Montmartre

ルノワール、ピカソなど多くの芸術家が親しんだ、パリ市街を見下ろす丘、モンマルトル。
パリの北18区に位置するこの辺りは、19世紀末新興歓楽街となっていたクリシーに、 マネを中心とする若い芸術家達が集まるようになり、印象派からキュビズムに至る近代芸術誕生の中心地となった。 今でも丘の西側のふもとから中腹にかけての坂道に、当時のアトリエ建築を数多く見ることができる。
モンマルトルの丘の頂上にはエッフェル塔や凱旋門と並ぶパリのシンボル、 1871年のパリ・コミューン贖罪を目的に建てられたサクレ・クール大聖堂が壮観な姿を見せている。 この教会の前のテルトル広場には似顔絵描きが集まり、いつも観光客で賑わっている。

テルトル広場  テルトル広場2

モンマルトルは大通りのシャンゼリゼとは違い、古き良き雰囲気の小道が残る下町情緒あふれる街で、 画家のユトリロや写真家のブラッサイの作品に見られる坂道や階段もあちこちに見つけられる。

↓サクレ・クール大聖堂 ↓ムーラン・ド・ラ・ギャレット(ユトリロ作)
ユトリロ    ユトリロ2

ムーラン・ド・ラ・ギャレット(ムーランは風車の意)は、 17世紀モンマルトルのシンボルであった風車を製粉業者のピエール・オーギュスト・ドブレーが 1870年にダンスホールに改装したもので、ユトリロだけでなくゴッホ、ピカソ、ルノワールなど数々の芸術家を魅了した。ちなみにルノワールも同名の絵画を描いている(オルセー美術館蔵)。

映画の中のモンマルトル

・「アメリ」地図
「アメリ」の中でのモンマルトルは古きよき下町のフランスとして描かれている。 しかし、実際のモンマルトルは確かに下町情緒のある街なのだが、それと同時にパリ有数の歓楽街もある。 かの有名なムーラン・ルージュのあるクリシー大通りにはいかがわしい店が立ち並ぶため、歌舞伎町のようだとも言われている。 また、家賃や物価が安いために移民が多く、治安はあまり良くない。 しかし「アメリ」の世界ではこうした部分はほぼ完全に覆い隠されていて、 黒人やアジア人の移民の姿など全くと言っていい程映されていない。「アメリ」で描かれているのは想像のモンマルトルで、 外(他人)と対峙できない主人公アメリ・プーランの箱庭でもある。始め、物語の舞台はモンマルトルからほとんど動かず、 登場人物は同じアパートの住人や近所の青果店の店員、アメリの働くカフェの同僚などで、 モンマルトルは一つの閉じられた世界だった。

カフェムーラン コリニョン
↑アメリの働くカフェ            コリニョン青果店↑

映画の中では空想の世界に閉じこもったアメリが空想するモンマルトルと現実(映画「アメリ」の中での)の モンマルトルが入り交じって不思議な世界を作り出している。 排水溝に住んでいて、気弱な人が困った時にこっそり気のきいた科白をくれるプロンプター、世界周遊旅行をするドワーフ、 証明写真のなかの男は喋り、アメリの部屋のインテリア達も動き出す。
しかし、この不思議な世界は途中から意味を変えていく。アメリは隠されたまま忘れられた小箱を発見し、 それが運命を変えるきっかけとなる。今まで空想の世界に閉じこもっていたアメリは持ち主のブルトドーに小箱を返すことに成功し、 外の世界と対峙する決心をする。この時から閉じられた箱庭だったモンマルトルは、 少しづつ外と対峙できるようになってきたアメリと同様に、外側とのかかわりを持つようになる。 アメリが外と対峙できるようになる前、ニノに初めて会ったのは「アベス」というモンマルトルの地下鉄の駅、 つまり箱の内部だった。この時アメリはニノを見ても何も思わなかったが、 小箱を返した後2度目にニノと会った時にはアメリはニノに一目惚れをした。 その場所は東駅で、東方へ向かう国際列車の発着する外部へ開かれた駅だ。 こうしてアメリ(内)がニノ(外)に惹かれると同時に箱庭だったモンマルトルが外部との境界を薄れさせるが、 しかしアメリの空想と現実の混じった世界は無くなる訳ではない。あと一歩がなかなか踏み出せないアメリに対し、 外部からの逃避の結果生まれたはずのアメリの空想が今度は逆にアメリを心配し、 外部へ向けてアメリの背中を押すことになる。最終的にアメリはニノとハッピーエンドを迎え、 アメリは空想癖が変わらないまま外と付き合っていく。 つまり、内部と外部は完全に融和することもどちらか一方が排除されることもなく、 不可分の状態で両方が存在していくことになる。
こうして見ていくと、「アメリ」ではアメリの精神と外部、モンマルトルとその外側という関係が対応しているように思える。 だからこそ「アメリ」のモンマルトルは、歓楽街の影を消した居心地の良い内部でなくてはならなかったのかもしれない。


アメリ・オフィシャルサイト

・「ムーラン・ルージュ」

ムーランルージュ

「アメリ」で触れたように、モンマルトルは芸術の中心地というだけでなく、映画「ムーラン・ルージュ」に出てくるように個性的なバーやクラブが充実した夜遊びの街でもあった。「アメリ」では故意に省かれたその部分をモチーフにしたのがこの「ムーラン・ルージュ」である。---作成中---