意味をもつのである。

1日本大学、2一般財団法人日本私学教育研究所