[[コーパス言語学集中講義]]

*研究計画 [#tbb3a47d]

**目的 [#od6fbf03]

学習者個々のエラーの傾向を知る
英語の日本人の学習者コーパスを用い、日本人学習者のレベル別によるエラーの傾向を知ること。

**仮説 [#o790b488]

英語の学習経験の豊富な学習者ほどエラーへの日本語の転移がみられない。
英語の学習経験の豊富な学習者ほどエラーへの日本語の転移がみられない。すなわち、日本人が間違えやすい項目(態、相、動詞の選択)に関するエラーは少ない。

**コーパス [#jdb8ba30]

The NICT JLE Corpusを用いる。
日本人学習者1200人が話す英語を収録したThe NICT JLE Corpusを用いる。コーパスはSSTを用いた学習者のインタビュー内容を書き起こし、受験者情報・データ情報(SSTレベル、過去に受けた英語能力試験のレベル)を示すタグ、基本談話情報(発話、つなぎ表現、繰り返し等)タグ、誤り情報タグの付与、日本語の補助コーパスの作成を経て構築された。SSTとは英語のスピーキング能力を判定するために作られたインタビュー形式のテストである。ACTFL(American Council on the Teaching of Foreign Languages)が開発したOPI(Oral Proficiency Interview)がベースとなっているが、SSTは日本の英語教育事情も考慮して、アルクとACTFLが共同で作成した。インタビューは15分間で受験者と試験管が一対一で行う。評価は言語機能、内容、発話形式、正確さから総合的レベル1-9まで付けられる。

**研究方法 [#f0b84a3c]

英語の学習経験の少ない被験者(中学生)と学習経験の豊富な被験者(大学生)
にそれぞれインタビューを行い、その内容を記録、文字化する。
The NICT JLE Corpus Analysis Tool の頻度解析を用いて分析を行う。解析にあたってはまずTOEIC、TOEFL、英検、SST(英語スピーキングテスト)などの英語能力テストで対象となる学習者データのレベル設定を行い、タグ頻度設定でタグの種類を決定
した後、エラーを分析する。本研究では英検とSSTを用い、英検は、3級(データ数2)、2級(7)、1級(6)、 SSTは初級者(36)、中級者(126)、上級者(5)別にタグ頻度解析を行った。


**データ分析 [#f2342b8e]

動詞におけるエラー傾向の相違

1.英検のレベル別(3、2、1級)による違い

全体として、級が上がるほど、エラー数も増加することが分かった。動詞の中でとりわけエラー数が多かったのは時制(77種)、語彙選択(42)、人称・数の一致(35)、補部(20)、動詞の形の選択(14)に関するものであり、活用(9)や疑問形(2)、態(4)に関するエラーはほとんど見られなかった。補部や定形・不定形(14)に関するエラーは、英検の上級者になるほど多く観察された。また、時制に関しては最も頻度が高いタグがisであるなど、エラーに共通性が見られた。

 
2. SSTのレベル別(1-3, 4-8, 9)による違い

SSTレベルはACTFLが公表している「言語運用能力基準(ACTFL Proficiency Guidelines)を基にしたものである。アルク出版(2004)の「日本人1200人の英語スピーキングコーパス」によると、レベル1-3が初級、レベル4-8が中級、レベル9が上級に想定されている。よって、初級、中級、上級による違いを分析した。
結果は英検のレベル別による分析と同様、初級者についてはエラーの数が比較的少ない傾向にあった。ただし、中級者と上級者では中級者の方が、エラーの数、種類ともに圧倒的に多かった。時制(573)、語彙選択(338)、補部(345)、人称・数の一致(188)、動詞の形の選択(133)に関するエラーが英検の時と同様、最も多く観察されたが、定形・不定形(106)、相(110)、態(75)、否定(43)に関するエラーも一定数見られた。初級者、中級者にエラーが多く、上級者に少なかった項目は、定形・不定形(3:10:0)、相(18:46:0)、疑問形(7:13:1)である。


**予測される結果 [#p03a95cb]

1. 学習経験が多いほどエラーには母語の転移より、L2習得の難易度の影響が
見られる。
2.エラーの量には学習者個人のエラーに対する態度も深く関わっている。
3. 学習経験が少ないほど、全体の発話量が少ないので、エラーの量も少ない
可能性がある。
1. 学習経験が浅いほど、全体の発話量が少ないので、エラーの量も少ない傾向にあった。

2.学習経験が多いほどエラーに母語の転移が減少するかどうかについてはさらに詳しい分析を必要とする。 

3.エラーの種類は学習者個人の学習経験の相違を反映している。 例えば、動詞の語彙選択に関する誤りにはばらつきが多く見られる。 

4. 上級レベルの学習者でも母語の影響をある程度は受ける。

時制、語彙選択、補部、人称・数の一致、動詞の形の選択に関するエラーが多発した背景には日本語と英語の構造のずれが反映されている。時制を例に挙げると、完了形と過去形、進行形と現在形の区別が日本語の場合と異なっている。日本語の「知っている」は英語ではknowと現在形で表される。一方、英語でいう“She has arrived.”は日本語では、「彼女は着いた」と訳され、過去形と区別をつけるのは困難である。人称・数の一致に関しては、日本語に無い項目なので、エラーが多いのもうなずける。補部においても、want go, go to shopping, like go, try have, 等の動詞の後にto不定詞をとるか、-ing形をとるかを把握していない誤りが多いが、この事項も日本語には無い概念で暗記に頼るしかない。従って、母語からの推測が出来ず、日本人学習者には困難である。動詞の形の選択の誤りとして多く観察されるのは、help〜withの後の動詞の形やto不定詞の後、助動詞の後の時制の選択の誤りである。この項目も、日本語の文法知識で補う事は出来ない。従って、エラーの全体数は減少傾向にあるものの、日本語の表現にない、あるいはずれがある、一定の項目においてはエラーがまだ観察される。

**研究課題 [#p90ea9cf]

レベル別のデータ数に偏りが見られるので、データ数を揃え、より信頼性の高い分析を行う必要がある。


**教育的示唆 [#a7e0eaaf]

1.学習者個人のエラーの傾向を知ることで、各学習者に合った指導カリキュラムを
作成できる。
2.学習者に共通するエラーを発見し、その事項に重点的に取り組むことができる。

2.学習者に共通するエラーを発見し、指導においてその事項に重点的に取り組むことができる。



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