文献図書リスト
言語学全般
基本レベル
・斎藤純男『言語学入門』(三省堂:2010 \2,100)
とにかく広く浅く平易に書かれた本。各項目の記述は短いが、それだけに楽に読める。ほとんど言語学の全範囲がカバーされていて、それにしては安い! という、とても便利な本である。まずはこれを読んで、ざっと言語学というのがどういう広がりを持った学問分野なのかを知るとよい。

・黒田龍之助『はじめての言語学』[講談社現代新書1701] (講談社:2004 \720)
上記の『言語学入門』はちょっと受験参考書のようで、もっと読み物のように楽しんで読みたい、という人にはこちらがお勧めだ。専門用語をあまり使っていないので、用語を多く覚えたりするには向いていないが、「なぜそうなのか」ということを丁寧に説明してくれる本だ。とにかく平易なので、寝転がっても読める。まずはこれを読めば、外国語を学ぶにも日本語学を学ぶにも、言語学からの視野が開ける。それは一見遠回りのように見えても、この分野の勉強での一番の近道になることは間違いない。

・イアン・アーシー『怪しい日本語教室』(毎日新聞社:2001 \1,400)
言語オタクで、日本語翻訳家などもしていたあるカナダ人が毎日新聞に連載したエッセイ。抱腹絶倒、楽しく思わず言語学や日本語学の引きこまれてしまう、という最高にステキな本。身近な日本語からマヤ文字にいたるまで、話題も多岐にわたっている。連載時のイラストなどもそのまま入っていて、ホントに楽しく読める。でもそれだけでなく、とてもためになる本だ。

・風間伸次郎(監修・著)『世界のなかの日本語 ④くらべてみよう、言葉と発音』『世界のなかの日本語 ⑤くらべてみよう、文のしくみ』(小峰書店:2006 \3,000)
小学生向けに書かれた本だが、内容はぎっしりと、音声・音韻から形態論、統語論にいたるまで詰まっている(しかし難しい用語は使っていない)。日本語のことを中心にしつつも、世界の言語から例をひいて言語学のもろもろについて説明している。自分の本をこんな風に紹介するのはちょっと気が引けるが、絵や写真もたっぷりなので、気軽に言語学や日本語のしくみに親しんでもらえると思う。

・中島平三(編)『ことばのおもしろ事典』(朝倉書店:2016 \7,992)
身近にある「ことば」、例えばことば遊びや広告のことばからスタートとして、音韻論、形態論、意味論、などことばの基礎を知り、さらに世界の言語や手話、動物のコミュニケーションなど、ことばの広がりを知る、という3部構成になっている。高校生にもわかるようにと言うコンセプトで作られたものだ。私(風間)も世界の言語、世界の文字の章を書いている。

・定延利之『日本語教育能力検定試験に合格するための言語学22』(アルク:2009 \2,000)
何とも下世話な題名だが、安直なマニュアル本などではない。筆者はもともと法律の文の解釈などに関心のあった人で、その内省は深い。この本でも言語学の諸概念などについて、いろいろな場合を想定し、ていねいに検討している。平易に書かれていて、おもしろく、お薦めである。

本格レベル
・風間喜代三、上野善道、松村一登、町田健『言語学』(東京大学出版会:1993 \2,575)
いろんな人が書いているので、章によって偏りもあるけれども、さすがに東大出身の諸先生が書いているのでオーソドックスな本格派の入門書、という感じがする。特に後半の類型や歴史、音声・音韻の章は深い問題に触れていて、良い。それでも初心者にはやっぱりちょっと難しいかもしれない。でも本格派の入門書もぜひ一冊読んで欲しい。

・西田龍雄(編)『言語学を学ぶ人のために』(世界思想社:1986 \2233)
特に1章がわかりやすく、社会言語学や言語人類学の章も良い。「文字」についての章があるのも良い。後半には言語学の名著の文献解説もついている。ただ全体的にやや難しい。

・宮岡伯人(編)『言語人類学を学ぶ人のために』(世界思想社:1996 \2,233)
文化の一側面としての言語を多角的にとらえており、個々の章もバラエティに富んでいる。言語と文化の関係を考えるのもっとも良い入門書。我らが外語の中川先生も「フィールドワークのための音声学」の章を書いている。

・小泉保『教養のための言語学コース』(大修館書店:1984 \2,300)
導入が独特のスタイルで、ちょっと冗長な気もするが、図も多くて見やすく、文もくだけていてわかりやすい。筆者が専門としているウラル諸語を中心に多くの言語から例をあげている点もいい。

・千野栄一『言語学への開かれた扉』(三省堂:1994 \1,750)
言語調査や音韻論からはじまって、言語学の各分野がそれぞれ7, 8ページで紹介してあり、その分野の最も良い参考文献もあげてある。つまり入門書の入門書、というわけだ。後半には偉大な言語研究者たちの列伝が4ページづつあって、彼らの人生や努力の軌跡が、私たちの心を励ましてくれる。

・千野栄一(編)『日本の名随筆 別冊93 言語』(作品社:1998 \1,800)
谷川俊太郎や柳田國雄、金田一京助をはじめ、そうそうたる24人のメンバーが書いた言語に関する選りすぐりエッセイ集。「世界で一番長い字」だの、「バイリンガリズムについて」だの、どんな話か思わず読んでみたくなるものばかり。アフリカから台湾の山奥まで、世界のさまざまな地域で言語の現地調査に取り組んだ人たちの話も読める。

・千野栄一『言語学の散歩』(大修館書店:1975 \1,900)
男性名詞や女性名詞なんてなぜあるんだろう? 本当のバイリンガルっているんだろうか? そんな問いに答えを与えてくれたり、もっとすごい例を示してくれたりするのがこの本だ。色の名前が二つしかない言語や二進法の数詞を持つ言語、なんてのも登場する。類型論や比較言語学、日本語系統論など、興味をそそる分野についても教えてくれる。

・千野栄一『言語学のたのしみ』(大修館書店:1980 \2,200)
外語大で長く教えられた千野先生が、エッセイ形式で言語の諸側面を楽しく書いている。トピック毎に数ページずつなので、どこからでも読めるし、短い時間にも読める。「元祖ゴキブリラーメンの話」なんてのもある。外語時代のエピソードもいくつも登場する。

・千野栄一『注文の多い言語学』(大修館書店:1986 \1,602)
上記の続編。能格言語や「言語のガラパゴス」カフカースの話、文字やなぞなぞに文体のパロディまで、さらに多様な観点から言語を、そして言語学を語っている。

・千野栄一『ことばの樹海』(青土社:1999 \2,200)
やはり千野先生の言語及び言語学に関するエッセイ集で、最新のもの。「一番難しい言語」や「バルカン半島の言語接触」、「文字を作った人々」などここでも楽しいテーマがとりあげられている。

参照用図書
・亀井孝、河野六郎、千野栄一(編)『言語学大辞典』 第1~5巻[世界言語編]、第6巻[術語編]
 (三省堂:1988, 1989, 1992, 1992, 1993, 1996 \43,000, \42,000, \38,000, \38,000, \39,000, \49,000)
とにかくまずは一度図書館に行って手にとって広げてみてほしい。どの本も2,000ページ近くあり、3,200もの言語がとりあげられている。
まず第1巻には89ページの雄編、「アイヌ語」がある。ジャパ科ならこの日本の少数民族言語についてまず読んでみてもらいたい。「アフリカの諸言語」、「インド・ヨーロッパ語族」、「オーストラリア原住民語」などの大作や、「広東語」もこの巻だ。2巻にはなんといっても「日本語」がある。日本語の歴史と現代日本語に大きく分かれていて、その中も音韻、文法、……と各分野にわたっている。南不二男、河野六郎、亀井孝、寺村秀夫他そうそうたる執筆陣である。何をおいてもまずこれを読む必要があろう。「朝鮮語」と「中国語」もこの巻だ。対照言語学などを目指す留学生諸君は、まず自分の母語について、言語学的にどのようにとらえられているのか知る必要がある。3巻では「北米インディアン諸語」の記述がくわしい。4巻では「琉球列島の言語」。係り結びやP音など古い特徴を保ち、他方で完全に3母音に移行した与那国方言までをも含む琉球列島の言語は、日本語という言語のしくみを考える上で不可欠である。ただここでの記述は一部の学派の独特の用語が使われていて読みにくい面がある。5巻は半分索引だが、ここには「琉球列島の言語(奄美方言)」がある。6巻は術語編で、随時参照すると言語学の力がつく。新しい知見も多く、思いがけない項目もある。まずは「FSP」、「格」、「格の触手」、「言語」、「言語学」、「言語人類学」、「言語類型論」、「言語連合」などをお勧めしておく。各国の言語学の伝統・発展状況についても書かれているし、巻末の人名解説も便利だ。

・斎藤純男、田口善久、西村義樹(編)『明解言語学辞典』(三省堂:2015 \2,200)
上記の『言語学大辞典 第6巻[術語編]』を補うような辞典がこれだ。[術語編]が1996年に出てからはやもう20年近い歳月が流れた。言語学にもいろいろと新しい発展があり、認知言語学など昨今大きく発展した分野もいくつかある。[術語編]でとりあげられていなかったような項目を詳しく取り扱われていて、読んでいても興味深い辞典だ。

・中島平三(編)『言語の事典』(朝倉書店:2005 \28,000)
理論的な面にやや偏っている感があるが、生成文法などをはじめその方面に関心のある人には良い辞典だ。脳と言語や言語獲得など、応用言語学と言うべき分野や他の学問と言語学の学際的な分野について、豊富な内容を含んでいる。細かい項目がアイウエオ順に並んでいる上記2種の辞典とは異なり分野別なので、ある分野を勉強・整理したい、という際には便利だ。

・デイヴィッド・クリスタル(風間喜代三、長谷川欣佑(監訳))『言語学百科事典』(大修館書店:1992 \15,450) [David Crystal, The Cambridge Encyclopedia of Language]
きれいな写真や図表が豊富にあって、言語学のさまざまな分野に触れている。個々の現象の具体例もたくさんのっている。幼児の言語習得、言語と脳の関係、手話や言語外コミニュケーションなどもくわしい。読んでいても眺めていても楽しい本。

・世界の文字研究会(編)『世界の文字の図典』(吉川弘文館:1993 \17,500)
これも読んでも見ても楽しい本で、古今東西世界中の文字を解説している。個々の文字の読み方も書き方もくわしい。世界の文字の豊富さと、その伝播や発展の歴史に深く魅せられる。漢字音もベトナムにわたるまであるなど、網羅的であるのはすごい。

・町田和彦(編)『世界の文字を楽しむ小事典』(大修館書店:2011 \2,600)
いろいろな文字の専門家が一堂に会し、そのおもしろさを記した本。参照用と言うよりは読み物として楽しむべき本かもしれない。
音声学
基本レベル
・川端いつえ『英語の音声を科学する』(大修館書店:1999 \2,200)
図も多くてわかりやすく、音節や音韻論の説明は類書の中では新しい知見が盛り込まれていて良い。例やコラムも楽しく読めるように考えられている。形態音素や同化の章があるのもいい。

・斎藤純男『日本語音声学入門』(三省堂:1997 \2,000)
さまざまな言語からの例があがっていて、調音の仕方を示す図も豊富なのが良い。音声の現役の専門家ならでの記述で、音響音声学的な分析も示されている。インターネットやテープでさらに学ぶ方法についても書いてあって参考になる。

・英語音声学研究会『大人の英語発音講座』[NHK出版 生活人新書080] (NHK出版:2003 \680)
もっと気楽に音声の勉強がしたい、という人にお薦めするのがこれ。しかし、題名や見た目の軽さとは違って、すごく本格的な本だ。外大英語科の先生も関わっている。これ1冊読めば、だいぶ「音」についての見方も変わってくるかもしれない。

・松森晶子、新田哲夫、木部暢子、中井幸比古(編著)『日本語アクセント入門』(三省堂:2012 \1,900)
この本を読めば、日本語のアクセントにはこんなに整然とした規則があり、こんなにも深くて広い世界があるのか、と驚くことだろう。以前は方言も含めた日本語のアクセント研究の基礎およびおおざっぱな全体像を知るには、いろいろな本をたくさん読まなければならなかった。しかしこの決定版ともいうべき本が出たので、これ1冊読めばかなり全般的に基礎をおさえることができる。これはとても幸せなことだ。

・柴谷方良、影山太郎、田守育啓『言語の構造 音声・音韻編』(くろしお出版:1981 \2,625)
音韻論(特に生成音韻論)について、平易で段階的な練習問題が十分にあって、わかりやすい。実際の分析の手順を学ぶことができる。なお統語・意味編もある。

本格レベル
・小泉保『音声学入門』(大学書林:1996 \3,090)
CatfordやLadefogedの図や表を多くひいていて、また諸言語の音声のテープがついていて有用だが、値段が高いのと、少し間違いもあるのが難点だ。

参照用図書
・NHK(編)『日本語アクセント辞典』(日本放送出版協会:1986 \4,800)
留学生は必携。日本人も一度巻末の品詞別のアクセント及び複合語のアクセントの解説に目を通しておくとよい(特に共通語とは違うアクセント体系を持っている者は必携)。

・国際音声学会(編)(竹林滋、神山孝夫(訳))『国際音声記号ガイドブック――国際音声学会案内――』(大修館書店:2003 \4,300)
[International Phonetic Association (ed.) (1999) Handbook of the International Phonetic Association: A Guide to the Use of the International Phonetic Alphabet. Cambridge University Press.]

・プラム、ジェフリー・K、ウィリアム・A・ラデュサー(土田滋、福井玲、中川裕(訳))『世界音声記号辞典』(三省堂:2003 \2,100)
[Pullum, Geoffrey K. and William A. Ladusaw (1996) Phonetic Symbol Guide. 2nd ed. University of Chicago Press. (1st ed. 1986))
言語類型論/対照言語学
・角田太作『世界の言語と日本語 改訂版』(くろしお出版:2009 \3,000)
筆者が関心をもったさまざまな観点から、世界の言語と日本語の相違と、そこに働く類似した原理について考えている。所有傾斜や二項述語階層など、筆者独自の枠組みも提示されていて面白い。飾らない語り口で、きちんと具体例によって説明している。

・リンゼイ・J・ウェイリー(大堀壽夫、古賀裕章、山泉実(訳))『言語類型論入門 言語の普遍性と多様性』(岩波書店:2006 品切れ)
現時点でもっとも包括的な概説書。平易で、例文も豊富だ。形態論にもよく注意を払い、文法カテゴリーに関しても広く扱っている。先行研究を広くよくみている。訳も的確であるが、『言語学大辞典 第6巻 術語編』と用語の訳が異なるものが多い点が残念だ。

・ニコラス・エヴァンズ(大西正幸、長田俊樹、森若葉(訳))『危機言語 言語の消滅でわれわれは何を失うのか』(京都大学学術出版会:2013 \5,200)
最近出た言語学の本でこれほど興味深い本も少ないだろう。「危機言語」を冠してはいるが、この本はまさしく『言語学のおもしろさ』とでもいうべき内容の本だ。6進法の言語や、方位や色の認識と言語の関係など、言語と文化の諸側面の関係を捉えた章などが特におもしろい。なかなかこの本の魅力を数行で語ることは難しいが、ぜひ一度手にとって、少しでも読んでみて欲しい本である。

・バーナード・コムリー(松本克己、山本秀樹(訳))『言語普遍性と言語類型論』(ひつじ書房:1992 \3,296)
もっともよく知られた言語類型論の教科書だ。題名のとおり、「言語普遍性」についても、その背景と問題点について詳しく考察している。関係節や使役構文など、筆者が深く研究した問題についての章は特に重要である。類型論と他の分野(歴史言語学や地域特徴)との関係や、有生性を扱った章も興味深い。ただ初学者にはまだちょっと難しいかも。

・松本克己『世界言語への視座―歴史言語学と言語類型論』(三省堂:2006 \4,200)
筆者が広くかつ深い知識をもつ印欧語について書かれた「第I部 印欧語の世界」が興味深い。そこには「大西洋・地中海言語連合」という大きな枠組みの中で捉えられたヨーロッパ諸言語の姿がある。「第IV部 世界諸言語の類型地理論」では、形容詞、流音、母音調和、キョウダイ名、など、本書独自の重要な問題が類型的・地理的に検討されている。原典の記述にあたり、小さな言語に至るまでていねいにデータが収集され、検討されている。

・松本克己『世界言語のなかの日本語―日本語系統論の新たな地平』(三省堂:2007 \3,500)
上記の書といわば姉妹編をなしている。上記の形容詞、流音の問題に加え、類別や人称、格の問題をとりあげ、これによって太平洋沿岸言語圏、環日本海諸語を提案している。

・ビレーム・マテジウス(千野栄一、山本富啓(訳))『マテジウスの英語入門 対照言語学の方法』(三省堂:1986 品切れ)
チェコの生んだ偉大な言語学者マテジウスが一般の人のためにわかりやすく書いた興味深い本。英語の正書法のしくみや、受動態とFSPの関係などが展開されている。原題はじつに「英語なんかこわくない」、である。巻末には要領のいいチェコ語の概説もついている。

・宮岡伯人『「語」とは何か エスキモー語から日本語をみる』(三省堂:2002 \2,000)
著者はエスキモー語の専門家である。エスキモー語は多くの接尾辞を用いて、統合度の高い語を形成することのできる複統合的な言語である。筆者はこのようなエスキモー語から日本語(さらには他の言語)を見ることによって、(実はその定義の難しい)「語」というものや形態論の本質に迫っている。筆者が提案する自然言語の特性である「結節」についても本書で読むことができる。統合度や用言複合体についての具体的な知識を得るためにも本書を薦めたい。なおさらに続編も出ているが、さらに大きく発展した内容となっている。

・前田真彦、山田敏弘『日本語から考える! 韓国語の表現』(白水社:2011 \1,900)
・永倉百合子、山田敏弘『日本語から考える! 中国語の表現』(白水社:2011 \2,052)
日本語学の専門家が、日本語学の諸問題について、別の言語ではどうなっているかを訊き、それに対してその言語の専門家がそれに答える、という形で構成されている本だ。日韓、日中の対照言語学に興味のある人はこのような本から読み始めてみるのもよいだろう。なおドイツ語やフランス語など、さらに他の言語のバージョンもある。
記述言語学
・梶茂樹『アフリカをフィールドワークする』(大修館書店:1993 \1,545)
未知の言語をもとめアフリカに入った筆者が、村の生活、言語調査の実態から、アフリカ音楽や映画の背景にいたるまで、多数の写真をまじえて紹介している楽しい本。

・中川裕『アイヌ語をフィールドワークする』(大修館書店:1995 \1,751)
危機に瀕した日本の少数民族の言語であるアイヌ語の現在と未来を、筆者は冷静にかつ静かな愛情をこめてみつめている。アイヌの文化についてもくわしい。

・中島由美『バルカンをフィールドワークする』(大修館書店:1997 \1,600)
さまざまな系統の違う言語がひしめくバルカン半島。ここでマケドニア語に取り組んだ筆者がバルカン世界を紹介する。バルカン料理の話も詳しい。

・津曲敏郎(編著)『北のことばフィールドノート』(北海道大学図書刊行会:2003 \1,800)
環北太平洋の北方の諸言語に偏ってはいるが、豊富な写真や、民話の解説などもあって、楽しくそれらの諸言語に触れることができる。「フィールド」をテーマにしているので、個々の研究者がどのようにしてフィールドに分け入り、どんな喜びや苦労の中で言語を記述してきたのかを知ることができる。

・大角翠編著(2003)『少数民族をめぐる10の旅 フィールドワークの最前線から』(三省堂:2003 \2,500)
本書もフィールドワークに基づいて書かれている。こちらはアフリカ、中米、インドネシア、ニューカレドニア、オーストラリア原住民、台湾原住民、中国の少数民族(南方、中央アジア)、などの言語なので、上掲書とあわせて読むと地域が相補的にカバーできる。言語そのものの問題について、どの章もかなり詳しく扱っている。

・青木晴夫『滅びゆくことばを追って』(岩波書店同時代ライブラリー:1998 \1,100)
言語調査とはどのようなものか、現地に入るところからはじまってその全貌を描く。もはや古典ともいえる書。筆者は北米インディアンのネズパース語の専門家だ。

・宮岡伯人『エスキモー 極北の文化誌』[岩波新書364] (岩波書店:1987 品切れ)
文のような長い単語を作るエスキモー語の独自の構造や、「雪」を示す語がたくさんあるその語彙体系、そして説話や厳しい環境の中での彼らの暮らしも描かれている。

・小島陽一『トルコのもう一つの顔』[中公新書1009] (中央公論新社:1991 \680)
トルコやイランに住む国を持たない少数民族クルド族。しかしトルコ政府は彼らの存在さえも認めていない。その目をかいくぐってまだ記録のない言語を調べた物語である。

・稲垣美晴『フィンランド語は猫の言葉』[講談社文庫] (講談社:1995 \540)
一人の大学生が、日本ではマイナーな国に留学して、その言語と文化に出会った体験をつづるエッセイ。フツーの大学生の視点でみずみずしく書かれている。

・一ノ瀬恵『モンゴルに暮らす』[岩波新書 赤 194] (岩波書店:1991 品切れ)
モンゴル科出身の外語の先輩一ノ瀬さんは女性としては日本初めての留学生としてモンゴルにわたり、多くのすばらしい友人たち、そして生涯の伴侶に出会う。さまざまに生きるモンゴルの人々を豊富な写真も添えて紹介しつつ、もちろんそ一方で「文化をうつすことば」に触れることも忘れていない。

・中川裕(監修)『ニューエクスプレス・スペシャル 日本語の隣人たち』(白水社:2009 \3,400)
日本からそう遠くない所に、いろんな言語がある! 台湾にはセディック語が、ハワイにはハワイ語が、サハリンにはニヴフ語が…… 3課ずつ、であるので、一つ一つの言語を深く学ぶことはできないけれども、日本周辺の8言語についてCDで音も聞きながら学ぶことのできる面白い本だ。さらに『日本語の隣人たち II』もあるし、バスク語などが入った『ヨーロッパのおもしろ言語』なんてのもある。スペシャルでない、ふつうのエクスプレスの各国語のシリーズもお勧めだ。

・呉人惠(編)『日本の危機言語 言語・方言の多様性と独自性』(北海道大学出版会:2011 \3,200)
上記の一ノ瀬惠さんと同じ人物が編者である(結婚で姓が変わっている)。日本の言語は「日本語」だけだ、と思ったらそれは大間違いである。アイヌ語や琉球語があり、琉球語の中もさらに互いに通じないいくつかの言語に分かれているのだ。他にも本土の諸方言があり、八丈島など琉球以外の離島にも独特の方言がある。しかしそれらの「言語」のうち8つもが、ユネスコの指定する「消滅の危機にさらされている」言語なのだ。ぜひこの本を読んで日本国内の言語の多様性と、その一部の言語における危機的状況に触れてみて欲しい。付属のCDでアイヌや琉球、各地の方言を聞けるのも魅力だ。
比較言語学/世界の言語
・風間喜代三『言語学の誕生』[岩波新書69] (岩波書店:1978 品切れ)
実証的な学問としての言語学は比較言語学にはじまった。ジョーンズの発見にはじまったこの分野が偉人たちによって確立していく壮大な物語を本書は着実に追っている。

・東京外国語大学語学研究所(編)『世界の言語ガイドブック 1 ヨーロッパ・アメリカ地域』『世界の言語ガイドブック 2 アジア・アフリカ地域』(三省堂:1998 各\2,800)
外語の先生が中心になって作った本で、早津先生も「日本語」の項を書いている。音声や文法のしくみのみならず、名前のつけ方や挨拶、数詞のことも言語ごとに書いてある。

・『○○語のしくみ』[白水社 言葉のしくみシリーズ]
もっとももっと気楽に、しかし世界の言語のうちのある言語についてある程度その全体像が知りたい、語学的にも知りたい、という人にはこれがお薦め。26言語のバージョンがある。

・柴田武(編)『世界のことば小事典』(大修館書店:1993 \5,665)
4ページに1つの言語、全部で128の言語について、文字と発音、ことばの背景、日常表現、文化情報までのっているすぐれもの。私(風間)も書いている。

・梶茂樹、中島由美、林徹(編)『事典 世界のことば141』(大修館書店:2009 \4,200)
上記の『世界のことば小事典』をベースに、あらためて言語を選び直し、新情報を取り入れて全面的に書き改めたものである。一般向けの書であり、どの言語の記述も必ず4ページであるので、読みやすい。特にある言語の背景的情報をつかむのに最適である。言語ごとに地図がある点も便利である。私(風間)はこれにも書いている。

・千野栄一(監修)『世界ことばの旅(地球上80言語カタログ)』(研究社出版:1993 \6,200)
世界の80の言語の話者から録音した生の音声を聞くことができる。外語の学生(当時)が留学生会館や大使館を回って録音したもので、話者はまず10まで数え、挨拶をしゃべり、それから思い思いに話している。

・東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(編)『図説 アジア文字入門』(河出書房新社:2005 \1,800)
何しろ豊富な絵と写真と図で、アジアの文字の世界が楽しめる、とっても楽しい本だ。インド系の文字が旅をしながら形を変えてくる様子や、その分布図、西夏文字などの擬似漢字や美しいアラビア系の文字などは見て驚きや興奮を禁じ得ない。アイウエオのインドから日本への旅や、生きている象形文字トンパ文字など、ぜひこの本を読んで楽しんでもらいたい。

・町田和彦(編)『図説 世界の文字とことば』(河出書房新社:2009 \1,800)
上記の続編とも言うべき本。文字と共に、その文字を使用する言語について専門家が急所をおさえた記述を読ませてくれる。ヨーロッパの文字や言語に関心のある人にお薦め。

方言
・佐藤亮一『生きている日本の方言』(新日本出版社:2001 \1,900)
ちょっとつまみぐいという感じがしないでもないが、日本全国の方言から、意味が逆転している例や気づかない方言、ことばのゆれなど、おもしろい話題を広く全般にわたって語ってくれる本。方言学の基本もおさえているので、まず1冊目にこれをお勧めする。

・井上史雄『日本語ウォッチング』[岩波新書540] (岩波書店:1998 \660)
ラ抜きことばや「じゃん」など、いつどこで生まれてどっちへどう広がって来たのだろうか? またそれはなぜか? そんな疑問に気軽に答えてくれるすてきな本だ。この本を読むと今も日本語は動いている、変化している、ということを感じないではいられない。井上史雄先生の本は他の本もおもしろい。お薦めである。

・木部暢子『じゃっで方言なおもしとか』(岩波書店:2013 \1,700)
やや筆者の自身のこれまでの研究に内容が偏っているが、それだけに説得力があって、一人の研究者の研究の「歴史」をも感じさせてくれる本だ。方言への愛や筆者ならではのテーマやその分析がわかりやすく描き出されている。

・佐藤亮一(監修)『お国ことばを知る 方言の地図帳』(小学館:2002 \2,500)
方言の分布の地図を見るのは楽しい。語彙にしろ文法にしろ、そこにはいろいろな歴史や地理的障壁の存在など、さまざまなものを見てとることができる。そこには日本の文化や日本人の対象の捉え方なども現れてくる。もちろん文法などの問題もおもしろい。付録CDでは各地の方言による「桃太郎」も聞くことができる。

・真田信治『方言の日本地図 ことばの旅』[講談社+α新書133-1 C] (講談社:2002 \780)
これも題名の通り方言地図の本である。著者は長らく阪大の教授を務められたこの分野の大家であり、その手によって選ばれた方言地図とその解説の、おもしろくないわけがない。近年の新しい変化などもよく扱っていて、生きている言語のおもしろさに心奪われる。

・工藤真由美、八亀裕美『複数の日本語 方言からはじめる言語学』[講談社選書メチエ 427] (講談社:2008 \1,500)
アスペクトやモダリティなど、世界の他の言語や、言語学や日本語学で学ぶ文法カテゴリーなどは、方言と何も関係ないように思っているかもしれない。ところがそんなことはないのだ。近年、方言を言語学的に捉え、世界の言語の通言語的な研究に貢献する、というようなことがよく行われるようになってきた。この本を読んで、そうした方言のおもしろさに出会って欲しい。

・佐々木冠他『シリーズ方言学2 方言の文法』(岩波書店:2006 \3,400)
上記の『複数の日本語 方言からはじめる言語学』を読んで、いよいよこうした方面のことがおもしろくてたまらなくなってきた人には、次にこの本を勧める。
古典/その他
・エドワード・サピア(安藤貞雄(訳))『言語』[岩波文庫] (岩波書店(1998) \760)
専門の者が繰り返し読んでも、そのたびごとに新しい発見がある古典中の古典。それでいて古くならず、多数の言語についての深くて該博な知識に基づいて書かれている。「言語の詩人」といわれるサピアの格調高い英文は、原文で味わうのが良いけれども翻訳でも内容はつかめる。タイプの違う言語を学んでから読むと、さらによくわかるようになる。

・オットー・イェスペルセン(安藤貞雄(訳))『文法の原理(上)(中)(下)』[岩波文庫 青657] (岩波書店:2006 \860)
イェスペルセンはデンマークの人である。同じゲルマン諸語に属し、英語とよく似ている面と似ていない面を併せ持つこのデンマーク語を母語としたイェスペルセンはさらに他のたくさんの言語の仕組みに通じ、英語学のみならず言語学に巨大な足跡を残した。この本にはイェスペルセンのアイデアがぎっしり詰まっている。たくさんの言語からの豊富で適切な例と、言語現象に対するきわめて深い考察がここにある。

・フェルディナン・ド・ソシュール(小林英夫(訳))『一般言語学講義』[岩波書店] (岩波書店:1940 1972改版 \4000)
言語記号の根本原理である恣意性と線条性、ラングとパロールとランガージュ、連合関係と統合関係、通時態と共時態、み~んな近代言語学の父、ソシュールが広めた概念ばかりである。しかし言語学の入門書で読んでもその本当の意味はわからない。ぜひ一度この原典をみると良い。比較言語学の大家でもあるソシュールのすごさは後半の歴史言語学の類推の部分などにも光っている。しかもこの本はソシュールが自分で書いたのではなく、その講義に感動した弟子たちが講義ノートを集めて作った、という事からすでにそのすごさがわかる。