その価値をしみじみと知るのはただ
浮気してほかのゼミを覗いた者のみ。
きょう華麗なる汝の美しさを
目に浮かべ、私は描き出す。わが焦がれる汝ゆえに。
そは地獄の翻訳ゼミで関口師に奇蹟の力で
その同じ奇蹟により必ずやわれらの胸に
卒業証書を与え賜わん。
今はせめてわが憧れの魂を連れ去り賜え
挽きたてのコーヒー香る、
大地震の恐怖におびえるあの空間へと。
絶えず騒がしい小学校、サークル棟
決まった場所でつまるショパンの音色、餌をねだる外大猫
何年も昔、そんな喧騒のさなか、ゴミ置き場に面した棟に
書物で基礎造りをしたシュラフタの研究室があった。
三方の壁を覆う本棚は天井に届くほど大造りながら、
テーブルに積まれた3メートルもの平積み本は
研究室のあちこちに積まれたプリントの山を見ても
ここはノック不要ですよ。どなたもどうぞお立ち寄りをと。
1 これはポーランド科史上最悪のパクリ屋(自称詩人)とされるヨシコ・オマタ(1976?-2033?)生前最後の長編叙事詩『パン・セキグチ』Pan Sekiguchi (1999)の全訳である.「国民的古典」とされるこの韻文作品は,ポーランド科・ダダッコ主義文学の最高傑作として高い評価が確立している.「パン」はパンでも食えないパンでポーランド語の敬称「氏」「殿」,「汎関口」の意ではない.
2 <足掻き>の訳語には多少の無理があると思うが,敢えて採用した.手短に言えば,足掻きとは「悪い状態から脱け出そうとして,どうにもならないのにいろいろやってみる行為」である.本田和子(1996入学)は訳語を「攪乱」,蜂谷有紀(1999Y・オマタと同期に大学院入院)は「奮闘」とし,英訳はditch fight,仏訳はlutteを当てている.原語のszamotaninaについての作者自身の説明はほぼ次のようになる.「卒論指導の前日になると半泣きになりながら机の上を辞書の山にして悪足掻きするんだよね.でも,一週間かかってやったことが指導中に5分でさっと済まされることもあって,ここでじたばたするのも我ながら見苦しいッス」
3 16-18世紀におけるポーランド人口の10%を占めた士族階級のこと.ちなみに関ゼミの学生の10%は金欠である.
4 関研(czyt. Seki-ken, Sekken)と呼びかけ,関ゼミとしなかったことは発表当時から論議の的となったが,詩人の育ちの悪さによる心情的な理由(先生がいないときのほうがお菓子が豊富で話もはずむもんね)からと一般に解されている.
5 Adam Mickiewicz (1798-1855) ポーランド・ロマン主義の生んだ国民的大詩人.代表作に『パン・タデウシュ』『父祖の祭』などがあり,オタク研究者も多い.
6 実在の大学.なぜかミキェヴィッチ(ママ)像がある.「大学のシンボルであり(略)実在の人物です」とパンフレットにも強調されている.A・ブールデル作.
7 山梨県立文学館前にミツキェヴィチ像の台座『叙事詩』(プロジェ 鋳造No.1, 1918)がある.(資料は1996入学内田まり子)
8 皆が皆とんちんかんな訳を提出したので,関口師は「大笑いし,タガが外れて壊れた」かと思われた.
9 八王子在住の研究者石川みゆきによると,この年は大豊作で,ポーランド中の古本屋を駆けずり回った関口師はゼミ生一人一人の研究分野に沿った書物を合計100s以上も購入したという.
10 宿題はEメールかフロッピーで提出のこと.しかし一度に添付ファイルを送りすぎると,このボロパソコンは凍結する.
11 学生の興味が文学,音楽,食文化,民俗から現代的問題はてはパソコンまでと多様なため,きめ細かい指導を行うために卒論ゼミはマンツーマンで行われることが多い.
12 もしもし,もう12月で申し訳ないんだけど,超重要参考文献が発掘されちゃったんだよね.900頁位あるんだけどさ,至急これに目を通してくれない? などという電話がある日突然ケータイにかかってくる(1996入学者平岩理恵『回想録』328頁).
13 関口ゼミでは科目等履修生や研究生の存在がつねにゼミ生に刺激を与えている.また,留学を前に下調べをしに来る外部の学生,授業を聴講しに来るポーランド人留学生など,ここは常に新しい人脈,新しい情報で湧きかえっている.
[1999/12/17検閲済]