いま外でこのように光に向かって頭をもちあげる心の安らぎ
太陽に照らされた、人々の目の色という心の安らぎ
ついに頭がおかしくなった
ついにもう一人ではなくなった
ついに頭がおかしくなった
ついに救われた
ついに頭がおかしくなった
ついに心静か
ついに馬鹿者
ついに心の中の光
そんなに馬鹿面してこっちを見るなよ!
人がくたばるのをまだ見たことがないのかよ?
くそ、こんなに簡単に死んじまうのか?
こんなふうに水たまりの中に倒れて、タンカーみたいな臭いをさせて。
いまここでこんなにふうにくたばるわけにはいかないんだ…
あいつらボケッとすっ立ちやがって! あいつらじろじろみやがって!
ああ油のシミが…
カーリン、あああいつにきのう言っとくんだった…
あれは簡単に手を離れてったな。
…残念だけど。ああカーリン!
いまはここに倒れちゃって。
そんなに簡単には…
だってまだやらなきゃいけないことが…
カーリン、だってまだたくさんやることが。
カーリン、赤ちゃん、おれはもうだめだ。
(彼の声は次第に意味不明になっていき、男に語りかけるダミエルがあとを引き継ぐ)
上に登って行き、谷をおおう霧の中から太陽の中へと足を踏み入れた…
家畜を飼っている野原の縁で燃える火…
灰の中のじゃがいも…
湖の畔にある遠くのボート小屋
極東、
極北の地、
ワイルド・ウェスト
ベイト・レイク!
トリスタン・ダ・クーニャ島。
ミシシッピのデルタ。
ストロンボリ。
シャルロッテンブルクの古い家々。
アルベルト・カミュ。
朝の光。
子供の両目。
滝で泳ぐこと。
おい、あんたたち何ボッと立ってんだ。どうなってるかわかってるんだろ。誰か救急医くらい呼んだのかよ!
ああ、くそ! こいつ耳から血を流してやがる。まちがいなく頭蓋骨骨折だな、こりゃ…
雨の最初の数滴がつくる染み。
太陽。
パンと葡萄酒。
ぴょんぴょん跳び。
イースター。
葉っぱの葉脈。
風にそよぐ草。
いろんな石の色。
小川の川底にある小石。
屋外で広げた白いテーブルクロス。
家で見る、家の夢。
隣の部屋に寝ている隣人。
日曜日の憩い。
地平線。
部屋から漏れる光の輝き…
庭で。
夜間の飛行機。
手放し自転車乗り。
知らない美人。
私の父。
私の母。
私の妻。
私の子供。
いままで孤独だったことは全然ないわ。一人で孤独だったことも、誰かと孤独だったことも。だけどやっと孤独になったというのもよかったわね。だって孤独ということは、私がついに完全になってるということだから。いまならそういえるわ。今日はやっと孤独になってるから。
偶然はもうこれでおしまい! 決断の新月よ。定めというものがあるかどうか知らないけれど、決断はあるのよ! 決断して! 私たちがいまや時代となっているの。
街全体だけでなく、全世界が… いまちょうど私たちの決断に加わっている。私たち二人はいまやただの二人じゃない。
私たちは何かを体現している。
私たちは国民の広場に座って、そしてその広場全部が人々でいっぱいになっている。その人たちは私たちと同じことを願っている。
私たちがその人たちに代わってゲームを決めるのよ。
準備はできてる。
こんどはあなたの番よ。
あなたがゲームを手にしてる。
いまか――そうでなければもうそのときはない。
あなたは私を必要としている。あなたは私を必要とすることになるわ。私たち二人の歴史/物語、つまり男と女の物語より大きな物語はない。それは巨人たちの物語になるでしょう。目に見えない、別のものに置き換えることのできる巨人たちの。新しい始祖の物語よ。私の目を見て! それは必然性を映し出しているイメージ、広場にいるすべての人たちの未来のイメージよ。きのうの夜、ある知らない男の人の夢を見たわ。私の夫の夢よ。ただその人とだけ、私は孤独になることができた。その人に心を許すことができた。その人だけに、すべてを打ち明けて。完全な存在としてその人を私の中に迎え入れて、二人一緒の至福の迷宮とともにその人を抱きしめることができた。
わかってるの、あなたがその人よ。