なぜ今,東京外国語大学か?
――大学と専攻を選ぶためのQ&A:2004年2月最新版
03 February 2004 

●目次-----------------------------------
Q:大学は何をするところか?
Q:大学で何を学ぶかが明確でないといけないのか?
Q:東京外国語大学の名称は?
Q:東京外国語大学には学部が1つしかないのになぜuniversityなのか?
Q:東京外国語大学では何が学べるのか?
Q:研究の水準は?
Q:朝鮮語専攻の卒業生の進路は?
Q:朝鮮語学専攻の大学院修了者の進路は?
Q:留学は?
Q:韓国からの留学生はどのくらいいるのか?
Q:本当に留学生たちと共に学べるのか?
Q:朝鮮語の授業はどのように行うのか?
Q:朝鮮語が話せるようになるのか?
Q:英語と両立できるのか? 
Q:新キャンパスは何が変わったのか?
Q:大学はどう変わってゆくのか?
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東京外国語大学は,現在,猛烈に変わりつつあります.
 

数ある大学の中から東京外国語大学を選ぼうとする皆さんや,大学の選択に迷っている皆さんの参考になればと,これを書いています.

Q:大学は何をするところか?
あなたは大学で何を学びたいのでしょうか?世間ではしばしば大学は遊ぶところのように言われていますが,大学生活の中心は何かというと,実はやはり勉強ということになるでしょう.その証拠に大学には単位を修得するという制度があって,決められた学習単位を修得しなければ卒業できません.サークル活動をいくら熱心にやっても卒業できるわけでもなく,勉学以外のことを大学生活の中心に据えるわけにはゆきません.だとすると,どうしても何を自分が学びたいのかということをある程度はっきりと見据える必要があります.大学は勉学をするところなのです.

Q:大学で何を学ぶかが明確でないといけないのか?
言語を学びたいのか,文学を学びたいのか,あるいは歴史や文化を学びたいのか?もちろん,大学を出た後に何をしたいのかということがはっきりしていれば,おのずと大学でやることもそれなりに明確になってきます.しかし,多くの高校生や受験生にとっては,大学にはいる前に入った後のことなど決まっていないのが普通でしょう.だとすれば,とりあえず大まかな方向性だけは決めておいて,大学生活を送りながら,より幅広い視野から自分のその後の在り方を考えてゆくことになるでしょう.

Q:東京外国語大学の名称は?
東京外国語大学では何が学べるのか?大学の名称からの印象では,外国語しか学べないように聞こえるでしょうか?英語の名称は ”Tokyo University of Foreign Studies”となっていますので,こちらでは外国研究の大学という印象を与えるでしょうか.いずれにせよ,外国語や外国研究ということが特徴なのだろうということはわかります.学部の名称も外国語学部ですね.

Q:東京外国語大学には学部が1つしかないのになぜuniversityなのか?
東京外国語大学は単科大学なのにどうしてuniversityと言うのかという質問がままあります.東京外国語大学の外国語学部は,160名以上の教官を抱える巨大な学部で,日本の一般の大学の学部の大きさから見れば,学部を3つ4つ合わせたような大きさになっています.学部の内部は,言語・情報講座,総合文化講座,地域・国際講座という3つの講座に教官が別れて所属しており,ちょうどこの3大講座が学部ぐらいの大きさになっているのです.学部のほかに,大学院地域文化研究科という部局が置かれています.こちらは博士前期課程(いわゆる修士課程)と博士後期課程(いわゆる博士課程)まで完備しています.外国語学部で博士課程まで整っている大学もそう多くありません.大学院には対照言文情報講座という,新しい講座が2002年度より設置されました.ここでは日本語と韓国語の対称言語学的な研究を行っています.さらに,東京外国語大学にはいま1つの部局として,アジア・アフリカ言語文化研究所(AA研)という大きな研究所があり,ここにも40名ほどの教官が所属し,先端的な研究をしています.これは付置研究所といって,大学によくある学内の研究所のような小さな研究所ではありません.また府中には,留学生日本語教育センターという部局があります.ここにも30名以上の教官がおり,国費留学生の学部前段階の予備教育を行っています.センターは日本語教育で世界的にその名を轟かしています.東京大学や筑波大学のようなタイプの総合大学とは異なりますが,こう見てくると,単科大学と入っても,東京外国語大学の中身はずいぶん豊かで大きなものなのだということがおわかりでしょう.

Q:東京外国語大学では何が学べるのか?
ことばが学べるのはもちろんですが,学部だけとっても,言語系の教官は3分の1で,残りは文学や文化,歴史,社会,国際関係論,情報学等々,多くの分野に渉っています.朝鮮語専攻を見ると,言語学の専任教官が3名(うち1名は客員教授),文学が2名,歴史が1名,宗教学が1名,計7名という構成になっています.このほかにさまざまな分野の非常勤講師が講義を担当しています. 2002年度からは,新たに3名の朝鮮語学の教官が赴任し,朝鮮語学を専門とする専任教官だけでも5名,朝鮮語関連教官で10名を擁する,文字通り,韓国・共和国以外で,つまり海外で最大の朝鮮語教育研究機関となっています.朝鮮語学の専門家が5名もいる大学というのは,韓国内でも珍しいほどで,世界の注目を集めています.
学生は3年次に言語・情報コース,総合文化コース,地域・国際コースの3つのコースの中から1つを選択します.1,2年次でいわゆる語学としての朝鮮語の基礎を学んだ後,言語に関連する研究をしたい学生は言語・情報コースへ進み,文法論や語彙論の研究,音声学や音論の研究,言語教育の研究,言語と情報学の関連研究などをテーマに研究します.これらは朝鮮語を対象にする研究もできるし,より広く一般言語学的な観点や対照言語学的な観点からの研究もできます.文学関連の研究をしたい学生は総合文化コースを選択します.地域研究や歴史的な研究,国際学的な研究,社会学的な研究など,その他の広い分野の研究は地域・国際コースを選択します.どのコースを選択した学生も,希望するものはテーマによって指導教官を選び,いわゆるゼミに所属しながら卒業論文を執筆します.
外語大全体の教官の専攻分野別に考えれば,言語学関係の教官が最も層が厚いことは明白です.文学の教官もかなりの数に上ります.

Q:研究の水準は?
専攻として扱われている言語は26言語あり,講義がある言語は50を超えます.これだけの多様な言語の研究者が揃っている大学は世界でも稀なのです.英独仏中などは他の大学でも専攻語として置いているところも多いのですが,アジア系の言語では東京外国語大学が世界的な研究の中心である言語がたくさんあります.2002年10月には,日本中の大学院が競った,COEと呼ばれる研究拠点に採択されました.人文系大学院のなかで,いわゆるTOP30と称されるなかに入っているわけです.超一流大学からの応募が多々採択されずに終わっているなかで,東京外国語大学は全国30のうちの2つのプロジェクトが採択されています.また,朝鮮語専攻だけ見ても10名の専任教官を擁しており,文字通り世界的な研究の拠点になっています.とりわけ,文法論や語彙論,日韓対照研究,朝鮮語教育の研究においては質量共に最先端の研究を行っている,国際的な研究の前衛だと言えましょう.欧米における朝鮮語研究とは比較にならないほどです.『朝鮮学報』という,日本最大の朝鮮学の学術誌に過去12年間に掲載された朝鮮語学関連論文の43%は東京外国語大学大学院出身者が執筆しており,他大学を寄せ付けない,文字通り日本でも最大の研究拠点です.朝鮮史や朝鮮文化関連は,活発な研究成果をあげている他大学もありますが,朝鮮語学や日韓対照研究では東京外国語大学が圧倒的な優勢を誇っているのが現実です.朝鮮語や朝鮮関係の図書も相対的には非常に充実していると言うことができます.

Q:朝鮮語専攻の卒業生の進路は?
朝鮮語専攻の卒業生の進路は就職と大学院への進学の2つに分かれます.東京外国語大学全体の就職率は80%ほどという数値が出ていますが,在外公館などへの勤務は2年ぐらいの契約制なので,この数値には含まれていません.実際には公表された数値以上のかなりの者が職に就いていると言えるでしょう.大学院は言語学系では東京外国語大学に進みますが,それ以外では近年は東京大学や一橋大学,横浜国立大学,東京都立大学,慶応大学などの大学院への進学も見られます.現在の4年生の1学年は35名ほど,1年生は30名ほどですが,大学院への進学者は毎年1-4名ほどで,残りは全て就職となっています.
就職先を見ると,金融,マスコミ,通信,運輸,製造,教育,ハイテク産業など,極めて多岐にわたっており,一概には言えません.卒業生に聞くと,実際に外国語を活用している場合は,英語と朝鮮語の両方,英語だけ,朝鮮語だけ,という場合に分かれるようです.韓国で勤務している卒業生もかなりの数に上ります.2年ほど前でしたか,女子学生の就職難が問題になっている折りに,東京の1チャンネルから12チャンネルのほとんどに朝鮮語専攻の女子学生が就職して週刊誌に取り上げられたこともありました.
上述の3つの選択コースのうち,どのコースを選ぶかということと就職先や就職率との相関関係はあまりないようです.ちなみに朝鮮言語学でこの1,2年の間に卒論を執筆した学生の就職先は,金融と情報通信,いわゆる大企業でした.いずれも女子学生です.
英語や朝鮮語の教職をとることも可能です.英語はもちろん,実際に朝鮮語を高校で教えている卒業生もあります.

Q:朝鮮語学専攻の大学院修了者の進路は?
大学院修了者は,これまでは皆ほとんど研究者への道を歩んでいます.これまでの朝鮮言語学専攻の修士課程修了者は12名ほどいますが,うち6名は大学の専任教官になっています.残りの修了者中4名は現在ソウルに留学中,1名は広告・情報関係の企業に就職しています.留学中の者を除くと,総数は少ないものの,大学の教員への就職率は100%という勘定になります.文学や歴史など他の朝鮮関係の専攻でも大学の専任教官を輩出しています.学部と大学院を通じた研究者養成という点では,大変な実績を上げていると言われています.世の中ではともすると学部からの就職だけが問題にされがちですが,研究者養成というこの点は,東京外国語大学は朝鮮語専攻だけでなく,他の専攻でも高く評価されています.また,修士課程修了者を求める企業や国際機関の要請が高まるにつれ,今後は研究者以外の道へ進む者ももっと現れるであろうと予想されます.

Q:留学は?
朝鮮語専攻から韓国へ留学する学生は非常に多いと言えます.まず,大学から選抜して国費で送る留学生は,留学生交換協定を結んでいるソウル大学や延世大学へ3,4年次に留学します.年間1,2名ほどです.休学して1年留学すれば5年で卒業,休学しないで単位を認定してもらえば4年で卒業も可能です.このほか,ロータリー財団の奨学金やその他の財団の奨学金で留学をする場合もあります.私費でも多くの学生が留学しています.私費での留学でも,延世大学なら学費免除が恩恵が得られます.また,1年だけでなく,3ヶ月ほどの短期の語学研修留学に行く学生も数多くいます.3年生ぐらいで1年ほど留学して帰って,韓国人に間違われるほどにことばの運用能力が身についている学生もたくさんいます.2,3年の先輩後輩だけでも,おそらく常時5人から10人ほどはソウルにいるかもしれません.

Q:韓国からの留学生はどのくらいいるのか?
東京外国語大学には2002年度で4355人の学生がいますが,うち592人は留学生です.8人に1人が留学生なわけで,この比率は全国の大学中おそらく第一位だと思われます.そのうち173名が韓国からの留学生です.この数字は驚くべきです.朝鮮語を学ぶ日本語母語話者の数よりも多いのです.朝鮮語を学ぶ環境としては海外最高の環境にあるといえましょう.日本課程で日本語や日朝対照言語学を学ぶ学生もいれば,朝鮮語専攻に交換留学生として来ている学生もいます.また,韓国からの留学生だけでなく,朝鮮語を母語とする,中国の朝鮮族の留学生や,あるいはウズベキスタンのタシケント東洋学大学の朝鮮語専攻学生も来ています.

Q:本当に留学生たちと共に学べるのか?
大学の食堂や喫茶などに入れば,日本語の他に朝鮮語が必ずといってよいほど聞こえてきます.授業でも同じで,例えば「朝鮮語学概論」という授業などは,20数名ほどの学生のうち,3分の1が日本人学生で,3分の2は韓国人が占めています.日本語専攻の韓国人学生もいますし,中国の朝鮮族の学生もいます.在日韓国人・朝鮮人学生もいます.言語・情報コースを選択した学生なら,どの専攻でも「朝鮮語学概論」を選択することが可能だからです.この講義の半分は朝鮮語で行なっています.
また,学部の3,4年生から大学院生,教官たちまでが参加する「朝鮮語演習」という,朝鮮言語学のゼミは,留学生も日本語を母語とする学生も,皆,朝鮮語で発表し,朝鮮語で討論をしています.3年生が朝鮮語で発表するのは当然のこと最初は非常に難しいのですが,何度も発表や討論を繰り返すうちに聞き取れるようになり,発表も上手になってきます.日本語を母語とする学生から見れば,留学に行かずとも,東京外国語大学の大学空間は,いわば<疑似留学空間>とも言うべき様相を呈しているのです.このことは東京外国語大学の国際性を物語るものでしょう.様々な民族が集う<族際的な時空間>なのです.
最新の雑誌の「人事部長が評価する」大学のランクづけでは,東京外国語大学が「国際性」の点で,第2位に挙げられていましたが,上のような事実がその「国際性」を裏付けてくれるでしょう.
また,東京外国語大学日本課程の韓国人留学生は,その驚くべき日本語の実力に現れている通り,皆優秀な学生たちですし,ソウル大学や延世大学からの留学生は,言うまでもなく極めて優秀です.こうした意味でも,東京外国語大学の<族際的な大学空間>は,極めて知的な刺激に満ちた空間なのだと言えます.

Q:朝鮮語の授業はどのように行うのか?
朝鮮語の授業は,週6コマの1,2年の専攻語の授業が基礎になります.1年生の場合を例にとると,朝鮮語母語話者の教官3名と,日本語母語話者の教官3名が担当します.1年のうちから3名もの母語話者の教官に接することができる大学や専攻も,日本では極めて少ないのが実情です.この点でも東京外国語大学の朝鮮語専攻の充実度がわかるでしょう.1学年は30名が定員です.6コマのうち,1コマは15名ずつのクラスで授業を行います.6コマの授業は,朝鮮言語学専攻の教官が統括し,毎回の進度を調整しています.試験の成績はもちろん,個々の学生の発音,授業への参加度などに至るまで,常に連絡を取り合いながら有機的な連関のもとに授業を進めています.1999年度の全学の学生へのアンケートでは,週6コマの授業の連携がとれているという点で,朝鮮語専攻は最高レベルの評価を得ています.

Q:朝鮮語が話せるようになるのか?
きちんと学習さえすれば,必ず話せるようになります.朝鮮語の授業は,以前は,読むことが中心で,話すことは学生の自己学習に負うところが大きかったのですが,ここ1,2年を期に,急速に教授方針を変革しつつあります.読むことはもちろん,書くこと,話すこと,聴くことにも授業の重点を置いて授業を構成しています.言わば必ず話せるようにするといった方針を推し進めているのです.書物だけに触れていればよい時代はとっくに終わりました.我々の周囲に,ほら,東京外国語大学のキャンパスの中にも,たくさんの韓国語話者が存在するのです.「アンニョンハセヨ(こんにちは)」と語りかければ「アンニョンハセヨ(こんにちは)」と笑顔が返ってくることの喜びを,私たちは何よりもまずわかちあいたいのです.その上で,単なる会話を学ぶような水準ではなく,どこまでも学問的な水準で言語をわがものとし,文化を語りうる人材を養成しようと考えています.

Q:英語と両立できるのか?
もちろんです.一昨年,朝鮮語学の研究室で卒論を書いて光学メーカーに就職した女子学生は,TOEICで930点をとっています.また,日本語教師資格試験に合格している卒業生もいます.現在の外語大は,そうしたことがいくらでも可能なのですね.でも,もちろん本人の志と努力あってこそですよ.

Q:新キャンパスへは何が変わったのか?
東京外国語大学は,現在,猛烈に変わりつつあります.その1つが,キャンパスの移転です.学部と大学院は,すでに東京都北区西ヶ原のキャンパスから,東京都府中市朝日町の府中キャンパスへ完全に移転しました2000年後期の授業から全ての授業を新キャンパスで行っています
皆さんは全く新しい建物で,新鮮な気持ちで学ぶことができるわけです.キャンパスは西ヶ原キャンパスの約3倍の広さになっています.巨大な研究講義棟をぜひ一度ごらんください.全室冷暖房完備のモダンな建物です.キャンパスの情報化の点では,最新鋭の設備が投入され,現在の情報環境とは比べ物にならないほどの環境を享受できるようになります.学生の数あたりのパソコンの台数は,国立大学でも東大や京大をはるかに凌ぐ比率になっています.大学院生のための巨大な院生研究室には新しいコンピュータがずらりと並んでいます.インターネットの回線も極めて高速なものです.学生食堂や大学会館など,学生向けの施設もはるかに向上しており,さながら洒落たデートコースとでも言えるほどです.他大学に進学した友人たちからも,きっとうらやましがられるでしょう.数年後には国際交流会館という留学生の巨大な寄宿舎も計画されており,かつ府中の留学生日本語教育センターも府中キャンパスに合流します.府中キャンパスには文字通り国際的なキャンパス空間が現出するわけです.

Q:大学はどう変わってゆくのか?
繰り返しますが,東京外国語大学は,猛烈に変わりつつあります.大学内のいわゆる自己点検活動や,FDと呼ばれる教官の自己変革活動も大きく動き出しています.細部にいたるまで,問題点を明らかにし,よりよい授業作りをめざしています.旧弊を大胆に捨て,新しい大学作りに歩み始めているのです.

さあ,このページが皆さんのお役に立つことを祈ります.
もう東京外国語大学を選択するのに迷う必要はありません.
東京外国語大学のキャンパスでお会いしましょう!

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