
-의(…の)
朝鮮語と日本語は文法構造が似ていて、名詞につくいわゆる「助詞」のたぐいの用法も、私たち日本語話者にはとても分かりやすい。そんな中で、日本語とおもむきをかなり異としているものが、格語尾の「-의」(…の)である。すでにご承知の方も多いと思うが、朝鮮語の「-의」は日本語の「の」と比べて、使う頻度が低い。よって学習者は、どういう場合に「-의」を入れ、どういう場合に入れないのかが悩みの種となる。
1.1 位置名詞の前
「前、後ろ、横、上、下、隣り」など位置を表す名詞の前で、日本語は「机の上」・「座席の後ろ」のように「の」を用いて2つの名詞をつなぐが、朝鮮語では「-의」を用いずに、2つの名詞をそのままつなぐ。
- 책상⌒위 チェクサン ウィ 「机の上」
- 좌석⌒뒤 チュァーソク トゥィー 「座席の後ろ」
- 학교 근처 ハッキョ クーンチョ 「学校の近所」
1.2 所有関係・所属関係を表す場合
「父のカバン」・「日本の新聞」のように所有関係や所属関係を表す「の」も、朝鮮語では用いずに2つの名詞をそのままつなげる。
- 아버지 가방 アボジ カバン 「父のカバン」
- 일본 신문 イルボン シンムン 「日本の新聞」
- 우리 고향 사람 ウリ コヒャン サーラム 「私たちの故郷の人」
なお、「わたしの」・「わたくしの」・「おまえの」という場合は「내」・「제」・「네(話し言葉では [니])」という特別な単語があるので、それを用いる。
- 내 이름 ネ イルム 「わたしの名前」
- 제 생각 チェ センガク 「わたくしの考え」
- 네(니) 버릇 ネ(ニ) ポルッ 「おまえの癖」
2.1 「AがBする」・「AをBする」の関係にある場合
例えば「国の発展」は「国が発展する」というように「AがBする」という関係が成り立ち、「犯罪の防止」は「犯罪を防止する」というように「AをBする」という関係が成り立つ。このように「AがBする」や「AをBする」という関係が成り立つ場合の「AのB」という言い方では、朝鮮語でも「-의」を用いる。
- 나라의 발'전 ナラエ パルチョン 「国の発展」
- 범죄의 방지 ポームジュェエ パンジ 「犯罪の防止」
2.2 格語尾が組み合わさった場合
「友達との話」・「今日までの努力」のように、「格語尾+の」と組み合わさった形では、朝鮮語でも「-의」を用いる。
- 친구와의 이야기 チングワエ イヤギ 「友達との話」
- 오늘까지의 노력 オヌルカジエ ノリョク 「今日までの努力」
3.1 書き言葉と話し言葉の違いに注意
原則はだいたい上のとおりだが、もう1つ注意すべきは、書き言葉・話し言葉という文体の違いが「-의」の用いられ方にも微妙に関係する。一般的に、書き言葉では話し言葉に比べて「-의」を多く用いる傾向がある。例えば、所有関係・所属関係を表す場合であっても、書き言葉では「-의」を用いる場合が多い。また、「AがBする」・「AをBする」という関係が成り立つ場合でも、話し言葉では「-의」を用いないことがある。位置名詞の前では、ふつう必ずといっていいほど「-의」は用いられないが、これさえも書き言葉では「-의」を用いることがある。
- 우리 희망 ウリ ヒマン《話》 / 우리의 희망 ウリエ ヒマン《書》 「私たちの希望」
- 우유⌒배달 ウユ ペダル《話》 / 우유의 배달 ウユエ ペダル《書》 「牛乳の配達」
- 단어⌒앞 タノ アプ《話》 / 단어의 앞 タノエ アプ《書》 「単語の前」
論文などのいかめしい書き言葉では、例えば「…においての」「…での」などのように、「の」を用いた表現が多用される傾向がある。これらを朝鮮語に直訳すれば「-에 있어서의」「-에서의」となろうが、実際の書き言葉では特に意味の取り違えがなければ「-에 있어서」「-에서」のように、「-의」を省く場合が多い。換言すれば、「-의」を用いた連体修飾でなく、「-의」を用いない連用修飾で文を作るわけである。
- 유교에 있어서 세⌒가지 기등은 충, 효, △열이다 ユギョエ イッソソ セーガジ キドゥンウン チュン、ヒョ、ヨリダ 「儒教においての(直訳:において)3つの柱は忠・孝・烈である」
3.2 「の」が続くような場合
日本語では「私たちの隣の家のおじいさんの娘のカバンの中の財布」のように、「の」をいくつ重ねて使っても、やや滑稽ではあるがさほど不自然さは感じられないが、朝鮮語では「-의」を重ねて使うと、かなりぎこちなくなる。従って、そのような場合には適当に「-의」を省いて文を作らねばならない。
- 우리 옆⌒집⌒할아버지 딸의 가방⌒안의 지갑 ウリ ヨプチプ ハラボジ タレ カバン アネ チガプ 「私たちの隣の家のおじいさんの娘のカバンの中の財布」
この文は、日本語にそのまま訳せば「私たち隣家おじいさん娘のカバン中の財布」と、「の」を2回しか使っていない。人によっては「할아버지 ハラボジ」に「-의」をつけるかもしれないが、そのあたりは個人差がある。おそらくは、意味的に切れ目があるところに「-의」が入ると思われる。「옆⌒집 ヨプチプ」(隣の家)などは、ほとんど1語という感覚なのかもしれない。「우유⌒배달 ウユ ペダル」(牛乳の配達)の場合も、すでに「牛乳配達」という合成語なのかもしれない。要は、話し手の意識として1語の「牛乳配達」なのか、「牛乳を配達する」という表現を意識した「牛乳の配達」なのかによって、言い方が異なってくるのである。
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