アジア諸語学習者におけるCEFR自己評価の傾向と
社会・文化的コミュニケーション能力に関わる諸問題
-学習者アンケート調査(2014)の分析から-
富盛伸夫、YI Yeong-il
EU統合を象徴する言語政策のひとつ、CEFR(Common European Framework of Reference for Languages: Learning, Teaching, Assessment、以下 CEFR)は2001年に言語能力評価参照枠組みとして公布されてから約15年を経て、EU諸国および周辺国において言語教育施策を推進する原動力として機能してきた。言語教育においてEU域内の諸言語に適用しうる通言語的な枠組み自体を新たに提案したCEFRは、急速に進みつつある教育のグローバル化とともに、日本を含む世界各地に拡大の傾向を見せている。この趨勢に伴い、EUという言語・文化的に「均質な」土壌に育った言語能力評価指標は、その受容にあたっては世界諸地域の多様な言語の特質や社会・文化的コンテクストにどのように適応させるかが課題である。
本論文では、2014年10月に東京外国語大学にて行った学習者アンケート(CEFRのA1およびA2レベル相当の能力記述項目に回答した延べ1476名のサンプル)をもとに、文字体系・音声・統語など言語類型の異なりや「社会・文化的コミュニケーション能力」に対応した学習達成度について、学習者自己評価に関わる分析結果を提示した。その上で、特にアジアなどEU域外の言語地域には、多様な社会・文化的特質をもつ言語行動や語用論的ストラテジーがあることを考慮するならば、CEFR適用の世界的拡大に際して、多様性の中での通言語的妥当性を担保する、新たな社会・文化的能力測定の方法論的模索が必要となることが示唆された。
(東京外国語大学、東京外国語大学大学院博士前期課程)
コンピュータによるスピーング・テストの検証:
受験者によるテスト評価、受験時の動機づけ、テスト成績間の関係の観点から
周 育佳、吉冨 朝子
近年、英語のスピーキング・テストにおいて、コンピュータの使用が増加している中、コンピュータによるスピーキング・テストでは話し相手がいないといったテストの特徴に対して、受験者がどのような評価をするかが問題視されている。そこで、本研究では、(1)日本語を母語として英語を学習している54名の大学生が、コンピュータによるTOEICスピーキング・テストをどう評価するか、そして(2)彼らのTOEICスピーキング・テストを受験する際の動機づけの強さはどうであるか、を調査するとともに、(3)期待価値理論に基づいて、受験者のテストに対する評価・受験時の動機づけ・テスト成績の関係をモデル化し、それらの関係を探ることを目的とした。
アンケート項目の記述と頻度統計量に基づいた分析の結果、参加者はTOEICスピーキング・テストの妥当性に対して、比較的肯定的な評価をしており、コンピュータ提示モードに対して中立的な態度であることがわかった。また、参加者はTOEICスピーキング・テストの受験時に十分な動機づけをもっていることもわかった。変数間の関係性については、相関に基づいて分析した結果では、仮説モデルが部分的に支持されるにとどまった。すなわち、予測に反して、テストに対する評価と受験時の動機づけがテスト成績にほとんど影響しないことがわかった。この結果は、コンピュータによるスピーキング・テストの成績に基づいたスピーキング能力の推察の妥当性を支持するものである。また、コンピュータ提示モードに対する受験者の評価は、受験時の努力との間に直接的な関係が認められたのに対して、受験者によるテストの妥当性についての評価は、テストの重要性を介して受験時の努力に影響を及ぼす間接的な関係にあることを示唆する結果が得られた。
〈東京外国語大学)
中国語学習者を対象にしたスピーキングテストの
評価尺度の開発
曲 明
本研究では、日本人母語話者の中国語学習者を対象にしたスピーキングテストの評価尺度を開発した。4つのステップを踏んで開発を行った。①スピーキングテスト、評価尺度の種類、尺度開発するアプローチについて理論的な考察を行う。②日本国内外の中国語スピーキングテストの評価尺度をレビューし、日本人母語話者の中国語学習者に相応しい評価尺度の下位項目及び評価観点を決める。③②の段階で出来た評価項目及び評価観点を中国語教育の目標と照らし合わせながら暫定的な評価尺度を作る。④暫定的な評価尺度を用い、20人のスピーキングデータを4人の教員に評価してもらい、評価尺度の妥当性を質的に検証する。
結果としては、暫定的な評価尺度は使いやすく、記述子の解釈もしやすいと評価された。各評価項目間の重複および5段階のレベル分けのしやすさについて、建設的な意見が得られた。今後評価尺度の改善に努め、採点者トレーニングのやり方について考え直す必要があると思われる。
評価基準をテストの前から開示すれば、学生たちはテストの評価基準を推察し、それに合わせて受験準備を取り組むことができる。そうすることによって、試験を行う人が望むテストの波及効果が得られて、教育的意義は大きいと思われる。
(室蘭工業大学)
学習者特性分析に基づく科目群別の履修者傾向分析
白澤 秀剛、
結城 健太郎
本論文はCommunication Style Inventory(以下、CSI)に基づき、学習言語による学習者のコミュニケーション特性の傾向、学習段階による特性の傾向、また教師の学習者把握に対する学習者のコミュニケーション特性の影響を分析した。
CSIは自己主張と感情表出の強さにより、コミュニケーション・スタイルを次のC・P・S・Aに類型化する。C:行動的で、自分が思った通りに物事を進めることを好む。他人から指示されることを嫌う。P:人と活気あることをするのを好み、自発的でエネルギッシュである。一つのことを持続するのが苦手である。S:人を援助することを好み、協力関係を大事にする。自分自身の感情は抑えがちである。A:多くの情報を集め、分析、計画するのが得意である。語学教育の分野でこの分類法が用いられるのは初めてである。筆者らは韓国語、スペイン語、ロシア語の選択科目18クラスについて、学習者の特性の分布を調査した。
その結果、韓国語のクラスについてはP、スペイン語ではS、ロシア語ではAの学習者が多く分布することがわかった。この結果は、言語によって学習者のコミュニケーション・スタイルの分布が異なり、それに対応した教授法・授業内活動が必要であることを示唆する。また、韓国語とスペイン語では初級・中級のレベル別の分布も調査したが、韓国語ではAの学生が中級に多く残り、スペイン語ではAの学習者が減少する。これは初級段階で学習者のコミュニケーション・スタイルに応じた教授法をとることにより、学習を継続する学習者を増やすことができることを示唆する。
さらに、教師に対するアンケート調査を通じて、教師の学習者把握において、学習者のコミュニケーション・スタイルが影響を与えていることを示した。その結果、CやPの自己主張の強い学習者が多いクラスほど、教師によるクラスの活気、積極性、協働の評価は高くなり、逆にAの学習者が多いクラスは低くなる。この結果は、言語学習の指導において、学習者のコミュニケーション・スタイルの特性を事前に測定し、印象に頼ることなく客観的に学習者を把握しつつ、学習者のコミュニケーション・スタイルにあった授業展開を行うことにより、学習効果を高めていけることを示唆している。
(東海大学・講師)
二層言語(ダイグロシア)アラビア語の
会話体と文章体の単語対応
長渡 陽一
本稿は、二層言語アラビア語において、会話体と文章体の、どのような単語が、どのくらい共通し、異なっているのかを観察した結果の報告である。今回の調査はパイロット調査であり、エジプト映画の一部を会話体コーパスとした。
その結果、エジプトにおける両文体の同源語(cognate)共有率は、延べ出現数では約70%、異なり語数では約66%であった。すなわち、会話体と文章体の間での変動は語彙の30%であることが明らかになった。
また調査の過程で、単語の対応関係を類型化した。同源語が対応するもの、別語が対応するもの、対応する単語がないものであり、さらに同源語が対応するものはその音形により4つに分類した。
この結果を踏まえてさらに体系化すれば、アラビア語を教育する際に、両層の間の混同や混乱を回避できるような適切な提示方法を考えることができるであろう。
(東京外国語大学・特別研究員)
第二言語学習における授業外多読活動の可能性
―日本語多読セッション参加者へのインタビュー調査を中心に―
高橋 亘、海野 多枝
日本語教育における多読の有効性が叫ばれて久しく、国内外での実践報告も増えつつある。しかし、従来、授業内での多読に主眼がおかれ、授業外多読活動は、学習者の日本語学習上における多様な学習機会の提供や自律的教室外多読へのステップとしても発展性が期待されるものの、実践例はいまだ少なく、理論化も進んでいるとは言いがたい。
授業外多読活動の体系化への第一歩として、本稿では、本学で実践中の授業外日本語多読活動の試みを取り上げ、教室を超えた学習形態の1つとして特徴付けを試みる。その上で、開始後8か月経過時点での参加者へのインタビュー調査結果を報告する。調査では、活動への参加理由や活動から得られた学びをはじめ、多読のルールに対する意識や活動参加者の教室外における自律的教室外多読の実態について質的分析を加えた。
これらの分析結果を踏まえ、学習者の視点から、日本語学習全般における授業外多読活動の役割やファシリテーターの役割を考察するとともに、授業外多読活動を通じた自律的教室外多読への促進可能性についても検討し、今後の研究課題に触れる。
(高橋:東京外国語大学大学院博士後期課程 海野:東京外国語大学)
|