―― 本稿は『問題と研究』第31巻10号(2002年7月)に掲載されたものです ――

二〇〇一年立法委員選挙における得票数変動の分析

小笠原 欣幸(東京外国語大学)

二〇〇一年一二月一日投票の立法委員選挙は,民進党が議席を大きく伸ばし,国民党が敗北するという結果で幕を閉じた。国民党は,獲得議席では前回の一二三議席から六八議席へと,また得票率では四六・四パーセントから二八・六パーセントへと大幅に低落し,二〇〇〇年総統選挙での惨敗に続く大敗北となった。わずか三年前,李登輝率いる国民党が圧勝したことを思い起こせば台湾政治の変化の速さと大きさに改めて感嘆せずにはいられない。今回の選挙では,親民党と台湾団結連盟党(以下,台連と表記)が参入し多党化の傾向を見せたが,その一方で,二〇〇四年の総統選挙を展望して,民進党と台連の与党勢力(以下,泛緑陣営と表記),および,国民党・新党・親民党の野党勢力(以下,泛藍陣営と表記)との対決という二極化構造も浮かび上がってきた。両者の力関係は,与党勢力が一〇〇議席,野党勢力が一一五議席を獲得し野党勢力の方が議席の点で上回ったが,与党勢力にも政権与党の利点と勢いがあり両者の力関係は拮抗している。本稿では,前回一九九八年の立法委員選挙と今回の選挙を比較し,有権者の票がどのように流れたのかを推測し,台湾政治の地殻変動の規模とその方向を検討したい。

民進党は勝利したのか?
まず,立法委員全面改選以降の民進党の得票率を確認しておきたい。《図1》で見るように,民進党の得票率は今回大きく上昇したわけではない。今回の得票率は九五年の水準とほとんど変わらない。九八年選挙で民進党の得票率は後退したが,民進党から分離した建国党と新国家連線の得票率を加えると三二・六パーセントとなり,三回の立法委員選挙を通じて民進党陣営の得票率の変動はわずか〇・八パーセントの帯の中に収まっている。また,従来から民進党の得票率は全体の三分の一程度で頭打ちになるという説があったが,今回もその壁を突破したわけではない。得票率の変動から見るならば,民進党の格別の勝利とは言えないのである。議席数で見ると,確かに民進党は一七議席増やして八七議席としたが,過半数の一一三議席からは依然として大きな開きがある。この図から読み取れるのは,今回の選挙結果の特徴は民進党の勝利ではなく国民党の敗北である。それでは,国民党の票はどこに流れたのであろうか。

《表1》泛緑と泛藍の得票率増減
  1998年 2001年 増減
泛緑 29.56% 41.14% +11.58
無所属その他16.95% 9.12% -7.83
泛藍 53.49% 49.74% -3.75

《表1》は,各政党の得票率を,与党の泛緑陣営と野党の泛藍陣営とに分類・合計し,その増減を示したものである。民進党と台連を合わせた泛緑陣営は得票率を一一・五八ポイント伸ばし大きく躍進した。すでに見たように民進党の得票率には大きな変化はなく,民進党単独の選挙結果では陳水扁政権が信任されたとは言えない状況であったが,陳水扁政権を支えることを公約にした台連の登場が立法院での勢力比を変える大きな要因となったことがわかる。
しかし泛藍陣営の方も,全体ではわずか三・七五ポイントの減少にすぎない。確かに泛緑陣営と泛藍陣営との差は,およそ二四ポイントから八・六ポイントへと縮小したが,《表1》を見ると,@泛藍陣営は全体としてほぼ五〇パーセントの得票率を確保し依然として強大な勢力であること,A泛緑陣営は前回の無所属その他の票に食い込んで得票を伸ばしたように読み取れる。これは,国民党と新党は大敗したがその分を親民党が吸収したように見えるためである。国民党と新党の票が親民党に吸収されただけならば,泛藍陣営内部での再編成が進行しているにすぎず,国民党の敗北は泛告w営と泛藍陣営の勢力図を書き換えるような大きな意味は持たないことになる。国民党の票がどのように流出したのかを量的に把握することができれば,今回の選挙のインパクトをより的確に判断することができるであろう。そこで,いくつかの合理的推測を重ねていくことによって,前回の九八年選挙で投じられた票が今回の選挙でどのように移動したのかを推定してみることにした。

《表2》全体の票の流れ
    1998年 増減 2001年
国民党 4659679-1710308 2949371
新党 708465 -438845 269620
親民党   +1917836 1917836
民進党 2966835+480905 3447740
台連   +801560 801560
無所属その他 1700850-759122 941728
棄権・無効 4926101+568728 5494829
合計 14961930+860754 15822684

《表2》は前回と今回の立法委員選挙における各政党の得票数および棄権者数の変動を示したものである。これにより,有権者全体の票の動きを把握できる。無効票は棄権と合わせて一つのカテゴリーとした(以後,棄権と表記してある項目は無効票を含む)。今回投票率は六六・一六パーセントであったが,投票率の計算では無効票が含まれるので,ここでの有効票を選挙人総数で割った数値は,投票率ではなく有効票を投じた割合になる。今回の選挙では有権者が八六〇七五四人増えたが,投票率が下がったため棄権者および無効票の合計が五六八七二八増えている。各党の得票数の増減ならびに棄権・無効票の増減を合計した数字が八六〇七五四となる。これと同じように各選挙区で得票数の増減を示す対照表を作成し,選挙区ごとに票の移動を推測し,最後にそれらを合計し台湾全体での票の移動を量的に示すことにする。

推測の方法
A党における流入数xaから流出数yaを引いたものがA党の得票の増減数,B党における流入数xbから流出数ybを引いたものがB党の得票の増減数,C党における流入数xcから流出数ycを引いたものがC党の得票の増減数である。A党からC党への流出数yacとB党からC党への流出数ybcの合計はC党の流入数xcに等しい。このように各党の票の流出入の等式を作り,均衡点を探る作業を続ける。

@新しい有権者の票を推測する
前回選挙と比べて有権者の数は台湾全体で八六〇七五四名増えた。この間に死去した人の票の行方は考慮せず,新たに選挙権を得た二〇−二三歳の有権者の票が加わったとみなす。各選挙区の有権者数を確認すると,台東県で有権者が三七八名減っている以外,すべての選挙区で有権者が増えている。各県市間の人口の転出入については,台湾の場合有権者は現住所ではなく戸籍のある場所で投票を行い,引越しをしても戸籍を変えない人が多いのでカウントしない。
新たに加わった有権者の数に各選挙区の投票率を適用し推定投票数を算出し,そこからさらに無効票発生率を掛けて算出した推定無効票数を差し引く。次に新規有権者がどの党に何票投じたかを推測する。基本的にはその選挙区の各党の得票率に応じて配分するが,この新規有権者が二〇歳以上二三歳未満の若者であることを考慮し,民進党と親民党の得票をやや多めに加算し,国民党の得票はやや低く算出するように調整した。調整の幅は各選挙区の情勢,ブームを起こした候補がいるかどうかに応じて若干変えてある。計算の繁雑を避けるため,新党の新規獲得票については一定の得票率をあげた台北市第1,台北市第2,台北県第3,基隆市,新竹市,金門県でのみカウントする。台東県では新規有権者の票はゼロとして扱っている。各選挙区の推定得票数を合計した数字は,国民党一四五一二一票,新党六一五七票,親民党一三四一四〇票,民進党二〇〇二四五票,台連四三〇七九票,無所属その他三六三八四票,無効棄権二九六〇〇六票となる。これらの合計は八六一一三二となるが,台東県で有権者数が三七八名減少しているので,そこから三七八を引いたものが,台湾全体で前回選挙と比べて増加した有権者の数八六〇七五四である。

A候補者の属性を判断する
前回選挙から連続して立候補しかつ所属が異なる候補者をリストアップする。前回国民党公認で当選し今回親民党から立候補した候補の票は,国民党から親民党へ流出した票としてカウントする。台北市第1の秦慧珠,台北市第2の李慶安,基隆市の劉文雄,台中市の沈智慧らがこのケースである。票数については各党の流出入と合わせて判断する。前回国民党で今回台連から立候補した候補の票は,国民党から台連に流出した票とカウントする。高雄市第2の羅志明がこのケースである。前回無所属その他で立候補し今回は親民党公認となった候補者の票は,無所属その他から親民党に流入した票とカウントする。桃園県の邱創良,台中市の黄義交らがこのケースである。数は少ないが前回無所属その他で立候補し今回は国民党公認という候補もいる。台中県の劉銓忠らがこのケースである。この場合は,無所属その他から国民党に流入した票とカウントする。こうした候補者の票は当落にかかわらずリストアップしていく。台北県第2の台連公認候補の李日煌(落選)は前回無所属で立候補(落選)しているので,李が獲得した票は,無所属その他から台連に流入した票としてカウントする。前回民進党から立候補し今回台連に鞍替えした候補はいないので,民進党から台連に流入した票はカウントされない。台南県の台連候補謝錦川(落選)は九五年選挙で民進党公認候補として台南県で当選したが,九八年選挙の際は公認が得られず無所属で立候補し落選している。したがって謝錦川の票は無所属その他から台連に流入した票とカウントする。
次に連続立候補ではないが,前回の候補の票を引き継いだと考えられるケースをカウントする。前回南投県では無所属の陳振盛がトップ当選している。陣振盛は親民党に加わり,今回は親民党公認で県長選挙に出馬し,立法委員選挙で親民党公認の陳志彬を応援した。したがって陳振盛の九八年の票が〇一年の陳志彬に引き継がれたと推測できる。その票数については,他の要素を先に算出した残りの票数とする。雲林県で九八年に民進党の公認を得られず無所属で立候補した蘇治洋(落選)は北港の蘇家の人物である。今回の選挙では妹の蘇治芬が民進党公認候補として出馬し当選した。この場合,蘇治洋の得票は蘇治芬が継承したと考えられるので,票の流れとしては無所属その他から民進党への流入としてカウントする。嘉義県の無所属候補張淳美は,前回民進党公認で当選した夫の何嘉榮に代わっての出馬であるので,民進党から無所属その他に流出した票としてカウントする。このように各政党各候補について票の流出の要素,流入の要素がないかを検討する。なお,台連の候補者で民進党から移った人物は九名いるが,いずれの選挙区でも民進党の得票が伸びており,民進党から台連への票の流出を示す票の動きはカウントできなかった。

B親民党の得票を推測する
親民党は今回の選挙が初めてなので,親民党の獲得した票から新規有権者が投じた票数を差し引いた残りは,前回,国民党,新党,民進党,無所属の候補者に投じられていた票である。投票率が上昇した選挙区では,前回の棄権票が今回親民党に回った票もある。まず,新党から流出した票はすべて親民党が吸収したものと見なし,新党票を差し引く。次に前回の無党籍その他候補者の票で,今回親民党が吸収したと考えられる票の有無を判断する。あればその票数を差し引く。前回選挙で,諸派の民主連盟の候補は,国民党に飽き足らない保守層に改革をアピールしていたので,そのうちの一部候補の票は今回親民党に流れたと考えられる。これら票数の少ない候補の票も積み重ねてカウントする。残った票数は国民党から流出してきたと見なす。投票率が上昇した選挙区では,棄権票の減少分についても考慮する。この作業の中で先にリストアップした要素も投入する。これらの流入票数は,他党の得票の増減数との均衡点を見出す作業の中で詰めていく。

C台連の得票を推測する
台連も初登場の政党なので,新規有権者の票を差し引いた残りは,前回,国民党,新党,民進党,無党籍の候補者に投じられていた票である。ただし,新党の票はすべて親民党が吸収したと仮定している。民進党から台連に流れた票は,民進党が各選挙区で得票を伸ばし,候補者の票の動きでもカウントできるものがないので無視するほかない。民進党が得票数を減らしていれば台連に流れた票数も捕捉できるが,民進党の得票数が増えているので,そこから流出した票数は想像するよりほかなくなるからである。台連の票は国民党,無所属その他から流れてきたと絞り込む。投票率の上昇した選挙区では,前回の棄権票から台連に流入した票も考慮する。
票数は次のように算出する。台連の獲得した票数から新規有権者の票を差し引く。台連の候補で前回無所属その他から立候補している候補の場合は,前回の票が無所属から台連に移動したものとしてカウントする。前回の無所属その他の票で今回その票が台連に流れたと考えられる候補がいないか判断する。いればその票をカウントする。前回民進党から分離した建国党と新国家連線に票を投じた有権者は民進党に不満を持っている人なので,今回も民進党ではなく台連に票を投じたと仮定し,その票をカウントする。ただし台南市の許添財は,前回は新国家連線の候補として立法委員に当選し今回は民進党の公認で市長選挙に立候補しているので,前回(新国家連線)の票は民進党に移動したものとカウントする。これらの票を加算したものを無所属その他から台連に移動したと票として差し引く。その残りは国民党から流入したものとみなし国民党の流出票にカウントする。投票率が上昇した選挙区では前回の棄権から台連に向かった票がないか判断する。

D国民党の得票を推測する
国民党の前回の得票数から今回の得票数を差し引く。流入した票として,新規有権者の票および先にリストアップした特定要素の流入分を加える。ここから親民党に流れた票と台連に流れた票を差し引く。残りの票は民進党と棄権に流れたと考えられる。投票率が大きく下がった選挙区では棄権に回ったと判断し,投票率の大きな変動がなく民進党の得票が増えている選挙区では民進党に流出したと判断する。離島など一部特定選挙区では選挙区の事情で特殊な票の流れが発生している。澎湖島の場合,国民党現職の林炳坤が党内規定(排黒条項)により公認を得られず無所属候補として出馬し,国民党も候補を擁立せず林を支持したので,形式的には今回の林炳坤の得票は国民党から無所属に移動した票となる。金門島では立法委員選挙,県長選挙ともに新党候補が当選し,国民党の票を取り込んでいる。

E無所属その他候補の得票を推測する
無所属その他候補の前回の得票数から今回の得票数を差し引く。これに新規有権者の票を加える。一部特定選挙区での国民党から無所属への票の移動分を加える。ここから親民党に流れた票と台連に流れた票を差し引く。前回無所属で今回国民党に移った特殊な票を差し引く。残りは民進党と棄権に流れた票なので,他の項目との均衡点を探る。

F民進党の得票を推測する
民進党の今回の得票数から前回の得票数および新規有権者の票を差し引く。この純増分は国民党または無所属その他から流入してきたものである。この段階では国民党および無所属その他の流出票の内訳が定まっているので,票数は機械的に絞り込まれる。一部の投票率が上昇した選挙区では前回の棄権票からの流入をカウントする。逆に投票率が大きく下がった台北市,高雄市では得票数が減った分を棄権に回った票としてカウントする。

G棄権票の流れを推測する
最後に棄権無効票の変動を判断する。投票率が若干下がって棄権票が増えた選挙区では,棄権票は国民党および無所属その他から来ている。投票率が大きく下がった台北市と高雄市では民進党からも来ている。逆に投票率が上がった選挙区では,棄権票が減少しその分は親民党,民進党,台連のいずれか,また選挙区によっては無所属に流れている。それぞれの項目の増減と照らし合わせて票数を判断する。

推測の結果
このようにそれぞれの項目の増減表を一致させる作業を通じて票の流れを推測したが,この方法では把握できない票の流れもある。それは,すでに記したように民進党はほとんどすべての選挙区で得票を増やしているので,民進党から流出した票をカウントできないということである。実際には,前回民進党に投票した人で今回,国民党,親民党,台連,無所属に投票した人もいたであろう。ただし国民党は,民進党との対決という選挙戦で大敗したのであるから民進党から国民党にスイッチした人の数は無視しうる程度であろうと考えられる。民進党から親民党にスイッチした人の数も,台湾の有権者の政党帰属意識を考慮すると多いとは言えないであろう。民進党から台連に票が流れることは十分ありうるが,個別候補者の票の動きを見てもその流れは捕捉できなかった。民進党から台連への流出があったと仮定して票数を試算すると各項目の等式がかえって不自然なものになるので,票数は多くなかったと考えてよいであろう。各選挙区の推測作業の結果は文末にまとめて掲載する。各選挙区の票の動きを合計した台湾全体の票の移動は次の《表3》のようになる。流出先,流出票数,流入元,流入票数の部分が筆者の推測作業によるものである。

《表3》台湾全体での票の移動
  1998年 流出先 流出票数 流入元 流入票数 2001年
国民党 4659679親民党 778555 新規 1451212949371
民進党 294471
台連 358508
棄権 337228 その他143358
その他 224044
新党 5981
新党708465親民党 442685 新規6157269620
その他 2089
その他 10387 国民党 5981
親民党       新規1341401917836
新党 442685
その他 365059
国民党 778555
棄権 197397
民進党2966835棄権 190843新規2002453447740
国民党294471
その他25160棄権111912
その他90280
台連       新規43079801560
その他343463
国民党358508
棄権56510
その他1700850 親民党 365059 新規 36384941728
台連 343463 国民党 224044
国民党 143358 新党 10387
民進党 90280 民進党 25160
棄権 126123 棄権 15275
新党 2089
棄権4926101民進党 111912新規2960065494829
親民党 197397 国民党 337228
台連 56510 その他 126123
その他 15275 民進党 190843
人口流出台東県 378  
合計14961930  4119706  498046015822684
※その他は,無所属その他を指す。

《表4》国民党から流出した票の内訳  
  流出票数 流出率
親民党 778555 39.0%
台連 358508 17.9%
無効棄権 337228 16.9%
民進党 294471 14.7%
無所属その他 224044 11.2%
新党 5981 0.3%
合計 1998787 100%

国民党から流出した票の推測値は《表4》にあるように一九九八七八七票で,うち泛告w営に流出した票は全体の三二・六パーセントと推測される。国民党の連戰執行部の観点からすれば,棄権票と無所属候補に流れた票は十分取り戻すことができる票なので,親民党への流出を食い止めれば国民党はまだやっていけると見ているであろう。しかし,棄権票と無所属への流出を除外して,国民党から親民党・新党に流出した泛藍陣営内部での票と民進党・台連へ流出した泛告w営への票とにまとめると,泛藍陣営内部での票の移動は七八四五三六票,泛告w営への流出は六五二九七九票と推測され,両者の比率は,五五対四五である。国民党の支持基盤の中で連戰執行部に不満を持つ勢力が親宋楚瑜派と本土派の二つに分裂していることはすでに指摘されているが,両者がどれほどの勢力比なのかこれまで数字が示されることはなかった。この比率は泛藍系が上回っているので連戰執行部が親民党との野党連合に動いた背景を説明するし,勢力比がこれほど接近していたために李登輝が台連を立ち上げた計算の根拠を示してもいる。国民党が陳水扁政権と対決していくのか協調していくのか,どちらを選択していようとももう一方の支持者の票が流出していく構造が現れている。この比率は,国民党が台湾政治の中心を形成し両翼の新党と民進党を押え込んでいた構造から二極化構造に変化したことを裏づけるものと言えよう。
国民党から棄権という形で流出した票の意味は二通りある。台北市と高雄市では今回投票率が大きく下がったが,これは前回が市長選挙との同日選挙で,選挙戦が過熱し投票率が非常に高かったためである。棄権票として流出したのは国民党も民進党も同じであったので,必ずしも国民党の集票力の低下と結論づけることはできない。これらの棄権票は都市部の浮動票であり,市長選挙,総統選挙などで熱気が高まれば投票場に戻ってくるであろう。一方,雲林県などに代表される地方での棄権票の増加は,地方派閥の動員力低下によるものと考えられる。選挙違反の取締り強化,有権者の自立意識の高まりなどにより地方派閥の強引な票固めが通用しなくなっていることが背景にあるので,一旦棄権票として流出した票は今後国民党には戻らないであろう。このようなケースは,雲林県の他に苗栗県,台中県,嘉義県,高雄県において観察される。
無所属への流出票はそれぞれ候補者に伴って移動したもので,候補者の属性によって性格が異なっている。国民党の公認を得られず無所属で出馬した候補についていった票は,潜在的に泛藍陣営の票である。また,台北県第3の趙永清や嘉義県の張花冠は当選後民進党議員団と行動を共にしているので,事実上泛告w営への流出ということになる。無所属票は各候補者の個人票の性格が強いので,今後の動向によって国民党から泛告w営へ移動していく候補者および票の経由地となる可能性がある。九八年選挙の時は国民党の周りの無所属票が厚い保守層を形成していたが,そのような構造は崩れている。 このように棄権票と無所属への流出票はどちらも簡単に引き戻せる状況にはないが,連戰執行部にとって,より厄介な問題は票の流出は終わっていないということであろう。連戰は総統選挙と立法委員選挙で敗北したので求心力の低下は避けられない。国民党の票がさらに崩れていく時,その流出方向と比率は今回の数字が参考になるであろう。

《注》各候補の得票数については,『中国時報』Leading2001立委縣市長大選(http://leading2001.chinatimes.com/)および中央選挙委員会歴屆公職人員選舉資料(http://vote.nccu.edu.tw/cec/cechead.asp)を参照した。

※各選挙区の試算データは『問題と研究』第31巻10号(2002年7月)をご覧ください。