1999年度2学期試験問題と解答例
問題T.次の日本語文を、テキストの表現を用いてスペイン語に直しなさい。
注意: 問題文の時制を尊重すること。角括弧内の指示に従うこと。丸括弧の中は強いて訳す必要はない。
1.国際刑事裁判所は司法のグローバル化に向けての重要な一歩であるといやというほど主張されてきた。
2.拷問禁止条約は1年前に発効した。[hace を使わずに]
3.軍事反乱を知ると私は洞窟に身を潜め、一人の漁師が逃亡を助けてくれるまでそこにいた。
4.12月に交通事故で傷を負ったために2ヶ月の間私は活動ができなかった。[単文で]
5.時が経てば、辿ってきた長い道に残した彼の足跡も消えてしまうことだろう。[単文で]
6.キューバ政府は、(私が)政治亡命を求めることを恐れて、娘の帰国を要求しに渡米するのを妨げた。
7.反カストロ亡命諸グループは、14日以前に子供を帰国させるとの米国移民帰化局の命令が履行されるのを妨げることに成功した。[点過去で]
8.米国テレビ局のカメラの前で、(彼は)圧力を受けているとの見方を否定した。
9.愛人ゆえに家族を捨てたと私は非難された。
10.孫たちが彼の晩年を喜びで満たした。[点過去で]
11.彼は、自分の愛する人々の傍らで死ぬとの最後の目的を果たした。
12.生きたいとの並はずれて強い欲求と老いて疲れた肉体との間の超人的な闘いを(彼は)最後の瞬間まで続けた。
13.故郷を愛している(その)詩人にとって、亡命は死ぬほどの打撃だった。
14.彼はこぶしを握りしめてスペインを去ったが、(今)和解の印に手を広げて戻ってきた。
15.その犯罪は、(犯人の)身柄引き渡し国際条約の必要性を浮き彫りにした。
解答例
問題T
1. Se ha insistido hasta la saciedad en que la Corte Penal Internacional es un paso importante hacia la globalizacion judicial.
insistir en 〜 も、un paso importante hacia 〜 もよく使う表現。
2. El convenio contra la tortura entro en vigor un ano atras.
一年前をいつも hace un ano ではさびしい。 entrar en vigor はよく使う。
3. Al enterarme de la rebelion militar me oculte en una cueva, donde permaneci hasta que un pescador me ayudo a escapar.
enterarse とやった人がかなりいた。ただの丸暗記ではなく、臨機応変に応用できるように。この文には使える表現がいろいろある。
4. Las lesiones sufridas en un accidente de trafico en diciembre frenaron durante dos meses mi actividad.
5. El paso del tiempo borrara sus huellas de tantos caminos recorridos.
上の二題は、非生物の名詞が主語になることが多いスペイン語(英語も同じ)の特徴を押さえて欲しいため。1学期の試験でも強調した点。でも日本語に引きずられて副詞句にした人が何人かいた。
6. El gobierno cubano me impido viajar a EE UU para exigir el regreso de mi hija por temor a que pidiera asilo politico.
Temor の後は接続法過去を用いることに注意。Impedir の使い方にも気をつけること。
7. Los grupos del exilio anticastrista lograron impedir que se cumpliera la orden del Servicio de Inmigracion Naturalizacion de EE UU de repartriar al nino antes del dia 14. Impedir の後に節がくると que 以下は接続法に。「〜できた」という意味で lograr はよく使う動詞。すぐあとに不定詞が来ることに注意。
8. Rechazo ante las camaras de una cadena de television norteamericana las versiones de que estaba bajo presion.
「否定する」という時に negar の代わりに rechazar が使える。Estarの時制に注意。 9. Me acusaron de haber abandonado a mi familia por la amante. この場合 familia の前には、直接目的語となった特定の人などの前につける a がやはり欲しい。 10. Los nietos llenaron de alegria sus ultimos anos. 「晩年」などという日本語がこのように簡単な表現で言える。
11. Consiguio su ultimo objetivo de morir junto a gente que quiso.
テキスト通りに que le quiso とやった人が非常に多かった。丸暗記では駄目。
12. Mantuvo hasta el ultimo instante una lucha titanica entre sus inmensas ganas de vivir y su cuerpo viejo y fatigado.
なるほどこういう風に言えばいいのか、と思ったので出した問題。
13. Para el poeta enamorado de su tierra, el exilio fue un golpe mortal.
「故郷」というのはこう言えばいい。ただし la ではなく、su とするのがポイント。定冠詞だと、「大地を愛する」という意味になってしまう。西和辞典にはこの「故郷」という意味が出ているけど、和西辞典で「故郷」を引くと tierra natal と出ている。 natal がなくてもいいとは分からない。ともかく和西辞典は参考程度に使うべき。ふだんから生きた文の中で出会った表現を一つ一つ覚えていくことが大事。
14. Se fue de Espana con el puno cerrado y vuelve ahora con la mano abierta en senal de concordia.
日本語では「戻った」だが、スペイン語ではこういう場合現在形になる
15. El crimen ha puesto de relieve la necesidad de un convenio internacional de extradicion.
この場合、convenio の前には定冠詞ではなく、不定冠詞が来る。この不定冠詞の感じを掴むこと。poner de relieve はよく使う表現。
◇上の解答例で、間違いが多く見られた箇所には下線を引いてあります。
◇採点の際の基本原則は以下の通りです。
1.まったく箸にも棒にもかからない回答は零点、正しい単語が数語程度書いてある回答は1点をつけました。それ以外は基本的に減点法で採点してあります。
2.減点の基準としては、動詞の変化に関しては厳しく(1点減点)、それ以外は緩やかに(原則として0.5点減点)採点しました。ただし、かなり減点箇所が多くてまともに計算すると1点、あるいは零点やマイナス点になる場合には、全体として文の体をなしている回答については2点を最低限度の点数としました。
問U.
1.2行目から3行目の la creciente desaparicion という表現に注意すること。接続法の消滅が森林や絶滅の危機にある動植物の消滅になぞられている点への言及が欲しい。なお1学期でもやったように、autores というのは別に作家に限りません。ここでは「本や論文、記事を書いている人」ぐらいの意味です。
2.現実をただあるがままにのっぺりと描くだけでなく、仮定・想像という、現実とは異なるもう一つの次元を持ち込むことによって表現に凹凸、深み、陰影ができる、といったことが述べられていれば10点あげています。なお、筆者は接続法を「時制」(tiempo)としていますが、これは誤りで正しくは「法」(modo)です。でもウンベルト・エコのような一流の学者がこんな間違いをするのだろうか。なお解答で「時制」としてあっても別に減点していません。
3.これは問題2とほぼ同じ回答になります。キーワードは hipotesis, lo posible, lo no real, una trasrealidad, sueno など。接続法を用いることにより「現実の表面と裏面」、「現実と夢」といったかたちで重層的な表現が可能になるということが指摘されていればよいです。ただし、最後の段落の3行目からは論点が少しずれていて、これは接続法のことではありません。それまでの、接続法は現実とは異なった次元を持ち込むという話から、異化効果を生み出す言葉や表現を多用することで、われわれが当たり前だと受け止めている現実認識を大きく揺さぶる作家ミリャスの最近の小説へと話題がシフトしているわけで、この箇所にはむしろ触れない方がいいでしょう(というより、変な風に取り込むとむしろ減点対象となってしまいます)。 最終点数について 答案には問題T、問題Uそれぞれの点数がつけてありますが、その合計がそのまま最終成績になるとは限りません。若干プラスされることがあります(逆に下がることはありません)。
試験の形式について
ところで、ある答案の中に、試験のやり方について次のような感想が書かれていました。小生は1学期の試験を返却した際に、なぜこうした形式のテストをするのかその理由を説明したつもりだったのですが、どうも十分ではなかったようです。ここで述べられていることについてご意見(賛成、反対いずれでも)があればぜひ知りたいと思います。なお、春休み中に小生のホームページ(http://www-fs.tufs.ac.jp/~mtakahas/)を大幅にリニューアルして、できればこうした議論ができる場もつくりたいと思っています。この感想に対する小生の回答もそこに載せたいと思いますので、お楽しみ(?)に。とりあえずは、暗記に苦しんだ人たちに、「どう、暗記して力がついたと思わない?」と聞いてみたい気がします。もっとも、「思いません」との答えが返ってきたら小生の「負け」ですが…。
私は先生の授業形式は大変よいと思います。テスト形式についてもこれはこれでよいと思うのですが、Uのような問題のみ、つまりテストの範囲というものをもうけないで、"スペイン語"を出題するというのはどうでしょうか? せっかく、授業で力のついた読解力を、最後のテストでただの暗記力勝負のものにおわらせてしまっては、もったいないと思います。私は本当にそう思います。私の高校の英語の先生がそういう問題を出し、もちろん、皆点数はあまりいいとは言えなかったですが、テストの度に力はついていくのでとてもよかったと思いました。大学に入った時、勉強する内容(レベル?)はとても低いものだったので、私は少しショックを受けました。暗記すればいいのか? そんな授業では……。点をとらせる為のテストおよび授業ではなくて、もっともっと生徒に考えさせる授業、テストをやってほしいと思います。