http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/hirotate/
家庭でつくれるスペイン料理レシピ
スペインの中世のことわざに「嗜好と色彩は、各自が好むものが最良である」と言われるように、代表的スペイン料理といわれるものも読者の方がたの嗜好にはそぐわないかもしれない。だが、現世的な幸福を説いたドイツの哲学者フォイエルバッハが「私たちは、私たちの食べるところのものである」と述べたように、現在のスペインの一般の人びとが日常的に食するものは、おそらくスペイン文化の特徴をあらわしていると思われる。ここでは、実際にスペイン人の嗜好の一端に触れていただくために、日本で手に入るもの、あるいはある程度代替できる食材を使った家庭料理を選んでみた。料理レシピを参考にしてご家庭で試していただければ幸いである。
なお、@ーHを「スリーコースメニュー」の一皿目にあたる《前菜またはスープやサラダ》に、またIーPを二皿目にあたる《魚または肉の料理》に分類したものの、これはあくまでも目安であって、それぞれの家庭が時に応じてどのような食事をするかによってメニューは変わってくる。たとえば、「カラマーレス・エン・ス・ティンタ」は少量ならば前菜としてタパス風に出ることもあるし、盛り付けを多くしてメインで出ることもある。「パエーリャ・デ・マリスコ」も普通はサラダをとったあとのメインで出されるが、量や具をおさえて一皿目で出して、あとの二皿目に重い肉料理が来ることもある。要は、食する人たちのその時々の食欲や雰囲気などを考えて、いかに満足させるかという気配りの問題と言えよう。
《前菜またはスープやサラダ》
@ボケロネス・エン・ビナグレ(シコイワシの酢漬け)
Aソパ・デ・アホ(ニンニクのスープ)
Bガスパーチョ (トマトの冷製スープ)
Cエンサラディーリャ・ルサ(ロシア風ポテトサラダ)
Dアスカリバーダ(焼ナスと焼パプリカのサラダ)
Eフディアス・コン・パタータス(モロッコインゲンとジャガイモの煮物)
Fトルティーリャ・エスパニョーラ(スペイン風オムレツ)
Gサランゴーリョ(ズッキーニとジャガイモの卵とじ)
Hアロス・ア・ラ・クバーナ(キューバ風ライス)
《魚または肉の料理》
Iコシード・マドリレーニョ(マドリード風煮込み)
Jアルボンディガス・エン・サルサ(肉団子のトマトソース煮)
Kフィレーテ・ルソ(ロシアのステーキ)
Lアリータス・アル・アヒーリョ(手羽元のニンニク風味)
Mパエーリャ・デ・マリスコ(魚介類のパエーリャ)
Nカラマーレス・エン・ス・ティンタ(イカの墨煮)
Oメルルーサ・ア・ラ・バスカ(タラのバスク風煮込み)
Pベスーゴ・アル・オルノ(マダイのオーブン焼き)
材料: 生食用シコイワシ
ニンニク
パセリ
塩
ワインビネガー
作り方: シコイワシは、手開きで三枚におろし、よく洗って水を切っておく。
ニンニクとパセリはみじん切りにする。
保存容器にシコイワシを一並べしたら塩とニンニクとパセリをひとふりし、その上にさらにシコイワシをのせ、同じ手順でくりかえす。
全部並べ終えたら、全部が浸かるくらいのワインビネガーを注ぎ、軽く容器をゆすって、底まで酢が均等にわたるようにする。
冷蔵庫で数時間寝かせ、好みの浸かり具合のところで食する。
新鮮なシコイワシを見つけたら、作ってみて欲しい。
食事というよりは酒のつまみで、バル(立ち飲み居酒屋)のピンチョ(つまみ)によく出てくる。
シコイワシの代わりに真イワしやサーモンをつかい、オリーブ油も加えたマリネ(エスカベーチェ)にすれば、食事の二皿目になる
スペインでもイワしは、ペスカディーリャ(小ぶりの生タら)と並び、食卓によく上る庶民的な魚。
屋外で、もうもうと煙を立てて鉄板焼きや直火焼きにすることも。脂ののった熱々のイワしにレモンをジュッとかけ、皿に山盛りのイワシを平らげていく姿は壮観ですらある。
材料: ニンニク 二片
卵 二個
フランスパン 薄切り八枚
オリーブ油 小さじ二
パプリカ(粉末) 小さじ一
固形ブイヨン 一個
塩 少々
作り方: スライスしたニンニクをオリーブ油でいため、狐色になったら、パプリカを入れ、直後に水一〇〇〇CCと固形ブイヨンを入れて沸騰させる。
塩で味を調整し、一煮たちしたらパンのスライスを入れる。
パンがスープを吸った所に、溶いた卵を加え、軽く混ぜたらふたをして火を止め、一〇分ほど置く。
冬場に体を温めるのには最高のスープ。
ニンニクのスープには各地、各家庭に様々なレシピがあるが、これは友人宅のやり方。
パプリカは焦げやすいので、すぐに水を加えること。そうかといって、水を加えてからパプリカを入れたのでは香りが立たないと言う。
スペインのフランスパンは翌日には硬くなってそのままでは食べられない。それを利用してつくられたのがソパで、もともとは硬くなったパンを水に浸して軽く絞ったものをさす言葉だった。
フランコ時代にスペインにいた頃、燃料屋があって、石炭などとともに硬くなったフランスパンが積まれていたのを思い出す。あれは燃料として燃やされていたのだろうか・・・。
市場のパン屋に硬くなったパンを持っていくとその場で挽いてパン粉にしてくれたものだ。今は見かけないようだが。
材料: トマト 六〇〇グラム
キュウリ 一本
ニンニク 一片
ピーマン 二個
オリーブ油 一〇〇CC
酢 五〇CC
フランスパン(中の柔らかいところ)一カップ (みみを除いた食パン一枚でも可)
塩 小さじ二分の一
堅ゆで卵 半個
作り方: キュウリ三分の一本、パン少々、ゆで卵はみじん切りにしてトッピング用に準備。
トマトは皮をむき、気になるようなら種を除く。
ニンニクも皮をむき、ピーマンは種を除く。
すべてをざく切りにして、ミキサーに入れる。
パンをちぎって入れ、オリーブ油、ワインビネガーも加え、十分に攪拌する。
(好みでマヨネーズ少々、あるいは生クリーム少々を加えても良い。)
大きめの器に移し、水約二〇〇CCと塩を加え、好みの味に整える。
数時間冷蔵庫で寝かせてよく冷やす。
冷やした器に盛り、トッピングをする。
(卓上で各自の好みで入れてもらってもいい。タマネギや生ハムのみじん切り、アーモンド粉などを入れることもある)。
夏の一押し! 食欲が落ちていても、のどごしが良く、栄養満点。
昔はモルテーロと呼ぶ木鉢とすりこぎで作ったが、今はこの方法が一般的。
アンダルシーアの地方料理だったが、全国に広がり、今ではスーパーで出来あいの紙パックに入ったものも売られ、手軽に飲まれている。
酢はできればワインビネガーを用いたいが、普通の穀物酢でも十分。
アンダルシーアにはサルモレーホやソーケなど、もっと濃厚な冷製トマトスープもある。スープというより具沢山の一品料理で、パンを添えればこれだけで栄養は十分だ。
C エンサラディーリャ・ルサ(ロシア風ポテトサラダ) (四人分)
材料: ジャガイモ 四個
キュウリのピクルス 二本
ツナ缶 一缶
グリーンピース 一〇〇グラム
オリーブの実 適宜
赤パプリカ (あれば)
マヨネーズ(できるだけ酸味の少ないもの)
酢
作り方: ジャガイモはゆでて、冷ましてからイチョウ切りにする。
ツナ缶は開けてほぐし、酢をほんの少したらして、味をなじませておく。
グリーンピースは軽く塩茹で。出来れば生を用意したいが、なければ冷凍品を用い、缶詰は避けたい。少量を飾り用に取り分けておく。
ピクルスは、少量を千切りにして飾り用にとりわけ、残りは大き目のみじん切り。
赤パプリカは飾り用に、丸焼きにして皮をむき、縦に裂いておく。なくても可。
ジャガイモ、ツナ、グリーンピース、ピクルスのみじん切りをマヨネーズであえる。
これらがちょうど入るくらいのボールにきっちりと詰める。
大皿の上にボールをひっくり返して、サラダが小山状になった上に、マヨネーズを中身が隠れるくらいたっぷりと塗りつける。
その上に、取り分けておいたグリーンピース、ピクルス、パプリカ、オリーブの実で自由に飾り付け、冷蔵庫でしばらく寝かせる。
スペインのツナ缶はオイル漬けのものと、エスカベーチェとよばれるマリネされたものとがある。
市場で量り売りしているのは主にエスカベーチェで、このサラダにもこれを用いる。
ジャガイモが決め手なのだが、メークイン系では少し水っぽいので男爵系を用いるが、ゆでてすぐに触わると崩れてしまうので、冷ましてから切るのがポイント。
バルのタパによく見かけるが、家庭でもちょっとしたお客があって大勢で取り分けて食べる時に作られるようだ。中に入れるものをエビなどにすると、ちょっと豪華な一品になる。
オリーブの実(アセイトゥーナ)はサイズも色も様々なものがあり、味付けも素直に塩と酢だけでつけたもの、ニンニクを利かせたもの、種を抜いたもの、少し潰してつけたもの、さらには種を抜いた中に赤パプリカやアンチョビーを詰めたものなどバラエティーに富む。市場のピクルス売り場には、色々なオリーブの実や、キュウリ、タマネギ、ケッパーなどのピクルスがそれぞれの漬け汁に浸かって並べられている。市場の買い物は原則キロ単位でするので、少量買うならミター・デ・クアルト(四分の一キロの半分)。もちろん最近は一〇〇グラムとか自由に指定しているが・・・。なお、ここで使うには種を抜いたものがスライスも出来て便利だろう。
D アスカリバーダ(焼ナスと焼パプリカのサラダ) (四人分)
材料: ナス 大四個
パプリカ 大四個
オリーブ油 少々
塩 少々
作り方: 出来れば、薪や炭の直火で焼くのがよいのだが、無理であれば、ガスコンロに網を乗せて焼いても可。
まわしながら満遍なく、外側が真っ黒焦げになるまで、一五分から二〇分かけて十分に焼く。
焼きあがったら、少し蒸らしてから、水につけて手早く皮をむく。
へたと種を除き、縦に裂いて、皿に盛る。
食する前にオリーブ油をまわしかけ、塩を振る。
カタルーニャ地方の郷土料理で、一皿目の料理として熱々を食べるのも、冷たく冷やして食べるのも美味しい。
肉厚のパプリカでないとうまく皮だけが焦げてくれない。
オーブンでももちろん焼けるし、大き目のトースターがあればそれでも可能。
素朴な甘さが癖になる。
E フディアス・コン・パタータス(モロッコインゲンとジャガイモの煮物) (四人分)
材料: ジャガイモ 大四個
モロッコインゲン 四〇〇グラム
固形ブイヨン 二個
ワインビネガー 少々
オリーブ油 少々
作り方: モロッコインゲンは両端を取り、長さ五センチ位に切る。固いようなら筋を取る。
ジャガイモは厚さ一センチ弱のイチョウ切りにする。
鍋にジャガイモとインゲン、固形ブイヨンを入れ、ひたひたの水で煮る。
一五分ほどで水がかなり引いたところで火を止める。
平皿に盛り、ワインビネガーとオリーブ油を好みの量かけて食する。
一皿目の料理として、たっぷりの野菜をあっさり取れる。
最近はモロッコインゲン(幅二〜三センチの平たいインゲン)が手軽に手に入るようになったので、一度試してみて欲しい。
簡単極まりないので、素材の味が決めて。
本来は鶏がらでとったスープストックを使うので、もう少し濃厚な味になる。
以前はスペインの各家庭の冷蔵庫にはいつもスープストックが置いてあったものだが、共働きの多い今の家庭では難しいのではないだろうか・・・。
同じやり方で、アセルガ(白菜大でチンゲンサイに似ているが白い部分が多く、軟らかく淡白な味)などさまざまな野菜を食べる。チンゲンサイをアセルガの代用にできるだろう。
アルカチョーファ(食用アザミ)が美味しいが、生の入手は難しい。缶詰もあるが、生と違って少し酸味があるので、味を加減する。
F トルティーリャ・エスパニョーラ(スペイン風オムレツ) (二ー四人分)
材料: 卵 四個
ジャガイモ 大三個
タマネギ 四分の一個
ピーマン 二分の一個
オリーブオイル 二五〇〜三〇〇CC (好みでサラダオイルでも可)
塩 少々
作り方: ジャガイモは厚さ五ミリくらいのいちょう切りにする。
タマネギ、ピーマンは大きめの荒みじん切りにする。
径一八センチ位の揚げ物鍋(通常のフライパンでは浅すぎる)に油を入れて熱する。
油が少し温まったら卵以外の材料を入れ、中火で一〇分程じっくり火を通す。
ジャガイモがうっすら狐色になったら取り出し、熱いうちに塩をふる。
残った油はとっておいて炒め物など他の料理に使う。
よく溶いた卵に熱々のジャガイモと他の材料を入れてざっと混ぜ、薄く油の残った鍋に戻す。
ふたをして焦げないよう弱火でじっくり片面を焼く。
下側にきれいな焼き色がつき上側は半熟状態のところで、鍋に皿をかぶせて鍋をひっくり返し、中身が皿に乗ったらそのまま滑らせて鍋に戻すと簡単にきれいに中身をひっくり返すことが出来る。形を整え、焦げ付かないようゆすりながら残り半面に火を通す。
別名トルティーリャ・デ・パタタス(ジャガイモのオムレツ)と言うとおり、本来入れるのはジャガイモとタマネギ少々のみなのだが、日本の卵焼き同様、各家庭がそれぞれ好みのレシピを持ち、材料、塩加減、焼き加減も微妙に違う。
厚さ三〜四センチ以上もあるずっしり重いオムレツをひっくり返すには熟練の技がいるのかと思ったら、何のことはない、奥の手があったのだ。
バルではおつまみとして小さく切ったものにパンを添えて供される。
小型のフランスパンを横に切って間に具材をはさんだボカディーリョはお弁当の定番だが、トルティーリャは腹持ちがよく、好まれる具材の一つである。
なおプレーン・オムレツはトルティーリャ・フランセサ(フランス風オムレツ)と呼ばれる。
G サランゴーリョ(ズッキーニとジャガイモの卵とじ) (四人分)
材料: ズッキーニ 二本 (約六〇〇グラム)
タマネギ 一個
ジャガイモ 四個 (約四〇〇グラム)
卵 二個
オリーブ油 五〇CC
塩 小さじ一杯半
作り方: ズッキーニは縦に半分、または四分の一に切り、厚さ六〜七mmに小口切り。
ジャガイモも同じくらいのイチョウ切りにする。タマネギはみじん切り。
フライパンにオリーブ油を入れ、やや低めの温度に熱し、タマネギ、ジャガイモ、ズッキーニを弱火でじっくり時間をかけて炒める。
煮崩れかけてきたら、塩で味を調え、溶いた卵を回しかけ、手早くかき混ぜて卵が固まってきたら火をとめる。
スペイン南東部のムルシア地方の郷土料理。ウエルタ・デ・ムルシア(ムルシアの畑)は名高く、豊富な野菜生産を誇る。
日本でも最近はズッキーニが普通の八百屋でも売られているが、信州辺りを車で行くと道端の野菜直売所などで、大きなものがひどく安く売られているのに出会うことがある。そんな時には迷わず買って、この料理に挑戦してみてほしい。
H アロス・ア・ラ・クバーナ(キューバ風ライス) (四人分)
材料: トマト水煮缶 二缶 (または完熟トマト 大六個)
ニンニク 二片
タマネギ 少々
米 二合
水 三合
卵 四〜八個
バナナ(硬め) 四本
オリーブ油 大さじ三杯
揚げ油
小麦粉 少々
塩 少々
作り方: トマト水煮缶または湯剥きした完熟トマトを荒みじんにし、潰したニンニク一片、みじん切りにしたタマネギとともに大さじ二杯のオリーブ油でいため、ふたをして二〇分ほど弱火で焦げ付かせないように煮、塩で味を整え、ソースをつくる。
厚手の鍋で、残りのオリーブ油を熱し、潰したニンニクをいため、香りがたってきたら米を入れ、弱火で炒める。
米が透き通ってきたら、水と塩少々を加えてふたをし、一五分ほどで炊き上げ、一〇分ほどむらす。
その間に、生卵を熱した揚げ油の中に直接落とし、箸などで軽くまとめて、外側の白身が薄い狐色、中の黄身がゆるい半熟状態になるように揚げる。
小麦粉をまぶしたバナナも狐色に揚げる。
皿に炊き上がったご飯を型に入れて盛り、バナナと卵を添え、トマトソースをかけて供する。
好みで塩をふり、ご飯と卵とソースをフォークで混ぜ合わせながら食する。
通常、スープやパスタ、野菜料理に相当する一皿目の料理としてパンを添えて供されるが、日本人ならこれ一皿でかなり満腹になってしまうだろう。
キューバにこういう料理があるのかどうか分からないが、こう呼ばれている。
南米に見られる調理用の硬いバナナはスペインでは一般的でないので、普通のバナナの固めのものでつくられる。
I コシード・マドリレーニョ(マドリード風煮込み) (四人分)
材料: ガルバンソス 二〇〇グラム
スペアーリブ 五〇〇グラム
骨付きモモ 二本
生ハム切り落とし 少々
ベーコン(ブロック) 一〇〇グラム
ジャガイモ 小四個
にんじん 二本
キャベツ 四分の一個
セロリ 一本
パプリカ(粉末) 大さじ二
塩 適宜
そうめん 二〇本
作り方: ガルバンソス(ヒヨコマメ)は一〇時間以上水に浸す。肉類には多めに塩をしておく。
大きめの深鍋にガルバンソスと水を入れ、豆が柔らかくなるまで煮る。肉類、生ハム、ベーコン、セロリ、にんじんを入れ、全体が十分かぶるくらいの水とパプリカをいれ、とろ火で肉が十分柔らかくなるまで煮る。
ジャガイモとキャベツを加え、水が少ないようなら足し(煮あがった時に、上澄みで四人分のスープがとれるくらいの量にする)、塩加減を見る。
煮あがったら、上澄みを別の鍋に取り、そうめんを長さ一.五センチ位に折ったものを入れ、そうめんが煮えたら、スープ皿に入れて一皿目とする。
豆と肉類と野菜を切り分けて皿に盛り、二皿目とする。好みで塩、マスタードなどを添える。
名前の通り、カスティーリャ地方の定番料理。
他の地方にも様々なコシード(煮込み料理)があるが、これが一番有名だろう。
本当は、チョリーソ(パプリカ風味の固めのソーセージ)やモルシーリャ(米と豚の血がベースのソーセージ)、豚足の乾燥させたものなどを入れ、そこから濃厚な味がでるのだが、日本で手に入りやすい材料を使ってそれらしきものを作ろうというのがこのレシピ。
ヒヨコマメは中華食材店で手に入る。水煮にしたものがパックで売られているのも見かけるが、出来れば乾燥豆を使いたい。本物のチョリーソが手に入れば最高なのだが、チョリーソの名で売られていてもパプリカの入っていないものも見かけるので中途半端なソーセージをいれて違う匂いが混じるよりは、粉末のパプリカを大量に入れた方が味は本物に近くなると思う。
生ハムの切り落としが小さなパックで手ごろな値段で出ているので、ダシをとるのに是非加えて欲しい。肉類は必ず骨付きを。圧力鍋を使えば、調理は比較的簡単である。
そうめんはフィデオと呼ばれる極細パスタの代用。「ソパ・デ・フィデオ」という鳥のブイヨンにフィデオが浮身として入っているスープを私たちは「そうめんスープ」と呼んでいた。
J アルボンディガス・エン・サルサ(肉団子のトマトソース煮) (四人分)
材料: 牛ひき肉 四〇〇グラム
卵 一個
タマネギ 中二個
完熟トマト 六個
ピーマン 二個
ニンニク 一片
オリーブ油 大さじ二
パセリ 少々
塩 小さじ二分の一
コショウ
小麦粉 少々
揚げ油
作り方: タマネギ一個とパセリはみじん切りにし、ひき肉、卵とあわせ、塩・コショウしてよくねり、団子に丸めて、小麦粉をつけ、油で揚げて肉団子を作る。
残りの野菜をみじん切りにする。
オリーブ油を入れた深めのフライパンにみじん切りにしたニンニクをいれ、香りが出た所に、刻んだタマネギ、ピーマン、トマトを順に加えて、弱火で焦がさないようにじっくりとソース状になるまでいため、塩で味を調える。
ソースが出来上がったら、肉団子を加え、さらに一〇分以上弱火で煮込む(焦げそうなら少し水を加える)。
低温のオリーブ油でニンニク、タマネギ、トマト他の野菜をじっくりと炒め煮したものはソフリトとよばれ、様々な料理のベースとして用いられる。丁寧に濾してトマトソースにするのもよいが、濾さずにそのまま煮崩れた野菜の食感を楽しみたい。
ナスやズッキーニなどを加えたソフリトに溶き卵をまわしかければ、ピストという立派な一品となる。
肉団子の代わりに、鳥のから揚げ、白身魚のから揚げなどを入れてもおいしい。
材料: 牛ひき肉 四〇〇グラム
卵 一個
パセリ 一束(みじん切りにして三〇グラムほど)
小麦粉 二〇グラム
塩、コショウ 適宜
オリーブ油 大さじ二
作り方: パセリ(できればイタリアンパセリ)をみじん切りにする。
ひき肉にパセリと溶いた卵を入れて混ぜあわせ、塩・コショウで味付けする。
小麦粉をひろげた皿の上に八等分にしたたねをおき、手のひらで薄く押しつぶす。
ひっくり返して裏面にも粉をつける。形は丸く整えたりせず、つぶしたままの状態でよい。八つ作ったら、オリーブ油を引いたフライパンに入れて両面を焼く。
フライド・ポテトなどを添えて、二皿目の料理となる。
すぐに焼けて簡単この上ないが、パセリをたっぷり入れて、焼きあがっても緑が残るくらいが美味しいと思う。
名前の由来は分からないが、下宿していたスペイン人の家ではこう呼ばれ、時々出てきたし、学校給食などにもよく出るようだ。おそらく最初は本物のステーキと比べて「貧しい」というような意味合いで「ロシアの」と呼んだのではないだろうか。
スペインの市場では、パセリ(ペレヒル)は買うものではなく、貰うもの。八百屋で買い物をしたときに、「ペレヒルください」と言えば、くれる。魚屋や肉屋でも用意している店もあるので「ペレヒルありますか?」と聞いてみるといい。なじみの店でないと、今日は切らしてます、と断られることも・・・。近代的なスーパーが増えてきて、スペインでもそんな光景も次第に見られなくなり、パセリも買うものになっていくのかもしれない。
L アリータス・アル・アヒーリョ(手羽元のニンニク風味) (四人分)
材料: 手羽元 一六本
ニンニク 二片
パセリ 一掴み
オリーブ油 大さじ八
塩 小さじ一
作り方: ニンニクとパセリをみじん切りにしてすりこぎで潰してペースト状にする。
手羽元に塩を振り、ニンニクとパセリのペーストとオリーブ油大匙二をまぶし、冷蔵庫で一時間ほどねかせる。
残りのオリーブ油を熱し、手羽元を入れて狐色になるまでじっくり炒める。
フライド・ポテトなどの付けあわせとともに皿に盛り、炒めた油少々をソースのようにかけて供する。(残った油は炒め物などに利用するとよい。)
このペーストを作るにはモルテーロとよばれる木製または陶器製のすり鉢とすりこぎをつかう。これは、ナッツ類を潰したり、サフランを潰したり、様々に用いられる台所の必需品。ミニチュアをみやげ物屋で見かけることもあるだろう。
ニンニクのみじん切りとトウガラシ少々で風味をつけたオリーブ油をソースとするのがアル・アヒーリョで、ウサギやウズラなどの肉類の他にも、小エビやマッシュルーム、ホウレン草など、様々なものに応用される。
M パエーリャ・デ・マリスコス(魚介類のパエーリャ) (四人分)
材料: 米 二合
鶏肉(骨付き) 八切れ
有頭エビ 八本
イカ 一杯
ムール貝かアサリ 一パック
インゲン 一〇〇グラム
タマネギ 四分の一
トマト 二分の一
ニンニク 一片
オリーブ油
サフラン 一つまみ
塩、湯 適宜
レモン くし切り四切
下準備: イカはワタを抜いて、適当に切る。
ムール貝はよく洗い軽く塩茹でして殻を片方取る。ゆで汁少々をとりおいて後述のエビのゆで汁に加える。アサリの場合は生のままで塩抜きしておく。
サフランは塩少々を加えて丁寧にすりつぶし、水少々を加えて色が出るのを待つ。
インゲンは軽く塩茹でにし、大きければ適当な大きさにきっておく。
エビは塩水でゆでる。エビのゆで汁は捨てずに茶漉しで漉してとっておく。
ニンニク、タマネギ、トマトはそれぞれみじん切りにする。米は研がない。
作り方: パエーリャ鍋、なければ径三〇センチ位の浅めの平鍋か深めのフライパンにオリーブ油を入れて熱する。
ニンニク、タマネギ、トマトの順に入れて、ペースト状になるまで炒める。
鶏肉を加えて、塩少々(後で塩の入ったエビのゆで汁を加えるので入れすぎないこと)をふり、ある程度火が通るまで炒める。
イカを入れて軽く炒めたら、オリーブ油を足して、米を入れる。
米が少し透き通るまで炒めたら、エビなどのゆで汁に湯を足して四合にして加える。
サフランを加えて平らに広げたら、貝、エビ、インゲンをバランスよく入れる。
均等に沸騰するように適当に鍋を動かしながら、様子を見る。蓋はしない。
貝が開いて水が引いてきたら味見して、米の火のとおり具合、塩加減を見て、必要なら湯、塩を加える。
米が少し硬めかなと思うところで火を消す。一〇分ほどむらす間に余熱で少しおこげが出来るくらいがよい。好みでレモンを絞ってかける。
パエーリャに入れる材料は各地、各家庭で様々。
アウトドアで、大きなパエーリャ鍋(パエリェーラ)で作って大勢で食べるのが楽しい!
N カラマーレス・エン・ス・ティンタ(イカの墨煮) (四人分)
材料: スルメイカ 二杯
タマネギ 二分の一
完熟トマト 四分の一
オリーブ油 大さじ 二
パン粉 大さじ 四
塩 小さじ 二分の一
水 一五〇CC
作り方: イカは丁寧に腸を抜き、抜いた腸の中から破らないようにそっと墨袋を取り分け、器の中で袋を破いて分量の水に溶いておく。できれば、事前に何杯か分の墨袋を保存しておいて(ラップにくるんで冷凍庫に入れておけばよい)あわせて使うと、墨色がしっかりと出る。
腸を抜いたイカはよく洗って皮をむき、幅二センチくらいの輪切りに、足とえんぺらは適当に小さめに切っておく。
パン粉はビニール袋に入れ、よくもんで粉状にする。
タマネギはみじん切り。トマトは皮をむいてみじん切りにし叩いてペースト状に。
オリーブ油を熱し、タマネギを透き通るまで炒め、トマトも加えて炒める。
次にイカを加えてさっと火を通したら、墨を溶いた水と塩を入れる。
ふたをして、一〇分ほど弱火で煮込んだら、パン粉を入れて余分な水分を吸わせ、一煮立ちしたら火を止める。
最近はイカ墨もパスタその他によく使われるようになったが、以前は真っ黒な料理は珍しかったと思う。もっとも、日本でも富山辺りの「イカの黒作り」(イカ墨の入った塩辛)を食べなれた人には、イカ墨のこくを生かしたこの料理は納得のものだろう。
イカは、輪切りにして小麦粉をつけ溶き卵をくぐらせて揚げたもの(カマラーレス・フリトス・ア・ラ・ロマーナ)にレモンをかけて食べるのも一般的。
イカ以外にも小魚がよくフリトス(油で揚げること)で食される。アンダルシーアの海岸では、大皿に山盛りの小魚のフリトスがでてきて、その量におどろかされる。
スルメイカよりずっと小さなチピローネスと呼ばれるイカも同様に墨煮やフリトスにされる。
モンゴウイカ(セピア)も一般的。
O メルルーサ・ア・ラ・バスカ(タラのバスク風煮込み) (四人分)
材料: 筒切りの生タラ 八切れ (大きければ四切れ)
アサリ 一パック
ムキエビ 一〇〇グラム
タマネギ 二分の一個
パセリ 少々
卵 一個
小麦粉 小さじ四
塩 少々
オリーブ油 大さじ一
水 三〇〇CC
牛乳 一〇〇CC
固形ブイヨン 一個
作り方: 生タラは厚さ三センチくらいの筒切りにし、洗って強めに塩をする。あれば白ワイン少々をふりかけておく。
卵は固ゆでにし、白身、黄身ともに荒いみじん切りにする。
アサリは砂抜きして洗い、ムキエビも洗っておく。
タマネギ、パセリはみじん切り。
フライパンか浅めの平鍋にオリーブ油を入れて熱する。
タマネギのみじん切りを透き通るまで炒め、次に小麦粉を入れてしばらく炒めたら水と牛乳を少しずつ加えてホワイトソース状のものを作り、固形ブイヨンを入れて味を調える。
ここに生タラの筒切り、アサリ、ムキエビをいれ、アサリが開き、タラに火が通るまでふたをして一〇分ほど煮る。
味を見て、足りなければ塩を足し、卵とパセリのみじん切りを加え、軽く一煮立ちさせて火を止め、皿に盛る。
北のバスクからガリシアにかけては、カンタブリア海の豊富な魚介類を用いた様々な料理がみられる。
この地方に限らず、スペインでおそらくもっともポピュラーな魚がタラの仲間で、煮込みにメルルーサともう少し小さいペスカディーリャがよく使われる。
干ダラの料理も豊富で、水で戻して、生でサラダに使ったり(カタルーニャのアスケシャーダなど)、ほぐしてコロッケに入れたり、焼いたり、揚げたり、煮込み料理に使ったりと大活躍する。市場には干ダラの専門店があるほど。
材料: 真タイ 一尾 (八〇〇グラム位のもの)
タマネギ 一個
ジャガイモ 二個
トマト 二個
ニンニク 一片
レモン 一個
オリーブ油 五〇CC
パン粉 少々
塩 適宜
作り方: マダイはうろこを取り、内臓を抜いて、丁寧に洗い、塩をしておく。
タマネギはスライス、ジャガイモは薄めのイチョウ切り、ニンニクはみじん切り、トマトは粗みじんにしておく。
レモンはよく洗って、スライスを数枚とって半月にきり、残りは置いておく。
オーブンを一八〇度に予熱する。
タイの上身の皮に斜めに数本包丁を入れ、レモンのスライスを挟み込む。
フライパンにオリーブ油を熱し、ニンニク、タマネギ、ジャガイモをいためる。
ジャガイモに火が通ったら、トマトを加えて炒め、塩で味を調え、あれば白ワイン少々を加える。
そのままテーブルに出せるオーブン可の大皿に炒めたものをしき、その上にタイを置いて、上からパン粉をふって、残りのレモンの半分を絞りかける。
オーブンで約一時間焼く(タイの大きさ、調理具が違えば調理時間も変わるので、こんがり焼き色がつくよう、様子を見て時間を調整する)。
途中一度、前後を入れ替えて、均等に火がまわるようにするとよい。
スペインでもタイは高価でご馳走である。クリスマス料理とする地方もある。生の大きなものはなかなか買えず、冷凍物ですますことも多いが、それなりの味に仕上がる。
日本では小さめのものなら手ごろな値段で手に入るので、気軽に作れるだろう。
オーブンやグリルは癖があるので、何度か挑戦して、手持ちの調理具で適切な温度と時間を探って欲しい。
★
さらに、「スペインの食文化」全体を知るためには、
拙稿『世界の食文化M スペイン』参照してください。