要訣・朝鮮語
存在詞・指定詞


 日本語で「用言」といえば動詞と形容詞(いわゆる「形容動詞」も含む)であるが、朝鮮語で「用言」といえば動詞と形容詞のほかに、存在詞と指定詞がある。日本語の文法では聞き慣れない品詞名だが、朝鮮語を学ぶ上では欠かせない名前だ。

 1.4つの用言の区別 

 朝鮮語に「動詞・形容詞・存在詞・指定詞」という4つの用言があるということは、とりもなおさず活用の上で異なる姿を見せる部類が4種類あるということである。例えば、한다体(下称)終止形を例にとってみると、動詞は「I-는다」(子音語幹)あるいは「II-ㄴ다」(母音語幹・ㄹ語幹)という語尾がつくが、形容詞は「I-다」という語尾がつく。また現在連体形は、動詞ならば「I-는」がつくが、形容詞は「II-ㄴ」がつく。  存在詞に属する用言は、「있다(ある、いる)」および「없다(ない、いない)」の2語である。学者によっては「계시다(いらっしゃる)」をここに属させる。存在詞は活用において、あるときは動詞と同じ語尾をとり、あるときは形容詞と同じ語尾をとるというように、動詞と形容詞の中間的な活用をする。さしずめコウモリ用言である。
 指定詞に属する用言は、「-이다(…である)」と「아니다(…でない)」の2語である。指定詞は形容詞とほとんど同じ活用の仕方をするが、第III語基で特殊な形をもっているため、形容詞から区分される(詳しくは後述)。

 2.存在詞の「コウモリ性」 

 上に「存在詞はコウモリ用言だ」と断言してしまったが、どのようにコウモリであるのか、具体的に見てみる。
2.1 한다体(下称)終止形
 下の表はハンダ体終止形の叙述形と疑問形である。日本語でいえば、「だ・である体」の叙述形(…する)と疑問形(…するか)に当たる。動詞・存在詞・形容詞・指定詞それぞれ「먹다(食べる)」・「있다(ある)」・「높다(高い)」・「손이다(手だ)」という例語を使って、その違いを見てみることにする。
  叙述形 疑問形
動 詞 I-는다/II-ㄴ다
먹는다 モンヌンダ
I-는가
먹는가 モンヌンガ
存在詞 I-
있다 イッタ
I-는가
있는가 インヌンガ
形容詞 I-
높다
II-ㄴ가
높은가 ノプンガ
指定詞 I-
손이다 ソニダ
II-ㄴ가
손인가 ソニンガ
 存在詞につく語尾は、叙述形では形容詞と同じ「I-다」だが、疑問形では動詞と同じ「I-는가」である。こんな具合に、存在詞は動詞と形容詞の間を行ったり来たりしている。その他の例もどんどん見てみよう。
2.2 連体形

  現在連体形 過去連体形
動 詞 I-
먹는 モンヌン
II-
먹은 モグン
存在詞 I-
있는 インヌン
III-ㅆ던
있었던 イッソットン
形容詞 II-
높은 ノプン
III-ㅆ던
높았던 ノパットン
指定詞 II-
손인 ソニン
III-ㅆ던
손이었던 ソニオットン

2.3 婉曲形・詠嘆形
 婉曲形は、形の上では現在連体形に「데」がついた形なので、活用の様子は現在連体形と同じである。
 
婉曲形 (…するのだが)
詠嘆形 (…するなあ)
動 詞 I-는데
먹는데 モンヌンデ
I-는군
먹는군 モンヌングン
存在詞 I-는데
있는데 インヌンデ
I-
있군 イックン
形容詞 II-ㄴ데
높은데 ノプンデ
I-
높군 クン
指定詞 II-ㄴ데
손인데 ソニンデ
I-
손이군 ソニグン
 3.指定詞の特殊性 

 指定詞の活用のあり方は、形容詞とほとんど同じである。従って、ごく特殊な場合を除いて、指定詞の活用は形容詞と同じと考えてよい。それでは、その「ごく特殊な場合」とは何か。
3.1 第III語基の特殊性
 まず下の表を見てもらいたい。
  시다 (形容詞) -이다 (指定詞)
第I語基 - --
第II語基 - --
第III語基 시어-(北:시여- -이어-(北:-이여-)/-이라-
 この表を見て分かるように、指定詞の第III語基形は原則どおり「어」がついた形以外に、「라」がついた形がある。この第2の第III語基形が指定詞を指定詞たらしめているゆえんである。
 この第2の第III語基形、実は第III語基を用いる全ての場合に使われるのではなく、ある一定の場合にしか用いないというからタチが悪い。では、どういうときに第2の第III語基を用いるかというと、以下のような場合である。
 「…して」という意味を表す「III-서」では、第1の第III語基形と第2の第III語基形の両方が用いられる。「III-ゼロ(第III語基そのままの形)」は第2の第III語基形のみ用いられ、第1の第III語基形は用いられない。
 「III-서」と同じ意味を表す話しことば「III 가지고」、「III 갖고」でも第2の第III語基形が使える。
3.2 引用形の特殊性
 指定詞の한다体(下称)終止形のうち、現在形の叙述形(すなわち「-이다」・「아니다」という形)で、語末にある「다」が「라」になる場合がある(指定詞は「라」が好きらしい?)。ただし、これには引用形(間接話法)でのみ現われるという条件がある。つまり、「…であると(言う)」とか「…でないという(思い)」という場合にのみ、「-고 (말한다)」とか「아니는 (생각)」となるのである。ここで注意すべきは、「(×)-고 (말한다)」や「(×)아니는 (생각)」というように「다」が用いられることは決してないという点である。  引用形の語尾「-고」が脱落した書きことばでも「라」は用いられる。  また、「引用形+하다 ハダ」という形の縮約形でも、「라」はもちろん用いられる。
 4.恐怖の「存在詞化」 

 用言の接尾辞に、過去の「III--」と意思=推量の「I--」というものがある。両方とも「ㅆ」という終声がくっついている。それで、よくよく考えてみると、朝鮮語で「ㅆ」という終声を用いるものは、存在詞の「있다(ある、いる)」とこの「III--」・「I--」の3つしかない。それもそのはず、「III--」も「I--」も、語源的には「있다 イッタ」と関係があるからである。そこで、頭の痛い問題が浮かびあがる。用言に「III--」か「I--」がくっつくと、その品詞にかかわらず活用が存在詞と同じくなってしまう、つまり後ろにくっつく語尾が存在詞の場合と同じくなるわけである。例えば、한다体の叙述形の場合は以下のようになる。
  現在叙述形 過去叙述形
動 詞 I-는다/II-ㄴ다   
먹는다 モンヌンダ
III-ㅆ다(--のI-다形)   
먹었다 モゴッタ
存在詞 I--다   
있다 イッタ
III-ㅆ다(--のI-다形)   
있었다 イッソッタ
形容詞 I-   
높다
III-ㅆ다(--のI-다形)   
높았다 ノパッタ
指定詞 I-   
손이다 ソニダ
III-ㅆ다(--のI-다形)   
손이었다 ソニオッタ
 動詞の叙述形語尾は、現在形を見て分かるとおり、もともと「I-는다/II-ㄴ다」なのに、過去の接尾辞「III--」がくっつくと存在詞化してしまい、存在詞の叙述形語尾である「I-다」が後ろにくっついてしまう。疑問形の場合はどうだろうか。
  現在疑問形 過去疑問形
動 詞 I-는가
먹는가 モンヌンガ
III-ㅆ는가(--のI-는가形)
먹었는가 モゴンヌンガ
存在詞 I-는가
있는가 インヌンガ
III-ㅆ는가(--のI-는가形)
있었는가 イッソンヌンガ
形容詞 II-ㄴ가
높은가 ノプンガ
III-ㅆ는가(--のI-는가形)
높았는가 ノパンヌンガ
指定詞 II-ㄴ가
손인가 ソニンガ
III-ㅆ는가(--のI-는가形)
손이었는가 ソニオンヌンガ
 過去疑問形では逆に、形容詞と指定詞が存在詞化してしまい、「II-ㄴ가」でなく「I-는가」がくっついている。このように、過去の接尾辞「III--」と意思=推量の接尾辞「I--」は実に曲者である。

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