『永すぎた夏』(1987年モンゴルキノ作品) ダワージャブ お前、外に出ない? アリョナー お母さん、自分が出たら。 ダ おや、母さんの故郷が見えているよ。 お前、本当に出ないのかい? ア 出ないわよ。 女(トヤー) おや、なんて素敵なの。 男 魚取るんだ。 トヤーなら30トゥグルクの飴1個で 引っかかるさ。 男2 そりゃ、あんまりだ。 30トゥグルクの飴たった1個で 釣れるもんか。 ダ お前、気分が悪いの? 私、気分が良くないの。 もうそろそろ着くわ。 セルチマーおばさんが待っててくれているはずよ。 セルチマーおばさんが来てなかったら 私たち2人どうしましょう? まあ、何とかなるわ。 若者 どれ、 押してくれ。 僕が持ち上げるよ。 それ、1、2,3. どうもありがとう、おばさん。 ありがとう。 娘 なんて馬鹿力のおばさんなんだ。 若者 二人とも恥ずかしいな。 ダ 元気でした? セルチマー ああ、よくきたね。 若者 みんな、はぐれないようにするんだぞ。 娘 分かったわ。 セ あの子はどこ? ダ あそこよ。 (若者1 あの子どうしたんだろう。) 若者2 あの子船室から一歩も出なかったわ。 娘 かわいそうに、足どうしたのかしら。 男 こんにちわ。 セ、ダ こんにちわ。 セ こうして、来てくれるだなんて。 いつ来るかいつ来るかと 来る日を指折り数えていたのよ。 うちは羊に塩をやりに 今日明日中に移動することになって。 (ダ そう。) セ 兄さんと姉さん身体の調子はどう? セ ああ、うちの人は大丈夫。 でも私のこの足が調子良くなくて。 アリョナー 帽子取って。 ダ はい。 セ あんたひどく疲れてる様子だよ。 娘の看病で、疲れて当然だわね。 あそこ、あの家に住むのよ。 最初は湧き水の側に ゲルを建てようかと思ったんだけど、 人里離れたところに二人をおくのもどうかと 思ってやめたの。 ダ さあ、やっと着いたわ。 10日間もかかったわ。 あなた、疲れた? ア いいえ。 ダ 疲れたはずだわ。 セ ここはアリョナーに静かでいいわ。 うちに来たら 人が多くてますます疲れるでしょ。 ガラー こんにちわ。 ダ、ア こんにちわ。 セ あんた、何だって仕事に行かないの? ガ 今行くところさ。 セ ガラー。 おい、ガラー。 ちょっと。 この子を運んでやって。 ダ ほら、あなた。 セ ほら、持ち上げて。持ち上げて。 さあ、首を抱えるのよ。 ダ さあ。 ガ どれ。 俺、外の荷物を運んでくる。 ダ はい。これ取って。 いい家だわ。 私たち2人が何ヶ月か住むには十分。 セ あそこに置いて。 ガラー ああ。 セ 必要なものはみんな あの棚の中にあるから。 もし足りないものがあれば、この人から借りたらいい。 ガ そうしな。言ってくれよ。うちになければ、 よそから借りてあげるから。 セ かわいそうに、この子。 ひどく疲れたのね。 さあ、お茶をお飲み。 ダグワ ガラー。 ガ え? ダ ボスが呼んでる。 ガ え、ああ、ああ。 ダ 早くしろって 怒っているよ。 (ガ ああ、すぐに。) セ 汚くしてるわね。 よそから来た人に 恥ずかしくないの。 部屋をよく掃除して、 あの子が外に出る時には手伝ってやりなさい。 分かった? ガ はい、はい。 さあ、行くぞ。 セ それから、休みで帰る時 父さんの帽子を買って来てって 母さんが言っていたわよ。 ガ はい、はい。 ダ 本当に掃除した方がいいな。 あそこにすごいのが来たぞ。 ガ 知ってる、知ってる。 船が来たんだろう。 ダ 違う。お前、、、 ガ そう、映画か? ダ 違う、青〜い、 ガ 歌舞団か?県都から来たんだろ? 晩二人で見に行こう。 ベッドの布団を直して。 ドルジバト さあ、みんな。 まず壊れやすいものをあの車に積んで 店まで運んで下ろすんだ。 それから羊毛を運ぶ。 さあ、急げ。 若者 ちょっと、ボス。 このテレビ、これだけで映るの? それともアンテナとかが要るの? 若者2 来年特別なアンテナをつけるそうだ。 ひげ男 ほー、今年はナーダムの相撲を見ようと思ったのに だめだな。 じゃ、こんなゴミに用はない。 ド さあ、急いだ。急いだ。 若者3 それなのに持ってきたのか。 男 そうさ。 若者4 映らないのに1年も前に持ってくるなんて。 ド 俺の知ったことか。 さあ、気をつけて、気をつけて。 壊したら弁償だぞ。 ガ テレビやラジオのことなら 俺たちよりこいつが良く知っているよ。 ド ああ、そうか。 さあ、運んだ。 さあ、ぼやぼやするな。 どれ。 ほら、立つんだ。 そこの二人、それを早く運び出すんだ。 気をつけて。ほら、急げ。 ガ どれ、刺がささったの? アリョナーを、何で外に出さないんです。 ダ 長旅で疲れたせいか、 身体の調子が良くなくて、医者に見てもらったの。 ガ そしたら何て? ダ いえ、処方箋を書いてくれたわ。 知らない人ばかりで 気に病むのか 外に出ようとしないの。 あなた、ちょっと言ってくれない? ガ はは、そうさなあ。 俺の言うことなんか聞くかな。 ラジカセ(父) 綿入り服を持っていった方がいいぞ。 ハンハのあたりは寒いからな。 秋は雪が早く降るしな。 二人が出発したらセルチマーおばさんに 連絡するよ。 (ダ) そうして。 さあ、服を着なさい。 どれ。 (父) 着せてやるよ。 もうちょっと身体を起こして。 9月に休暇が取れたら 父さんも行くよ。 (アリョナー) きっと来てね。お父さん。 (父) 行くよ。 (ダ) 穀物の収穫の時期なのに、 あんたに休暇が取れるもんですか。 私たちなら心配は要らないわ。 知らない土地に行くわけでもなし。 (父) お前の上司によく話しておくよ。 行くからには故郷で ひと夏過ごして来た方がいいからな。 ガ アリョナー、外に出たらどうだい。 景色でも見なよ。 こんなにいい天気なのに 一日中ベッドにいるなんて。 近いうちここでもテレビが見られるようになるかも。 ダ ほう。 ガ テレビが見られたらすごいぞ。 まるで映画さ。 県都の親戚のところで見せてもらった。 相撲の試合をな。 ダ ふふ。 ガ 近いうちこの辺りに大きな鉱山の町が出来る。 鉱山に入って ダンプカーの運転手になろうと思っているんだ。 すごいぞ、ダンプカーは。 ヤクの種オスってところさ。ははは。 ガ ここには、見るものがいっぱいさ。 毎晩映画をやるし 実習の学生たちが来たから パーティーもすごく盛り上がる。 ア どんな楽器があるの? ガ え。 ア 楽器はどんなの? ガ ははあ、いろいろさ。 前はエレキ・ギターが2本あったけど、 この冬ある男が調弦するって言って 弦をみんな切っちゃった。 それからアコーデオンだけが楽器さ。 学生たちがラジカセを持って来たらしいが、 パーティーすると言っても貸してくれない。 ア 何て人たちでしょう。 ガ そうさ、ここには変わった奴がいっぱいさ。 おととし、この町に食堂の装飾に デザイナーが来たんだ。 そいつのズボンには 真鍮のボタンがいっぱいついていた。 シャツには 見たこともない文字が並んでいる。 そしたら、女たちがそいつに夢中になり 俺たち土地の若者を無視し出した。 ある日そのデザイナーが 風呂に入っている間に 服を残らず隠してやったんだ。 ア そしたら。 ガ いや、そしたら、いや、 窃盗の疑いで、もう少しで 刑務所に入るところさ。 こんな具合さ。 ア あなた本当に変わってるわ。 ガ あいつ、真鍮のボタンで、持てたんだ。 すっ裸になって並んだら みんな同じさ。 それで、ここの娘のひとりが 妊娠して残された。 おや、お前の母さん、どこ行った? ア 湧き水に行ったらしいわ。 入れ物持って出ていったから。 ガ 湧き水って? ア ムストのよ。 私に毎日飲ませてくれるの。 ガ ムスト? そんなに遠くにか? それで歩いていったのか、ええ? ア 知らないわ。 ガ おや、俺になぜ言わないんだ。 そうか、それじゃ追いかけよう。 ガ おばさん、どうしたんだ? ダ あの子に効くはずなのよ。 いい湧き水だって言うから。 治るんじゃないかと思って。 ガ アリョナーは何歳だ? ダ 19よ。 ガ はあ、へへ。 うちの妹よりひとつ下だな。 ダ 女の子はむずかしいわ。 医者はよく療養しなさい、治るからって言うけど。 でも、どうだか。 もう3年も経つもの。 あんたそんな大きな入れ物どうするの? ガ ああ、湧き水を一度に運んだら おばさんたち楽だろうと思って。 ダ はは。そうはそうなんだけどね。 近くにあるんだから毎日新鮮なのを 飲ませようと思って。 毎朝汲みに来って、たいしたことないから。 ガ いや、せっかく来たんだから 少しだけでも入れていこうよ。 ダ いいわよ、そんな。疲れるだけよ。 ダ さあ、湧き水飲んで。 マッサージするわ。 二人で外に出てみましょう。そうしない? ここの景色を見たら心が晴れるだろうって わざわざ遠くからお前を担いできた 母さんを思って。 天気のいい日に湖の水を見たら どんなに素晴らしいことか。 二人で外に出ましょう。 ア 私、外に出ないって言ってるでしょ。 ダ お前がこんな風に黙ってばかりいたら 母さん、身の置き場所がないんだよ。 ア お母さん、何か仕事したら。 ガラーさん、何か見つかるって言っていたし。 私たち長い間いるんですもの、 何だっていいじゃない。 そうでしょ、お母さん。そうしなさいよ。 ダ 本当はそうしたいんだけど、 お前を一人にはしとけないよ。 ア 食事の用意だけしてくれればいいのよ。 私寝ているから。 ダ そう、じゃガラーさんに聞いてみようかねえ? ア そうしなさいよ。 ダ どれ。 ア いやよ、赤ちゃんみたい。 ア お母さん、近くに保育園があるわ。 ダ どうして? ア 10時ごろ、子供たちが歌を歌ってたもの。 ダ そうよ。近くに保育園があるの。 子供たちが外で、遊んでいるのが見えるよ。 ア あー。 ダ そうよ、二人で外に出ましょう。 そうしない?母さんの頼みよ。 ラジオ それぞれの単位で働く人間の行動は 最終的な生産性に直接、 目に見える影響を与えるものである。 このことを個人そして勤労者集団のそれぞれが 特に注意をする必要がある。 このことから個人に集団の及ぼす影響、 個人が集団に対して見本となることの 問題が生じてくるのである。 集団の中での人間形成の過程に その集団の成員それぞれの 知識、教養、文化水準、修練度が 大きく作用するのである。 バダルチ お茶にしないか。 バトムンフ どれ、注いでくれ。 若者 そこに注いだのがあるだろう。 若者2 なんて熱いんだ。 若者3 じゃ、自分で注ぐんだな。 バ おい、ひとの自転車をいじるんじゃない。 やめろ。 若者4 こんなおんぼろがそんなに大事か? 若者1 おい、おい、こっちにも。 バ さあ、ガラー。 魚を捕るといって一日中 ボートの上で寝ているのと比べて、 どうだ?えー。 ダグワ よいっしょ。 若者2 じゃ、運んでけ。 ガラー おい、ダグワ、ちょっと休め。 ダ いいよ。 バ 勝手にやらせておけ。 ひげ あいつ少しでも多く稼いで テレビを買うつもりさ。 ガ そう思って何が悪いんだ。 あいつもお前と同じ人間だぞ。 ひげ へっ。 バ おい、お前。 「口は禍の元」ということわざを きっとお前も聞いたことがあるだろう。 お前は言い争いばかりして 行き所のなくなった人間だ。 口を慎まないと、しまいには あのダグワのように 吃りになってしまうかも知れないぞ。 ははは。 プルブドルジ おい、みんな。 あいつの手綱を今からきつく 締め上げておかないと駄目だぞ。 手のつけられない奴だからな。 ド おーい、ガラー。こっちこい。 ガ ああ。 ド すわれ。 みんな、同じ休むにしても 役に立つ休み方と言うものがある。 暇さえあれば互いをけなしあっている。 こんな風な休み方なら、しない方がいい。 いいか、みんな。 集団の中での人間形成の過程に その集団の成員それぞれの 知識、教養、文化水準、修練度が 大きく作用する。 なのに、うちではこのことを 省みない行動が多く見られる。 いいか、みんな。どうしたらいい? 少しでも暇があったら お互いを教育しあうんだ。 教養のある者はない者を、 経験のある者はない者を 助けなくてはいかん。 分かったか? みんな 分かりました。 ド じゃ、みんな仕事を始めるんだ。 時間だ。 みんな はい。 ガ あんなきれいな娘が寝たっきりとはな。 魔法が出来たら治してやれるのに。 人間は心から治るというのは本当かな? そうなら、あのダグワの吃りも治してやりたい。 あの鏡、まぶしいぞ。 セ お前、外に出てみなさいよ。 波を見ていると長生きするって言うじゃないか。 ア 私出ないわ。 セ 何言っているの。 身体を気遣ってばかりいると、 かえって身体に悪いよ。 外の風に当たるんだ。 ダ ひとつのこと考えはじめたら そのことばかり考える、 困った子なの。 セ いいのよ。 ガ おや、こんにちわ。 セルチマーおばさん。 セ ああ。こんにちわ。 ガ いつ来たんです。 セ ああ、今日さ。 ダ ほら、お茶飲みなさいよ。 ガ お茶より、金槌貸してくれないか。 ダ ええ。 はい。 ガ これをここに打ち付けるんだ。 ダ 鏡をどうするんだい。 ガ ああ。 ダ うちにも鏡ならあるよ。 ガ この鏡にはちょっとした仕掛けがあるんだ。 ダ (笑い) ガ 湖が見えるかい。 セ ええ、見えるよ。 ガ アリョナー、そこから見えるかい。 これでどうだ? セ・ア 見えるわ。見えるわ。 さあ座って、お茶をお飲み。 お菓子も食べて。 ガ うちの者は元気だろ。 セ 元気だとも。 ガ 仕事に遅れる。もう行かなきゃ。 セ おや、行くのかい。 ほんとに、うまいこと考えたよ。 鏡をつけるだなんて。 私にはとても思いつかないよ。 ダ とても親切で、陽気な若者だわ。 セ ああ。 ガ うちの者に近々帰ると言ってくれ。 セ ええ。 ダ 私ら二人をよく助けてくれる。 セ そうだとも。そうだとも。 あの子の両親とうちは隣同士さ。 すこし気は短いけどね。 補助生産大隊で漁師をしていたんだが、 人とけんかでもしたのか、どうしたのか、 今は船積み場の人夫をしているということだよ、 ダ そうだわ。かなりきつい仕事らしいわ。 放送 お知らせします。お知らせします。 今夜、郡のクラブにおいて 19時より ソ連の劇映画『愛を大切に』という題の 興味深い新作のカラー映画を上映します。 郡の多くの勤労者の方が鑑賞されること望みます。 子供は入場禁止です。子供は入場禁止です。 ご注意下さい。子供は入れません。 ア お母さん。 ダ どうしたの。恐いことでもあった? ア いいえ。 ダ そう、じゃあ母さん食事を作るわね。 ア さっき、あそこで3人の人がお酒を飲んでたの。 ダ どこで?ここに入ってきたの? ア いいえ。 ダ はあ。 ア お母さん、仕事はきつい? ダ 何できついもんかね。 クラブは小さいし、 クラブの主任も映写技師も 二人ともいい若者よ。 ア ここの人たちみんないい人たちね。 ダ ガラーが帰って来た。 母さん、お茶を入れてやるわ。 ア お茶なら魔法瓶にあるわよ。 ダ 本当、そうだったね。 ダ お茶に呼ぶわ。 ガラー、ガラー。 かわいそうに、眠ってるわ。 母さん、食事を作ってから起こすわ。 独り者はたいへんね。 仕事から疲れて帰ってきても お茶も食事もないんだから。 よく、身体が持つわ。 ア お母さん。 ダ え。 ア ガラーさん、どうして結婚しないのかしら。 ダ 奥さん、出て行っちゃったそうよ。 ア 何てひどい人なの。 ガラーさん、陽気でいい人なのに。 ダ きっと気が合わなくって 出ていったのよ。 ア それで今どこにいるの? ダ この北の第3生産大隊で 看護婦をしているそうよ。 子供ひとりと。 ア 子供と?じゃあ、子供を連れて出ていった ということ? ダ こんな仕事をしている人が 子供の世話なんか出来るわけないでしょ。 ア どうして?保育園に預けてもいいじゃない。 それか、私がいっしょに遊んでやってもいいわ。 ダ お前、あまりいろいろなこと聞いて 困らせるんじゃないよ。 妻に捨てられた男と言うのは あまり人聞きのいいものじゃないから。 ア そうね。 ガ なんで俺の給料がたったの360トゥグルクなんだ。 経理 たったの360だって? ガ ああ。 経理 「働いただけ取る」というのが社会主義の原則だろう。 「文句言うより、がっちり握れ」というし。 ここにサインするんだ。 ガ ダグワ。 ダ はいな。 ガ こっちに来い。 給料いくらもらった? ダ 360. ガ 人と同じように働いたんだから 人と同じようにもらえるはずだろう。 ダ その通りさ。こうして引かれちゃうんだ。 ガ 給料の査定はドルジバトがやってるんだろう。 ダ そうさ。 ガ あいつらグルになって、 俺たちを馬鹿にしてるんだ。 それでよくお前たち黙っているな。 ダ ガラー、よせ。よすんだ。 ド おい、ドアの鍵かけてなかったのか? やあ、ガラー。給料はもらったんだろ? ガ あんたら、どうして給料をさっ引くんだ。 ド 俺がどうして知っている。 主任か経理に聞かんか。 ガ ダグワと俺は、こいつらと同じように 働いて、たったの360トゥグルクしか貰わない。 なのにどうして、こいつらは 千トゥグルク以上もらっているんだ。 バダルチ  お前、俺たちと張り合おうってのか? 言ったはずだぞ、口を慎めってな。 ガ お前いつ仕事してた。えー? ひげ もう一度言ってみろ。まだ張り合う気か。 ガ やめろ。お前らが何をしているのか分かっているんだぞ。 ド さあ、みんな、帰るんだ。 ひょっとしたら面倒なことになるかもしれん。 みんな帰ろう。 ガ 俺のだけじゃない。ほかにも何人かピンはねしているんだ。 訴えてやるからな。 ひげ 何のつもりだ? ガ よく覚えとけ。 お前、どうするつもりだ? 「投書箱」 ガ おや、いいことだ。 始めからこうして外に出なきゃいけなかったんだ。 ほら、むこうじゃ祝日が始まるんで すごい人出だ。 ダ ほう、どれ。 『赤と黒』か。面白い本か? ア ええ、面白いわ。 ガ 戦争ものだろ。 黒の側はどこの国だ? アメリカか、どっかか? ア (笑い) ガ はは、俺『赤と白』の間違いじゃないかと思ったよ。 さあ手をよく洗おう。 ダ あなた、今帰ったの? ガ ええ。 ダ お茶よ。 ガ はい、はい。すぐに。 ア その腕どうしたの? ガ ああ、これか?何人かのしてやったんだ。 ア けんか? ガ いや。大したけんかじゃない。 俺の給料が少なかったんだ。 それで給料の査定表をみたら 面と向かって物を言うことが出来ない 何人かの給料がピンはねされていて ドルジバトという奴が 余計に貰っていたんだ。 ダ ほう。 ガ それで面と向かって言ってやった。 そしたら取り巻き連中が ドルジバトをかばって 俺に飛びかかってきたんだ。 ダ へー。 ガ 「ひげ面」って 人を馬鹿にする奴がいるんだ。 俺、思い切りなぐったら 壁にぶっ飛んだよ。 きっと気絶しただろうな。 ダ おや、そんなことしちゃ駄目だよ。 誰からも相手にされなくなる。 ア 正しいことのためなら 構わないじゃない。 ガ その通りさ。 白黒つけるべきさ。 あのダグワの給料まで ピンはねしてるんだから。 ア ダグワさん、面と向かって 人に何も言えない人でしょう。 ガ そうさ。 まあ見てろ。 こんなこと、やめさせてやるから。 ナーダムの後、見てな。 あんたら二人も ナーダム見るんだろう。 ダ 私たち、とても見に行けないわよ。 ガ 俺アリョナーを抱いて行くよ。 ア あら、いやだ。 ガ どうして。何でいけない。 構わないじゃないか。 ダ 私、もうクラブに行くわ。遅れてしまう。 パーティーの前に掃除を済ませないと。 若者 青白き天の主として生まれたり我は 三日月めぐる遥か遥かな軌道に 遠き2つの星の巡り合うわずかの間に 二つの瞳の片隅にかすかに青く瞬く彼方に バダルチ どれ、ほら、最初はこのキーからだぞ。 ひげ ああ。 バ 始めるぞ。3。 /雁のひなが外で鳴いている。 やめてくださいよ、ダワージャブさん。 練習中なんだよ。困った人だなあ。 あっちへ行った。 さあもう一度。 クラブ主任 ダワージャブさん。 ダ はい。 ク あなた、今夜のパーティーに来て下さい。 たくさんの人が来ますよ。 ダ 分かりました、来ます。 ガ こんなもんでどうかな? ア とても素敵だわ。 ガ 本当か? ア 本当に素敵よ。 ガ アリョナー、香水くれないか。 ちょっと付けたいんだ。 ア 女性用だけどいい? ガ ええ?男物と女物があるのか? そうだな、人がどう思うかな。 まあいい、ハンカチに 沁み込ませていこう。 女物の香水って こんなんなんだな。 ア あなた見違えたわ。 ガ いやあ、着てる物が変わっただけで 中身が変わるもんか。 ア 中身も変わるのよ。 ガ かもな。議論してもしょうがない。 帰ったらパーティーの様子話してやるよ。 ギンギンに踊って来るからな。 じゃあな。 郡長 革命記念日に向けた社会主義生産競争に 大きな成果を出された若干の組織と個人に 賞を贈ります。 船積み場の責任者、ドゥージー氏。 (スヘー うちの主任が賞をもらった。) ドゥージー さあドルジバトさん、おめでとう。 郡長 小売り仕入れ部門の経理担当、ダリスレン。 建設生産大隊の大工、ナンザド。 ナンザド ありがとうございます。 郡長 船積み場の人夫、バダルチ氏。 ひげ おい、バダルチ。 バダルチ ありがとうございます。 バ ありがとう。 この俺が賞をもらうなんて。 ガ ダワージャブさん、踊らないの? ダ 仕事中なんだよ。 そうでしょ。 警察官 踊って構わんさ。 ガ 俺帰ろうかな。 ダ そうしたら。 ひげ おい、こっち来い。 上の方に告げ口したのはこいつだよ。 俺たちのような下っ端の労働者の言うことなんざ まともに取り合ってくれんさ。 ガ そんな物言いを誰が教えた。 そいつに言うんだな。 余計に金をもらって そんなに嬉しいか。 俺にこれ以上手を出したら 痛い目を見るぞ。 法律って物があるからな。 きっとそいつだけを裁く 法律なんてのはないだろうがな。 お前、ちょっと来い。 お前に言っておきたいことがある。 こいつらを自分の友達だと思っているのか。 お前こいつらにいいように操られてるぞ。 おはじきの玉みたいに弾かれてな。 惜しいよ。こんないい男が。残念だよ。 バ お前こんな所で油を売っているより 友達の所に言ったらどうだ。 あいつテレビを買ったらしいぞ。 ふたりで並んで見るんだな。 ダ おや、ガラー。 ガ それを消すんだ。 それを消せって言ってるんだ。 馬鹿な奴だ。そんなの映らない。 来年中継所が出来て映るんだ。 どうしてそんなに夢中になっているんだ。 人の笑い者にされて。 俺とお前をダシにして あのサングラス野郎 クラブで笑ってるぞ。 それは映らないんだ。 分かったか。 ダ 映るよ。映るさ。 ガ どうして分からないんだ。 ダ 映るよ。映る。 外に出てみろ。出て。 ガ もうたくさんだ。 お前どうするつもりだ。 ダ あれを見な。 ガ 何だあれは。 映らない。映らない。 (意固地になるな。) ダ アンテナだ。ここに書いてある。 映るよ。 ラジカセ(娘1)あんた何でついてくるのって言ったら、 お前が一人じゃ退屈だろうと思ったからさ、だって。 私言ってやったわ。 あなたといる方が一人でいるより退屈よって。 さあ、おしゃべりはこのぐらいで 行きましょうか。 (娘2) そうしましょう。 (ア) 二人とももう帰るの? (娘2) 私たち帰るわ。補習なの。 (娘1) また来るわ。 (娘3) 明日先生が男の子達を連れて 見舞いに来ると言ってたわ。 さようなら。 (ア) さようなら。 ガ みんな、まだ騒いでいる。 音楽は大音響だし 学生たちは踊りに夢中だ。 どうした、退屈したのか? ア なんで早く帰って来たの? ガ ああ俺か? お前さんの話し相手になろうと思って。 ア お母さんは?まだいるの? ガ いるよ。 俺おばさんがまだいられるようにと思って。 ほら、聞こえるだろ? これでエレキ・ギターや点滅ライトがあったら いいのに。 ア 踊ってこなかったの? ガ ああ、酔っ払いが何人か ふらふらしていて 俺に絡んできたんだ。 だから、俺やっつけてやったよ。 その上ダグワをまた馬鹿にしたんだ。 あいつらに比べたらダグワは技師だよ。 何でも作れるんだ。 今度はテレビを映すって張り切ってる。 俺は弱い者を馬鹿にする奴等は 我慢が出来ない。 徹底的にやっつけてやった。 ざまあみろ。 ア ほかの面白いことない? ガ 面白くないのか。 ア いえ、他の話は?いつもけんかの話ばかりじゃない。 ガ ほかに何に話すんだ。何を。 ア 何だっていいわ。 ガ 俺が小さいころどんな子だったと思う? ア そうね、わんぱくだったと思うわ。 ガ おとなしい子供なんでいないさ。 ア そうして? ガ 子供だからさ。 俺はおとなしい子だと言われていたんだ。 小さい時競馬に出る馬が 繋いであるのを放してやったんだ。 草が食べられなくて、かわいそうと思ってさ。 そしたら次の朝探すのにひと騒動さ。 ア それからどうしたの? ガ どうって。 草をいっぱい食べた馬が競馬に出られるかい。 太った人間が競走に出るようなもんさ。 テレビ 緊張しているところを腕をつかまれ引っぱられ、 バランスを崩して手と足で身体を支える体勢になっています。 手を地面について持ちこたえました。 ツェレントクトホ横綱は、 相手の足を取りにいこうとしているようです。 取りました。決まりました。 相手を油断させたところで、 何年も前に出していたこの技を また出したのです。たいしたものです。 勤労協会所属、モンゴル人民共和国の 「衆の記憶となる、海の広さの、神聖なる横綱」 ツェレントクトホ、決勝進出。 モンゴル・ピオネール児童会館所属、 ツェレンフーが勝ち、アルタンホヤグに土がつきました。 少年の部、64人の力士の中から、 モンゴル・ピオネール児童会館所属、 ツェレンフーが優勝、 モンゴル・ピオネール児童会館所属、 アルタンホヤグが準優勝しました。 ひげ ああ、お前テレビを見せてやってるんだってな。 湖の底を見せてやるよ。 ガ おいお前ら、何するんだ。 おいやめろよ。 ひげ お前いい奴らしいが、 いかんせん、その口がいけない。 ちょっと思い知ってもらうぜ。 ガ やめろ。放すんだ。 (バダルチ おい、そいつに怪我させるんじゃないぞ。 そうだ。) お前何見てる。 行くぞ。 プルブドルジ 奴の様子はどうだ? ひげ いや、じたばたやっている。 バ ほっておけ。 ダグワ これでよし。 ガ これどうするんだ? ダ 座ってみろ。 行くぞ。 ああ、抜けて。 あとは座席と背もたれをつけるだけだ。 男 倉庫の屋根が抜けて大事(おおごと)になっているぞ。 すぐ来い。急ぐんだ。 ダ 行くよ。 ダ いいかい。 ガ アリョナーのために作ってもらった。 出入りが楽になる。 倉庫の屋根が落ちて 小麦粉が水浸しになるところだった。 ダ ガラー、ほら乾いたシャツ。 ガ いいよ。部屋に戻って 着替えるから。 ダ 嬉しいでしょ。 こんないい車椅子作ってもらって。 ガ おはよう。 ア ええ。 ガ どんな具合だ? ア とってもいい、快適だわ。 ガ 掃除の必要ないよ。 疲れるだけだ。 ア 大丈夫よ。 ガ 俺、明日きれいな景色を見せてやるからな。 その車椅子ならどこだって行けるさ。 俺のダグワは、まったく器用な奴だ。 あっという間に作ってくれたんだから。 ガ さあ、どうだ? ア きれい、本当に美しいわ。 ガ こりゃなんてかわいい子だ。 ア うちのクラスにナランゲレルって女の子がいたの。 彼女、子供を産んだそうよ。 ガ そう。 ア チムゲーって言う子は最近結婚したんだって。 眠っちゃったのね。 ガ いいや。 ア 私の話退屈なの? ガ そんなこと。 ア 私、いつも人のお荷物になってるわ。 ガ アリョナー、なんてこと言うんだ。 そんな風に考えちゃだめだ。 沈むな。落ち込むんじゃない。 きっと治る、俺には分かるんだ。 自分が必ず治るといつも思ってなきゃ。 信じることが大切なんだ、 アリョナー。 立派な夫を持って、 子供を産むんだ。 子供をたくさんな。 たくさん子供を作るんだ。 ア 本当。子供が多いといいわよね。 ガ 子供は可愛いもんだよ。 ア あなた、子供のこと思い出す? ガ どうして知ってるんだ。 ア あの鏡、何でも映すのよ。 ガ 鏡って? ア ドアに打ち付けてくれた鏡よ。 ガ 俺、どうしてか、ニャムスレンが 子供を連れて戻ってくると 信じているんだ。 ア そしたら、うれしい? ガ もちろんさ。うれしいよ。 ア 子供を連れてきたら。 私が見てあげるわ。いいでしょ。 ガ 妻が可愛そうだ。 どうした。 具合が悪いのか? どれ、セーター着るんだ。 ア いいえ。 ガ これはセルチマーおばさんがあなたにって。 ダ こんなに気を遣って。 お食べ。 ア ええ。 ガ この乳は少しだけど、 うちの両親からアリョナーにって。 ア ありがとう。 ガ この靴はあなたに。 うちのお袋が乳搾りにはいてたのさ。 気にしないでいいよ。 湧き水に行く時に履いてけば。 ダ 重いんじゃないかしら。 ガ 俺、馬を連れてきたんだ。 馬に乗って行けばいいさ。 ほら。 ダ あら本当。 ガ これはお前さんに持ってきた。 足が暖かいぞ。 ア 私そんなの履かないわ。 みっともない。 ガ そうか、俺、部屋に戻るよ。 ダ 足が暖かいだろうって持ってきてくれたのよ。 気を悪くしたじゃない。 ガ この敷居を取ったら出入りが楽になるぞ。 ア お母さん。車椅子の通り道を作ってくれてるの。 ガ アリョナーの通り道を。 ダ モンゴル人なのに何ってことを。 敷居は切るどころか踏むのもいけないのに。 すぐにやめなさい。 ガ こりゃ、失敗だった。 待ってな。よいっしょ。 ア なんて奇麗なんでしょう。 波のある湖は恐いわ。 ガ 波は素晴らしいよ。 水面に溜まったゴミを 浜辺に打ち上げてくれるんだから。 ア ガラーさん、あのおばあさん いつも岸のゴミを拾って歩いているわ。 ガ ああ、あれか。 「海の母」。 永遠の命を持つって話だ。 うちの親父の若いころも あのばあさんがいたって言っている。 うちの者たちはすこし大袈裟なんだ。 ア なぜ大袈裟なの。 ガ 人間に永遠の命なんてあるもんか。 ア あるわよ。あるわ。 ガ ええ? ア 人生の素晴らしい愛が 永遠じゃないって言うの。 ガ 分からない。ああ、そうかもな。 ア 私はそう信じているの。 あなたも信じて。 そう信じないとぞっとするもの。 ガ 主任、お呼びですか? 主任 そうだ、そこに座れ。 君の出した不満について 特に人に命じて調べさせてみた。 だがそのような 事実はないと言うことだ。 ガ 何、 そんな事実がないだって? 主任 そうだ。そういう事実はないそうだ。 君も若い。 不満があってもいい。 批判もいい。 だが物事に軽率であってはいかん。 分かったか? ガ そしたら俺は、そしたら、 事実無根のことを言ったということか? このことはみんなが知っている。 面倒がいやだから 言わないだけなんだ。 主任 お前のほかに同じ不満を言うものはいない。 聞けば、君は何かと言えば人を訴える人間だそうだ。 こんな根拠のない讒言は 集団の団結に悪い影響を与える。 今回は 見逃してやろう。 またこんなことがあったら、 今日のようにはいかないぞ。 分かったか? 分かったなら、仕事に戻れ。 ガ 分からない。 主任 何。分からないだと。 人を誣告したら罪になるのは 知ってるだろう。 ガ あんたを誠実な人間だと思ってたのに。 主任 さあさ、出ろ。 ア どうかしたの? ガ 大丈夫さ。ちょっと疲れただけさ。 一日何してた。 ア うちにいたわ。 ガ 構うな。自分に注げ。 俺、朝お茶飲んだから。 ア ガラーさん。 ガ 何だ? ア ちょっと聞いていい? ガ いいよ。 ア この前殴られたの? ガ 誰がそんなこと。 ア それで着ていたシャツの袖が 破れて、ボタンが飛んでいたんでしょう。 ガ 誰に殴られたって? ア 何も隠すことないわ。 殴られたって言うのが恥ずかしいの? どうしたんだろうって、 すごく心配したのよ。 あの人たち本当に恐い人たちだわ。 ガ え、ここに来たのか? ア 鏡に映ったのよ。 ガ バトムンフ、こっち来い。 ありがと。あの自転車の代金だ。 バトムンフ 要らないよ。 ガ 遠慮するな。 今受け取らないと、 使っちまうぞ。ほら。 バ 俺はそんなに乗らなかったから。 でもお前、いいものを作ったよ。 あの娘の役に立った。 ガ 受け取れ。 かみさんにやれ。 怒っているだろう。 おかしいな。 ひげ おや、ガラー。 俺を突き落とす気か? いや、冗談さ。 お前が仕事サボって 山に散歩させているのは どこのお姫様だ? ガ 関係ないだろ。 ひげ 言っとくが、ドルジバトさんがな、、、 ドルジバト おーい、ガラー、 俺の部屋にちょっと来るんだ。 ガ ええ。 ひげ 休暇を取るんだ。 おれたち20トゥグルクずつ出しあって ヤギの丸焼きをするつもりだ。 お前も20トゥグルク出せ。 ガ 残念だが、20トゥグルク出せないな。 ひげ はあ、こいつら全く付き合いが悪いな。 ガ 入ってもいい? ドルジバト ああ、入れ。すわれ。 給料もらったか?不満はないだろう。 おや、お前まだ文句があるのか? 文句を言うから、100トゥグルク 上乗せしてやったんじゃないか。 この先黙って仕事をしていれば もっと考えてやる。 さあ、行け。 ガ あんた、俺の何が欲しいんだ。 何が。ええ? ド うるさいぞ。 ラジオを聞いているんだ。 出て行け。 ガ ああ、そうかい。 見てろよ。 ド おい、おい、お前。 ガ 俺の良心を金で買おうと言うんだな。 ド おい、お前、何するだ。 みんな、こいつを何とかしろ。 誰かいたら来てくれ。 おーい、みんな。 ガラーに殺される。ガラーに殺される。 ガ 二人とも葬式に出たように、 何で下ばかり向いている。 俺、何か間違ったことしたか? バトムンフ 警察に出頭だなんて、 笑い事じゃないぞ。 ガ 何が恐い? 俺は事実を言ったんだ。 ダ ガラー、人様に手をあげるというのは よっぽどのことだぞ。 正直に生きてさえすれば何とかなる。 俺たち、調査してくれって 上の方に手紙を送ったんだ。 ガ おまえら、くだらないことを。 男らしく決着をつけたらどうだ。 もういい、帰れ。 バ ああ、帰るよ。 ア あれ見て。 ダ 何? ア ガラーさんがボートに乗っているわ。 ダ そうだね。 ア どこ行こうとしてるのかしら? ダ 本当。 「同志ガルバドラフは、仕事仲間を信頼せず、 欠点を諭そうとした人間を攻撃し、 国家の財産を破損し、 規律違反を繰り返したことから、我々は 彼を我が集団にふさわしくない人間と判断した。 よって同志ガルバトラフを解雇することとする。」 ア 百。 海の母、 海の母。永遠の命を持つって本当かしら。 ア うちにどんな車が来ているのかしら。 ガ 船積み場のトラックらしい。 ア 父さんが来てくれたんじゃないかしら。 運転手 おい、ガラー、こっち来い。 お前、俺を悪く思うなよ。 ドルジバトさんの休暇祝いに ヤギの丸焼きをやるんだ。 そしたら、お前のところの ニャムスレンが、荷物運んでくれって 聞かないんだ。 悪く思うんじゃないぞ。 ガ 気にするな。大丈夫だ。 ニャムスレン、こんちわ。 ダ どうしたの? ア 何でもないわ。 ガ 俺の噂聞いたのか? ニャムスレン 上司につかみかかって、 殴ったですって、いすや机を壊したですって。 あなたのような人、この辺じゃ他にいないわ。 あなた、こんなことになっていたのね。 真っ先に声を上げて、騒ぎ立てて。 あなたが人並みでいたら、別れなかったはずだわ。 子供のこともあるしね。 ガ ドルジバトのような奴は殴っても足りない。 ニャ あなたが人を殴るってどういうこと。 ろくすっぽ殴れもしないのに。 私、母の箪笥と自分のもの持っていくわ。 ガ 俺に断わらなくてもいいさ。 俺、車に積んでやるよ。 ニャ 結構よ。 人目が悪いでしょ。 あなた男なんだから。 ガ 積んでやるったら。 運転手 どれ。 ガ じゃ、またな。 運転手 ああ。 ニャ ねえ、ガラー。 あの鏡忘れてわ。 取ってきて。 ガ 2年間一緒にいた記念に残していけよ。 ニャ いやよ。「女性の日」に賞でもらった鏡よ。 ガ あの鏡、人に貸しているんだ。 あとで返すよ。いいな。 ニャ 人に貸したですって? ははあ。 私、返してもらうわ。 ガ 待て。後で届けてやるから。 ニャ あたしの物でしょ。 ニャ どいてよ。 ガ 後で返すって言ってるだろうが。 ニャ このドア開けて。 私の鏡、返して。 開けってたら。 ア お母さん、仕事終わったの? ダ 風が出てきたんで、 セーターを持って来たんだよ。 船積み場に検査が来たそうよ。 ドルジバトさんの仕事を調べるんだわ。 ガラーをハトガルに連行するって 警察が来てるわ。 人を殴ったんだわ。 ア ガラーが?まさか。 ダ 本当よ。 自分とこの生産大隊の長を殴ったんですって。 みんなが殴ったの、掴みかかったのと言っていたの、 本当らしいわ。 母さん会って来るわ。 二人で行くかい? ア いいえ。 ダ じゃあ、母さん会いに行ってくるからね。 運転手 おい、みんな。トラックが道から落ちそうだ。 降りてくれ。降りてくれ。 ドルジバト 静かに。静かに。 動くんじゃない。 えらいことになったぞ、みんな。 後ろから一人ずつ、早く降りろ。 すわるんだ。 ガ 俺、ハトガルにダンプカーの教習を受けに行くんだ。 ア 嘘よ。あなた嘘を言ってるわ。 あなた人に殴られたのに、自分が殴ったって、 いつも嘘を言ってるんでしょ。 うそつき。 ガ 俺、すぐに戻るから。 分かるだろう、アリョナー? ア 嘘だわ。私をだましているのよ。 ダンプカーの教習ってのも嘘。 私をだましているのよ。 ガラー! ガ 立ったぞ。立ったんだ。 みんな。 アリョナーが自分の足で立ったんだ。 見えるか、見えるか? アリョナー、アリョナー。 すぐに、すぐに戻ってくるからな。 すぐに戻ってくるぞ。 戻るからな。 アリョナー! 完