1998年度 インターネット講座
メディア・情報・身体 ―― メディア論の射程
第2回・第3回講義
マクルーハンのテーゼの論点
資料06
電気時代における感覚の逆転
- 「非文字社会の意識の基層に貫入すればするほど、二十世紀の芸術と科学についてのもっとも進歩し、かつ洗練された観念にわれわれは遭遇するのだが、この未開人による未来の先取り現象に当惑した今日の学者や物理学者たちも多かったに違いない。この逆説を説明することが本書の使命の一部でもあるのである。人間の認識様式が視覚型から聴覚型へと移行しつつあるこの電子技術時代にあって、この逆説的現象というテーマをめぐってさまざまな感情や論争が日々発生しているのだ。」(『グーテンベルクの銀河系』p.44)
- 「だが電気が地球的規模でわれわれの極端な相互依存の状態を作り出している今日では逆の流れが生じているのだ。いまやわれわれは同時発生するさまざまな事件をあたかも身の回りで起こったかのように部族的状況で聴き、また全感覚を動員して認知する聴覚世界へと急速に移りつつある。だが同時に文字使用の習慣は、われわれの話し方、感受性、日常生活における空間や時間の配置構成の中に執拗に生き続けている。決定的カタストロフィーによって崩壊でもしないかぎり、電気技術やそれから生じる「統一場の意識unified
field awareness」にもかかわらず、文字使用と視覚文化による歪みは将来の長きにわたって持ちこたえてゆくことと思われる。」『グーテンベルクの銀河系』p.48
- 「価値の問題は別にして、われわれが今日心して学ぶべきことは、電気技術がわれわれのもっとも日常的な知覚認識や行動習慣に根底から影響をおよぼす、ということである。そのため現代人たるわれわれの中に、いちばん未開的な心理状態が急速に再現されつつあるほどである。こうした変化は、われわれが批判的であるように訓練されている思想や意見の領域では起こらずに、われわれの、ごくごく普通な感覚生活のなかで、いわば思想と行動の渦、それらを形成する母胎とでもいうべき場所で発生する点がミソである。」『グーテンベルクの銀河系』p.51
- 「まずなによりもアルファベット文化の印刷文化としての面を研究することが本書の目的である。しかしながら、印刷物としてのアルファベットは、今日電子世界の新しい様式、有機的で生物学的な様式に遭遇するにいたった。すなわち、そのメカニズムが最大限にまで発達した頂点で、ド・シャルダンが説いたように、いまや電子・生物的なるものによって浸透されているのだ。そしてこの性格の逆転こそ、われわれの時代を非文字文化といわば性質を分け合う、「同性質connatural」のものにしているものなのである。われわれはいまや非文字文化的経験を、われわれの文化の内部において電子的に再創造したがために、未開社会の原住民の文化や非文字社会の文化を理解するにあたって何らの困難も感じない、というわけである。」『グーテンベルクの銀河系』p.73
- 「さて、われわれの時代は、電子的な同時性への圧力を受けて聴覚型話し言葉社会へと自らを再翻訳する事業に携わっているわけだが、この逆翻訳の過程のなかで、われわれは過去育成期にわたって人々が視覚型の比喩や様式を以下に無批判に受け入れてきたかをひしひしと感じているのである。」『グーテンベルクの銀河系』p.114
