トルコの娯楽について

 

はじめに

 私たちはこれまでトルコ地域研究として、歴史や文化など様々な角度からトルコという国を見てきた。このゼミでは「トルコの娯楽について」というテーマのもとに、実際にトルコの人々がどのような生活を送り、どのような娯楽を享受しているのか、またその娯楽にどのような特徴が見られるのかを考察することを目的とする。

 具体的にはまず、現在日本に在住するトルコ人を対象にアンケート調査を行い、トルコにおける娯楽のバリエーションとそこに見られる特徴を提示する。次にオスマン朝における娯楽として「スポーツ」、「祝祭」、「年中行事」、「ハマム(トルコ風呂)」のテーマを取り上げ、それぞれ検証する。さらにアンケートをもとに、現在のトルコにおける娯楽として「音楽」、「テレビ」、「スポーツ」、「レジャー・旅行」、「伝統芸能」、「接客歓待」の項を設け、それぞれの歴史的背景や現在の状況、そこにみられる特徴などを検証する。

 

 

トルコの娯楽に関するアンケート調査

大田陽子、只野千鶴

 

 我々はトルコの人々が実際にどのように余暇を過ごし、どのような娯楽を楽しんでいるのか、またそこでは何か特徴的なものがみられるのかどうかということを検証するためにアンケート調査を行った。このアンケートでは我々が直接コンタクトをとることのできる人々として、現在日本に在住するトルコ人を対象とし、大学の講師や留学生、トルコ料理店のコックやそこのお客に協力を仰いだ。

 アンケートは以下の点を検証するため、それぞれの質問を用意した。質問は次のアンケート結果を参照してもらいたい。

1、トルコの娯楽にはどのようなものがあり、日常と休日の違いはあるか。(Q1Q2Q3Q7

2、娯楽の年齢差、時代差、地域差はあるか、あるとすればどのようなものか。(Q4Q5Q6

3、娯楽にどのようなイメージをもっているか(Q8

 

実際のアンケート結果は以下のようになった。

<アンケート対象者について>

 対象者:現在日本にいるトルコ人13

 職業:大学講師2名、留学生1名、トルコ料理店のコックおよびお客10名

 男女比:男性11名、女性2名

 年齢:20代7名、30代2名、40代2名、不明2名

<アンケート結果>  注:【 】内は人数

Q1 仕事の後はどのように過ごすか。

   飲みに行く【6】、喫茶店に行く【4】、自宅で家族と過ごす【4】、親戚、友人などを訪問【4】

   その他−インターネットカフェ、外食、映画、ディスコ、無回答

Q2 週末はどのように過ごすか。

   ピクニック【6】、親戚、友人などを訪問【4】、映画【4】、スポーツ観戦【4】、魚釣り【4】、公園を散歩【3】、買い物【3】、喫茶店【2】、観光【2】、

外食【2】、演劇【2】、スポーツ【2】

その他−バーベキュー、美術館、海、インターネットカフェ、家族と出かける、無回答

Q3 余暇を過ごす場所はどこか。

   コンサート【4】、飲み屋【4】、ディスコ【3】、映画【2】、演劇【2】、公園、オペラ、バレエ、ピクニック場、山、海、湖、故郷、(お金のある人は)カジノ、レストラン、ナイトクラブ

Q4 若者と年配の余暇の過ごし方の違いは?

   若者 飲みに行く【3】、喫茶店【2】、サッカー観戦【2】、ケーキ屋、映画、

インターネットカフェ、サッカーをする、買い物、ビリヤード、ディスコ

    年配 親戚などを訪問【2】、礼拝【2】、カード場、喫茶店、公園を散歩、

       おしゃべり、買い物、スポーツ(但し都市部で)

    傾向 ・若者のほうがいろいろな場所に行き、いろいろな遊びをする                  

      ・年配のほうが娯楽を楽しんでいる

・若者の娯楽は西欧的、一方教育を受け、自国の文化に通じた壮年層はもっと成熟した娯楽を楽しんでいる。

Q5 昔はどのような余暇の過ごし方をしていたか。

   海、山へ行く、スキー、映画、演劇、コンサート、喫茶店、無回答

Q6 娯楽の地域差はあるか?

   東部は伝統的な生活をしており、保守的で娯楽が少ないが、かかる費用は安い。一方、エーゲ、マルマラ海地方や大都市は娯楽が多いが高い。(無回答1名)

Q7 特別な日(お祭り、祝日、長期休暇など)は何をするのか。

   お祭り 友人、親戚と過ごす【3】、伝統料理を作る、スタジアムや広場で政府の用意した娯楽に参加する

   祝日  親戚、友人を訪問【5】、食事【2】、ピクニック、家族と過ごす、旅行、墓参り

   夏休み 海【5】、森、旅行、里帰り

Q8 自分自身、余暇は何をして過ごすか。

   スポーツ【3】、読書【3】買い物【2】、音楽【2】、散歩【2】、テレビ【2】

   その他−楽器演奏、カードゲーム、プレイステーション、観光、美術館、映画館、釣り、サッカー観戦、新聞を読む、喫茶店、ビリヤード、娯楽はない

Q9 娯楽にかかるお金はどのくらいか?(高いか安いか)

  ・高くない

  ・都市中心部では高くないが、観光地は高い

  ・場所とすることによって異なる

   ・働いている人にとっては高くない

   ・すべてトータルで考えたら高くなる

Q10 娯楽のイメージとは?

    友人、家族と過ごす【4】、音楽【2】、サッカー観戦【2】、飲み【2】、

    ダンス、インターネット、読書、釣り、ストレス解消、時間をつぶすもの

人生にとって必要なこと、よい時間を過ごすこと、単純な生活に刺激を与える、わからない【2】

 

<考察>

 以上のようなアンケート結果から、注目すべき点を5つ挙げてみようと思う。

@     若い回答者は娯楽として飲み屋や喫茶店をあげる傾向がある。

仕事の後何をするか、どこで余暇を過ごすかという質問に、若者の回答者には飲みに行く、喫茶店に行くという答えが最も多かった。また、Q4の若者の傾向を見ても、飲み屋や喫茶店を娯楽としてみていることがわかるであろう。このような場所では、友達と話したり騒いだりして楽しむとともに、もうひとつ重要な楽しみ方として、特に喫茶店では、新聞や好きな本を読んだりして自分の時間を楽しむという意見も多かった。

A     商業化され、高いお金のかかる娯楽を享受できる人は限られている。

   余暇には何をするか、どこに行くかという質問に対する答えに、「お金がある人は・・」と前置きする人が多く、カジノや少し高めのレストラン、あるいはリゾート地への旅行などは金銭的に余裕のある人に限られているということがわかる。これはどこの国でも同じことが言えると思うが、このような前置きを年齢に関係なく何人もの人のが口にしたということは注目すべきではないだろうか。

B     スポーツではサッカーが圧倒的人気

   このアンケート全体からみてもわかるように、サッカーはトルコの人たちにとって重要な娯楽のひとつである。年齢に関わらず、週末にはサッカー観戦をするという人が多かった。また、観戦ずるだけではなく、余暇にはサッカーをするという若者の答えも目立った。

   ひとつ付け加えると、サッカー以外にバスケットボールを挙げる若者も数名いた。これはアメリカやヨーロッパの影響による新しい現象であるといえる。

C     娯楽の地域差=東西格差という意識

   Q6の娯楽の地域差についての質問の答えとして、すべての人が西と東の格差を挙げており、経済的、文化的格差による東西格差を意識していると思われる。「東には娯楽がない」と言い切る人も数名いた。しかし、この場合の娯楽とは、ディスコや映画館、コンサートなどの娯楽を意味しているのであり、このような娯楽が、西に比べて東には少ないということである。東の地域にもまた、都市部にはないような伝統的娯楽があると考えられる。

D     娯楽としての「友人、親戚訪問」

   娯楽としてあげてもらったものはほとんど日本とかわりがないように思える。しかし、仕事の後、週末、お祭り、祝日などシチュエーションを区切った場合でも、娯楽のイメージとしてあげてもらった場合でも「友人、親戚を訪問する」という回答が目立った。これはこのアンケート結果の中で最も注目すべき点であり、トルコの娯楽の中では特徴的なものであると考えられる。

   これはトルコのmisafirlikに関係するものと思われる。友人や、親戚の家に集まり、みんなで時間をかけてゆっくり食事をしながらいろいろな話をするのである。トルコの人たちはこの時間を娯楽の時間と考えており、これはトルコ独特のものである。