研究テーマ

 


 

研究の概要

 20世紀フランスの3つの主要な文化・思想潮流、シュルレアリズム、実存主義、構造主義の提起した諸問題を共有しつつ同時につねにそれらとの違和を表明し、フロイトの精神分析やハイデガーによる哲学的思考の更新と響き合う問題系を抱えて、20世紀世界のあり方に独自の考察を深めたジョルジュ・バタイユやモーリス・ブランショ、あるいはユダヤ人哲学者エマニュエル・レヴィナスの 著作を研究することから、アウシュヴィッツとヒロシマを経験した現代世界における人間の存在条件の根本的変容を、「死の不可能性」というテーマに集約的に 見てとり、露呈する〈死〉との関係の考察から、現代のさまざまな思想的問題にアプローチしてきた。


 その仕事はまず『不死のワンダーランド』に結実しているが、そこからさらに、今世紀において現実的に人類をひとつのものとした〈世界戦争〉の意味を、思想的に解明しようとしたのが『戦争論』であり、現代の思考の条件とからめて論じ直したのが『夜の鼓動にふれる』である。政治学や経済学あるいは社会科学的 な戦争へのアプローチはあるが、人類がひとつの同じ戦争を生きることで現実的にひとつになり、世界が初めて理念的にではなく現実的にひとつの世界になるという事態を実現したのが〈世界戦争〉だとすれば、それはどのようなプロセスで起こり、どのような帰結を人間に招来したのか、そのことを哲学的に考察したのがこれらの仕事である。


 そこからは当然ながら「光の文明」とみなされる西洋文明の世界展開という世界史的運動が浮かび上がるが、戦争によって世界の〈世界化〉が成就したと見なせる現在、〈世界化〉の先を展望するために、あるいは〈世界化〉の帰結として「世界の戦争化」を引き起こした運動の原理とは別の原理を〈世界化〉の帰結そ のもののうちに探るために、現在の世界のヴィジョンを制度的に規定していると見られるヨーロッパ的な〈世界史〉の成立ちと構造を解明しようとしたのが『世界史の臨界』である。


 この一連の作業からは、戦争だけでなく、人間の無意識の問題、テクノロジーの進化のもたらす生存条件の変化の問題、あるいは近代の人間把握における 〈個〉と〈共同性〉の関係、その政治的発現としての〈国民〉や〈国民国家〉の問題などを、社会科学的なアプローチとは違った思想の枠組みの問題として考察 する必要が生じ、無意識、権力、表象あるいは翻訳、生存といったレベルを軸に、バイオポリティクスやバイオエシックスの問題系にも取り組んでいる。また国 民国家や西洋的歴史さらにはグローバリゼーションを相対化する視点を歴史的に与えるものとして〈クレオール〉の問題系にも注目している。


 そしてここ数年、それらを領域横断的な人間の生存と知の問題として捉え直すのにきわめて有用と思われる、ピエール・ルジャンドルの提起する〈ドグマ人類学〉への関心を深めてきた。

 諸学の〈普遍性〉ということより、〈翻訳〉という関係の織り上げる〈世界性〉こそが、グローバル化の時代に認識のもっとも正当なあり方を保証するとの考 えに立って、現代世界に重要な意味があると思われるフランス語テクストの翻訳作業も続けながら、社会科学・人文科学といった科学主義的アプーロチとは違っ た〈反省的知〉のあり方を模索するのも、これまでの仕事に一貫して保たれた関心でもある。


 また、以上の関心の上に、2004年以来、東京医科歯科大学大学院医療管理・政策コースで、〈医〉とはなにかをテーマに、医療思想史を講じている。

•グローバル・スタディーズ(Global Studies Web 参照)

•戦争論(世界戦争、20世紀世界における人間存在の条件)

•世界史論(歴史の批判哲学)

•ドグマ人類学(宗教・知・国家・制度 etc.)

•医療思想史(人間は医をどう考え、実践してきたか)

•クレオール文学・思想(グローバル化とクレオール化)

•20世紀フランス文学・思想 (とくにGeorges Bataill, Maurice Blanchot, Emmanuel Levinas, Marguerite Duras, Jean-Luc Nancy などの研究。テーマとしては‘死の不可能性’‘共同体論−共存在論’‘現代ユダヤ思想’など。)

最近の仕事zui_jinno_shi_shi.html
主要著作zhu_yao_zhe_zuo.html
研究の概要
共同研究gong_tong_yan_jiu.html